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新大陸での朝です

 テントの中で……僕は朝からやっぱりというか何というか、眠っているリンデさんの熱烈なハグを受けていた。

 ……そして当然のように、僕もリンデさんを抱きしめていた。毎日眠る前はどっちも上を向いているんだけどなあ……?


 しかし、最近のいつもとちょっと違うことといえば。


「……すぅー……すぅー……」


 背中にアンがしがみついていた。

 すっかりここで寝るのがお気に入りになっているみたいというか、僕はそんなに抱き心地がいいとは思えないんだけど……。

 こうやってしがみつかれると、ちょっと娘のような感覚にもなってくるなあ。娘というか、姪っ子でも大きいぐらいだけど。僕まだ二十にもなってないし


 そして首を動かすと、もうひとつのちょっと面白いペアが見られた。


「……」

「……うふふ……もてもて…………」


 目を閉じて、綺麗な寝顔を見せるビルギットさん。

 その身体に寄り添う形で、ユーリアが寝ている。


「……みんな……うふふ……」


 ユーリアの口から何やら寝言が漏れているけど、たぶん夢の中でユーリアの妄想世界が広がっていると思うので聞かなかったことにした。うん、何も聞こえなかったぞ。

 それにしても、昨日の今日で仲が良くなったなと思う。ユーリアは遠慮しがちな部分があったけど、どこか吹っ切れたんだろうか。

 そしてビルギットさんは、距離が縮まったユーリアのことを嬉しそうに迎え入れてくれていた。もしかすると、頭の出来とかそのへんが近いのかもしれない。二人とも相当頭いいし、丁寧で優しいし。


「……ん……? あ、ライさんだぁ……」

「起きましたね、おはようございますリンデさん」

「おはようございまぁす……」


 むにゃむにゃと僕から手を離して目を擦るリンデさん。僕の最初の視線に気付いてか、ビルギットさんの方を向く。


「なかよしさんになっちゃいましたね〜」

「そうですね、いいことだと思います」

「小説同好会、今度はユーリアちゃんも誘おう。そういえばエファちゃんにも最近会ってないなぁ……」


 マックスさんとすっかり仲良くなったエファさんは、ずっと村に残ってもらっている。特に今の王国にはマックスさんのような『強い人間』の存在は必要だ。魔人族に庇護されているような状況の魔人王国・勇者の村領だけど、そういった人間側の友好の象徴が、『勇者』という人間離れした力を持つ姉貴以外にも必要だ。

 同時にマックスさんと仲の良いエファさんは回復専門。可愛らしい容姿とメイド服が合わさって、あの二人を見て魔人族に恐怖を感じる人はそうそういないだろう。

 なるほど、確かに二人は対外的にも良い組み合わせなのだなと思う。もちろんそんな理由がなくても、あの二人がお互いに好意を持っていることはよく理解しているけどね。


 ああ……それにしても、変化していくビスマルク王国のことを自分の目で追えなかったのは、残念だな。

 きっといろんなことがあったんだろう。トーマスのやつは凄く活躍しただろうし、毎日みんなとも話をして、宝飾品店のおっちゃんに魔人族のみんなが驚いて、そしてまだ見ぬ時空塔騎士団の皆とも顔を合わせて……そういえば僕ぐらいか、まだ顔合わせしていないのは。

 アウローラ達や孤児の皆とのシレア帝国での日々は、それはもう掛け替えのないものだったけれど……でも、やっぱり僕の心は、マーレさんとその周りの人達のところに一番にあるんだろうなと感じる。

 本当に、いない間を見られなかったのは惜しい……。


 ……まあ、その結果あのビスマルク十二世の落ちぶれっぷりというか、村で狼藉を働くところに居合わせなかったのは幸いだけど。

 何が幸いって、僕の我慢が限界に来て殴りかねないこととか。多分王城での謁見の間みたいな場所じゃなく、牢屋に繋がれたビスマルク十二世なら手は出てしまったと思うし。

 今までの姉貴への対応と、新たに知ったマックスさんやカーヤおばさまの扱いを知ると、殴るぐらいはやらないととても気が済まない。


 姉貴があれだけ苦労したんだ、せいぜい歴史の本には愚王として名を残してもらおう。


 -


 朝日がとてもまぶしい。こちらの大陸にやってきて、初めての朝だ。

 世界の何処にいても、太陽の光は変わらず僕達に朝を知らせてくれる。

 変わることもあれば、変わらないこともある。この大自然のどこまでも続く空や海は、そういったものの一つだろう。


「ただいまでーすっ!」

「かえったよ〜!」


 そんな朝の光を浴びながら、リンデさんとアンが帰ってきた。

 実は朝のうちに、さくっと周りをパトロールしてもらっていたのだ。


「森の中も含めて、この付近もーさっぱりなんもいないですね! ちょこちょこ野生のちっちゃい動物と、昆虫と、そんな感じです!」

「お疲れ様です。やっぱりユーリアが徹底的にやったのかな?」

「でしょうねー、ユーリアちゃんほんとすごいなあ、マグダレーナさんのアレにも耐えたし」


 ……アレ、というのは間違いなく、僕も体験したあのハードな魔法訓練だろう。

 なるほど確かに、あれの上に実戦形式で攻撃魔法が飛んでくると思うと、怖い。

 しかしよっぽど疲れたのか、リンデさんがパトロールから帰ってきても起きてこない……いや、そういえばユーリアって殆ど寝ていないんだよな。そりゃよっぽど疲れているわけだ。

 でも、朝は食べないとね。


「それじゃあリンデさん、テーブルと椅子を出してください。あとアン、二人を起こしてきて」

「はーい!」

「わかった!」


 リンデさんのアイテムボックスがとても器用なことが分かったので、こうやって屋外にテーブルや椅子を出してもらうことも積極的にお願いするようになった。

 多分だけど、キッチンだけ出すとかいうこともできるんじゃないだろうか。ちょっと接合面がどうなるか怖いのでさすがにやめてもらってるけど……。


「ライ様、おはようございます」

「……おはようございます〜……」

「はい、二人ともおはようございます」


 ビルギットさんはしっかりした顔つきで、ユーリアは寝ぼけ眼で起きてきた。

 そういえばユーリアはともかく、ビルギットさんが遅かった理由は……と思って、ビルギットさんの顔を見た。


「?」


 しっかりした様子で、声も眠そうな感じが全くない。あれは、恐らく早い段階で起きていた顔じゃないだろうか。

 多分ビルギットさん、ユーリアが起きてくるまでずっと寄り添っていたんだな。

 やっぱり今まで以上に仲が良いと感じるし、そうやって気にかけてあげられるビルギットさんは優しい淑女だ。


 -


 朝食を食べ終えた後、予定通り領主のシンクレア家にやってきた。


『……ですから……』


 ん? 家の中からうっすらと声が聞こえてくる。


『……せ……!』

『……そんな……』


 何だろう、門の向こうの屋敷から、聞き取りにくいけど……怒鳴るような男の声がする。

 ……いや、待て。シンクレア家にはエドナさん、クラリスさん、恐らく護衛も兼ねたメイドの方々だけだ。ってことは男は来客だ。会話はできているようなので賊の類ではないと思うけど……。


 僕はリンデさん達と顔を見合わせると、トラブルの予感がして警戒しながら門を叩いた。

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