街の人と共闘します
さて、今回の魔物はどうやら思いっきり空からやってくるらしい。
同時に理解したのだけれど、彼らは今の話に関してもひとつボロを出した。無意識でやっていると、どうしてもこういった場合に失敗するよな。
エドナさんに、今日は屋敷でおとなしくしているように言い、屋敷の後ろの空き地に出現した木造の家に足を踏み入れる。
「あっ、おかえりなさいませ、あなた! なんちゃってー!」
「ただいま、おまえさん、なんちゃって……て、照れますねこれ……!」
「あ、あうあう、あうあう、あうあうあうあう……」
はい、自宅でした。
シンクレア領が危機に陥っている時になんと暢気な惚気っぷり、なんて自分で自分に呆れてしまうけれど……でも同時に、こういう大変な時こそ下手に緊張するのではなく、余裕を持って日常を過ごしていきたい。
全然日常じゃないやりとりだって? 僕もそう思います。あと自分で振っておいて照れまくってるリンデさんかわいすぎると思います。
あー、あの時勢いで妻って言っちゃったけど、ほんと心底この魔人族に惚れてるな僕。
「ふたりとももじもじしてるー、おかしーのー」
「あ、あはは……なんだか自分でやっておいて、恥ずかしいね……」
そんな姿を、一緒に待っていたアンに茶化されてますます恥ずかしい。いや自分でやっておいてなんなんだよって感じだけどねほんと……。
「き、切り替えていきましょう!」
「は、はいっ!」
こちらの家で待っていたリンデさんとアン。僕は二人を連れて、テントの方へ移動した。
テントにはユーリアとビルギットさんがいる。今回頑張ってもらっているのが、やはりユーリアだ。
「空から魔物が来るらしいけど、どうだ?」
「……はい、遠くからポイズンイビルバットが来ていますね。それなりに大きく、それなりに毒の強い魔物です。私もライさんも回復させることは出来ますが、だからといって人間にとっては少しの間でも痛みの吐き気を伴うはず。厳しいでしょう」
「数は?」
「一体。恐らく……あと十五分ほどで西門に到着するでしょう」
「了解だ。最後に」
ユーリアから見た、僕の能力を客観的に評価してもらおう。
「僕の魔矢で倒せる敵だと思うか?」
「強化魔法がなくとも余裕です。察するに、あまり目立ちたくないのなら使わない方がいいかと思います」
「その予想はまさに大当たりだ。ありがとう、行ってくる」
「お気をつけて」
僕は皆をテントに置いて、出ていこうとする……も、リンデさんに腕を掴まれる。
「えっとえっとライさん、ポイズンイビルバットは牙と爪に毒があるので、絶対防御魔法を使ってくださいね! 毒が治せたとしても、その、怪我とか絶対にしてほしくないから……」
「リンデさん……もちろんですよ。そうですね、あまり出し惜しみをしないで防御魔法を使います、ありがとうございます」
心配してくれることを嬉しく思いながらも、時間があまりないので気を抜くわけにはいかない。僕はリンデさんの頭を軽く撫でて、用意してもらった馬車を使い西門に急いだ。
-
シンクレア領の西門。馬車から降りると、その門の前には多くの人が集まっていた。
全てが先日に呼びかけていた、村の逞しい男達だ。エドナさんの屋敷にやってきた元山賊の農奴もいる。
「皆さん! 来ていただいてありがとうございます」
「あんたがエドナ様の言っていたヤツだな?」
僕より背の高い男達が、異国から来た僕を訝しそうに見る。
こういう時はどうするか……やはり、あれに頼るしかあるまい。
「はい、僕はライムント。皆さんに分かりやすく言うと……勇者ミアの弟です」
その一言で、当時を知っている人達が一斉に一歩引いた。……姉貴はほんと、いなくても存在感抜群だな……。
ざわざわと声が上がるも、先ほどよりは疑念の目みたいなものはなくなっている。
「静かに! もう後数分で魔物が来るので、皆さんにやってもらいたいことを言います。まず弓を持っている方。当てなくていいので、相手が来る西の空に向かって一本の矢を撃ってください。そして撃ったら後ろに下がってください」
「一本でいいのか?」
「三本ぐらいでもいいですが、とにかく撃ったという事実と実感が大切です。どのみち僕が責任を持って地面に落としますから、それからは今農具を持っている皆さんの出番です」
手に畑を耕す鍬を持つ筋骨隆々の男が、息を呑む。
「相手はポイズンイビルバットという魔物。牙と爪に毒がありますから、地面に落ちた後も、僕が身体を地面に縫い付けるまで迂闊に近づかないこと。そして僕が合図をしたら、顔の正面を避けて仕留めてください。体液には触れないように。もしも触れた場合は僕に申告してください」
「……それで本当に大丈夫なのか? 失敗したりしないだろうな?」
「それに関しては任せてくれと言うしかないですが、僕はもう少し強い魔物も頻繁に倒していますから。山のドラゴンも、僕が落としましたし」
さすがに山のドラゴンのことは驚かれたのか、「さすがミア様の……」という声も聞こえてきた。
姉貴と僕は血が繋がっているだけで、それぞれが全く別の人間だ。姉貴の弟だからできた、ってわけじゃないけど……でもこういう時は、その説得力に頼ろう。
「おい、あれ……!」
一人が空を指差すと、遠くに緑色の液体を口から漏らしながら飛行してくる、堂々と空を飛ぶコウモリがいた。……これも相手のボロ一つ追加かな。
「弓矢、撃ってください!」
「お、おうっ!」
弓を持っていた若い人達が、指示通り空に向かって撃つ。全く相手には届いていないけど、それでも地面に木の矢が何本か突き立つ。
弓を持った人は皆、一本撃ったら走って逃げた。さあ、僕の番だ。
「余裕を持って防がせてもらいます。『シールド・トリプル』!」
魔法の盾が自分の正面に現れる。魔物はそれを気にすることなく突っ込んでくるが、衝突する瞬間に僕は魔矢を撃つ。
相手の身体から緑の液体が流れながら、こちらに振った爪を僕の魔法がはじき返す。羽根を破られたポイズンイビルバットが錐揉み回転をして地面に落ちる。その瞬間に相手の爪の近くに矢を何本も打ち込み、魔物を磔にする。
「今です!」
「っしゃあ任せろッ!」
指示通りに相手の顔を避け、腕を広げて三メートルほどの大きな魔物の身体に鍬を振り下ろす。
なんども痙攣しつつも動こうとした魔物を、僕は念のために肩の付近まで縫い付けるように矢を撃つ。完全に動けなくなった魔物を、緑の液体に怯まずに何度も攻撃する男達。
そんな戦いが数分ほど続き、背中に大きな一撃をあの農奴が入れた瞬間、魔物は一度大きく震えて息絶えた。




