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エドナさんと別れ、ついに本命の目的地へ

「そうですか……行ってしまうんですね」


 エドナさんが寂しそうに、こちらを見る。


「短い付き合いでしたが、エドナさんみたいな方がいらっしゃってよかったです。僕も姉貴も、祖父母の顔は知りませんから。今は両親もいないですし、なんだか久々に、落ち着いてお話できたと思います」

「ええ、そう言っていただけると私も嬉しいわ。ライさんみたいな方ならいつでも大歓迎、今度は是非ともミア様と会いに来てくださいね」

「機会があれば、必ず連れてきます」


 そう約束して、しっかり頷いた……んだけど。


「うう〜っ、さみしいよぉ……」

「アンちゃん……」


 アンは、エドナさんに思った以上に懐いていた。

 家族のような暖かさを一切受けなかったアンは、孫に接するようにしてくれたエドナさんの優しさは初めての体験だったのだろう。


「アンちゃん、最初に元山賊だったこわい人たちから、私を守ってくれてありがとう。可愛くて、でも誰よりも強くて。あなたと一緒にいられた日々は、久々に心休まるものだったわ」

「……ううっ……」

「だから、ね。私みたいな困ったおばあちゃんがいたら……ううん、どんな困ってる人でもいい。あなたとずっと一緒にいたライムントさんは、そういった問題を解決して救ってくれる人。だからアンちゃんは、彼と一緒にいてほしいの」


 エドナさんがアンの頭を撫でて微笑む。


「そして、世界中で沢山の人を助けてくれると、それが私は一番嬉しいわ」

「……。……うん、わかった。わかったよ、エドナさん。私、がんばるよ。……自分の父親の分も……」

「……アンちゃん?」


 アンは目を閉じて一歩下がり、自分の剣を持ち出して縦に構えた。


「わたしの本当の名前は、アンダリヤ。アンダリヤエフヴェフツィリーヤクセナズダ=ズィヤヴォル。わたしは悪鬼王国の王、悪鬼王ザルダンノの娘」

「……え?」

「わたしの父親はね、人類の敵なんだ。たくさんのひとを殺した。ライさんとミアさんの両親が死んだのも、わたしの父親のせいなの———」


 アンはなんと、自分の身の上をエドナさんに話し始めた。

 隣で聞いていたクラリスさんも、まさかそんな事情があったとは思わなかったようで驚いている。

 突然の後ろ暗い過去の告白に、室内にどこか淀んだ空気が漂う。


「————でも!」


 しかしアンは、その空気を切り離すよう、はっきりと答える。


「わたしは、自分の父親、嫌い。悪鬼王国も、嫌い!」

「……アンちゃん……」

「だから、ライさんに……初めて優しくしてもらえたライさんに、全部お返しするんだ。ライさんは、わたしじゃ考えてることほとんどわかんないけど、みんな救っちゃうぐらい凄いから……わたしは人間の味方として、デーモンの代表として。じぶんの種族の評価、わたし一人で変えちゃうぐらい、頑張るんだ」


 ……アンは、そこまで考えてくれていたのか。

 悪鬼王がやったことは、確実に人類にとって最悪のこと。

 そしてアンは、悪鬼王の行った悪事に一切の関わりがない。


 にも関わらず、自分はその血を切り離さずに、汚名を全て濯ぐという。

 デーモンとして……いや、人類の味方『山羊人族の標準的なデーモン』として、人類に自分の種族を認めてもらうことを考えている。


 この幼い子の覚悟を侮っていた。

 アンは、立派な戦士であり、王の娘。

 マーレさんと同じ立場になる血を持った少女だ。


 エドナさんにも、それがしっかり伝わっていた。


「ふふっ、私が子供扱いするなんて失礼なぐらいでしたね。……アン、あなたの未来にどうか沢山の幸福があらんことを。私はこの地から、いつまでも祈っていますよ」

「……うん、ありがとう。エドナさんの祝福、いっぱいもらえるように、がんばるよ」


 アンは剣を仕舞うと最後に微笑み、一歩下がってしっかりと深く長く、頭を下げた。


 -


 港にやってきて、リンデさんがぽーんと船を出す。

 突然現れた巨大な船に、辺りは騒然となる。


「毎度思いますけどほんとリンデさんってすごいですね!?」

「えへん!」


 大きな胸を張ってふんすと得意げになるリンデさんの可愛らしさに微笑みながら、船へと乗り込む。

 来たメンバーと同じで、僕と魔族と、クラリスさんが乗る形だ。


「そんじゃ、マナエデンに行くのでいいのよね」

「はい、よろしくお願いします」


 クラリスさんが、いつもの貿易みたいなノリの軽い出発のつもりで出たので、カヴァナー連合国からの見送りはなかった。

 エドナさんは「見送りしたら泣いちゃいそうですから」という理由で断っていた。

 ちなみにそれを聞いただけでリンデさんが決壊しちゃったことも、リンデさんの可愛いエピソードとして付け加えておこう。

 そんなリンデさんは、今はアンを肩車して、甲板を走り回っている。もしかすると、アンの告白を聞いて元気付けようとしているのかもしれない。

 はぁ、リンデさんは一緒にいて飽きるということがないぐらい、いつも新鮮でかわいいな……。


「———あだっ!?」

「隙あらばのろけてるじゃん」

「クラリスさんといると、本当に姉貴と一緒にいるみたいですよ……」

「褒め言葉ね」

「全力で貶したつもりです」


 そんな会話をしながらも、魔物の出ないカヴァナー連合国の旅は順調に進んでいった。

 あと気をつけていたのが、ユーリアを必ず休ませることだ。

 ほっとくと、一人で滅茶苦茶頑張っちゃうからな。


 久々の、何一つ敵もいない、静かな旅だった。

 賑やかなのといえば、魚を釣って食べる度に「ライ君私の嫁にならない!?」と行ってきて、リンデさんが「ライさんは私の奥さんですっ!」としがみつくという展開。

 なんかおかしくないですか? なんもおかしくないですか、そうですか。


 -


 そして目の前に現れたのが……色彩豊かな島。

 これが……これが、マナエデンなのか。


 島の形は、どこから見ても左右対称の同じシルエット。中心に向かって一個の山があるかのように、不自然なぐらい人工物のように島の形が整っている。

 確かにこれは、丸い島だ。


「それじゃ、北に回るわよ」

「北ですか?」

「そーよ、警備が厳しくて、北から以外だと弾かれる。私の言うとおりにしてよ」


 それは気をつけないとな。のどかな雰囲気の島だけれど、それだけ侵入者には厳しいのだろう。

 クラリスさんの指示に従い、船を動かす。

 そして船が島の北側になると、そのまままっすぐ船を、南へと動かしていく。……カヴァナー連合国のある大陸が南側にあるんだから、この島を見つけて北から来るというのは、偶然だとなかなかないことだろう。


 まっすぐ進んで行くと、島が思いの外遠かったこと、かなり大きな島だったことが分かる。

 そして島に備え付けてある、船の停泊所が見えてきた。

 僕はクラリスさんに運転を任せ、期待を胸に甲板まで出る。

 ずっと室内にいた皆もやってきて、ビルギットさんが出てきた僕に反応する。


「すごいですね、こんな場所にこんなに綺麗な島があるなんて……」

「ええ、本当に……」


 僕がビルギットさんと一緒に身を乗り出した瞬間——。




「————危ないッ!」


 ユーリアの悲鳴のような叫び声が届き、僕の目の前が爆発する。

 い、一体何だ!?


「……やりますね」


 爆発音は……僕を両手で半身包み込めるほどの、その大きな手から出ていた。

 ビルギットさんが攻撃を受けたのだと理解した次の瞬間、甲板に金属の矢と青い液体が飛び散っているのが見えて、急激に頭に血が上った。


「ビルギットさん、怪我を……!」

「防御の準備が出来ていなかったので怪我をしてしまいましたが、不意打ちを受けたにしては比較的傷は浅いです。ライ様に怪我がなくて良かった」

「僕が良くない! 『ヒール・トリプル』!」


 念のため、ビルギットさんの怪我を全回復させるよう魔法を使う。


「あ……」

「僕だって、自分が怪我するよりビルギットさんが怪我した方が嫌なんです! ビルギットさん、もっと自分を大切にして下さい! もし僕の回復魔法が必要なら、頼って下さい、僕も頼られる方が嬉しいんですから!」

「も、申し訳ありません、ありがとうございます……!」


 怒鳴ってしまって、少し萎縮させてしまっただろうか。でも今のは、我慢ができなかった。

 ビルギットさんの……というより、魔人族の怪我は、もしかすると初めて見るかもしれない。

 リンデさんもアンも剣を出している。


「……『フィジカルプラス・オクト』……ッ……」


 自分も怒っているからか、魔法の段階がいつもより高くても、気絶するほどにならない。


「『マジカルプラス・ノーヌ』……! ッ、『エネミーサーチ』」


 ユーリアほどではないけど、索敵魔法により相手の場所だけならはっきりと分かる。


「シッ!」


 そして僕は、甲板の上から魔矢を撃つ!

 その矢が……なんと、島の空中で大爆発を起こし、爆風を出す。

 次の攻撃が来る! 僕が矢を番えた次の瞬間。




「————なにやってんだクソ出不精ーーーーーッ!」


 突如僕の前に出てきたクラリスさんが、大声で叫びながら空に魔法を撃つ。

 突然の行為に、皆驚いて目を合わせる。

 っていうか、なんだ? クソ出不精?


 ……いや、クラリスさんから聞いたことあるぞ、この単語。

 あれは確か、島の話をする時で……。


「へ、クラリス? その魔族だらけの海賊船みたいな船、クラリス乗ってるの? 魔族、仲間なの?」

「毎回確認しろっつってんでしょこの万年寝不足馬鹿! ったくユーニスはよくこれで女王とかやってられるわよねほんとさあ! あのミア様が忠誠を誓ったというアマーリエって人の、濃縮還元100%爪の垢ジュースを吐くまで胃袋に流し込んでやりたいわ!」


 声の聞こえた方を見てみると……そこには緑の髪を腰まで伸ばしたエルフが浮いていた。

 浮遊魔法。クラーラさんとレーナさんぐらいでしか見たことないのに、この人も使えるのか。

 そのエルフは、右手に弓を持っていた。これを先ほどビルギットさんに使ったのだろう。


 ……ん? 今の攻撃……もしかして。


 僕が疑問をはっきりとした形にする前に、そのエルフの人は甲板に降り立ち僕を見て、周りで展開についていけずぽかんとしている魔族の皆を見て言った。


「ハイエルフは? さっきのハイエルフはどこに?」

「んなもん乗ってないわよ」

「……おかしいなあ、確かに今のは私以上の乗算魔矢の射手だったと思うんだけど……魔矢ー、まやちゃーん、どこー?」


 その単語に、魔人族の面々が一斉に僕を向いた。

 皆が僕の方を向いたことで、目の前のエルフが誰が射手だったのか理解したようだ。


 同時に僕も、目の前の存在に思い当たる。


「……え? もしかして……」

「はい、魔矢は僕が撃ちました」

「に、人間の身で、私と同じ精度の、しかも私を凌駕する威力の魔矢を……へ、へこむ……やむ……鬱しちゃう……もうおふとんスヤァするぅ〜……」

「寝るなっ!」


 クラリスさんとコントをしている、クラリスさん以上の長身と、長い耳を持った、どこか緊張感の欠ける目の前の存在がどういう種族であるか分かった。

 そして同時に、クラリスさんが先ほど投げつけた罵詈雑言の中に、この人がどういう立場の人か判断する材料が十分に揃っていた。


 マナエデンの領主は、伝説のハイエルフだった。

 そして、僕がレオンからずっと問われ続けてきた、高精度の魔矢を扱うもう一人の『乗算魔矢の射手』だった。


 この出会いもまた、僕の運命を大きく変えていく。

 ……そんなことは、今の女王としての貫禄がカケラもないこの人からは、とても想像することはできないのだった。

これにて6章終わりです、ずっと読んでくださった方、ありがとうございます。

そしてここで、約半年ほどストックなしで毎日更新してきたこの作品は、少し展開を練ることもあり一旦休止したいと思います。


有難いことに書籍化もさせていただき、思い出深い作品となりました。

ランキングに乗らない間も、ずっと更新してここまで走ってこられたのは、いつも読んでくださる皆様のおかげでした、本当に感謝してもしきれません。


また更新を再開いたしますので、【ブックマーク】も更新チェックつきで付けておいていただけるとと思います。

Web版は完結までしっかり練ってきますので、是非是非よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 頼む、続きを書いてくれ、気になって眠れない。
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