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 まずは村のみんなに説明しなくては。それには……討伐したってことにすればいいだろうか。


「とりあえず、そのオーガキングの首は持っていきましょう」

「あれ、お肉の方はいいんですか?」

「肉? そういえば食べるって言ってましたね」

「猪と豚の間みたいな感じの味がするんですけど、胸の方はやわらかくて本当においしいんですよ。上位種ほどおいしくて、だからドラゴンステーキなんてすごくおいしいですよね。解体は私ができますよ」

「そうですか……ん?」


 ということは……


「料理とかするのですか?」

「人間に比べてそんなに複雑な料理できないですね。みなさん戦う以外は基本的にめっちゃ不器用なので……。

 私の魔族の国って、大陸の西の端っこの、更に西の島の洞窟にあるんです。洞窟といっても地上に近く、洞窟自体も海もそこそこ近いので、海水と肉を鍋に入れて火魔法で肉を煮込むってのが出来る方の子ですねー。私はそのまま焼くだけなんですけど……。城下町まるまるそんな感じで、みんなでそこに住んでます」


 思った以上にシンプルな肉料理だった。戦う以外は不器用という魔族の特徴も喋った。そしてさらっと、()()()()()()を喋った。

 警戒心がなさすぎて、ちょっとこの子が心配になってきた。……もう『子』って言い方でいいだろう、もはや警戒するだけ無意味だと思った。娘ってところか。魔族の娘。

 さっきの話も嘘でも本当でもいいや。


「そうなんだ……それじゃあ、さすがに持って歩くのも大きいので解体してもらっていいですかね?」

「え?」


 魔族の娘は、僕の話を聞く前にひょいっと持ち上げると、空間を広げてぽいっと放り投げた。


「アイテムボックスの魔法……あのサイズを……?」

「そうですです、便利ですよねこれ」


 今使った『アイテムボックス』の魔法、個人の能力によって道具の出し入れが出来る、習得が容易でありながら便利な冒険者魔法なんだけど、魔族の娘も使った。

 本当に、こうやって見ると普通の冒険者って感じだなあ。能力だけがデタラメに破格だけど。あんなサイズの魔物、片手で残り容量を気にせずぽんぽん収納できるものじゃない。


 そう思っていると、魔族の娘は片手でオーガキングの首を持った。 移動する準備が出来たようだ。


「それでは、ご案内よろしくお願いしますっ!」

「わかりました」


 そうして村まで戻った。



 -


「……というわけなんだ」


 村に入って、とりあえず今近くにいる数人の村人を集めて説明を行った。

 いきなり堂々と僕と一緒に現れた魔族にさすがにみんな警戒していたが、オーガキングの首を見ると、にわかにざわつき、その魔物がどれほど強力かに戦慄し、やがてその脅威が取り除かれたという実感が伝わっていった。


「えーっと、つまりその魔族さんが、ライを助けてくれた、ってことよね」

「そういうこと」


 酒場で店員やってるリリーが、金髪の短いポニーテールを覗かせるように首を傾けて聞いてきた。


「じゃあ……私はいっかなーとは思うけど。何よりライがここまで連れて来ちゃったしねー」

「話せば分かると思うけど、ほんと普通の感じだよ。なんだか普通の冒険者っぽい感じというか」

「普通、普通ねえ」


 リリーがずいっと前に出て、魔族の娘をじろじろ見る。


「んー。なるほどなるほど……」

「な、なんでしょうか……何か私の顔に珍しい物でもついてるでしょうか」


 いや、あんたの存在そのものが珍しいんだよ。村人みんながそんな目をしていた。僕も心の中でそう突っ込んだ。


 それからリリーは、ずーっと魔族の娘の目を見つめ続けた後、


「んーーーーーー……わかった。私は、この魔族、入れてもいいと思う。みんなはどう?」


 そう言ってくるっと振り向き、他の村人の方を見た。

 集まった数人は、「リリーとライムントが言うなら……」と言っていた。どうやら納得してくれたようだった。


「とりあえずこのまま家までは問題無さそうだ。じゃあ早速僕の家に行こうか」

「は、はい! 皆さん、あの、ありがとうございます!」


 そう言って周りの皆にぺこぺこおじぎをする魔族の娘を、最初はみんな珍しいものを見るように、そしてやがてその腰の低さに暖かいものを見るような目で迎え入れてくれた。


 -


「お、おじゃましま〜す……」


 そう言って小さい木の家に入ってくる魔族の娘。「うわーっ本当に木を組んで作ってるーすごいなー」なんて言いながら、都会に出たての田舎娘のように、田舎の家をぐるぐる見て回った。

 その姿に、なんだか微笑ましさを感じて笑ってしまった。


「それじゃ、飯作ってきます」

「あ、あの! お手伝いできることなどないでしょうかっ!」

「んー、そうですね……。そのオーガキングの肉っての、食べたことないんですよ。おいしいというのなら、解体してもらっていいですか?」

「わかりましたっ、お任せくださいっ!」


 そう言うやいなや、魔族の娘はささーっと出て行った。じゃ、僕も調理の用意しますかね。


 取ってある香草がいくつかと、栽培している香草がいくつかと。城下町に行った際に少し仕入れた調味料の他は、姉貴が僕の料理用に買い込んだもの。時々旅先の調味料や珍しい物を買って帰るのだ。このホワイトペッパーと、ブラックペッパーと……そしてミル。レッドペッパーは彩りに後乗せ。やはり肉ならローズマリーだろうか。ふむ……油は……。


「おわりましたっ!」


 魔族の娘が扉の隙間から顔を覗かせた。どうやら解体を終わらせたようだ、不器用と聞いたけど、手早いじゃないか。じゃ、確認に行きますか。


 -


 結論から言うと、めっちゃ雑だった。ほんっとーに不器用だった。


「雑」

「え、ええーっ! かなり綺麗めに意識したんですよ!?」

「もっと、骨の周りとか、残ってますよね?」

「そんな細かい作業できる人いません……」


 そう返事を聞き、とりあえずブロックごとに分けて雑に削いだだけですっていう解体準備段階レベルの肉を見ていく。


「普段からこんな感じですか」

「そうですねえ……」

「他の魔族も?」

「ええ。というか西の島は魔物の発生量が本当に多いので、それぐらいのペースでやっても素材というか肉はなくならないし、減らすペースが遅いと迷惑がかかるんですよね」

「迷惑?」

「私の島の東がこの大陸なんですが、魔猪とかあのへんが月10匹ペースで海を元気に渡っていっちゃうんですよね。あれってさっきのオーガキング並なのでちょっと人間の方には強いはずなので、あれが大量に渡ると大変かなーと」


———ん? 迷惑がかかるって、人間に?


 ……なんだか、それはまるで。


「……人間のことを、守っている?」

「あはは……そうなるんですかね? 一応陛下の指示なのですが、特に人間を守るとかいうことは言ってなかったです」

「想像つかないな……?」


 興味深い話だけど、喋っているとさすがにお腹がすいてきた。続きは食べながらでいいか。


 とりあえず、目の前にある大まかなところはできているオーガキングのブロックの一つの近くに行き、肉の骨の近くを削いでいく。


「ふわああすごいいぃ……」

「めっちゃ削ぐのはやいーきれいー」

「白いのみえてる、骨ギリギリだぁ」

「かっこいいなぁ……」


 ……照れるのでやめてもらえません? ていうかギルドの姉御の方が数段上だからね?


 そう思いながらも、オーガキングの肉がたくさん取れた。必要な部分以外をアイテムボックスの中に入れてもらい、オーガキングの肉を調理場に持っていく。

 さて、なんだかんだ食べたことない高級食材ではなかろうか。おいしいと言っていたし、楽しみだ。


 僕は調理を開始した。

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