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姉貴と再会したら怒濤の展開になりました

「くくく」


 正面の、灰色の気持ち悪い顔が嗤う。後ろのヤツが、それに応える。


「お前が、オレに攻撃をしてきたら、後ろのそいつが、人間を殺す」

「オレに、お前が攻撃をしてきたら、正面のそいつが、人間を殺す」

「オレは、防御に徹する。一撃で斬れるかな」

「お前は、オレの2倍の速度を出せないと、助けられない」


 ……。こ、こいつら……。

 完全に、僕が弱点だと分かっている。


 ……。

 …………。


 しかし……。


「しかし、何故……?」

「ライさん!?」

「何故、お前達は、僕を狙うと判断している……?」


 わからなかった。

 僕を守るようにしていると見て判断した? そこまでデーモンは頭が回っているからなんだろうか。


 いや、おかしい。そんなはずはない。


「挟み撃ちまで持ってくるのが、計画的すぎる」

「ほお……お前、何か分かるか?」

「誰か、指示をしたデーモン、悪鬼王国の幹部が近くにいるな……!」


 僕の言葉を聞いて、正面のデーモンは……先ほどよりも口を大きく開いて嗤った。


「は———ははは! なるほど、これはガルグルドルフ様が先に狙うように言うわけだ!」

「ガルグルドルフ。その名前の言いにくいデーモンのそいつが、悪鬼王国の司令塔なんだな。今も見ているってところか」

「いいや? 帰ったんじゃねえかな、オレはわかんねえなあ」

「だ、そうですよリンデさん」

「え」


 僕は、リンデさんに振った。リンデさんは、ちょっと展開についていけなかったようで、ぽかんとした顔をして僕を見ていた。


「幹部は狡猾だけど、部下は脳まで筋肉の馬鹿なのでおしゃべりですね。もし僕がやられても、村に戻れなくなっても、仇は取れますよ」

「……ら、ライ、さん……」


 僕の言ったことを理解して、リンデさんが震える声で返す。そして、デーモンは……完全に笑うのをやめた。


「おい。やっぱこいつやべえぞ、油断できねえ」

「ああ、さすがは優先対象だぜ、油断できねえ」


 二体のデーモンはそう言って、硬直状態のリンデさんを見ながら、ゲイザーを悠々と召喚し始めた。……まずいな。待てば待つほど不利になる。


「リンデさん、やってください」

「無理です」

「……リンデさん!」

「無理です! ライさんがいなくなるぐらいなら、私は、私は……!」


 ゲイザーが、目から光線を出してくる。リンデさんは……前後のゲイザーからの攻撃を、剣で同時に弾いた。


「おお、こいつは楽しめそうだな」

「ほお、これは面白くなりそうだ」


 デーモン二体は、腕を組んで待機した。どうやら、魔物に任せるようだ。

 リンデさん……僕のために、敵を倒さずに、耐える方針を取るらしい。


 ……そういうことなら……!


「『シールド』!」


 僕は、防御魔法を展開した。

 リンデさんが驚いていた。……そういえば、僕ってリンデさんの前だと料理を作って宝飾品を作る以外何もしてない人だったなあ。


 これでも。

 これでも、勇者ミアの紋章前とコンビを組んでいた、遠距離万能型だ。


 持ってきていた弓矢を構える。そこに魔力を乗せて……撃つ!


 ゲイザーは、撃つ方に集中していたのか、避けずに命中した。……でも、一撃で倒せない。威力が弱いんだ。

 僕は、もう一度撃つ。連射も、できる。これでも14までの姉貴には、ついていけていたんだ。そこから5年、何もしてなかったわけじゃない。


 ゲイザーからの攻撃は、リンデさんが防いでいた。まるで、姉貴じゃないし、能力差はありすぎるけど、冒険者のコンビだった。


 デーモン達が、少し様子を変える。


「思ったより、できるなこいつ」

「人間のくせに、生意気だなこいつ」

「だが、どこまでいけるかな」

「どこまでいけるか遊んでみるかな」


 ……デーモン連中、完全に遊んでいるな。

 でも、それはつまり、完全に油断しているということだ。


 僕は、油断しているデーモンを、撃たないようにした。不利だと思わせ続けておいた方が、活路を見出せる気がする。

 ゲイザーは、操られているんだろうか。本当に、撃つばかりで回避に専念しない。僕は、果てしない射撃と、もう何十本と矢を消費した魔矢によって、ようやく一体のゲイザーを倒した。


「ハァ……ハァ……」


 少し大げさに息をつく。


「おお、やるではないか人間」

「だが、限界のようだな人間」


 その声を揃えるやりとり、なんなんだよ……。

 そんなことを思うぐらいには、まだ余裕があった。

 リンデさんが()()()()()心配そうな、悲痛な顔をしていたので、僕はリンデさんに顔を寄せて小声で喋った。


「実は、まだかなりの余裕があります」

「……!」

「だからリンデさん、そのまま本気で心配し続けるフリをしてください」

「……」

「まだ、持ちます。そのうち活路を見出しましょう」


 僕は、ニヤニヤしながらもう一体ゲイザーを追加したデーモンを見ながら、再び息を切らせながらゲイザーを睨みつけた。

 僕の表情を喜んでいるようだった。そうだ、まだそういう顔をしていてくれ。


「……フリじゃなくて、本気で、心配ですよ……」


 リンデさんが小声で喋ったけど、近くでも聞き取れなかった。


 ゲイザーの二体目! 僕は魔矢を使って再びゲイザーを撃った。ゲイザーの攻撃を、リンデさんが必死に防いでくれている。

 リンデさんの防御はまさに完璧で、剣を振るっているだけなのに、僕の防御魔法が全く無意味だったというほど一発も僕に攻撃が当たらない。

 足の速度以上に、腕の速度の上昇値がとんでもないようだ。動体視力も判断力も、並大抵のものではない。人間の限界を超えた能力。

 僕みたいな的にとっては頼りになりすぎる、最高のパートナーだ。


 僕は、ゲイザーにちょうど二十本目の矢を当てたところで、ゲイザーの二体目を倒した。大げさに膝をつく。


「……ッガァ……ハァ……どうだ、まだ追加、できるか……?」

「おうおう、素晴らしいね。そんなお前にプレゼントだ」


 デーモンは、3度目のゲイザーを出した。憎々しげに僕が睨みつける。デーモンは声を上げて笑っていた。


「これ、おもしろいな。挟み撃ちまで待機とか退屈な任務かと思ったけど、オレも命令聞くとかつまんねーからもうちょっと遊んでいってもいいよな」

「ああ、滑稽だなあ? ガルグルドルフ様の任務、待つことと遠出することが多くて誰も受けたがらねえし、娯楽の権利はあるよなあ?」


 デーモンが喋りながら、再びゲイザーからの攻撃が続く。

 僕は、まだ矢が残っていることを確認し、アイテムボックスの中の残りの矢のことを思い出しながら、構えた。


 ゲイザーが撃つ。リンデさんが弾く。

 僕が、魔矢を撃つ。ゲイザーに当たる。


 ……ふらついた……?


 ゲイザーの攻撃を、リンデさんが弾く。

 僕の魔矢が、再びゲイザーに当たる。

 ゲイザーが先ほどよりふらついたところに、再度矢を当てる。

 当てる。当てる。当てる。

 リンデさんがゲイザーの石畳付近からの攻撃を防ぐ。

 僕が撃つ。まだ倒れている。

 撃つ、撃つ、撃つ。


 ……。

 ゲイザーは、動きを鈍くした。

 そこに一発入れた。

 動かなくなった。


 倒した?


「……おい」

「ああ」

「この人間」

「ああ」


「余裕があるな!?」

「息切れしたフリか!」


 デーモンが叫んだと同時に、ゲイザーを3体ずつ召喚した。

 ばれたか……一気に状況が不利になる。


「リンデさん、やっちゃいました」

「ライさんは悪くないですよ、むしろゲイザー十一射ってめちゃくちゃライさん強かったんですね、魔族の下の組の討伐隊に混ざれますよ」

「僕も驚いています」


 確かに、自分の中でも人生最高の一回だった。

 でもさ、よりによってこういう状況の時にやってほしくはないんだよね。


「ここからは本気だ」

「遊びは終わりだ」


 デーモンが、両腕を前に出している。……そうか、デーモンも、遠距離攻撃できたか。そこまで頭が回っていなかったし、情報がなかった。

 本当に、油断させてさえいなければ持っていただけ、だったな。


 どうすれば————






————轟音。


 その瞬間、爆発と衝撃が襲った。

 僕は膝をついていた姿勢から、前から来た衝撃に、後ろに情けなく転がった。

 背中からぐるりと一回転して、地面にうつ伏せになっていた。

 ……やられる、な。


 ……。


 …………?

 まだ、死んで、ない?


 僕が後ろを見ると……リンデさんは、デーモンを斬っていた。つまり後ろのデーモンを斬ると判断していた。そして、ついでのように僕が苦労して倒したゲイザー、後ろ側合計四体をまさに同時のように切り倒していた。


 ……じゃあ。


 じゃあ、どうして僕は、前のデーモンにやられてないんだ?


 リンデさんの顔を見る。

 リンデさんは、自分がデーモンを倒した事なんて、どうでもいいってぐらい、唖然とした顔をして、僕を……いや、僕の先を見ている。


 僕がそちらに視線を向かわせると———




———なんだか、とんでもない魔族が、いた。


 めちゃくちゃ大きい、刃物みたいな弓……弓? と、頭に、ものすごく大きな角を生やした、青い肌の魔人族が浮いている。

 地面に刺さった槍を、引き抜いていた。……まさか、あれ、矢……か?


 僕が自分のショートボウを取り落としていると、その魔族の睨みつけるような目と目が合った。状況的に助けてもらったとわかるのに、背筋が凍る。

 その魔族は、リンデさんの方を見た。そして、弓をアイテムボックスに仕舞うと、一瞬でリンデさんの方まで飛んでいき……リンデさんに、げんこつをした。


「ッいったあああああぁぁァァーーー!」


 リンデさんが悲鳴を上げて、剣を取り落とした。


 ……リンデさんが悲鳴を上げた!? あの、身体能力が限界まで高くて、肉体強化の腕輪に魔力強化で時空塔強化をしているリンデさんだぞ!?

 それを、あんな拳骨一発で……!?


「……人間さん、今、かなり危険だった……」

「あ、あが……うぎ……」

「……いつまで、痛がっているの……」

「く、クラーラちゃ〜ん……クラーラちゃんに殴られると、並の魔族だと頭蓋が爆発するんだから、手加減してよぉ〜……」

「……リンデは、並の魔族じゃ、ないでしょ……」

「クラーラちゃんに比べると、陛下含めてみんなザコの並魔族だよぉ……」


 涙目になりながら、リンデさんが応える。


 クラーラ。

 ……もちろん忘れていない。最初聞いた時信じられなかった、リンデさんより強い、頭一つ抜けて強いという魔族のことだ。

 あれは、ちょっと強いとかそんな次元じゃない。弓矢を撃った一撃なんて威力じゃない。それに、拳骨一発であのリンデさんが剣を取り落とすほどだ。その上で……リンデさんと喋っているその背中に、恐ろしく大きい大剣がある。


 今のやり取りでわかる。リンデさんが完全に格下扱い。

 これが……時空塔騎士団第一刻。


「……ねえ、あの人間、ライさん……?」

「えっ、クラーラちゃん、ライさんのこと知ってるの!?」

「……間に合って、よかった……。陛下が話を聞きたがってたから、もし死なせてたら、リンデは、間違いなく処刑……」

「ひぃぃっ!」

「……私も、ソーセージ、食べた……。陛下が、許しても、私が処刑……」

「本当に間に合ってくれてありがとおおお! クラーラちゃんに挑まれたら、リッター11人揃っても絶対敵わないよぉ!」

「……それは、言い過ぎ……」

「言い過ぎだと思い込んでるのクラーラちゃんだけだから!」


 僕は、二人のやり取りを見て、仲が良いんだなと思って近づいた。


「あの、クラーラさん、ですか?」

「……あっ……! ら、ライさん、ですね……!」

「はい。助けていただき、ありがとうございます!」

「……いえ……かなり危なかった様子……。……疲労もなさってますし……」

「あ、ぶっちゃけ疲れたフリして時間稼ぎしてただけなんで大丈夫です」

「……え……?」

「油断させて、有利になるタイミングを待ってました。待ってた甲斐があって、クラーラさんを引き当てました。本当にありがとうございます」


 僕は浮き上がっていて顔が同じ位置に来ているクラーラさんの手に両手を添えて、目を見てお礼を言った。

 クラーラさんは、ふわりと地面に降り立って、目線をあっちこっちにぐるぐるさせて、やがて顔の色を濃く染めながら、僕の両手を自分の胸元に持っていった。


「……ど、どういたしまして……お会いできて、光栄、です……」


 そう言って、困ったように上目遣いで——これ睨んでるんじゃなくて素でこの顔なんだな——クラーラさんは僕の御礼に応えてくれた。

 ……なんだ、怖い子かと思ったけど、とてもかわいいじゃないか。


 ……って! 待って! 胸、胸触ってる! あっこれ完全にこの子無意識だクラーラさん離してーって全然動かない! 本当に、石畳の中に埋められたってぐらい動かない!

 僕が慌てた顔で顔を赤くしているのを……リンデさんが見ていた!


「あーっ! あーーっあああーーーっ!」


 リンデさんは素早く僕の横まで来ると、僕の頭を掴んで……胸に突っ込んだ!


「む、むぐ……!」

「く、く、クラーラちゃんが相手でも! 絶対にライさんは! 絶対絶対! 渡さないんだからぁ〜っ!」


 あ、甘い匂いが……! ていうか、今日、距離更新しすぎ……! こ、こんな、こんなに近いのは、待って顔は待って本当にヤバイ! やわらかすぎて、匂いが直接すぎて、そうじゃなくて、その、初対面のクラーラさんの前でこの格好は、あまりに恥ずかしすぎる……!

 違うんです! 普段からこんなことはしていないんです!


 クラーラさんが驚いたらしく腕を放し、僕がなんとか腕を振ってリンデさんの腕でも肩でもバシバシ叩いていると、「……ああっ!」と驚いた顔とともに、リンデさんは開放してくれた。

 リンデさんは「や、やっちゃった……あう……」と、顔を染めて両手で顔を隠しながら、しゃがみこんでしまった。

 本当に、恥ずかしがってるんですよね!? 今のはさすがにやりすぎです……! い、嫌じゃ、ない、ですけど……!


 ……クラーラさんが、僕を見て、リンデさんを見て、自分の胸を見て……自分の胸を、ぺたぺたと触った。


 ……あ、あの、クラーラさん……?


「……むう……ここだけは、勝てない……」


 クラーラさんは、悔しそうに呟いた。いや、その、僕は別にそういうので判断するつもりは……いや、リンデさんのものが一番好きだけど……。

 僕は、しゃがみ込んでいるリンデさんの胸をちらりと見て、そんなことを思った。

 ……ああ、またこんなこと考えてる……本当に、リンデさんと会ってから、僕はなんというか……こんなに女好きというか、弱かったんだなって思う……。


「あー! と、とにかくっ! とにかくですっ!」


 なんとか僕は、このなんともいえない空気を切り替えるために叫んだ。


「クラーラさんが来ているということは、姉貴が来ているんですね!」


 僕の言ったことに、リンデさんも気付いたようで、立ち上がってクラーラさんの両肩を持って驚いた顔でクラーラさんに質問した。


「ミアさんが来ているの!?」

「……そう、ミアさん。……そして……リッターのカールと、ビルギットと、レオンと、エフィと……後はユーリアも……」

「魔人王国の上位みんな来ちゃってるの!?」

「……それだけじゃ、ないの……」

「え?」

「……あのね……」




「……陛下が、来ちゃった……」




 そう言った瞬間。

 クラーラさんの後ろ側に、姉貴がやってきた。

 何故か、顔を染めた魔人族の少年をお姫様抱っこしていた。


 =================


 テントが燃えていた。

 あれは、知っている。お気に入りの、おばさんのパン屋の縞々テントだ。


 ぐあーーーっ! くそデーモンやろーーーっ!

 あ、あたしの街をこんなにしやがってーーーっ!


 ブッ殺!


「カールさん! ビルギットさん!」

「おう!」

「はい!」


 あたしは、急いで街の中の様子を確認しに行った。かなり絶望的な状況だ……。みんな、無事だろうか。


 手分けして魔物の掃討をしたい。でも、ここから先、二人を行かせて大丈夫かしら。正直、マックスに任せたとはいえ魔人族に対しての理解があるかどうかなんて、あまりに未知数でさっぱりわかんないわ。

 だけど、この人達が人間に襲われたぐらいで死にはしないし、絶対この人達は人間に危害を加えないでしょうね。


「カールさんは左! ビルギットさんは右! ぐるっとまっすぐ走れば確か広場に出るはずよ! 魔物が残っているかざっと見て!」

「おうよ!」

「お任せ下さい!」

「人間として心苦しいけど、攻撃されても人間に反撃はしないで!」

「大したことねえ、もちろんだぜ!」

「はい、必ずお守りします!」


 地上最強パーティ、良い返事だわ! 最高!


「じゃ、レオン君は引き続きこのまま! あたしと真っ直ぐ広場に向かって!」

「わかりました!」


 首元からの美少年の声で気合百倍元気千倍、そして下半身の滾りは十億倍!

 あたしは手の中に収まるレオン君を、自分の胸にぎゅうっと大切にしまい込むようにして、まっすぐ走っていった。


 カールさん、ビルギットさん、めっちゃ信頼してます!

 あたしの城下町をお願いします!




「……これは……」


 あたしは、中心を通っていて、気付いた。

 ゲイザーの潰れた死体。ヘルハウンドの首なし死体。

 そして。

 オーガロードの、()()()の死体。


 間違いない。

 オーガを食肉として扱うのは、うちの村人、そして……


 ……リンデちゃんだ!

 この街、既にリンデちゃんが救ってくれている!

 ってことは、リンデちゃんはくそデーモン野郎と対峙している!


 待ってて!

 今助けに行くから!


 -


 終わってるやん。


 クラーラちゃんがいた。城下町の名物広場の端っこは、地面が思いっきり抉れていた。ちょくちょくふっとんだデーモンの切れ端がある。

 ま、クラーラちゃんが先に着いてたら、当然こうなるわよね。


 しかしそこで、あたしは有り得ないこえを聞いた。


「あ、姉貴! 戻ってきてたのか!」

「ってライ!? なんでライがこんな危ないところに来てるのよ!」

「リンデさんを一人で城下町に入れるわけにはいかないだろ!」


 ライは結構とんでもないこと言ってる気がする。デーモンよ、デーモン。

 第一それ、デーモンに対してじゃなくて人間に対しての話じゃない。


「リンデちゃんなら、例え人間に襲われても傷一つつかないでしょ」

「ついたよ」

「どうやってつくのよ!」

「割れた窓にいた母親」

「え?」

「子供を、魔族から避けるようにした母親。傷つくよ、心がどうしようもなく傷つく。姉貴が王様と決別して、感謝されなくなった、あの顔を、リンデさんもしたんだ。

 ……母親の気持ちは分かるよ、それが普通の反応だ。だけど、だけど納得いかなかった。こういうことがあった時のため、人間とリンデさんの仲を取り持つために僕は来たよ。命を落とすまではしたくないけど、リンデさんのためだったら、それぐらいは命を張りたいんだ」


 ライが、あたしをまっすぐ射貫く。堂々とした姿だ。

 ……ライ、あんた、そこまでの覚悟があったのね。


 はー。


 でもね、ライ。


 あんたの後ろで、リンデちゃんがメロメロのデレッデレで、瞳孔ハートマークにしながらあんたを見てて全く格好ついてないわよ。

 あとクラーラちゃん。マジ照れしないの。それ以上可愛くなったらあたしまでドキドキしちゃうじゃない。

 まあ実際ドキドキしてるけど。




 ……うん。改めて思うわ。

 ライ、ほんと、リンデちゃんのためとなるとイイ男になるわね。


 ありがとうリンデちゃん。

 うちの弟を男にしてくれて。




「ところで姉貴、そんなことより!」

「ん、なによ」

「その腕に抱えてる子だよ! まさか拉致してきたんじゃないだろうな!」

「そんなわけないでしょ! あたしとレオン君は相思相愛よ!」


「え」「……え……」


 二つの声が上がった。リンデちゃんとクラーラちゃんだ。


「れ、レオン君!? え、あの、ミアさんとレオン君が相思相愛って、ってことはミアさん、いや、そうじゃなくて、レオン君!」


 あたしの胸の中でレオン君がもぞもぞ動くけど、あたしはぎゅっと抱いた。

 ちょっと驚いた顔をしていたけど、まだ離さないわよ。返事がしたいなら、その格好のまま話しなさい。


 ……本当は、離すに離せなくて固まってるだけです、ごめんなさい。


「えっと、その……はい。ミアさんには、命を助けてもらって、目の前でデーモンを倒して、こんなかっこいい人間がいるんだなって」

「……レオンは……本気なんだね……」

「クラーラさん。はい、僕は、あの時にもう既に好きになりかけてましたから」

「……じゃあ……決定的、だったのは……」

「え、あの」


 レオン君は、あたしの顔と自分の体……つまり、あたしの、抱いている体を見て、顔を染めた。

 ……え、え!? もしかして、図書館前でのあれが決定打!? むにゅむにゅでレオン君落としちゃった!?


「その……段々です。ミアさんのこと、女性として、こんな強い女性でも、かわいいし、色っぽいって、意識するようになって」

「……そう……。……私は、いいと思う……」

「クラーラさん?」

「……魔族最強のエンハンサーと……人類最強の戦士……。……組み合わせとしては……最も適切、だと思う……。それに……」

「それに?」


 クラーラちゃんが、その無表情な口元を少し上げた。それだけで大きな変化で、ものすごい笑顔になったような気がする。


「……レオンは、優しいし、小さい……。……私も、ミアさん、気に入ってるから……魔人族に、強引な、乱暴なことを、されてほしくなかった……。……レオンは、しないし、できない……一番安心して、ミアさんを任せていい、魔人族の男……」

「クラーラさん……」

「……だから……選ぶなら……まずは、あなたが……最適解……。……それに、レオンがミアさんを好きだということも……ミアさんがレオンを好きだということも……どっちも……なんだか……とってもうれしいの……」


 クラーラちゃんは、辿々しくもそう言って、言いたいことは言い終えたというふうに、満足をした顔をして黙った。

 ……クラーラちゃん、あたしのことそこまで考えていてくれていたなんて。

 それに、あたしの幸せ、レオン君の幸せを、自分の幸せのように喜んでいる。……ああもう、地上最強女生物、可愛すぎるでしょ……!


「ありがとう、吉報まっててね!」

「……ふふ、待ってる……」

「そのうちクラーラちゃんもモノにしたいわ!」

「……それは、どうかなー……?」


 あたしとクラーラちゃんは、長年の友人のように仲良く笑い合った。あたしは、満足してレオン君をようやく降ろした。


 =================


 ……なんだか、怒濤の会話をしていた。


 ……て、展開に、ついていけない!


 僕はリンデさんを見た。リンデさんは目を見開いて、口を開いて、すっごい間抜けな顔をしてぽかーんとしていた。

 でもこの表情、絶対僕も同じ表情だ。


「えーっと、ライ」

「えっ! うん何!?」

「ところで、くそデーモン野郎は?」

「……そうだ!」


 僕は、さっきまでの経緯を話した。

 デーモンに挟まれたこと。そして、指示があったこと。

 デーモンの幹部。


「なるほど。レオン君、どうやら君にデーモンけしかけたであろうヤツ、この近くにいるらしいわよ」

「それはいいことを聞きました。……僕はともかく、ユーリアは本当に死にかけましたからね。恨み千倍ですよ」

「ひどかったものね、あの青い血だまり。礼をしにいきましょ!」


 姉貴が剣を持ち上げる。……なんだか、前より雰囲気が違う。

 そうか、姉貴、同じ剣を片手で持っているんだ。

 そのまま、見たこともない速さで大剣を片手で数度振るった。いや、姉貴、急激に強くなりすぎじゃないかそれは。これが、レオン君の能力なんだろうか。なるほど、姉貴と相性ばっちりのようだ。


「み、ミアさん、その姿……」

「リンデちゃん!」

「はひっ!」

「……そのうちリベンジしてやるからな……!」

「ひぃっ!」


 姉貴の、迫力のある声に、リンデさんは実力が上ながら本気で怯えていた。……姉貴も根に持つ性格だよなあ。


「って、そうじゃないわ。あたしのレオン君の顔を変形させてあたしの弟を殺しかけたヤツ、絶対見逃さないわ」

「もう森の外に行ってるかも」

「よし。クラーラちゃん!」

「……ん……」

「クラーラちゃんは信頼してる! だから、探しに行って!」

「……任せて。……でも、見つけたら、私はすぐ撃つ……!」


 クラーラさんも積もったものがあるんだろう。そう宣言して、空高く飛んでいった。物凄いスピードだ、全く追いつける気がしない。

 姉貴はクラーラさんを信頼して待つようだった。




「さて、ちょっと心配なのでこっちから向かわないとね」

「王城か」

「は? あんな肥満のおっさんどもデーモンの食料になればいいのよ、栄養たっぷりでおいしいわよ」


 人類の救世主、やっぱり王様を見捨てた。まあ中身が姉貴だからなー。

 それに僕も、今更助けを請うなんてことになっても、本当に今更だと思うし、そんなことするぐらいなら、もっと関係改善に努めるべきだったと思う。


「じゃあ何が心配なんだよ」

「魔族のあと二人が来て、魔物の掃討してもらってるの」

「そうなんだ。分からないと思うけど名前を聞いても?」

「カールさんとビルギットさん」

「え」


 リンデさんが、その声に反応した。


「び、ビルギットさん城下町まで呼んじゃったんですか! 迎えに行きます!」

「どうしたんですかリンデさん!」

「あの、ビルギットさんって、その……ライさん2人分ぐらい縦に大きいんです!」

「……え?」

「しかも! 横は! ライさんの5倍ぐらい大きいかもしれません!」

「ええええ!?」


 ど、どんななんだよビルギットさん! 完全にオーガキングじゃないか!

 って、そんな人が城下街を歩いているのか……!


「でも、そうじゃないんです! そうじゃなくて、あれでビルギットさん、かなりかわいい性格というか、とっても優しい人なんで、その、し、心配です! 今すぐ向かいましょう!」

「わ、わかりました! 姉貴!」

「じゃあリンデちゃんとライに任せるわ! 門から入って右だったから、ライ達は左! あたしはレオン君とカールさんを迎えに行くから!」

「わかった! じゃあまた広場で!」

「オッケー任せたわ!」


 僕は姉貴の走る姿を見て、リンデさんと顔を合わせて頷き合って、ビルギットさんを迎えに行った。

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