クラリス:ミア様の弟という規格外の人間
クラリス視点です(ミア視点とかも再々変わっていたけどわかりにくかったので順次サブタイトル変えていきます)
一言で今の気持ちを表現するなら。
えっ私の三年半なんだったん? である。
ライムント君……彼が来てから、まだ一ヶ月どころか半月ぐらい……? もっと短い?
とにかくそれぐらいのうちに、私を取り巻く状況の全てがひっくり返った。
マナエデンからカヴァナー連合国のやり取りを任された私は、この街の人々を気に入ったし、服飾なども盛んで取引相手にも丁度いいからと、すぐにこの大きな連合国を専属の取引相手にしたいとうちの出不精に取り付けた。
皆はエルフのことをしっかり尊敬してくれていたし、マナエデンという国の食材に敬意を払ってくれた。だから取引も、基本的にうまくいっていた。
みんないい人達。私は本当に、ここでの活動が気に入っていた。
何年か経って、少し山賊団が出始めた頃。
護衛をギャレット領から雇って各地の商人が取引するも、神出鬼没の山賊に手こずっていた。
エルフであり他国の者である私が直接介入するのは、少し厄介な問題も引き起こす。私の所為で各領地の力関係が狂うのは非常に困るのだ。
そんなときに、現れた。
勇者ミアという、とんでもない巨星が。
勝ち気な見た目と、未成年でそれほど高くない背丈で現れた少女。
小舟に乗って、遠くから海の魔物を薙ぎ倒しながら魔法で来たと聞いた時はびっくりしたし、嘘じゃないかと思った。
結果から言うと嘘じゃなかった。山賊団の話をウィリアム・シンクレアという当時の領主から聞くと、アイテムボックスから巨大な剣を片手に持ちだし、その状態のまま高い外壁をぽんぽん飛び越えていった。
全員が捕まったという話を聞いたのは翌々日。規模と検索範囲のわりにとんでもない討伐スピードだし、なんといってもそれを、あんな小柄な少女がやってしまったというのだから驚きだった。
……同時に、その性格のあまりの凶悪さも驚きだったけど。
ミア様は瞬く間にカヴァナー連合国の中でも有名な存在となり、それから異常発生した山の魔物も、村に現れた魔猪も、厄介な落石に至るまでどんどん一人で解決して、その度に飲んで喰ってしまくって、終いにはマナエデンの話をすると寄りたいとしきりに言ってきた。
実際に寄らせてみると、元気よく食べまくるのかと思いきや……真剣な顔で説明を聞きながら食器を買い、島を軽く見た後は一人で小舟に乗り帰っていった。
嵐のような不思議な人だった。
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カヴァナー連合国に転機が訪れたのは、三年半前。
ウィリアムが、山に出た魔物によって、山から逃げ出した魔物が農地を荒らすというもの。
大規模な討伐隊が組まれて、当時の領内でも少ない優秀な冒険者が加わった。
まあ、あのメンバーなら大丈夫だろうとたかをくくっていた……それが大きな間違いとなった。
いつまで経っても帰ってこない領主。全く減る様子のない魔物。偵察に出した者が戻ってこないという最悪の事態。そして……ある意味最高のタイミングで滑り込んでしまった、ギャレット領からの協力打診。
エドナはついに、ウィリアムの生存を諦めてしまった。そしてクレイグ・ギャレットの協力を受け入れ、町中には重税によって雇われた冒険者が溢れた。
最初のウィリアムによる討伐隊の時に、有用な人が皆いなくなってしまったのが非常に痛い……。
重税に耐えられなくなったジャスパーは海賊団を率いてシンクレア領を抜け出し、街の人は次々と海賊団に抜けていく。それでも人々からは、疲れた顔からも笑顔が消えることはなかった。これはエドナの人柄による賜物だと思う。
でも、いつまでもこんな状態が続いていいわけがない。私は必死に、解決策を探っていった。
そして解決のための協力ができるという人の話を聞きつけ、焦った私はそのおどおどとした青年についていくと、後ろから厳つい男に首輪を填められた。
体中を倦怠感が包む。危機感からすぐ反撃しようとするも、魔法が発動しない。……や、やられた……! ジャスパー海賊団の、人材と資材の多さを侮っていた。
エドナを助けるつもりが、エドナの重荷になるなんて……こんな滑稽な話はないわね。
身代金として、エドナは莫大な金額を積むだろう。そうなれば、あの家はおしまいだ。
せっかく守ってきた、男前なお爺様だったウィリアムと一緒に住んでいた思い出の屋敷が、私のせいでなくなってしまう……そんなの、絶対に駄目……。
新しい監視がやってきたのか、人が檻の近くにやってくる。
そいつを睨み付ける。優男のようだけど、あの時みたいに油断はできな————
「ら、ライさん、どうしましょうっ!」
……は? え、なんか青いんだけど?
その明らかにここいらの人間でも亜人でもないよくわかんない存在を見て驚いていると、男の方から話しかけてきた。
なんと、海賊達は全部返り討ちにしたとか。話によると、なんか声かけられてデレッデレに照れながら頭を掻いている女……魔人族が、全部倒したらしい。
なるほど、確かに強いのだろう。そして実際に、パートナーなのだろう。お揃いの個性的で目立つ指輪をしている。
本当に独特な……なんだか魔力? いや、もっと違う何かを感じる指輪で、存在感から初見でパートナーだなって分かるレベルでかなり目立つ。
そして魔人族の可愛らしい反応をする子は……なんと鉄の手枷を素手で割った。っていうか、明らかにヤバイ呪いがついている首輪も、素手で割った。体に一気に活力が戻ってくると同時に、ぶるりと震える。
……いやあの、ちょっと待ってよ。
強くない? なんかおかしくないこの子……? 今の首輪、全身が倦怠感に包まれるぐらいの弱体魔法がかかるような首輪だったと思うんだけど、握って素手で割ったわよね?
それから他のメンバーも紹介してもらったものの……いや、ほんと、皆凄い。特にあのビルギットというの、一目見て思うけど、明らかにこの辺にいる種族じゃないわよね。っていうかリンデと同じ種族とすら思えない。
どうやってこんなの従えてるんだと思ったんだけど、ライムント……ライ君もビルギットも遠慮しがちな優しい性格だった。内心あまりに予想外で笑った。
同時に思った。あーこいつら絶対良い奴らだわ。
エドナとも無事に再会できて、ジャスパー海賊団も捕まえて。ようやく溜め込んで溜め込んで、悪循環の袋小路に陥っていた問題が、前進したって感じだ。
そして次に知ったのが、ライ君があのミア様の弟だってこと。
言われてみれば見た目は似てるけど、見た目以外カケラもにてねえ。頭が良すぎるし、何より優しすぎる。ていうかもう絶対、尻に敷いたり振り回したりしてるだろうなって分かるわ。頑張れライ君。
………なんて思っていたのは、最初だけ。
ライ君は、リンデと一緒にあのドラゴンかどうかもわからない魔物を一瞬で斬って帰ってきた。
実際にリンデがアイテムボックスから出して来たけど、本当にドラゴンだった。……いや、あなたの収納魔法どういう容量あるの?
って思っていたら、次には船を収納し、家を出してきた。
こいつ、やばい。何かこう根本的に冒険者の旅そのものが変わるようなことやってる。ちょっと認識を改めなおさないと……。
更に極めつけはあのチェスだ。
明らかに相手に恥を掻かせるために、チェスを仕掛けた。
しかも自分のパートナーっつーか妻って断言した魔人族のためだけに、初めてのチェスで勝ちに挑んだ。
結果は……余裕の勝利。
なんだこれは。チェスっていうかボードゲーム全般、経験者がどれほどの経験を積んでいるかわかるものじゃない。
その上で明らかに彼は、絶対に自分が勝たないと恥の上塗りどころかリンデにも肩身の狭い思いをさせるだけの喧嘩の売り方をした。
しかし圧勝しているということは……間違いない。
初挑戦で勝てると分かっていて勝負を仕掛けた。
……意味不明だけど、それしか有り得ない。そして実際にそのとおりになった。ある意味一番意味不明なのが、彼のこの結果だ。彼は怒ったら、これぐらい余裕でやってのけてしまうのだ。
「……ミア様よりよっぽどこえーじゃん……怒らせないようにしよ……」
私がそう思うのは、当然だった。
ただまあ、よっぽどのことがない限り怒らない子だろうなって思う。
根が優しいのだ。ちょっとそのへん、エドナにも似てるから気に入っちゃうのかも。
そもそもジャスパー海賊団の食べ物配った時点で、こいつ怒らせるとしたらよっぽどだよって思うし。リンデを貶したら速攻で怒るけど。
ラブラブかよこいつら。ラブラブだったわ。
シンクレアの問題も、何もかもを全て予測していた。
魔人族をこの地から離れさせる。自分がいなくなったと広める。私がいなくなったと広める。
街の人と魔物を倒す。ギャレット領の斥候が来る。そして計画通り、グリフォンが来る。
話す内容も、全部仕込まれた。そして強化魔法で私がグリフォンを倒した。
ライ君が使える魔法は全種類らしい、しかも人間の使っている魔法よりも明らかにランクが高い。間違いなくこの子、とてつもなく強い。
駄目だ、一度強化魔法を受けた感想だけど、魔人族どころかライ君にもエルフ族の誰も勝てる気がしない。
そしてブラックドラゴンをリンデが倒す。一瞬だ。本当に、おっそろしく強い。
突入したときに使った防御魔法も、明らかに精度が高すぎる。彼、ほんとにミア様に比べて普通なの? ミア様の弟といわれると今ではもうほんと、納得するしかない強さだけど。
ミア様をそのまま後衛専門にしたような感じ。よくミア様、彼と一緒に旅しなかったわね? それが不思議だ。
最後にクレイグの前でネタばらしをして、全てを完封したライムント。
シンクレア領での私達の三年半は、彼が来たほんの半月で終わったのだ。




