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クラリスさんの実力を見ます

 ギャレット領に協力を取り付けていない以上、偵察にはこっそり来るだろうけど、表立ってギャレット領の冒険者がこちらに現れる可能性は低い。

 まずは、言ったことをはっきりと実現できる様を見せよう。


「クラリスさんは、明確にどれぐらいの攻撃手段がありますか?」

「んー、うちの出不精ほどじゃないけど弓はそれなり。魔法は風が得意よ。って見せたと思うけれど」

「そうですね、でしたら僕の強化魔法を乗せて討伐してください。エドナさんは、またアンがこちらに来ますので、仲良くしてくれれば」

「まあまあ。アンちゃんは可愛いから嬉しいわ」


 魔族のアンにも分け隔て無く接してくれるエドナさんに嬉しくなり、僕も笑顔を返す……という中で、クラリスさんの困惑した声が聞こえてきた。


「なんだかほんわかまとまってるところ悪いけどさ、私はさっきクレイグに対して君の言ったとおりに言ったわけだけど……」


 クラリスさんが、ずずいと僕に顔を近づけてくる。いや待ってください近いです。怒った顔も美人なんでそんなに怖くないわけですが、それでも僕には……いやそんなこと考えている場合じゃないですね!


「な、何か問題があったでしょうか……?」


 恐る恐る聞き返すと、クラリスさんは腰に手を当てて思いっきり噴火した。


「問題も問題よ! 私はグリフォンなんて倒したことないわよ!? 一応自己鍛錬は頑張っているんだけどさあ、この辺りにあんな強力な魔物はいないの! だから私がどうにかしようと思ってもとてもではないけどできないのよ!」


 一気にまくし立てられたけど……そりゃあそうだ。

 先ほどのクレイグに向かって言ったセリフは、僕がそういうふうに言わせたものであり、元々倒せるかどうかは考慮していないんだった。


「わかりました。一応リンデさんもサポートにつけますが……多分クラリスさん一人でも大丈夫だと思います」

「どうしてそう言い切れるのよ」

「僕の強化魔法はそれなりに師匠に鍛えてもらったものですから。もしもそれで駄目そうなら、リンデさんに手伝ってもらいます。リンデさんはドラゴンを切った本人ですからね、間違いなく危険はありません」


 リンデさんがついてきてくれるということで、渋々ながらも納得したクラリスさん。

 僕は屋敷から裏庭の自宅まで行き、二人に事情を説明する。


「ってわけで、アンはエドナさんのところで護衛をしていてくれ。といっても大したことは起こらないはずだから、一緒にいてくれたらいいよ」

「わあい! エドナさん優しいから好き!」


 どうやらここ数日の間で、すっかりエドナさんに懐いたようだ。二人の関係は祖母と孫みたいで微笑ましいな。

 アンはすぐにドアを開けて、エドナさんのところへ走っていった。二人に関しては、心配いらないだろう。


「リンデさんは、僕とクラリスさんとともに、昨日のグリフォンを仕留めに行きます」

「昨日じゃだめだったんですか?」

「昨日はクラリスさんが、グリフォンに気付いていないと思わせることが大切でしたから。でもクレイグが都合良く解釈してくれたので、もう片付けても大丈夫です。実際にクラリスさんに仕留めてもらうので、僕達はサポートですね」

「おっけーです!」


 元気よく返事をしてくれたリンデさんに、僕は大きなローブを渡す。


「一応姿を見られたくはないので、これを被ってください。多分頭も隠れるはずです」

「お、おおっ!? なんだかかっちょいいですね! 影で暗躍する仕事人! って感じで!」


 大きめのローブを楽しそうに頭から被ると、顔も体格もほとんど見えない謎のローブの人ができあがった。

 リンデさんの身の丈が男の人ぐらいあるので(というか僕と同じ上に角の分があるので、僕よりかなり大きく見える……)傍から見たら女性だとすら分からないだろう。


「うおーっ、どうです、どうです?」


 そのローブ姿の強そうなシルエットのまま、楽しげな声を発しながら格闘家みたいなポーズを次々に取っていくリンデさん。


「強そうです、なかなか似合ってると思いますよ」

「うへへへへ! これもらっていいんですか?」

「どうぞどうぞ、人数分ありますから」

「やったー!」


 ローブ姿のまま両手を突き上げるリンデさん。


「はいはい、仲が良いのはいいとして……それで、今から行くの?」

「あっ、すみません。そうですね、今からもう討伐してしまいましょう。もしかしたらクレイグの斥候が、クラリスさんが動くのを見張っているかもしれませんが、むしろ見せつける方向でいきましょう。出たと知ったら、クレイグは間違いなく討伐したと思うはずです」


 クラリスさんが頷くと、リンデさんとともに外へ出た。

 ……さすがに相手の斥候といえど、お姫様だっこを見られるわけにはいかないので……今日はある程度、携帯できる魔法回復薬を持って出た。

 強化魔法を僕とクラリスさんに使ってふらつかなかった僕を見て、リンデさんが残念そうにしていたけど……今日はだめですからね?


 -


 グリフォンは、昨日と同じ場所にいた。

 さすがに大きな魔物、昼間にこうやって近づくと緊張するな。


「それでは僕が強化魔法を使います」

「……本当に大丈夫なんでしょうね?」

「駄目でもともと、ですよ。それでは……『マジカルプラス・クイント』」


 魔法を使う。さすがに三回目ともなると少しきついけど……うん、大丈夫だ。


「……な、何これ、強化魔法って、魔術用の強化魔法じゃない!? ってことは弓じゃなくて、魔法で討伐するのね?」

「そうですよ……って、そういえばこっちは使ったことなかったですね。風魔法を撃ってみてください、恐らくそれで終わるはずです」


 クラリスさんが頷くと、魔物を見据える。

 両手を前に出して、集中して……。

 ……それまでと、傍目に見ていても圧倒的な魔力を感じる。なるほど、確かにエルフのクラリスさんが自ら得意と言うだけあって、この風魔法は特別なのだろう。


「————ッ! 『ゲイルカッター』!」


 集中力が限界まで高まったところで目を見開き撃った魔法は、グリフォンを直撃した。

 そしてグリフォンは、待機している状態から全く動けないまま、首がずれ落ち……いや、四肢が全部切れて、羽の殆どが吹き飛ぶ。


 ……これ、僕の強化魔法必要だったかな……?

 風の上位魔法による攻撃、『ダブル』を使っていなくてもあそこまで威力が出るなんて思わなかった。

 エルフの魔法、人間と同じと考えない方がいいんじゃないだろうか。


「……すごいじゃないですか、クラリスさん」

「凄いのはライ君の強化魔法だと思うけど……?」


 僕が感心して呟いている中、後ろの方でぼそりとつぶやきが聞こえた。


「でばんなかったねー。ねー?」


 そこには、地面をもぞもぞ這っている虫をつつきながら呟いている、ちょっといじけているリンデさんがいた。

 クラリスさんと二人でその姿に吹き出すと、ようやく魔物を前にしていた緊張も解けた。

 それじゃ夜が来るまで、エドナさんのところへ戻ってのんびり待ちますかね。

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