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事件の首謀者をシンクレア領に連れていきます

アクセス数、いつの間にやら600万超えていました、ありがとうございます!

 とりあえず、馬車の人たちには悪いんだけど起きてもらって、捕まえた三人は馬車の中に連れてシンクレア領まで連れていくことにした。魔人族を見て驚いていたけど、領主を捕まえているのがエルフのクラリスさんだと知ると、疑問に思いつつも納得して乗せてもらうことになった。

 あっちからこっちへは強化魔法をつけて走って来たけど、さすがにそのペースで戻るわけにはいかない。

 夜も相当遅いので、恐らく馬車でゆっくり帰る頃には早朝だろう。


 馬車の中には、僕とリンデさんに魔法使いの老人とサイラス、もう一台の馬車にクラリスさんユーリア、その中にクレイグを乗せた。


「ビルギットさん、また別行動で申し訳ないのですが……」

「いえ、どうかライ様はお気になさらず。このぐらいの距離を走る程度は、私にとって大したことではありませんから。本来人間の建物などは一つとして私の体格に合わないもの。寧ろ一緒に入ることの可能なテントでライ様とご一緒させていただけるだけで、私はその全てに対してお釣りがくるほど幸せなのです」


 ビルギットさんも大概好意全開というか、滅茶苦茶恥ずかしいことストレートで言ってくるよな……。

 僕は赤面しつつもビルギットさんの好意に甘えて、馬車に乗り込んでシンクレア領まで戻った。

 途中サイラスが仕掛けてくる可能性も考えていたので、「ちなみにブラックドラゴンを倒したのが、隣に座っている魔人族です」と釘を刺しておいた。

 サイラスは眉間に皺を寄せて座席に沈み込んだので、僕は隣の老人を見る。非常に年老いていて、エドナさんより一周り以上は上の年齢に見える。放っておいても老衰しそうなぐらいの人だが……。


「ところで、僕はあんたの名前を聞いていないんだが、教えてもらえるか?」

「……俺か。俺は……ハーヴィーだ」

「ハーヴィー。これから僕らはエドナ・シンクレアの屋敷に行く。そこでお前のやったことを洗いざらい吐いてもらう。それでいいな?」

「……エドナ、エドナか……そうか……」


 ハーヴィーはその名前を何度も呟くと、急に頭をかきむしり始めてぎょっとする。

 顔に深い皺があるものの、目玉はぎょろりと血走っていて何をしでかすかわかったものじゃない。

 ……大丈夫だろうな?


 少し時間をおくと、観念したのかぐったりと首を下に向け、それきり黙りこくった。


「リンデさん」

「何でしょうか」

「申し訳ないのですが、二人をしっかり見張っておいてください。何もないとは思いますが、動き出したら腕ぐらいなら斬ってもかまいません。僕が危険だからという理由なのが情けないですが」

「分かりました。後から動いたところで絶対に遅れは取りません」


 リンデさんが迷いなく答えたところで、正面の二人も息を呑んだ。

 ……うん、少々脅しも含めて喋ったけれど、これならきっと大丈夫だろう。


 -


 シンクレア領に着いた頃には、うっすらと空が白みはじめていた。

 そのままエドナさんのいる屋敷へと向かってもらい、門のすぐ近くで馬車を降りる。

 やや暑い季節とはいえ、朝の空気はやはりすがすがしい。


 正面の二人は僕に続いて馬車を降りて、リンデさんがそれを見て馬車を降りる。

 隣ではクラリスさんが降りてきていて、それに続いてクレイグが降りてくる。


「それでは行きましょう、クラリスさん」

「ええ、そうね。ほら、キリキリ歩く!」


 三人に対する態度を軟化させることなく、クラリスさんは三人を屋敷の中へと入れていく。

 さて、これからどういう話に発展していくのか、正直僕もここから先は全く予想できない。

 鍵は……恐らくハーヴィーだろうな。




 エドナさんは朝早くに起きてきてもらって、ビルギットさん以外の皆を屋敷の中に入れてもらった。

 部屋に入ったエドナさんは揃っている面々を見て、すぐに理解したのか納得した様子で微笑んだ。


「そう、ライさんが解決してくださったのね」

「そーゆーこと。あーあ、エドナのために何かできないかと思って張り切ったけど、結局海賊に捕まったぐらいだったわね」


 呆れた感じで溜息をついたクラリスさんを、僕は真っ先に否定する。


「とんでもない。エルフのクラリスさんがカヴァナー連合国の誰から見ても発言権のある存在であり、同時にエドナさんの味方でいてくれたからここまでうまくいったんですよ」

「そうかな?」

「はい。正直クラリスさんみたいな、第三者にとって説得力のある存在がギャレット領側にいたら、こんなに早期に解決できる事件ではありませんでした」

「早期にって言った? 後学のために聞いておきたいのだけど、もし私がいなかったら、どうするつもりだったの?」


 今回のような事件の場合、各地の関係図をかき乱す存在が厄介になる。

 つまり今回ならば、ハーヴィーの存在。

 そして恐らく……この召喚魔法は、相当な魔力を使っているか、かなりの無茶をしているはずだ。

 何度もできるものではないはず。


「ブラックドラゴンもリンデさんとユーリアにかかれば一瞬でしたし、目の前で召喚する度に何度も何度も魔物を切り伏せる方向にしますかね。クレイグとサイラスが何を考えていようと、あの魔物さえいなければどうすることもできないわけですし」

「……なるほどね」

「ただし、もっと慎重に動いていたと思います。発言権のある地元に根付いたエルフなら兎も角、余所者で突然来たばかりの魔族が、領主をギャレット領からシンクレア領に連行したら……間違いなく国同士の争いになるでしょう」


 僕としては、正直カヴァナー連合国の問題解決よりも、リンデさんや魔人族の皆が批難の目に遭わないかということの方が重要だ。

 特にユーリアは一度レノヴァ公国で、人間の疑いの目に対して非常に弱いことを知った。同時に最近ユーリアと仲良くしているビルギットさんも……恐らくユーリア以上に傷つくだろう。それだけは、それだけは何としてでも避けたかった。


 しかし結果は、むしろ街の皆に称えられる有り様。

 それほどまでに受け入れられた理由として大きいのが、クラリスさんがユーリアの活躍を喧伝したことだろう。

 恐らく魔法を飛ばして魔物を討伐しただけでは、ああはならなかった。それほどまでに、クラリスさんの信頼は大きいのだ。


「本当にクラリスさんには感謝しています」

「ミア様の弟にそこまでベタ褒めされると照れるわね」

「それじゃあ、この事件の幕引きといきましょう。エドナさん、いいですか」


 エドナさんは僕とクラリスさんのやり取りを見て微笑んでいた顔を引き締めると、真剣な眼差しで僕に頷いた。


 まず、ギャレット領での出来事。

 ブラックドラゴンという恐ろしく巨大で強い竜を、シンクレア領にけしかけようとしていたこと。

 そして、ギャレット領の住民を眠らせて、三人だけがこの事件に関与していること。

 最後に、魔物を召喚した男がクラリスさんに攻撃魔法を撃ったこと。


 その男が顔を隠すように後ろにいる。

 僕はその今更な態度に少しカチンときて、ハーヴィーを引っ張り出した。


「この男です。こいつは————」


 しかし、僕が名前を告げる前に。


「え……あなた、ハーヴィーなの……?」


 なんと、エドナさんから老人の名前が先に出た。

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