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ユーリア:せっかくだから、こんな話もしてみたいの

久々ユーリア視点

 ライ様が指示を出してからの行動は早かった。

 既に私以上に幅広い魔法を使いこなす、人類最強の大魔道士となりつつあるライ様の背中を、私はビルギット様の肩から見送った。


 ————ユーリアの範囲魔法で魔物自体はどうにかなる。


 それは間違いなく、私の魔法に対する『絶対の信頼』だ。

 私がこの街の外の広大な土地に生息する、危険な魔物を一人で討伐出来ると疑っていない発言に他ならない。


 あのレノヴァ公国での一件以来、私自身の自分に対する認識は大きく変わった。

 マグダレーナ様の生徒の中でも優秀だったのに、唯一魔人族の魔術師の中でもどうしても無属性魔法を使えず、魔人族同士での試合では誰にも勝てなかった私。

 そんなもんだから、お兄ぃの前以外ではどうしても一歩引いてしまう自信のなさばかり表に出てきてしまった。


 しかし、レノヴァ公国ではライ様の指示に従って動かせてもらった。

 その指示通り動いていったら、いつの間にか公爵様を巻き込んだ騒動はライ様の圧勝に終わり、気がついたら私は陛下から今までにないぐらい認めてもらえた。


 ……いや、恐らく陛下はずっと私のことを認めてくださっていたのだろう。しかし私は……やはり無属性魔法にコンプレックスがあった。自信がなかったのだ。

 それも、謙遜しすぎでよくないと気付かせてくれた。


 ビルギット様が、クラリス様と一緒に街の外に繋がる門までついていく。高いことろから見下ろす街並みは気持ち良く、少し恥ずかしい。ビルギット様の優しい性格を知っているが故に、確かにこれは落ち着かないなあと内心苦笑する。


 クラリス様は街の人達に私たちが味方であると丁寧に教えて、ビルギット様と私に頭を下げた。……なるほど、ビルギット様の『高いところから見下ろす気まずさ』とはこういうことか。確かにこの視点から、ライ様を常に見下ろしてしまうことは心苦しい。


 -


 門の外の平野を横断し、ライ様の向かった山付近の森に入ったところで、ビルギット様に声をかける。


「まだ魔物は散開しているので余裕があります」

「そうなのですね、わかりました」

「……少し、お話をしてもよろしいでしょうか」


 ビルギット様が、珍しそうに私を見た後、少し嬉しそうな顔をして私を降ろした。

 そのまま木々の中で腰を下ろすと、私と近いところで目線が合う。


「ユーリアから話しかけてもらえるなんて嬉しいですね。丁寧なのは良いことなのですが、あまりにも遠慮が他の方より大きいので、なかなか話す機会もなくて。ちょっとレオンが羨ましいかなってぐらい」

「え、そうだったのですか?」

「『恋愛小説妄想女子会』の騎士団リッター外での一人でしょう、だからライ様との話も合うかなって思って」


 ああ……そういえば元々恋愛小説妄想女子会って、リンデ様とビルギット様とエファ様……あと陛下が加わって、その四人で盛り上がっていたって聞きましたね。

 ……って。


「ら、ライ様ってことは、ビルギット様は私のこと……」

「リンデさんがいるから絶対無理なのは分かってますけど、それでも横恋慕未満の好意がある目ぐらい分かりますよ。……だって私もですし、それこそユーリアはそのことを分かっていますよね?」


 それは……もう、そのとおりなのですけれど……直接『私のことをあなたはお見通し』なんて言われてしまうと、面食らってしまう。


 魔人族の男は、力自慢が多い。『恋愛小説妄想女子会』の三人のうち、エファ様を除く二人が恋愛小説にのめり込んだのは、恋愛小説好きであることはもちろんのこと、その強すぎるが故に相手のいなさが理由だ。リンデ様の強さはもちろんのこと、ビルギット様も、隣に並びたいという男はついに魔人族では現れなかった。


 だというのに、ライ様はリンデ様はもちろん、なんだか陛下以上にビルギット様の感想を聞きたがって料理を持って行っている部分がある。そしてビルギット様は、そんなライ様の要求に完璧に応えてみせる。

 二人の関係は、お互いの求めているものを与えるだけのありふれた関係のようで……しかし、ビルギット様の体格のことを考えると、魔人族であることを除いたとしても、ライ様の心の壁のなさはとてつもないことだと思う。


 リンデ様の魔人族の姿を受け入れた時点で、壁を作らない人だとは思っていた。

 しかし、ビルギット様の身の丈を見て、あそこまで『普通の女性』のように接するとは思わなかった。

 そして肩書きのない私のことを、陛下と同等に認めてくださった。

 あの人には、姿とか、身分とか、そこからくる壁がなーんもないのだ。


「はい。ビルギット様から見て、ライ様はどれほど魅力的かなーって。ちょっとした雑談です」

「そうですね。……召喚していただいただけでも嬉しいのに、強化魔法を使っていただいたときは本当に震えました。だって、マグダレーナ様専用としか思えなかったあの『ディッセ』を使って気絶しましたからね」

「ええ、あれは確かに驚きました。あそこまで強くなっているなんて」

「それだけじゃありません」


 ……え、それだけじゃないのですか?

 ビルギット様は、自分の手を見つめながら、思い出すように呟く。


「アダマンタイトゴーレム。ハッキリ言って陛下でもリンデさんでも決定打に欠ける、とてつもなく強い魔法兵器です。しかし……ライ様は、恐らく気絶してしまうと分かった上で、強化魔法を使ってくださいました」

「……あっ! そうか、つまりライ様は」

「はい。私が勝つと信じていたから、最強の敵の前で気絶したのです。あそこまでの『絶対の信頼』を感じた瞬間、もう体中が打ち震えて……ああ、この人は、私に何の気負いもなく命を預けてくれたんだって」


 絶対の信頼。それはまさに、私が先ほど感じていたことです。


「『女子会』では、王子様に助けられる恋愛小説に憧れました。……ですが、もうその段階は超えましたね。今の感覚は、未知の世界……王子様に支えられながら、絶対の信頼を託される世界です」


 ああ、ビルギット様は……ついに過去を超えられたのだ。

 もう『自分の身体に卑屈になっていた恋する女の子』ではない。

 自分を認めた上で『自分のこの身体だから恋する女性』なのだ。


「ユーリアは、どうですか?」

「……はい、ビルギット様に言っていただいて、ようやくわかりました。私の力を認めてくれるから、ちゃんと支えながら頼ってくれるから好きになってしまうんですね」

「はい」


 ビルギット様が、にっこりと可愛らしく笑う。

 私もきっと、同じ顔をしているだろう。


 だから。


「……『サンダーボルト・クイント』!」


 私は振り返り、後ろに迫ってきていた魔物の集団に向かって杖を向けながら、以前よりかなり威力の上がった雷を落とす。


「ビルギット様、魔物が動き出しました。『エネミーサーチ』……張り直したところ、向こうはリンデ様がほとんど討伐してくれているようです。山道を塗りつぶすように横移動しながら、ちゃんとライ様の全力と同じ速度で山を登って……ほんと滅茶苦茶強くなってるなあリンデ様……」

「あんなに強くなっちゃったら、クラーラさんの剣に一合でも届いたって言っていたの、疑いようがありませんね……」


 そんな呟きをしつつも、私はビルギット様の肩に乗る。


「さて……相手も動いたことですし、そろそろ任務を遂行しましょう! ビルギット様、十時の方角へお願いします!」

「ええ!」


 私はその期待に応えるため、魔法を惜しみなく使うのだった。

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