意外とみんな、嫌悪感なさすぎました
「よし、それじゃあみんなに挨拶にいきますか」
「はーい!」
リンデさんと一緒に、村の中を歩くことにした。
まずは……お世話になったというか、リンデさんを入れる決定打になったリリーだ。
軽くノックをする。
「おーい、リリーいるか?」
少し時間をおくと、どたどたと音がして、
「朝っぱらから酒とかやってないわよ! ……ライじゃん、どったの?」
いやお前それ開幕一番にどうなんだ?
リンデさんも後ろで目を丸くしている。……っとそうだった、リンデさんだ。
「紹介に来たよ、魔人族の人、改めジークリンデさん」
「は、はじめましゅて! リンデとよんでいただければですです! 昨日はありがとうございましたっ」
……噛んだ。
「噛んだ」
「うう……っ」
「アハハ! 可愛いわね!」
「……ふぇ?」
リリーが容赦なく噛んだことを責めつつも、高らかに笑った。
「私はリリー、ここで酒っての売ってる女よ、よろしくね、リンデ!」
「あっはい! よろしくですリリーさんっ!」
随分と気さくに話しかけるリリーに驚く。
「お前……随分慣れている感じだな?」
「だってリンデちゃんかわいいじゃん? ライも結構気に入ってるっしょ」
「ま、まあそうだけどさ……ちょっと驚くよ」
「この私の人を見る目は間違いないからね! だから入れたわけよ」
「まあお前の事今更疑っちゃいないけど、それにしても極端だな……」
ちょっと疑問に思いつつも、つっこまなかった。
大将はまだ寝ていそうなので、次の挨拶に向かうため「じゃ、また夜来るよ」とおいとますることにした。
リンデさんと二人で次の場所へ行こうとすると。
「お幸せにーーーっ!」
最後に背中から降ってきた唐突なセリフに、ものすっごい驚いた。
それは、結婚した奴へのセリフだろ!
「あ、あいつ……!」
隣のリンデさんを見ると……顔を染めて俯いている。……今の意味は、これ、通じている、反応だよな……。
「あ、あの、リンデさん……」
「すみません、私のせいでご迷惑を……」
「いえ、迷惑なんて思ってませんから!」
「ほんと、ですか?」
「そりゃもちろんです! さあ次々行きましょう!」
なんか、変なこと言ってないか? 大丈夫か? 今のやり取り本当に不自然ないか? ……あれ?
ま、まあいいか。自分をごまかすように、次の家へ行く。
次の家は……ギルドの頼れる姉御、エルマだ。
僕はこの村の、村では多少大きい方の、比較的小さなギルドの扉を開ける。
「おはよう」
「おう早いなライ……っと、そっちが噂の魔族さんか」
「は、はいっ! ジークリンデ、リンデと申します、よろしくおねがいしましゅ!」
また……。
「ははっ、確かに可愛らしいし丁寧だ! 噛んじゃうところもポイント高い!」
「うう……」
「アタシはエルマ。話はリリーから聞いてるよ、なんでもすげー強いんだって? 頼りにしてるよリンデさん」
「はいっ! おまかせください! といっても何をすればいいのか……」
「ああ、魔物とかいたらさくっと倒して持ってきてくれたらいいよ!」
さすがにエルマの姉御は魔族が来たぐらいで動じないか。なんだか自分の感覚が麻痺している気がするけど、うーん……?
まあ……大丈夫そうなら大丈夫でいいか。
「そうだ、リンデさん」
「はい?」
「姉御にオーガキングとかオーガロードとか、解体してもらいましょう。村で一番数こなすので上手いですよ姉御は」
「あっ、それはいいですね!」
リンデさんが笑顔で頷く横で、「オーガキングつったか今」とつぶやくエルマ。
「どこで出しましょう」
「よし、奥だ」
「はいっ」
……大丈夫かな?
……
「はああー!? なんじゃこりゃあ!」
……まあ、そうなるよな……。
僕はエルマを追って奥に入って行った。
鉄で出来た解体用の台の上で、オーガキングの巨体が横たわる。
「これ、首を一撃……か?」
「はい、一番手早いし、あとお肉も無駄になりにくいです。あんまり顔は食べたくないですし」
「……そう、か。話には聞いていたが、これはなかなかの期待の新人だ。……よし! この肉今から解体しようじゃないか!」
「はい、お願いします!」
僕はリンデさんとオーガキングの解体の様子を見る。
さすがエルマ、獲物もいいのか物凄いスピードで斬り、肉を正確に切り、そして部位ごとに素早く分けていく。
隣のリンデさんはというと……。
「すごい……ライムントさんよりはやい……」
「すっごいかっこいい……」
「すてき……」
「どうやってあんなに……」
「すごいなあ……」
「————あーっもーー! ちょ、ちょっと黙っててもらえない!? 嬉しいんだけどさ、年甲斐もなく照れすぎていかん!」
案の定追い出された。ちょっとリンデさんは不満そうな顔をしていた。
わかるよエルマ……照れるよなこれ……すっごい普通にやってるつもりなんだけどさ……。
しかしエルマの照れ顔とか、旦那以外だと初めて見せたんじゃないかってぐらい貴重なものを見られた。リンデ様々。
「追い出されちゃいましたね……」
「悪い気はしてないからいいと思うよ」
「そうなんです?」
「ええそうです」
数刻待つと、エルマが出てきた。まだちょっと顔が赤いというか、嬉しそうな感じだ。
「ええと……ま、やってきたよ。ちょっと金額的に払えるかわかんないけどさ」
「えっ、お金をもらえるんですか?」
「……普通、そういうもんだろ?」
「気にしたことなかったです……あの、悪いことしちゃいましたか……?」
「まさか! むしろ村に入る前に倒してくれて安心だよ!」
そりゃそうだ。村に入ってしまったらあんなの相手に出来る村人はいない。姉貴でも帰ってこないと無理なんじゃないだろうか。
「えーっと、お金とかはいいんですが……」
「いや、金は払わせてくれ。さすがに心苦しい」
「いえ、あの、今の様子だと多分無理だと」
「バカにすんなよ、そんなに貧乏じゃねえよウチは!」
「ひうっ、もも申し訳ありません〜! あの、それじゃ、もう一体のオーガキングと」
「……? もう、一体?」
「あと、オーガロードが40体いるんですけど」
「—————」
あ、これ完全に想定外だったな? まあ僕から見ても想定外すぎるし。
エルマは目頭を押さえて、こめかみを押さえて、
「……う〜ん……」
言い切った手前、エルマは頭を悩ませた。
「……すみません……やっぱり、出しません……」
「そう、してくれると、助かるわ……王都まで売ったらまだ多少はあるけど一括は……」
リンデさんも、それを察したのか出さないことにしたようだった。やはり、いきなりこの規模は無理がありすぎた。
「しかし解体って……オーガって食えるのか?」
討伐報酬が出るが、人型は忌避感がやはりあるのと、教えにより禁忌みたいな感じがうっすら蔓延していて、食べたことある人はあまりいなかった。
そういえば、これも教会の話だったな……。
「あ、食ったけど羊っぽいよ。というかめっちゃおいしいんでびっくりした」
「ほお……」
それを聞いてエルマも目を輝かせた。
「じゃ、アタシも食べてみたいな」
「———あっ!」
「どうしたライ」
そこで僕は、アイデアをひらめく。
「リンデさんのオーガロードの肉、いっそ村のために振る舞ってしまいません? 僕が調理するんで」
「あっ、それいい! それいいです!」
リンデさんの、オーガロードの肉を惜しみなく振る舞うというギルドとしてはあまりに大胆な使い方に、エルマが聞く。
「……いいのか?」
「はい! まああんまり強くないしそこらへんにまだ沢山いると思いますので、勿体なくはないかと!」
「———は?」
……リンデさん、昨日の話と、ちょっと認識が違う言い方を……。
「その辺に沢山ってあんたどういうことだ……?」
「いや、だからその辺にまだ残って————」
———言っている途中、ドアの外から耳を劈く悲鳴が聞こえた。
「これは……リリー!?」
「くっ、やべえな……ライ、お前は……あっ」
エルマが途中まで喋っていたのを止めて、間抜けな声を上げてドアの方を見る。僕もその方向を見ると……リンデさんがいなかった。
一人で出て行ったのか、気付かなかった……! 僕は急いでリンデさんの後を追ってギルドを走って出る。
出た瞬間。
もう終わっていた。
「……大丈夫ですか?」
「……(コクコク)」
「それはよかったですです」
リンデさんは、オーガロードの頭に乗って、剣の一撃で頭を貫通させて絶命させていた。
「村にはもういないようですし、少し外の様子を見てきますね」
言うやいなや、リンデさんは目の前からふわっと消えた。
「…………あ…………ライ……」
「大丈夫かリリー!」
「……う、うん……悲鳴を上げた瞬間、リンデさんが来てくれて一瞬で倒してくれたよ。……本当に強いね、リンデさん……」
リリーもリンデさんの威力を目の当たりにして気が抜けていた。
「あれが……ライのために戦ってくれるんだね……」
「僕というか、村全員のためにね」
「すごいな……なんかとんでもないの呼んじゃったね」
確かに、まさに規格外だ。
あの子がいれば、もう村は安心と言い切っていいだろう。まあ……魔族をどこまで全員が受け入れられるかどうかにもよるけど。
「というかリンデさんが来るのが一日遅れてたらとか考えたくないね……」
それは一番したくない想像だった。オーガキング3体。オーガロード40体。両親が、1体のオーガロードに負けたことを考えると……もう姉貴ぐらいしかどうすることもできないだろう。
……あと、姉貴はどう見るかまったくわからないな。
まさか姉貴がリンデさんを殺したりは……いや、むしろ姉貴が負ける可能性もあるか……?
なんといっても魔王より強い可能性があるのだ。どう考えても強さの次元が違うと思う。
姉貴も強さの次元が違うけど、なるべくその戦いはあってほしくないな……。
「7体でしたー」
リンデさんが、ふわっと現れて軽い感じで言った。
「……7体?」
「オーガロードですねー」
「この、付近に?」
「城付近も含めてなんで結構広い範囲ですよ、しばらく来ないと思います」
「そう、ですか。それならしばらくは安心ですね」
「いえ、そうでもないです」
「……え?」
リンデさんは。
ゴトリ、と、それを取り出した。
……は?
「えーっと、これってわかりますか?」
「……はい———
———ゲイザー、ですよね」
目玉型で、空から攻撃する、かなり厄介なやつだ。遠距離攻撃が非常に強く、とてもではないけど普通の冒険者では倒せない。
「そうですです。厄介なんでオーガよりまずいと思うんですけど、いたんですよね」
「これは……本格的に魔物が多いな……」
「そですねー、これは2体でしたね」
……2体?
「こんな珍しい魔物がそんな急に増えるなんて……」
「ちょっと気になるので、おいしいごはんの分は外をしっかり見て回ろうと思います」
「すみません、よろしくお願いします」
僕は、「おひるたのしみにしてますね!」と笑顔で手を振るリンデさんの姿を見つつ、急に増えた魔物のことを気にかけるのだった。
結局、それから新しい魔物は見つからなかった。
-
「ごはんターイム!」
「はい、おつかれさまでした」
「ぜんぜん疲れてませんっ! このご飯があれば! 24時間たたかえますっ!」
元気いっぱいのリンデさんに嬉しくなり、僕は作った料理を出す。
「あっ、今日は普通に焼いただけなんですね」
「はい、普通に焼いただけです」
今日はオーガキングのステーキだ。さすがに魔族でも、火の魔法で焼くだけという調理方法は知っているらしい。
……そりゃそうか、そうじゃないと生肉食べるだけだもんな……そういえば寄生虫とか大丈夫なのかな……? 負けそうな気全くしないけど。
適当に切れ込みをいれて、ステーキを一口。……おいしい。十分すぎるぐらいおいしい。やっぱり肉がいいとシンプルな料理でも十分おいしいな。
そう思いながら淡々と口に入れていると……、
「おいしい〜〜〜〜っ!」
元気いっぱいに目を見開くリンデさんが視界に入った。
「なんで!? なんで!? すっごくおいしいっ!」
「えっと、ステーキ……焼くのはするんですよね?」
「焼くだけはもちろんしますけど、できる人でも海水をかけて焼くとかそんな程度で、基本的に焼くだけって生肉そのまま焼くだけですよ! な、なんですかこれ、全然違う、味が、味がついてる! なんで!?」
「なんで……って、ローズマリー乗せて塩と胡椒にピンクペッパーのせてるぐらいですけど」
「それが! できないんですよぉ〜!」
いや、普通に出来るんじゃないのかな……。
「調理方法簡単なので、教えたらできるようになると思いますよ」
「いえ、無理です」
「……え?」
リンデさんは、真剣な表情で僕を見た。
「……挑戦した魔族が、いたんです」
「はい」
「何度も、何度も……何度も何度も!」
「は、はい」
「そのっ! 結果っ!」
「はいっ!」
「塩加減が習得できずに心が折れて作らなくなったんです……」
……。
「もしかして……」
「はい……私です……商人隊の跡に塩が残っていたので喜び勇んで作ったら、使う度に頭にモヤがかかって、一袋全部使い切るまで学習できなかったです……」
リンデさん、本格的に不器用だった。
塩だけステーキが無理なら……確かに、調理は、絶望的だ……。
「なるほど、この塩加減か……」
「はい……」
「安心しました」
「……へ?」
僕は、リンデさんの報告に安心していた。その理由は……。
「これで、あなたが料理を習得して出て行くというセンはなくなりました」
「あっ……は、はい! もちろんです!」
「ふふっ。……ゲイザーなんて村人総掛かりでも無理だし、これは、いつまでも作らなくちゃいけなくなりましたね」
「ご迷惑ですか?」
「いえ、大変光栄です」
「えへへ、幸せです!」
僕らは、ちょっと大変だった午前を吹き飛ばすように、おいしく昼食を食べたのだった。