今後のみんなのことを考えました
遅れて申し訳ないです! ちょっと最近1話あたり文字数重めだったので、初期の感じとまでいかなくても、もう少し気負い無く投稿できればなと思いますです!
僕と姉貴が、最初から一緒に旅するべきだった?
「ちょっとマーレ、どういうことよ」
「僕が思うに……姉貴だけが旅に出ても、デーモンの悪鬼王国を討伐するまで至れなかった理由が、僕が一緒に行って本拠地探しをしていなかったから、ということですか?」
「ライさんは説明しなくていいので助かります。みんな今の一連の流れで分かったよね、つまりミアは敵の大元を叩くまでの道のりを考えるおつむが絶望的に足りてないんです」
「言い方ァ!」
なんだか散々な姉貴の評価は置いておいて「置いておくな!」なるほどマーレさんの言っていること、つまりデーモンの方の魔王を討伐するまでの道のりが、姉貴だけだと拓けないんだ。
「むしろライさんが気になるのです。どうして一緒に旅に出なかったんですか?」
「それは……姉貴があまりに強かったし……村を代わりに護るとも約束しましたから。それに、あの頃は少し、僕と姉貴にしか分からない程度の壁があったというか……」
「あの頃、ということは今はもうないのですね」
「リンデさんが来たこと、そしてついさっきの流れで、もう姉貴に対して僕が思うことはないですよ」
勇者になれなかった村人が、勇者の故郷を守る。……強い姉貴に対しての言い訳じみた部分はあるけど、僕は確かにそのために残った。
「なるほど。……それではその条件、私たち魔人族が、今後も村に住み続けるつもりだとしたらどうです?」
————それは。
それは、もちろん、村が危険にさらされる心配は、全くなくなる。
……そもそも、僕が最初にリンデさんと出会ったとき、いきなりオーガキングに襲われて為す術なくやられかけたのだ。
姉貴の代わりに村を守るって言っておいて、結局全然守れていない。守ってくれたのはリンデさん……つまり、魔人族だ。
そしてここには、今や沢山の魔人族、更になんといってもリンデさんより強いクラーラさんまで揃っている。
「安心です。僕ではオーガキングには手も足も出なかったですから」
「よかった。私は一日過ごした結果、もう既にここに住みたいと考えています。みんなそうですよね? ……ええ、ええ。なのでライさんは、気兼ねなくミアさんについて行っていただいて問題ないのです」
……そうか。このテントにみんなが住んでいる以上、この村の警備は盤石だ。
あれ、だとすると……
「……リンデさんは」
「あっ……」
僕の呟きに、リンデさんが反応する。
そうだ、明るい人柄で最初は分からなかったけど、元々魔王護衛軍とでもいうべき魔人王国の中でも上位の立場だったリンデさん。
魔王のマーレさんが今ここにいる以上、当然最優先対象はマーレさんであって……
「ああ、もちろんお邪魔じゃなければ、出て行く場合はリンデはライさんについて行ってもらいますよ。あとレオンもミアに」
「えっ!?」
なんとマーレさん、僕の護衛に今までどおりリンデさんをつけてくれることになった。そしてレオンさんも、姉貴につけてくれるらしい。
見てみるとみんな驚いていた。驚いていないのはマーレさんだけだ。
「いやいやみんな何驚いてるんですか。当たり前じゃないですか」
「えっと、リンデさん結構重要なポジションなんですよね。当たり前ですか?」
「……逆に聞きたいんですけど、リンデちゃんに大人しくじっとしてろと言って、果たして動かずにいると思います?」
そう言われると……。リンデさんの方を見ると、恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「第二刻であるジークリンデを抑えられるのはクラーラだけです。そして私は、索敵と遠距離攻撃のクラーラをリンデの監視につけるような無駄なリソースを使うほど馬鹿ではないつもりです。そして……レオンに関してはもう言うまでもないことですね」
レオンさんに関しては分かる。つまり……。
「……姉貴が、レオンさんを置いて出て行くことはないと」
「ええ。勇者と魔王という関係上、ミアと私が食い違うことによる弊害がどう出るかわからないので、極力そういうことは避けたいです。……最悪私たちの意思とは関係なく、相討ちになる日なんてものが来るかもしれませんし」
その結末にみんなが息を呑む。一見荒唐無稽な意見のようで、今日あった出来事からそういった可能性を一笑に付すことが出来る人はいなかった。
「……まあ悪い方に想像しちゃいましたが、もっと簡単に言うと、単純にあなたたちには今後も仲良くして貰いたいし、私も仲良くしていきたいということですね」
「うんうん、あたしも賛成。みんな仲良くできるのなら仲良くするのが一番だわ。あたしだってマーレに協力できることは協力したいし、そういう関係でありたいもの」
そう……だよな。折角こうやって仲良くなれたんだから、お互いの意見はそれぞれ尊重する方向でいきたい。
「マーレさん、ありがとうございます」
「あくまで協力関係による貸し出しですからね。リンデをよろしくお願いします」
「はい」
こうして、リンデさんは魔王様公認で、僕につけてもらえることとなった。
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そのままリリーと分かれてテントで就寝した。
翌朝、起床すると僕とリンデさんは、やっぱりお互いを抱き合っていた。今度は目を合わせて、そして視線で周りを見て……誰も起きていないことを確認して、照れつつも見られなかったことに安心しながら毛布を畳んだ。
リンデさんと寝ると毎日こうなんだろうか……いや、僕も僕でリンデさんを抱きしめているんだし、その……今更一人で寝たくもないし……。
朝から桃色に染まった頭の中を振り払うように、手元を動かすことにした。まず朝食のサンドイッチを作りに家に戻ろう。
以前マスタードシードを手に入れた際にワインとビネガーで練って、公国マスタードを作っていたものを使おう。そこに塩トマトソースを煮詰めたものを合わせて、ベーコン……いや、ソーセージの方にしてみようか。そしてトマト、パセリ、玉葱にオリーブの実も転がらないようにスライスして、落ちないように奥の方に小さい物から置いて……と。
今日は少し硬めのパンだけれど、魔人族のみんななら固さなんて感じないだろう。……エファさんでさえ、あの可愛らしい見た目の小さな体でさくさく噛み切っちゃうんだもんなー……本当に生き物としての次元が違う。
そうだ。ビルギットさんの分を忘れないようにしないと。
僕が食べてもらった量だけなら、足らない分を知らない間に一人で食べて補っているかもしれない。……それは、料理人のプライドが許せない。
ビルギットさんみたいな、僕が出会った中で一番お淑やかな内面を持つ女性を、僕の判断ミスで遠慮させているという状況はとても納得できるものではなかった。
縦長く、そして硬い大きな公国パン。普通は薄く輪切りのようにスライスして使うこれを半分程度に、横からパンスライサーを入れてソーセージを9本贅沢に、ソースも贅沢に。巨大サンドイッチの出来上がりだ。
なあに、リンデさんが仕留めたオーガロードの肉が一体当たり沢山あるのに、それがまだ40体以上あるんだ。それにビルギットさん自身もオーガキングの肉を提供している。いくら使っても勿体ない気がしない。
食材を沢山使わされているようで、あんな高級食材をぽんぽん提供してくれているんだから、どう考えても差し引きプラスだ。
後は、朝のコーヒーもいつもどおり。量があるから、先に豆を多めに挽いておこう。ミルクはまだ足りるはず。
……よし、ちょうど出来上がったぐらいの頃にみんな起き上がってきた。あと何故か当たり前のようにリリーもやってきていたので、追加で一個作った。
「朝食です、今日もサンドイッチですが、昨日と味付けが違います。人間には刺激が強いものですが、リンデさんとの経験則上、特に気にせず食べていただけると思います」
「まあ! 今日も彩り美しく、見ていて心躍るサンドイッチですね」
「マーレさんは、色合いを気にして入れた野菜に文句つけてくる野菜嫌いの姉貴に比べて、作りがいがあって好きですよ」
「言い方ァ!」
姉貴はレオンさんのとこに行くと、また「撫でて」と催促して、レオンさんに頭を撫でられてデレデレしていた。……うん、確かにこの二人引き離すとか無理だね。
「そしてビルギットさんにはこちらです」
「え……え!? こ、これ私のですか!?」
「八人分ぐらいあると思います」
「そんなに戴いてもよろしいので!?」
「マーレさん、身長が二倍になると、体積って八倍ぐらいありますよね。ただでさえ筋肉質ですし、足りないぐらいかなと」
「……ええ。大体八倍で間違いないです。そこまで計算して作っていただけるとは……」
そのことを確認して、ビルギットさんに巨大サンドイッチを手渡す。ビルギットさん、手元のサンドイッチを見ながら、「あ、ありがとうございます……」と照れながら受け取ってくれた。
「じゃ、もう姉貴も食べちゃってるし食べますか」
「はい、いただきます。……ほんとミアって、ミアだね……」
僕はまず一口、少しはみ出たソーセージと奥に入ったオリーブ等々を一緒に口に入れるよう大きめに食べた。ぐっ、やっぱりパンは僕には硬かった。一口だとちょっと力要るな……。
……マスタードとトマトソース、本当にソーセージと合う。レノヴァ公国でこの組み合わせでガッツリみんなが食べているというの、分かる気がするな。パンに挟まずにソーセージのみでこの味を楽しんだりするらしい。
今回は練り込んだけど、粒状態のままのマスタードでもおいしかった。これはどちらもおいしいので、どちらにしようか迷うところだなあ。
「ライさん! 今日のも全然違うのにすっごくおいしいです! ソーセージさんのサンドイッチさん、たまりません〜っ!」
「昨日と違う味なのに、なんと素敵な味……! 肉の美味しさと、ソースの味、そして小さな野菜の数々が素晴らしい……!」
マスタードソーセージのサンドイッチ、好評でよかった。硬めのパンは案の定エファさんユーリアさんも含めて誰も気にしてないようだった。
そして……
「……おいしいです、そして、本当に私の満足いく量ですね。わざわざご用意いただいて、申し訳……いえ、こういう言い方をするのは失礼ですね。ありがとうございます、ライさん。こうして作っていただいて感謝の念が絶えません。それに……あなたに気にかけていただけることに、幸福感も……」
「……よかった、僕としても空腹のまま帰すようなことにならず、料理人のプライドが守れた気分です」
「ふふっ、何ですかそれは……」
ビルギットさんも、満足してくれたようだ。軽口を言って可笑しそうに微笑んで、本当に可愛らしい人だなって思う。
「しかし、ライさんがいなくなると、食事が……」
「ん? 食事って僕が作っている料理のことですか?」
「もちろんです。……はぁ、ライさんがミアと旅に出るとなると……一度覚えた人間の料理の味、元に戻ると考えるとちょっと憂鬱ですね……」
「元に……? もしかして、また魔人族だけで食事をするつもりですか?」
「だって、ライさんがいないのでは、誰が料理を……」
僕は、マーレさんの発言を受けて……リリーを見た。
「料理作れるよね?」
「喧嘩売ってる?」
「だってそう聞くしかないでしょ」
「……まあ、うん。給仕ばっかやってるからライほどではないけど、ママの手伝いしてるからね? 一緒に練習したこともあったっしょ」
人間なら、そんなに壊滅的でもない限りは大体みんな料理はできる。改めて確認するまでもないことだった。
そしてリリーは、両親から調理技術を教わっている。
「り、リリーさんも料理ができるのですか!?」
「いいい一応先に言っておくけどそこのスパイス収集家で家事マニアのライムントレベルのものは出せないよ!? っていうかママに作って貰った方がいい気がするけど……でも、ライとリンデちゃんみたいな関係じゃないんだし、この人数……特にビルギットちゃん含めて、タダってわけにもねー」
それは、もちろんそうだろう。普通に考えて食費は馬鹿にならない。僕がリンデさんにしてあげたのは、巡り巡って僕のためという部分もある。
なので、僕が食事を出すに至った部分の話もしよう。
「肉は、提供して貰ってるんだよ。オーガロードの肉。だから、そんなにかかるってほどかかるわけではないし、むしろ買う分は減ってるんだ」
「ああー、そうなのね。でも……手が増えないことには限界がね。気持ちとしては提供してあげたい部分もあるんだけれど」
……確かに、作る手間というのはどうしてもある。特にリリーは村でも忙しい酒場の看板娘、夜は手伝いでもない限り……
……ん、手伝い?
「昨日ふと思ったことなんだけど、それも解決するかもしれない」
「……聞こうじゃない」
「リリーはさ、エファさんのメイド服どう思う?」
「チョー可愛い! 私の専属メイドにしたい!」
「ぴっ!?」
「ちょっとリリー、エファちゃんはあたしが専属に」
「姉貴はややこしくなるから黙っててね」
「グフゥ……」
勝手に凹んでいる暴走勇者は無視無視。
「実は昨日の料理、エファさんに手伝いをしてもらったんだ」
「……手伝いって、ライの料理を?」
「うん。魔人族はみんな不器用で、リンデさんも家事は全く出来なかったんだけどさ。メイド服を自ら進んで着たエファさんは、細かい作業や手伝いが多少できるんだ。味付けとナイフ以外は大丈夫だし、この体格ながらかなり重い物も持てるからフロアでもいいと思う」
「なにそれすっごい。エファちゃん、うちで働いてみない!? 両親とも要相談だけど報酬はマーレさん含めたみんなの食事よ!」
その申し出に、当然のことながら全員の視線が一斉にエファさんに向く。思いつきで喋ったけど、さすがにいきなり確認なく振らない方がよかっただろうか。
「はわわ……人間のお店で、この服でお手伝いできるのですか! 夢のような環境……是非やりたいですっ!」
どうかなと思ったけど、エファさん、リリーの申し出に即答した。
「うわーっマジで!? うひょーっ早速パパとママに言わなくちゃ! もちろん後日ザックスにもね! うっひっひこりゃ村の話題総ざらいやでぇ〜!」
リリー、そうと決まれば即実行と本音ダダ漏れモードでお店に走って行った。……ああいう辺り、姉貴の友人だなーって感じがする。
「エファさん、話を振った僕が言うのも何ですが、本当に良かったのですか?」
「はい! ずっと人間のお手伝いをしてみたくて、昨日のライさんのお手伝いもさせてもらえると思わずとても嬉しかったので、お店で働けるなんて楽しみです!」
よかった。お互いウィンウィンの関係って感じで、紹介した僕も安心できる。
「ふふっ、まさか第十二刻のエファに全員が養われる形になるなんてね」
「ぴぃぃっ!? へ、陛下! そそそんな私そんな大層なものじゃないですよ!」
「謙遜もいいですけど、本当に誇らしいことなんですから……是非、我々の代表として堂々と胸を張っていてくださいね」
そんなやり取りを見ていると、リリーがもう戻ってきていた。両手を上に上げて、親指も上に上げていた。つまり……オッケーってことだ。
「早速来て貰っていいかな!」
「はい! あ、陛下」
「ええ、いってらっしゃい。必ず役に立つのですよ」
「はいっ、了解しましたっ!」
返事をしてすぐ、リリーとエファさんは店の方へ走って行った。
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「なんだかとんとん拍子で決めていただいちゃって助かりました、ありがとうございます」
「僕としても心残りがなくなってよかったです。エファさんのおかげですね。それじゃあ僕もがんばらなくては」
「何かなさるのですか?」
そういえば昨日リンデさんと約束したこと、唐突にリンデさんが来てその場でさらっと流れてしまったからマーレさんはしっかり聞いてなかったかな?
「林檎を食べたことがあると聞きました」
「はい、甘い果物ですね」
「あれをリンデさんが、蜜の枯れたサルビアと表現するぐらい甘くておいしいものを作ったことがあるんです」
「……え、え?」
「それを、これから、沢山作ります」
マーレさん、目に見えて狼狽えている。普段の落ち着いた姿からは一転、すっごく目が泳いでいて、なんだか見ていて微笑ましい。
がばっと後ろを向いて、クラーラさんを見る。クラーラさんも珍しく目を見開いて首を横に振っていた。そんな動作をカールさんやビルギットさん一通りみんなとやった後に、最後にリンデさんを見た。
もちろんリンデさんは、満面の笑みで頷いていた。
そしてその驚愕の表情を再び僕に向けた。
「……まさか、食べさせていただけるので……?」
「もちろんです」
「————ああ、ああ、どうしましょう、子供のように心がざわついて、とても落ち着いていられなくなってしまいます……!」
そわそわし出す、ケーキやパイ未経験の魔王様。なんだかそこまで楽しみにしてもらえると、作る側としても嬉しいし、俄然やる気が出てくる。
「それじゃ今から材料を買いに行きます。姉貴に支払いをやってもらう約束なので向かいますね」
「一緒に行った方がよろしいでしょうか!」
「いえ、リンデさんがついてきてくいれれば十分ですから、そうですね……昨日のこともありますし、皆さんで村の周りを守っていただければと思います」
「わかりました、村はお任せ下さい!」
マーレさん達魔人族のメンバーが残ってくれるなら、もう村の守りは何も心配はいらないだろう。
リンデさんが今まで見回りしてくれていた分を、これだけの強くて幅のある人数でやってくれるんだ。本当に心強い。
僕はそのことを再確認し、今日も城下町に向かうことにした。
ちなみに姉貴は、当然のようにレオンさんと来ていた。