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姉貴の新たな一面を知りました

 シンクレアおよびカヴァナー連合国の宝飾品店……というより、新大陸の宝飾品店。当然方向性が全く違うので、僕としては興味が尽きない。

 この店は僕が住んでいた付近とは違い、冒険者向けというわけではないのか、それとも産出する物が違うからなのか、魔石での能力向上を目的とした指輪はなかった。

 どちらかというとそっちが気になったので、ちょっと残念な気持ちもあり……しかし独創的な模様の指輪の数々は、なかなか創作意欲を刺激される。

 やはり新しいものに触れることが、自分の新しいものへの影響には一番だよなあ。


 店に並んでいる数々の銀の指輪、そのうちの一つを手に取る。まるで空の雲のような独特の模様になっており、中心は宝石がはめ込まれた指輪。彫りの深いところが黒っぽくなっており、表面には光沢を持ちつつ絵画のような陰影を生んでいる。

 その美しさは、能力など関係なく『いかに美しいか』ということ以外気にする必要のない美しさだ。

 ビスマルク王国にもそういった宝飾品はもちろんある。しかしそれでも比較的シンプルな見た目をしており、むしろ冒険者向けの能力上昇の指輪の方が綺麗なこともある。

 だからか、この店の宝飾品の方向性は全く違うものであり、同時にこの付近の——本来僕達が討伐する必要がある前の——魔物の少なさを表しているようで、作り手としてはその環境に羨望を覚える。

 もちろん、自分の得た色とりどりの魔石を彫ることのできる環境も、十二分に満足しているのだけどね。それでも、やっぱりこうやって徹底して並ぶと壮観だ。おっちゃんにも見せてやりたいな。


「ふわーっ、すごいなー。なんか、きらきらっとしてるんですけど、独特の、こう、ありますよね!」

「銀細工の指輪、こう、ちょっと重い感じで、でもそれが不思議な魅力になってるといいますか……」

「わたしとおなじいろだー」


 三者三様の明るい声が聞こえてくる。

 ……うん、難しいことを考えるより、そうやって素直に感想を言う方がきっといいだろうね。


「何か気に入ったのはありましたか?」

「あっ、ライさん! えっとですね、全部気に入りましたね! あっでもでも、一番はライさんの指輪ですからっ!」

「あっ、えっと、ありがとうございます」


 ふ、不意打ちだった。僕が少し羨望を感じている中で、リンデさんは僕が、どこか気にするか嫉妬するか、そういう感じ方をしたのではないかと気にしてくれていた、のか。

 かなり気に入ってくれていることは十二分に理解しているし、それなりに自負もあるけど……やっぱり嬉しいな。かなり嬉しい。

 さっきのリンデさんじゃないけど、飛びついてしまいたいぐらい嬉しい。……我ながらちょろいと思う。


 僕が照れ隠しに明後日の方を向いていると、遠くの会計奥に、硝子ケースの中に入った指輪があった。

 それは赤い魔石の指輪であり、この銀細工の指輪だらけの店の中では格別に異彩を放っている。

 あんなに大切に保管されるような高級品ではないし……って、魔石の産出が少ないのなら、当然のことながらあっちの方が高級品になるわけだ。


 一体何であんなものが……?


「ん? ライはもしかして、あのミアの指輪に興味あるの?」


 え?

 あれって、姉貴の指輪?

 ってことは。


「あれはねー、ミア様がここいらですっごく活躍した時に、別れ際に一つ頼み込んで飾ってもらえないかと交渉したのよ」

「頼み込んで、ですか?」

「そうなのよー、だってだってミア様って、再々言うんだもの」


 それからのクラリスさんの発言は、僕の想像していたことの斜め上を行くものだった。


「『あたしの強さはあたしだけの力じゃない、指輪もそのうちの一つ』だって」


 ……それは、あまりにも。

 あまりにも驚くことだった。


 だって姉貴は、遙か昔にこの地に来たのだ。少なくとも三年半から四年は前。その時に、そのことを言っていたことになる。

 だってその頃はまだ僕は十四歳。料理はまだまだ素人に毛が生えた程度で、宝飾品なんて始めたばかりだった。

 姉貴がお金も魔石の原石もたくさん持っていたから、指輪もがんばって沢山作ったけど……本当に気休め程度の最初の作品達なのだ。


 だから、とにかく沢山作って、沢山渡した。まだ初心者で何がいいかなんて、まるでわからなかったから。

 でもそのうちのいくつかが良かったと帰ってきた時に聞いて、それから新たに作った物を渡して、旅先で実際に使ってもらって、その出来の感想を聞いて改良を重ねている。

 つまり、あれは本当に最初期の作品の中でも、姉貴が不要として置いていったもの。

 姉貴も母さんのハンバーグを再現できなかった僕に微妙な顔を返すだけの、一歩引いた姉貴だった。だけど……だけどそういうことなんだ。


 姉貴はずっと昔から、僕の知らない場所で僕を認めてくれていたのだ。


 ……ああ、全く。姉貴は……。

 確かにマーレさんの言ったとおりだよ。姉貴ってこういうところ、ずるいよなあ。

 僕みたいな一歩引いた人とは違う。そういう熱いところが、先に勇者になったのかな。

 やっぱり……かなわないよ、姉貴にはさ。


「……って、どうしちゃったの!? な、何か私まずいこと……」


 クラリスさんが声をかけてきて、僕がようやく泣いていることに気付いた。

 流れた涙は少なかったので、すぐに拭いて首を振る。


「すみません、いえ、違うんです……姉貴は、ずっと昔から、僕を褒めてくれてたんだなって」

「え? どういうこと?」

「あの指輪は僕が作ったものなんです。だから、姉貴は随分前から僕をこんなに評価してくれていたんだって初めて知ったから……」

「へ!? え!? あなた指輪も作れるわけ!? っていうかミア様のあの指輪の数々って全部弟君の作品なわけ!?」


 そしてクラリスさんは腕を組んで、再び呟いた。


「確かにミア様に似てないけど、いやほんと血繋がってるの? どうやったらあのヤバイお姉さんの下であなたが育つの? 似てなさ過ぎない?」

「それまだ言います?」


 いやほんと、似てないなって思うよ。

 僕とは違う……そう、自分のことでいっぱいいっぱいだった僕とは違って、どんな場所でも家族をのことを考えてくれていた人だ。


 こんな先手を取られると、僕も姉貴のことを本人のいないところで自慢したくなってしまうな。

 勇者ミアは自慢の姉貴だって。

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