ようやく伝えることができました
すっかり薄暗くなった村の木々の間を抜け、両親の眠る開けた墓地までやってくる。
ここに来るのは、先日リーザさんを見て以来だ。思えば僕と姉貴が二人で並んでここに並ぶのも久しぶりだろうか。
村の人達皆が眠る墓地、その中の一つの前に立つ。周りの石と同じ代わり映えのしない十字架があり、石には『クリストフ』『マリア』という、他と同じでない唯一の名前が彫られてある。父さんと、母さんだ。
僕と姉貴は、二人で並んで膝を突く。
「思えば、二人で並んで両親の前に来たのなんて、いつぶりだろう」
「そう、ね。それこそ六年ぶりかしら……」
「……そうだよなあ……」
六年前。両親が亡くなったとき以来だ。あの頃は二人で両親の墓に肩を並べること自体、もうできなくなっていたのだ。
「……父さん、母さん。遅くなってごめん、姉貴と一緒にようやく来たよ」
その、少し古くなってしまった墓石の名前を指でなぞる。
「姉貴も久々なんじゃないのか?」
「あんたとリンデちゃんがベッドの中でいちゃついて床に穴開けた朝、その直前に寄ったわよ」
「ああ……そう、だったんだ」
帰ってきた翌日一番だ。姉貴は……やっぱりこういうところ、きっちりしてるよな……。普段はいい加減なようで、内面はきちっとしている。僕ももう少し、両親の墓に立ち寄っておきたかった。
……先日のリーザさんを見たばかりだからだろう。何年経ったとしても、やはり悲しいものは悲しいと改めて実感する……。リリーとリーザさんを見ていると……リリーの料理が年々上達していることを見ていると、羨ましいと思ったことがないと言えば嘘になってしまう。僕は母親から直接料理を教えてもらうことはなかったから。
姉貴は、何を思っているだろう。腕白だった姉貴は近接武器を父さんに教えてもらっていて仲が良かったし、もっと教えてもらいたいと思っていただろうか。いや、勇者に目覚めた時点でそれも無意味になっていただろうか。
「二人とも、なにしてるの?」
そうだ、ハンナがいたんだった。元々この子に挨拶させるためにここに呼んだんじゃないか。
そう思って振り返ると……そりゃあそうだよなというか、さっきまで一緒にいたみんながついてきていた。少し離れた場所で邪魔しないように、姉貴と僕を見ている。
そういえば……リンデさんはなんて報告しようかな? ちょっと驚きってレベルじゃないよね。今まで魔族を憎んでいたのに、リンデさんが来てから何もかもが上手くいくようにになっただなんて。
母さんのことだから、びっくりして起きて来ちゃうかもしれない。
……起きて、きちゃうかも……か。
起きてきてくれよ……母さん……。
「そーだったわ、あたしらが挨拶するために来たんじゃないもんね。ハンナ、ここが父さんと母さん……クリストフとマリアの墓よ」
「うん、それはいいんだけど二人は何してたのかなって」
「先に挨拶させてもらってたわ、ごめんね」
姉貴が優しく笑いながら一歩身を引いたのを見て、僕も一歩下がる。その僕達を見て、ハンナは……首を傾げた。
「あいさつしてないよね? まだ寝てるのに」
…………え?
僕と姉貴が言われたことに驚いて、一体何のことかと目を合わせていると……ハンナが石の前で急に両手を翳した。
「それじゃあ、えっと……クリストフさん、マリアさん、しつれいします。『ネクロマンシー:ゴースト』」
———ネクロマンシー。
その単語を知らないわけがない。そして僕は……一つの予想に辿り着いた。もしかして、ハンナは……。
『……ん? これは?』
目の前の光景に、一旦考えていたことが全て吹き飛んだ。
そこには……暗くなった墓地を照らすように、青白い人間の姿が浮かび上がっていた。
見間違えない……見間違えるものか! 父さんと、母さんの姿だ……!
「こんにちは、クリストフさん、マリアさん。ハンナです。久しぶりに村のひとに挨拶したくてきました」
このあまりにも非日常的な光景に対して、ハンナは特に臆することもなく話しかけた。そうか、ハンナにとってゴーストに話しかけるのは日常のことなんだ。思えばゴブリンとか操っていたんだもんな……。
『ハンナ……って、あのエルマの妹の、行方不明の?』
「うん! 二十年ぶりぐらいに助けてもらったから! ライさんに!」
『ライ?』
そして……父さんの顔がこちらに向く。
『ライなのか。この、状況は……そうか、俺とマリアは、死んだんだな……』
「……そうだよ、父さん。こんな状況でも冷静なところが、いかにも父さんらしくて……ああ……本当に、父さん……なんだね……」
……本当に……父さんと喋っている……。ずっと、話せなかった父さんが……。
豪快な人だったけど、かなり口数が減っている。
「あ……そっか、二人はこうやっておはなしできなかったんだね。じゃあ、あたしよりおしゃべりしていいよ!」
「……いいのかい?」
「うんっ、はんばーぐのお礼いえたらもういいから。あっ! いってなかった! マリアさんハンバーグありがとうございました!」
それまで虚ろな目でこちらを見ていた母さんが、ハンナの方を向く。
『……状況が、飲み込みづらいのだけど……うん、ハンナちゃんなのね。どういたしまして』
「はいっ! ライさんがおんなじ味のハンバーグたべさせてくれたから、あいたくて起こしちゃいました、ごめんなさい」
『ううん、いいのよ。起こしてくれてありがとう…………待って、同じ味……って、ハンバーグを?』
「うんっ!」
母さんの顔が、再びこちらを向く。僕は……僕は、母さんに、溢れる思いの丈をぶつけた。
「オーガはわからないよ、苦労したんだぞ」
『……ライ……』
「本当に、苦労したんだからな」
『…………』
「怒ってるんだからな」
「母さんがいなくなって。姉さんの代わりに、僕が料理を作って。でもハンバーグを作っても、まるで味が似ない。姉貴からは似てないと言われて、残す日さえあって……僕自身も自分の料理の腕が不甲斐なくて、姉貴とはすれ違ったまま、何年も、何年も……!」
……こんなことを言いたいんじゃない。
こんな機会……折角ハンナが作ってくれた母さんとの会話なのに……。
『ごめんなさい……あなたが、そんなにミアのために私の分まで頑張っていてくれたなんて……』
「……違う、違うんだ……僕の方こそ、ごめん……。僕が言いたいのはそうじゃなくて……」
『……うん、うん……落ち着いて……』
「…………。……あの時……人参、残してしまって、ごめんなさい」
『……!』
「ずっと後悔してた……最後の母さんの手料理だったのに……腐らせてしまって……自分で料理をして、食べてもらえない辛さ……」
『…………』
「だけどね、おかげで分かったこともあるんだ。食べて喜んでもらえることの嬉しさ、おいしいって言ってもらえることの嬉しさ。それを知ることが出来て、何よりも嬉しかった。だから……人参を残してしまったことは、食べ慣れて料理を作ることに感謝されなくなっていた母さんに申し訳なくて……もっと、おいしいって言いたくて……あんなに、どんな料理もおいしかったのに……」
『ライ……あなたは、もうそこまで来ているのね……ふふ、嬉しいわ……その年齢でそこまで思えるなんて、さすが私の……いいえ、私たちから生まれたとは思えないぐらい、優秀な子になったわ……』
母さんの手が、僕に伸びる……だけど、当然のことながら触れられない。……触れられないけど、撫でられている感覚がある気がした。
「……う、うえぇぇ〜〜〜ん!」
そこで、突然の声が割り込んできて、父さんも母さんも振り向く。その声は……姉貴だった。両親の死以来一度も見ることがなかった、姉貴が子供に戻ったような、号泣だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい助けてあげられなくて! あ、あたし、助けたかった、何度も、何度も助けたかったって思って!」
『ミア……なんだな。ミアに俺たちを救えなかった責任感なんて感じてもらう必要はないのに』
『そうよ、私はあなたたち二人が生きていただけでも、十分で』
「違う……違うの……ごめんなさい……」
姉貴はぺたんと座り込んで、しゃくり上げる。……守る対象に対しては責任感の強い姉貴にとって、最も守りたかった両親だ。いろいろな気持ちが渦巻いてうまく言葉を伝えられないんだろう。
「姉貴はね、勇者の紋章が出たんだ」
『……! 勇者の紋章って……ミアが勇者なのか……!』
「そうだよ。強化魔法を使った姉貴は、もうデーモン……魔族と素手で殴り合ったところで一撃で相手を圧倒できるぐらい強いよ」
『……そう、なのか……それで……』
姉貴は、腕を使って這いずるように墓石の前に行き、墓石を抱きしめながら叫んだ。
「なんで……なんであと二年早く勇者になれなかったのよ……!」
……それは、姉貴がずっと抱えていたことだった。抑え込んで、納得したことにして、乗り越えたことにして……だけど姉貴は、両親の姿を前にして、溢れ出してしまった。
『ねえ、ミア……』
「ひっぐ、ひっく……」
『……あなたは、勇者になってどれぐらいの人を救った?』
「っ……わかんない……とにかく五年間、強そうな魔物とデーモンは、殺しまくってきた。あんなやつらに負けたくなかったから……」
『……それで、きっと沢山の人が救われたのよ……。……ああ、自慢だわ……私、子供二人がこんなに自慢できる成長をして……なんて幸せなの……』
『……そうだな、マリア……俺たちの命がまさか勇者を救っていたなんて……勇者が世界中でみんなを救っていたなんて……。ああ、自分の行動は、改めて後悔がないな……』
両親の手が、重なるように……いや、幽体として重なって、姉貴の頭を撫でる。姉貴のしゃくり声が、少しずつ小さくなり……やがて、姉貴は恥ずかしそうに頭を掻いてこっちを見た。
「いやーまいったな……ライの前ではかっこいい姉ちゃんでいたいんだけど、ここ最近のあたし酒に弱い泣き上戸かってぐらい泣きすぎだわ、まいったなー……」
「むしろ姉貴は頑張りすぎだよ。弟として気圧されるぐらい普段はすごいんだから、それぐらい弱みを見せてくれた方が安心するって。これからは外でも一緒になんだしさ」
「……そうね。人間味あった方が受け入れられるってことも、そろそろ学ばないと」
姉貴はようやく落ち着いたようで、いつもの笑顔で立ち上がった。
「……ぐすっ、ズッ、ズズッ……ひくっ……」
……あれ? 姉貴はもう泣き止んで———ッ!?
そうだ、そうだった! 今のここにはもっと沢山の人がいて、そしてここ数日の姉貴の比じゃないくらい泣き虫な人がいたんだった……!
『……ん? 今』
「父さん母さん!」
『どうした』
「驚かないでほしい! いや、絶対驚くだろうけど、驚かないでほしい! 無茶苦茶なこと言ってるのは分かってるんだけど、分かってほしい!」
『あら? ライが狼狽えてる。珍しいわ』
『はは、そんなに驚くだろうと期待させるのなら、出されたものが言うほどではないとガッカリするぞ?』
とても一理ある父さんの意見だけど、これに関してはどう考えても驚くとしか思えない……。
「……い、言ったね……分かった。どうしてもこの機会に、両親には挨拶させたい人がいるんだ……」
『……あら? もしかして……』
『なんと、あの奥手のライが……』
……僕は、果たしてどんな反応になるか恐れながら、その人の近くでアイコンタクトをして、肩を抱いて両親の方へとやってきた。
深い森の近くにいた影が、青白く光る両親の近くで姿を現す。
「紹介します。えっと、僕の唯一のガールフレンドといいますか、その……仲が良くて、一緒に住んでいるといいますか。そんなかんじの、えっと……魔人族の、ジークリンデさんです」
「うぅ……ミアさんの話がまだ泣けて、そんなうちから連れてくるなんてひどいですよぉ……」
「すみませんリンデさん、でもこのチャンスを逃すともう無理かと思って」
僕はなんとかリンデさんをなだめながら、両親を見る。
二人は……完全に凍り付いていた。
「えっと、魔人族は魔族だけど、デーモンという魔族じゃなくて悪い人じゃないというか、むしろ良い人が多くて、しかもとても強いので、村人みんなが公認でして」
『…………』
「…………大丈夫…………?」
『……霊体でも気絶しかけるとかあるのね』
「それ絶対大丈夫じゃないというか冗談になってないからやめてよね!?」
も、もっと段階を踏めば良かっただろうか……いや、しかし魔人族紹介に段階の踏みようなんてないよな……?
『……魔族……そうか、ライは魔族の女と……』
「そうだよ。僕の料理をおいしく食べて褒めてくれた人であり、勇者の姉貴以上の強さを誇る人であり、そして……オーガの肉が食べられることを教えてくれた人だ」
『そう、なの……この子が……』
母さんが、リンデさんをじっくり見る。もちろん父さんも、ずっとその特徴的な姿に注目していた。リンデさんが落ち着いてきた頃に、母さんが声をかけた。
『……こんにちは』
「っ! はいっ! こここんにちわですっ! えっと、ライさんと一緒に住んで、とってもおいしい料理を食べさせてもらって、ハンバーグ大好きで、もう林檎パイとかも大好きで、チーズケーキも大好きで、えっとえっとライさんの全部が好きなジークリンデです!」
なんだか食べることしか喋ってないあたり、リンデさんらしいなあと微笑ましい気持ちになって……さらっと最後に、一言二言足らないすごい発言になっていたことに僕は気付いた。多分リンデさんは気付いてない。まずい、顔に血が上る……両親の前で僕が一方的に赤面してしまう……!
『まあまあ……! 聞いた、あなた?』
『聞いた。俺はもう即答していいよ。ジークリンデさん、息子をよろしく頼む』
「は、はいっ!? え? あ……はい! もちろんです……!」
父さんが、真っ先にリンデさんを認めた。即断するあたりは父さんらしいなと思う。反面、母さんは……リンデさんを凝視していた。
『んん……これが私のかわいいライのハートを奪った子なのね……』
「あわわ……! ごめんなさいごめんなさい! その、ライさん本当にステキで、私なんかがって今でも思ってて、未だに近くにいるだけで頭がぽーっとなっちゃうぐらい幸せで、それでそれで、あの、そのぉ……!」
『……なにこのウブな子……魔族って……ていうか教会の教えって……』
「母さんがリンデちゃん初見の時のあたしとおんなじ反応してて笑える」
姉貴のツッコミに母さんも目線を送って頷きつつ、リンデさんの全身をじっくり見る母さん。そして……ある一点で目を止める。
『ライ』
「何かな?」
『……そのお揃いの指輪、どこで買ったの?』
あっ……! そうだった! お揃いの指輪を薬指に一緒につけていた! リンデさんも思いっきりびっくりして、僕の方を見てあわあわしている。
「母さん、驚かないで聞いてほしい」
『さすがにもう、これ以上は驚かないわ』
「今の僕の収入のメインは宝飾品の彫金で、この指輪は僕が魔石を彫って作ったものだから、僕が手作りしてリンデさんにその場で嵌めたものだよ」
母さんが再び固まり……なんだか体がぶれる!
「母さん!?」
『……ふ、ふふふ……奥手のライが思った以上のプレイボーイっぷりで母さん本気で気絶しかけたわ』
「本当にやめてね!?」
二回目で現界が危うくなるのが視認できるまでなってしまった母さん。お、驚かせすぎた……! 聞いてきたから答えたけど、改めて今の状況がかなり不安定な状態の上に成り立っていることを意識してしまう。
ハンナさんの魔力がかなり凄いんだ。そりゃああの人数を連日操っていたんだから、並大抵の死霊術士じゃないんだろう。
『……ええ、ごめんなさい。元々表舞台から去った私たちがどうこう言える立場じゃないものね』
「あ……お母様……」
『よく見たら見た目も村人じゃ勝てなさそうなぐらい色気があるし、中身は可愛らしい感じだし……そうね、きっと村の他の人では駄目だったんでしょう。よろしくね、可愛い魔族さん』
「……っ! はい……!」
よかった……母さんにも認めてもらえた。まさか、両親にリンデさんを認めてもらえる日が来るとは思っていなかった。
「あー、それじゃあたしも。この子が今相思相愛のレオン君。魔人族だけどあたしと相性ばっちりなの、よろしくね」
そんな会話の横に入ってきたのが、姉貴だった。いつの間にかレオンを抱いている。
『ミア……あなたその子さらってきたんじゃないでしょうね』
「母さんがライと同じ感想を……ってそういえばライと母さんちょっぴり似た毒舌部分あったわね。この懐かしい感覚、喜べばいいのかしら……ふふふ……」
『しかしまさかこの手の美少年が好みとは。レオン君は、本当にこのミアでいいの? 脅されてないの?』
そんな母さんのコメントに、レオンははっきりと答えた。
「僕の方からミアさんに想いを告げたんです。僕は自信を持って、ミアさんが人類で一番可愛らしい人だと断言できますから。ミアさんが僕を受け入れてくれて、本当に幸せです」
こういう時、本当にレオンはかっこいい。見た目の上では妹の美少女ユーリアさんより幼く見えるけど、芯の強さはそれこそ魔人族で一番だなって思う。
『……お、おお……あんたすっごい美少年つかまえたわね……』
「あたしレオン君と出会えただけで人生の運気全部使ったと思うわ」
母さんと姉貴は、いい雰囲気だ。そして今度は父さんがじっくりレオンを見る。
『レオンといったな』
「はい」
『お前は、今ミアに抱きしめられてるが、守られる側か?』
「! いえ、守る側でありたいです。ミアさんがなかなか前に出るのを許してくれないですけどね」
父さんの、ややもすれば怯んでしまいそうな父親の辛辣な一言にも、はっきりと返していた。
「あ、父さん。あたしがデーモンと戦うときに強化魔法かけてくれるのが彼だからね。最初に挟み撃ちされた時なんてレオン君なしだったらやられたかもしれない。それぐらいレオン君はあたしを守ってくれてるわ」
『……なるほど、勇者になったミアがそこまで言うのならそうなのだろう』
父さんとレオンの目が、再び交錯する。
『先ほどは失礼した。娘をよろしく頼む』
「はい、もちろんです」
レオンは返事をすると、頭を低く下げた。
父さんは腕を組んでレオンの姿を認めるように、納得するように頷いていた。……よかった、姉貴も認めてもらえたようだ。
さて、ここで積もる話も続けたいところだけど……気になることがある。
死霊術士というものは、勇者や他のユニークタイプの能力と同じで、かなり特殊な力があるものだ。その特徴は……一代に一人ぐらいしか現れない。これは、その女神の恩恵が大きな力が持つがゆえに、複数人に力を分けられないとも、何人もユニークタイプの能力の者が現れて人類の力のバランスが崩れないように女神が押さえているとも言われている。
兎にも角にも、まあつまり……恐らくハンナの他にいないということだ。
ではハンナが殺されたら?
恐らく、次の死霊術士が現れると思うはずだ。
もしもデーモンがそのことを意識していたとしたら……ゴブリンの大量発生は厄介だが、本気で滅ぼそうとする気である威力には感じなかった。
なので逆に考えた……目的は死霊術士のネクロマンシーじゃなくて、死霊術士そのものを手元に置くことだったとしたら?
そしてもう一つ。
ビスマルクの城下町を襲ったのはゲイザーの他、オーガロードがいた。
両親は、オーガロードにやられた。
僕は……この二つは、関連する可能性があると思って、ひとつの質問をした。
「父さん、母さん」
『おう、何だ?』
『何かしら、答えられる範囲なら答えるわ』
答えられる範囲、と言われて緊張がほぐれる。
よし、駄目で元々だ。それでも後悔したくはないから、今聞いてみよう。
「うん、あのね———『デーモンの本拠地』について、何か知らない?」