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何か大きな事が起こっている気がします

 せっかくだからと、オレール様は食事を多めに用意してくれた。姉貴は慣れた対応だったけど、給仕が運んでくれた料理の数々に『あ、今から貴族の食卓で食べるんだな』という意識をしてしまった。

 それでも僕以上にリンデさんが「あわわわわ……」と緊張していて、一緒に固まってるわけにもいかないなとリンデさんの緊張をほぐすように声をかけて、そのおかげか僕はさほど固まらずに済んだ。


 バリエ領での料理は、レノヴァと近い感じの味付けをしていた。レストランほど複雑ではないにしろ、日々の料理としてはかなり高水準だ。

 さすがだなあ……おいしい。四角く切り取られた肉のペーストが、記憶にあった料理と同じであったことを思い出しつつ、オレール様に声をかける。


「これは、テリーヌですよね。豚とマッシュルームに……これはクミンですか? こういう料理にも合うのですね」

「ライ殿は、レノヴァの料理に詳しいですね」

「シレアや僧帝国より東の料理も詳しかったのですが、レノヴァはまだまだ習いたてです。ビスマルク王国から出られない時期が長かったので、こうやって実際に見て食べることができて嬉しいですね。オレール様に最初に会ったときにはまだレノヴァ料理は食べたこともなかったですよ」

「……料理は、以前から?」

「ええ。母から教えてもらって、もうかれこれ十年以上になります」

「……そう、か……」


 オレール様は、何か得心が行った様子で目を閉じて頷いた。


「君が、ミアの料理人か……」

「ええと……はい、そうなりますね」

「ああいや、すまない。責めているわけではないのだ。ただ……ミア様を引き留められなかったことを思い出していてね」

「姉貴を……あっ」


 そうか、姉貴はここの料理をおいしいと言っていて、それでも出て行ったわけだ。そして今は、僕と行動を共にしている。


「ミア様、彼の料理はやはり、おいしいのですが?」

「かなりいけてると思うし、こないだレノヴァのレストラン一回連れて行っただけで作り出したりするぐらいに優秀なのよね。でも特別美味しいというより……死んじゃった母さんの味を再現してくれたのがライだけなのよ。それが大きいかな」

「なるほど。確かにそれは、どんなシェフでも敵いませんな」

「そーいうこと」


 目の前で料理を褒められて、さすがに照れる。というか、姉貴がここまで直接的に褒めること自体がそうないので本当に嬉しいし恥ずかしい。

 なんともこそばゆい居心地になっていると、頬が指でつつかれた。むっ。


「あはは、なに照れてんのよ。ライもあたしのこと褒めていいわよ」

「そうだなあ。さっきメイドのマエリスさんを助けた時はかっこよかったよ」

「そうでしょうそうでしょう!」

「平民の村人代表としてリリーとか三バカトリオに誇張して言いふらしたいぐらい誇っていい行動だった」

「待ってやめてホント恥ずい無理! リリーには言わないでお願い!」


 僕の反撃に、姉貴は目を見開いて顔を真っ赤にして首を横に振った。我ながらいいカウンターが決まった、完全勝利。

 なんてやりとりをやっていると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。


「セリア様?」

「あっ、ごめんなさいね。ミア様は以前来た時はキリっとして綺麗だったし、終始余裕がある気さくで大らかな勇者様だったから、まさか弟さん相手にはそんなに余裕のない赤面しちゃう可愛らしい方だとは思わなくて新鮮で」

「姉貴がキリっとして綺麗? 村の男とはガニ股で取っ組み合いの泥仕合していて、建築一家のトーマスには暫く男だと思われていた姉貴が?」

「ライーっ!? あんたあんまり調子乗ってると後でひどいわよ!」

「ごめんごめん、あまりに意外だったからさ」


 明るく笑って返したけど、姉貴はわりと本気で怒っていたかも。そうか、姉貴は外では格好いい勇者として頑張ってたんだなあ。


 僕は姉貴と会話を一旦切ると、リンデさんの方を向いた。ちなみにリンデさん、食べ始めるまではガチガチに緊張していたけど、テリーヌの見た目の綺麗さを見た瞬間に「わぁ……!」と目を輝かせて、レオンもユーリアさんもすっかり料理に夢中だ。


「リンデさん、どうですか?」

「おいしいです! この料理、これ、綺麗でおいしい! こっちのほうの料理、見た目本当に綺麗でびっくりです」

「僕もこちらの料理は本当にすごいと思います。先日のレノヴァのレストランといい、料理一つ一つが芸術品ですね」

「はい! 食べるのが勿体ないぐらいです!」

「まったくです。本当に……」


 ……本当に、対抗意識が燃えてしまう。


「……ライさん?」

「ああ、いえいえ、何でもないです」


 この心の中に燃え上がるものは、今度の料理で発揮させよう。


 ふと、姉貴のもう一つ向こう側に座っている二人を見る。


「お兄ぃ、これ本当に私が食べちゃって良かったのかなあ……」

「陛下はこれぐらいじゃ怒らないと思うけど、でも最近陛下ってちょっとお茶目というか、本人の前じゃとても言えないけど、あんまり女王って感じじゃなくなったよなあ」

「ああーわかる、本当に楽しそうというか……やっぱ女王って立場、重荷なのかな?」

「陛下はそこまで思ってないと思うよ。だけど、もっと距離を詰めたい……というより、詰められたいと思っているんじゃないかな」

「距離を、私たちから?」

「そう」

「……ちょっと、分かるかな」


 レオンと、妹のユーリアさんの会話は興味深いものだった。

 マーレさんは本当に、僕なんかが気楽に話していいんだろうかってぐらいの方だ。能力は姉貴並み、立場はビスマルク王並。頭脳と優しさを前面に押し出した統率の手腕は……並び立つ者なんて人類にいるだろうか。なのに村では気さくに話しかけてくれる可愛らしい魔人族。その魅力は天井知らずだ。魔人族誰もが敬愛しているというのもよくわかる。


 ……距離を詰められたい、か。もう少しユーリアさんとも個人的に話をしてみたい。特に、どうも立場を気にして一歩引いているようだし。リンデさんにもう一度打診してみよう。


「ふう……おいしかったです」

「気に入ってもらえて何よりだよ」

「もしよろしければ、是非料理をした方にお礼を直接言いたいのですがよろしいですか?」

「ええ、もちろんです」


 僕はオレール様から許可を戴き、料理のお礼を言って……もちろん、料理の仕方や具材を教えてもらった。本にも書いてあったけど、フォン・ド・ヴォーか……仔牛であの味になるなら、オーガキングでもいい感じにできるだろうか。フォン・ダーガといったところで。

 まあ、失敗してもダメ元だ。何でも最初から上手くいくとは限らない。失敗することを前提で、それでも挑戦して……形にできるものは形にしたい。


 -


 ベッドは……馬車同様にとてつもなくふかふかで、僕達が使っていた毛布はなんと固かったんだろうと思ってしまうぐらい、すごかった。二人で眠れるだろうかと思ったけど、二人が十分に眠れるぐらいには大きなベッドだ。

 リンデさんもすっかり幸せそうな顔をしていて、その……僕がベッドに入るなり、進んで抱き寄せてきた。起きてるうちからこんなに積極的なのは初めてかもしれない。


「あ、あの、リンデさん?」

「えへへ、ふかふかです……今日はせっかくだから、一番気持ちいい状態を満喫したまま眠りたいです。……だめですか?」

「だめじゃないですし僕もその、気持ちいいので、そう、ですね……このまま寝ましょう。ここまで気持ちいいと、眠気もすぐに来ますし……」

「……そうですね……ちょっと勿体ない気もしますけど……えいっ」

「あっ……! え、リンデさん……?」

「……えへへ……おやすみなさい……」


 あの……抱きしめ方、すごいことになってますけど……! 馬車の中の再来というか、僕がすっかり抱き枕みたいになってますけど……!


「……すぅ……すぅ……」


 寝付きいいなあもう! ……僕も眠ろう……。このまま意識すると、いつまでも起きてしまいそうだし。


「……おやすみなさい、リンデさん」


 ちょっと遅い返事をして、全身でリンデさんを感じながら僕も目を閉じた。


 -


「……、……」


 ……ん、なんだろう。


「…………。……っ!」


 体が、揺すられている。


「……ううっ、どうしよう……。……あ、あの……っ!」


 あ、もしかして朝か……!


「ああっ……! よ、よかった、起床なさいました」

「……ん、おはようござい……ま、す……」


 僕はメイドのマエリスさんを見て、その視線の先がちらちら動いているのを見て……今の状態がどういう状態かようやく分かった。

 リンデさん、がっつり抱きついてる。なんだか位置が変わって、僕の首元に顔を寄せている。


「……すみません、後でちゃんと起きます……」

「あ、あうう……わ、私の方こそ申し訳ありません……。あの、朝食がもうすぐ出来上がるので、それだけ伝えに来ました」

「……ありがとうございます、すぐ向かいます……」


 そそくさと出て行ったマエリスさんの姿に嘆息しつつ、しがみついているリンデさんを、僕の体を揺らす要領でちょっと大胆に揺すって起こす。

 ぐ……や、やわらかい……! 朝から、落ち着け自分……!


「リンデさん、朝ですよ」

「……ん〜……」

「朝ご飯ですよー、早くしないと冷めちゃいますよー」

「……あさごはん……!」


 よかった、リンデさんが起きた。目を開いたリンデさんと視線が合うと、にっこり笑って擦り寄ってきた……って、あれ?


「えへへ〜、おはようございます」

「お、おはようございますリンデさん」

「すっごくいい夢みちゃいました」

「いい夢、ですか?」

「はいっ! お父さんとお母さんと、子供のころに遊んで、抱っこされて帰った夢です」


 両親の、夢か……。


「そういえばリンデさんの両親は?」

「あっ今も魔人王国で元気ですよ。でもしばらく帰ってないから、また顔見せに帰りたいなあ」

「ええ、それがいいです」


 リンデさんが離したことで、僕もようやくベッドから起き上がる。リンデさんは先に部屋から出るようだった。


「そのうちライさんも一緒に行きましょう!」

「そうですね、僕も魔人王国には行ってみたいです」

「はい! 両親にも会ってほしいです!」


 リンデさんは、笑顔で答えると食卓の方へ行った。


 ……あれ? 両親の所に行く? 僕とリンデさんが二人で、両親に挨拶する?

 それってまるで……。


 …………ああ、これ、リンデさんは完全に気付いてないけど、間違いなくそういう挨拶に行くっていう感じの話だ。リンデさんが気付かなかったかわからないけど、気付いたら顔をまた染めて自爆したように照れてしまうやつだ。

 だから……ここで僕一人が赤面してしまっているのは僕だけの中に留めておいて、気付かなかったことにしよう……。

 でも、あのリンデさんの両親というのならそれとは別に興味がある。機会があれば、是非お会いしたいな。




 サロンにはユーリアさんだけがいた。


「リンデ様、おはようございます」

「おはようユーリアちゃん」

「あっ、ライ様も。おはようございます」

「おはようございます」


 僕はリンデさんに、昨日思ったことを相談した。


「リンデさん」

「はいっ、何でしょうかっ」

「やっぱり兄のレオンと呼び捨てで仲良くなっておいて、妹とここまで距離があるというのはどうも話しにくいと思うんです」

「うっ!」


 リンデさん、びくっと反応してちらちらユーリアさんを見る。ユーリアさんは先ほどの落ち着いた様子とは一転、困ったようにおろおろしていた。


「あ、あの、私はライ様には、如何様にでも扱っていただいて結構ですからお気になさらず……」

「いやいや、僕が気にするんですよ。その……レオンとは仲よさそうに喋っているだけに、ちょっと距離があるなって。……リンデさんもそう思いません?」

「うー……まあ、そうなんですよね。……うー、うー……」


 ……どうだろう。リンデさんをじーっと見てみる。


「…………うー…………うう、そんなに見ないでくださいよう……なんだか私が意地張ってて悪いみたいじゃ……って、完全に私が悪いですよね……」

「あっ、そんなつもりで見ていたんじゃなくてですね!」

「……いいですよ」

「え?」

「ユーリアちゃんと、軽めに話しても大丈夫です。その代わり……その、えっと、今後はずーっと隣にいてもらいますから!」

「本当? ありがとうリンデさん!」


 それに……。


「でも、そう言われなくとも、今現在ずーっとリンデさんと僕って一緒にいますよね」

「えと、その……あはは……」


 そう、リンデさんの提示した条件は、僕にとっては無条件のOKだった。


「それじゃ、その……ユーリア、よろしく」

「は、はい! よろしくお願いしますライ様!」

「あれ? でも僕に対しては様付けなんだ」

「と、当然です! 陛下が様付けであるのはライ様を特別に尊敬していらっしゃるからで、私自身もライ様のことを、その、特別に考えておりますから! ですので、どうか私のことは気安く呼んでいただけると……!」

「む……そこまで言われるとさすがにそれ以上は踏み込みにくい。じゃあ、それでいいよ、ユーリア。レオンぐらい気軽に声をかけさせてもらうよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 距離が縮まったのか縮まってないのか、なかなかレオンぐらいには難しいなあとちょっと苦笑しながらも、ユーリアとの距離を縮めた。


 ちょうど話が終わったところで、姉貴とレオンも起きてきた。


「おはよう、今起きたんだね」

「ううん違うわよ、ちょっと外で剣振り回してた」

「あれ、そうなのか?」

「朝は強い方なの忘れてないわよね」


 そういえば、両親の墓に挨拶に行く際も、姉貴は先に出ていた。


「そうか。それにしても……自己鍛錬なんて珍しいね」

「ん……ちょっとアンリエットとのことを思い出したね」


 アンリエット……これから僕達が捜索に向かう女の子の名前だ。

 姉貴と練習していて、姉貴が強いと言った、今は姉貴より背丈の高い子。それでも姉貴に勝てるとは到底思えないけど、久々に会うことを意識しているんだろう。


「なーんだかワケ分かんない訳ありっぽいしさー、ライはどう思う」

「……まあ間違いなく、心変わりじゃなくて『第三者の関与』だと思う。その他まだ確定的なことは言えないけど……でも、何かひっかかるんだよな……」

「ちょっと、ライがそういうこと言うとマジっぽいんだからやめてよね……!」

「あはは、ごめんごめん。まあそこまで悪いことにはならないと信じているよ」


 そう……本来ならちょっと貴族のご令嬢の家出を捜索するだけの簡単な依頼だ。

 だけど、それにしては出没する魔物が極端に強い。行きのキマイラは、果たして姉貴がいない状態での村への馬車で出てきていたら、馬車の護衛で対処できていただろうか。

 そして果たして、姉貴だけで馬車を守り切れただろうか。


 不可能だ。どう考えても姉貴とリンデさんが出ている間を狙われた。

 我ながら、自分の魔矢がなければどうなっていたか分からないし、レオンの強化魔法がなければ僕も含めてどうなっていたか想像するのが恐ろしい。


 だから僕は、今回もっと考えて、みんなのために働かなければならない。


「ユーリア、いろいろ迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼むよ」

「はい、ライ様! 是非私をお役立てください!」

「あらあら、ユーリアちゃんとも親しくなったのね? よくリンデちゃんの許可もらえたわね」

「リンデさんは優しいからね、無条件で了承してもらえたよ」


 僕がおちゃらけて言うと……後ろから急に羽交い締めにされた!


「今日はこのままです」

「え」

「今日は一日中この状態でいましょう。大丈夫、移動はまた私が抱いて行きますから!」


 わああ、煽りすぎた! これはリンデさんちょっと怒っている!


「す、すみませんもう言いません! ええ、リンデさんとはその、ずっと一緒にいますから!」

「言いましたね?」

「はい、ずっと一緒にいますから! だからその、お姫様抱っこで町中を歩くのは勘弁していただけると……!」

「まあまあ、お二人ったらほんとに仲が良くてお盛んなのね!」


 !? 最後の声は……!


「ま……まさか……セリア様……」

「どーぞどーぞ、私に気にせず続けてくださいな」


 リンデさんは、ゆっくり僕から離れると「あわわ……」と所在なく呟きながらぺたんと座り込んだ。


「まあまあ照れちゃって、魔族さんってほんと可愛らしいのね」


 すっかりセリア様にノックアウトさせられてしまった僕達は、なんともいえない居心地の中で朝食をいただくのだった。


 -


 オレール様から馬車を手配してもらい、バリエ領から朝早く移動して僕達はレノヴァ領までやってきた。

 馬車の右側から来る日光が、窓の中に入って視界を邪魔する程度には日が昇っていない車内にも、冬の寒さは感じられるほどだ。

 それでもレノヴァ公国の門に入り馬車を降りた瞬間には、狭い室内でみんなの体温に暖められていたんだな、と思う程度には外は寒かった。


 さて、まずは情報収集だ。

 先日来たばかりなので、まだまだ代わり映えしない公国を歩きながら、僕はリンデさんとペアを組んでレノヴァの町中を散策した。今回は姉貴の方に、レオンとユーリアがついている。


 町中で情報収集していると、ふと違和感を覚えた。それは、リンデさんに対する視線だ。

 もちろん魔人族のリンデさんは目立つ。だから見られることに関して、リンデさんは今となってはそこまで気にすることはなかった。


 なかったはずなのだ。


「ライさん……あの……」

「……はい、やはり気になりますか」

「…………」


 僕でも気付くぐらいなんだ、リンデさんが気にならないはずがなかった。それは人によっては分かりにくいけど、人によっては露骨だ。

 視線を感じた時に思ったことは一つ。


 ———警戒されている。


 先日レオンと一緒に歩いたときには、こんなことはなかった。明らかにレノヴァから帰ってからこちらに来た僅かな間に、この変化が起こっている。


 リンデさんが、悲しそうな顔をしている……。僕が、見たくないと思った、あの顔だ。

 何か……何か手がかりはないのか。


 僕はやがて、以前通った食料品売り場にまでやってきた。そして市場の視線を歩いていると、見知った顔に出会う。

 それは、先日調味料を買って、更に料理本まで売ってくれた男性だ。


「こんばんわ、覚えていらっしゃいますか?」

「君は? ……ああ! トリュフを買った青年か!」

「よかった、覚えていてもらえて嬉しいです」


 僕の顔を思い出した男性が、目を見開いて手を打つ。そこから和やかに話が進む……かと思ったら、視線を一瞬リンデさんに移して、そして僕の方に視線が戻ってきた時にはその顔は曇っていた。


「君は、そういえば以前も魔人族の少年を連れていたな」

「……何か、あったのですか?」


 男性は、少し悩んだようだったけど、「こっちへ」と僕を裏通りに案内した。ついて行くのは迂闊かと思ったけど、リンデさんがいるのなら大丈夫だろう。僕はリンデさんに目配せすると、手を繋いで男性の後を追った。

 裏通りには誰も人がおらず、そのことを確認するように周りに視線を送った男性は、やがて事情を話し始めた。


「一体何が起こっているのですか?」

「昨日か、出所は二日前ぐらいかもしれないが……魔族の噂が流れていてな」

「噂……ですか?」


 目の前の男性は、少し言いづらそうに目を閉じて……視線を合わせずに言った。


「ああ。青い肌の魔族は……人間の国を全て傘下に収めるために、友好なフリをして騙している、という話だ」


 なんだって……!?

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