討伐報告ついでに、姉貴の話も振ってみます
帰りの道を走りながら、魔物をいくつか討伐していく。
街の周りを間引けば、もうそこまで危険もないだろう。
僕達もずっとこの街にいるわけではないし、ある程度はシンクレア領の人々だけで頑張ってもらうことも必要になる。
でもそれまでは、スタンピード寸前となっているような状態の、シンクレア領周りに逃げてきた魔物達を掃除していこう。
……といっても、魔物を認識したと思ったらリンデさんが一瞬で消えて、さくっと魔物を切り飛ばしてしまうんだけどね。
遠距離武器があるのに、これだもんなあ。やっぱリンデさんはすごいや。
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帰ってくると、アンとエドナさんは仲よさそうにしていた。していたっていうか、アンがもちゅもちゅと巨大なソーセージを食べてて、エドナさんがそれをニコニコ見ていた。
餌付けされた余所の孫みたいな、なんとも長閑な光景である。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様です。それで……どうでした?」
エドナさんの心配をよそに、クラリスさんは勝ち気な笑顔で親指を立てる。
「一撃のもとに、グリフォンを仕留めてきたわ!」
「まあ! すごいわ!」
「といっても、まるっとライ君頼りだったけど」
なんて言うものだから、クラリスさんの発言に驚いた。もっと自信満々に自分の功績のように語るかと思っていた。
「とんでもない、ウィンドではなくゲイルを使えるとは思いませんでした。本当に強化魔法がなくても大丈夫だったんじゃないですか?」
クラリスさんの魔法は、当然僕も事前に『全ての魔法を授けた』と断言した師匠から習得していた。
ただ、元々攻撃魔法への適性が微妙なので上位の魔法になかなかならなかったし、僕自身がそこまで威力を出す自信がなかったのだ。
クラリスさんが撃ったそれは、生半可な威力ではなかった。
しかしクラリスさんは、僕の言葉を否定するように首を振る。
「まさか……それなりに得意な自信はあるといっても、それでも精々一撃で確実に仕留められるのなんて中型のオーガぐらいよ」
「そうなんですか?」
「実際に何度も自分で使ってる私が言うんだから、間違いないわ。君が使った強化魔法がちょっと特殊なの。ほんととんでもないわよ、魔法の強化用の魔法って、出不精ぐらいしか知らないもの。あなたの方がミア様より凄いんじゃない?」
僕が姉貴より凄い可能性?
「私もそーおもいますっ!」
「待ってくださいリンデさん」
横から嬉しそうに僕の援護をしてくれるのは僕としてもとても嬉しいのですが、ですが!
「姉貴には、レオンがいるからなあ」
「あーっ……そうでしたあ………」
レオンの名前を出されると、リンデさんも納得した様子で同意した。
そしてもちろん、その名前にクラリスさんが反応する。
「レオンって? ていうかその言い方からして、ミア様のための専属強化魔法使い?」
「合ってるけど、合ってないですね」
「……なにそれ?」
クラリスさん達の反応を見て、ちょっといたずらっぽくリンデさんと笑い合って、僕は答えた。
「レオンは強化魔法を専門とする魔人族。ユーリアの兄であり、姉貴の息子の父親ですね。剣を振り口を開けて笑う姉貴にベタ惚れした、ちょっと変わった旦那です」
僕の発言を聞いて、一瞬固まる二人。そして内容を理解して、クラリスさんは椅子から飛び上がって僕につかみかかってきた!
「えええーーっどういうこと!? ミア様の、旦那っていうか、ミア様に惚れた!? あれに!? あの、あれに!?」
「お、落ち着いてくださいクラリス様。ああでも、私も理解がその、できませんわ。ミア様に、ミア様に惚れた男性?」
「いやいや、ありえないでしょ、あの人そういうの絶対縁ないタイプよ!?」
姉貴の評価が非常に分かりやすくて、僕もリンデさんもなんとも苦笑い。そりゃまあ、剣を振り回す時の、姉貴のあの顔を見たらどんな山賊でも逃げ出すってものだ。実際に悪夢のようにデタラメに強いし。
……しかし、正直僕としても、二人に同意してしまう。
「まあ、その……姉貴との付き合いは間違いなく一番長い僕ですら、レオンの……ちょっと……ちょっと? ちょっとじゃないなあれは、うん。リンデさんもそう思いますよね」
「あはは……正直レオン君は、ユーリアちゃん自身が一番びっくりしてたりして……」
「あー……そう、ですねー……。あの『可愛いでしょ? 獰猛に嗤った時のミアさん』とか言いだした時、本気ですげえなこいつって素で思いました、はい」
僕達の会話を聞いて、その有り得ない趣向と、有り得てしまった結果を事実として認識して、クラリスさんはソファに沈み込んだ。
「はぁ〜……ミア様が、まさかあのミア様がねぇ〜……」
「すっかりはしたなくも驚いちゃいましたけど……でも、羨ましいですね」
エドナさんの『羨ましい』という感想に、クラリスさんは大いに同意した。
「ほんっとねー。好き放題生きて、暴れて、モテる女の子の可愛い要素なんてゴブリンの餌にでもしてきたかのようなミア様が、まさか素のそのままで好かれちゃうなんて。あーもーいいなー、あたしもいい人いないかなー」
「ら、ライさんは駄目ですよっ!?」
「何も言ってないでしょーが。ま、ちょっといいかなーなんて思ったけど」
エルフの美人が、こちらに流し目を送って少し微笑む。うん、非常に魅力的です。ですが、魅力的であるが故に……これから何が起こるか一瞬で理解できてしまう! 理解しても間に合わない!
「リンデさ——っんむぅ……!」
「クラリスさんが相手でも! ライさんは、絶対! 絶対絶対! 渡さないんだからぁ〜〜〜っ!」
僕はよりによって、クラリスさんやエドナさんに見られながら、リンデさんの胸の中へと頭を抱きしめられる! 当然、全く動かない!
必死に腕を叩いて、リンデさんに解放してもらう。……解放しても、リンデさんは僕を抱き枕にでもするように、椅子の上でしがみついてきていた。て、照れなくなった反面、ガンガン来るようになりましたね……!
「チェスの時にあんだけ啖呵切って奧さん宣言した旦那様に、私がわざわざ取らないってーの。からかい甲斐あるなー」
「むぅ〜っ……」
「そんなに心配しなくても、そっちの彼が誰にでも好かれる上に誰でも好きになる人だったとしても、あなたが一番上。本命があなた一人だってことぐらい分かるわ。これでもそういう種族だし、彼はそこのところ、絶対ぶれないと思っていいわよ」
クラリスさんに宣言されて、ようやくリンデさんも落ち着く。落ち着くというか、なんだかちょっとデレ気味に……。
「いちばん……本命……うへへ……」
「僕が言うのも何ですけど、今のあれでそれはちょっとちょろすぎると思いますリンデさん……」
「うへへぇ〜……」
なんだか本当に、ここに来てずっと一緒にいるところを見られまくってるなあ。まあ、変に慌てているよりはよっぽどいいけど……。
そんな中、ソーセージを食べ終わったアンが、僕を見て一言。
「私もライさん好きだよー」
この流れで無邪気にそういうこと言っちゃうあたり、アンは強いよなあ! たぶん子供が親に言う感覚だろうけど!
それから僕は、もう一度リンデさんの中に埋まるのであった。解放された瞬間にエドナさんになんとも微笑ましく笑われて、ああもうほんとに恥ずかしい……。




