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戻るとトラブルが発生していました

 ドラゴンの討伐を終えてリンデさんと山を下る。

 遠目に見ても発展した城壁に囲まれた港町まで戻る途中、遠くにおびただしい数の落雷が発生する。かと思いきや、それまでとは全く違う場所で再び雷が落ちる。

 今は昼間で、天気は晴れ。ならばあの雷の発生源は、一つしかない。


「ユーリア……と、一瞬で移動したのはビルギットさんのか。順調みたいでよかった」

「ライさんは、あのあたりの魔物が動くのを想定していた感じですか?」

「はい。魔物達はドラゴンから逃げていたわけですが、ドラゴンを討伐することで『安全になったから戻る』ではなく『ドラゴンより強い敵が現れたので急いで更に逃げる』という動きになる可能性を考えていました。それでもどのみち、街付近の魔物は全て倒してもらうつもりでしたね」


 結局のところ、魔物自体を減らしておかなければ討伐隊にかかる資金がいくらでも高騰してしまうし……将来的に、もう一つの問題も解決しないと思ったからだ。


 途中、城下町付近に農村部跡みたいなものがあったことから、あの辺りを利用できなくなったことも街の税を払えないことに繋がったのだと考えられる。畜産も厳しいだろう。

 だいたいの街において、狩猟物と畜産物による食肉や乳加工、農業や自然採集による野菜や果物、魚類や魚介類などの海産物。だいたいどの国でも、大きく分けてこの三つの材料で食は成り立っていると思っている。

 そしてこれらは『自給』もしくは『輸入』で国内に流通する。


 今回最大の問題が、その『肉』と『野菜』らあたりが輸入になってしまった、ということなのだろう。

 マナエデンと貿易しているとのことだけど、きっと話に聞くとおりマナエデンでは非常に食料品が豊富なのだと思われる。しかし、貿易の代表に来ている人がエルフであり、領主よりも立場が上。間違いなく、安くはないのだろう。


 戦い慣れている海賊が、マーマンで苦戦するんだ、討伐隊にいくら高い税を投入したところで、街の外の産業を回復させるほどではなかったのだと思う。本当に魔物が少ないというか、全くいないといっていいレベルだったんだろう。

 しかし、だからといって討伐をやらないと、今度は街道まで魔物が溢れかねない。そうなってしまえば大惨事だ。『連合国』というだけあっていくつかの小国が繋がっているわけで……これらの繋がりが無くなってしまえば、一体どれだけの影響があるかわからない。


 本当に、たまたまこの町に来られてよかったなと思う。


「……それにしても」

「ん? どうしたんですかリンデさん」


 リンデさんは街の壁を飛び越える直前で止まると、山を再び見上げた。


「あのドラゴンって、どこから来たんですかねー?」


 その声色から何気ない呟きだと分かるリンデさんの一言は、妙に僕の頭の中に残るのだった。


 -


 帰ってきて一番に思ったこと。

 心の奥底から、目の前の光景を見て思う。


 ————本当に、このパーティでよかった。


 シンクレア領主の屋敷に、人間が数名倒れている。

 皆、鋤や鍬を持っている人達……農民であることが分かる人達だ。

 そしてその手前には、灰色の魔族。

 

 間違いなく、エドナ様に対して襲いかかってきたのだろう。特にあの使われていない畑を見る限り、収入源はそうそうないと思われる。重税をそんな人達に課しているとは思えないけど、それでも明確な対応策のないままに手をこまねいている領主に対して、叛逆を企てたのだと思う。


 そんな農業をしている屈強な男数人を、当然アンは軽々と抑え込んでいた。

 護衛に残しておかなければ危なかったな……!


「エドナさん、ご無事ですか!?」

「あ……ライ、さん……」

「ああっ、ライさんライさん! はやくこっちにきてっ わたしじゃよくわかんないよ!」


 アンが男に怪我させないように抑え込みながら、困ったようにこちらに聞いてくる。普段使っているあのレイピアは使わなかったのか。


「相手を流血させないよう気をつけてくれたんだ、偉いぞアン。成長したね」

「えへへ、ほめられたー」

「とりあえず……あなたたち農民らしき方々の悩みはもう解決されるところなので、ちょっと話を聞いてもらえませんか?」


 アンが男を離すと、向こうで倒れている(けど目立った怪我のない)男達のところへと、こちらを睨みつつも歩いて行った。


「お前は誰だ、余所者だな……?」

「余所者ですが、ある意味縁のある人です。多分領主が知っていたのであなたたちも名前は知っていると思いますが、勇者ミアの弟ライムントです」


 その名前を聞いた瞬間。

 男達が顔面蒼白になり、遠くの木の柵までずるずると逃げていった。


「……み、ミア……!? あの、『赤い悪魔』のミアの、弟……!?」


 待って。

 なんか今、聞き捨てならない言葉を聞いた。


 僕はエドナさんに振り返る。


「……ああっ思い出したわ! あなたたち、農民かと思ったけれど……その顔ぶれ、山賊から農奴になった人達ね?」


 エドナさんが言った直後、男は顔を横に向けた。


 あ、ああー……。


 男達が、どうしてこんな反応をするのか。

 そりゃあ間違いなく、姉貴に対して先ほど聞いたばかりのことをやられた当人たちだからに他ならない。


「み、ミアの弟ってマジかよ……腕とか食ったりしねえよな……?」

「俺あいつが山から飛んで来たように見えたんだけど、人間じゃないんじゃねえか……?」

「つうか魔族連れてるしよお、魔王か何かじゃねーのかこいつ……」


 姉貴ーーー!!

 帰ったらマーレさんの目の前で問い詰めてやるからな姉貴ーーー!!


 僕は姉貴のせいで初対面から厳つい屈強な男達に、散々な評価で怖がられてしまっているということに内心凹みつつ、努めて冷静に話す。


「ふぅー。……まず、あなたたちは農奴ということですが、壁の外にある畑を耕していた人達、で合っていますね?」

「あ……ああ……そうだ。更正の機会だっつってよお、せっかく牢屋暮らしから農奴にまでなったってのに、すぐに魔物が現れて全然仕事にならねえ。海賊に誘われもしたが、前科持ちだったからな……」


 なるほど、なあ……。

 せっかく賊から真人間の国民として戻ってこられるチャンスが来たというのに、それを魔物に奪われて、長い期間ずっと根本的な対策が出来ずにきていたってわけか。

 そりゃあ確かに、焦るよなあ。


 僕はリンデさんを呼んできて、せっかくなのでこの広めの庭を使って、今の結果をお披露目することにした。


「まず先に言っておきますが、僕は姉貴とは全く似てないっていうか姉貴を基準に考えないでくださいね。あの人は僕から見てもちょっと、ちょっと変わった……いや、かなり変わった人なので」


 もうフォローはしないことにした。

 姉貴の自業自得だし、僕から見ても妥当な評価だし。


「リンデさんやアン、他に来ている魔族も全て人類の味方であり、他の人を含めて僕の友人達です。そして……リンデさん。討伐したやつ、首だけぐらいならこの庭にも出せるでしょう」

「そですね、じゃあ成果を見せちゃいますか」

「はい。エドナさんもこちらに」


 エドナさんが近くにやってきたところで、リンデさんがそれを取り出した。

 ドラゴンの、生首。

 至近距離で見ると、本当に大きい。頭だけで僕の全長ぐらいありそうだ。


「ひぃっ!?」

「大丈夫です、もう討伐しましたから」

「……ほ……本当に、ドラゴンが……」

「リンデさんのお陰ですよ。本当に余裕で斬ってくれましたからね」

「いえいえーっ、ライさんが弓矢を使わなければ倒せてないんですから、ライさんもかなり凄いですよっ」


 そういえば、リンデさんって遠距離攻撃手段ないんだったっけ。

 なるほど……じゃあ。


「二人の力で倒しましたね」

「はいっ! 二人の初めての共同作業です!」


 うん……うん?

 前もキマイラとかでやったし、その言い回しは違うんじゃないかな?

 いや、違うわけじゃない、か?

 あれ?


 僕が頭の中でちょっぴりパニックになってる中で、エドナさんが膝をつく。


「……ああ……本当に……。これで……これでもう、重税を課さなくても、いいのね……街に活気が戻ってくれるのね……」


 それは、重税と安全の二つに板挟みされながらも、ずっと気丈に厳しい判断を続けてきた心優しい領主の、緊張が解けた心からの安堵の声だった。

いつの間にか100万文字を超えてましたね……たくさん書いたなあって思います。

ここまで続けてこられたのも、これだけ支えてくれた皆さんのおかげです!

いつも読んでいただき感謝感謝です!

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