表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/247

魔物に関わる詳細を聞きます

 僕の発言を受けて、エドナさんが驚愕に目を見開く。


「ど、どうして、山の魔物のことは……」

「ああ、警戒しないでください。敵対するつもりで探りを入れたわけではないので……クラリスさん、説明してもらってもいいですか?」

「もちろん、解決してもらえるのならそれに越したことはないからね。……うちの出不精がこっち来てくれたらなあ」


 ちらっと最後ちょっと気になることをいったけど、クラリスさんはエドナさんに、僕が先ほど考えた重税の事情の話をした。

 自信満々に語っておいてなんだけど、外れている可能性もあるのでちょっと緊張する……でも、当たらずとも遠からず、というところだと思う。


 エドナさんは一通りクラリスさんから聞き終えると、僕の方を向いて一言。


「あなた本当にミア様の弟なのですか?」

「それさっきもやりましたよね!?」


 ちょっとコントみたいなやりとりをやって、リンデさんが目を白黒しながら……あっ元々真っ黒だったわ、あとクラリスさんがケラケラ笑っていた。

 いやー、姉貴がぶれずに姉貴過ぎて逆に安心できる。大体このあたりで何やったかおおよそ見当がつくというか。

 多分山賊狩って魔物狩って、仏頂面でメシ食べながら金だけもらって帰ったんだろう。


 ……ん? 以前は山賊がいて、今は海賊が活動を始めてから長い?


「もしかしなくても、姉貴が発ってから比較的すぐ来たとか?」

「……なぜそう思うのですか?」

「税が重くなった時期です」


 海賊が有名になるのには時間がかかる、だからあの海賊団は出来て長いはずだ。

 そしてその海賊団の発足より更にかなり早い段階で、税が支払えない状況がジャスパーと仲間達にも襲いかかった……となると、税を上げたのは更に前となる。

 その上で、税を上げる前に魔物が出たから税を上げたとなると、最近ではないはず。

 姉貴が魔物を察知して放置したり負けたりするということは有り得ないので、姉貴が去った後に現れたか、二体目以降が現れたか。


「あと、この付近の人達は魔物に慣れていないと思いますし」

「……魔物に慣れていない、と感じた理由は?」

「海賊がアクアドラゴンならまだしも、マーマンを恐れていたからですね。さすがにクラーケンを斬り飛ばすのは姉貴ぐらいですが、それでも海の魔物は隣国のシレア帝国では普通に冒険者ギルドで討伐を請け負っていましたから。だから、普段から魔物の相手をそこまでしていないのかなと」

「もはや驚きませんが、まさに考察の通りです……この付近では精々ゴブリンが出るぐらいで、兵士の質も決して高くありません。ですが……」


 エドナさんは、山の方を睨みつけた。


「あいつは……あの魔物は、そこにいるだけで山に生息しているイビルタイガーをこの付近に押し出してしまうのです。此方へと魔物が逃げてきて、その先に食料を運ぶ商人の隊がいることを知り、襲いかかるようになって……」

「そうか、生息地がこちらになってしまい、出てくる魔物の質が上がってしまったのですね」

「はい……」


 山の魔物が一匹現れたことにより、この付近の魔物の勢力図そのものが変わってしまった。

 そしてその魔物の勢力図の中に、人間が入る。人間の強さというものは個人によって大きく違い、種族によっての差みたいにひとくくりにできない。

 魔物が一度『弱い種族』と思ってしまえば……後は魔物との戦いが激化するだろう。


「山の魔物が一体何を考えているのかわかりませんが、少なくともこのままではいけないのはわかっています。ですが街を守るためには、兵士にお金を出すしかない。……心苦しいです、税を軽くすると、魔物の餌食になるだけですし、兵士だって私の大切な領民。命を賭ける人間に対して資金をケチるような真似は絶対にしたくありません」


 そこまで言い終えると、悔しそうに拳を握りしめて、エドナさんは俯いた。

 その姿を見て僕————より先に、立ち上がった人がいた。


「むーっ、許せませんね山のやつ! 私がやっつけてきます!」


 まだ交渉を始める前からやる気満々のリンデさんと、それに続く残りの三人。


「はい、リンデさん。どんな魔物が相手でも、私たちが敗れるはずがありません」

「ライ様を不躾に見る視線、許しておけません。不肖の私も協力します」

「んー、途中から事情わかんなかったけど、山のやつが悪いやつなんだよね。じゃーわたしもがんばるよ!」


 ビルギットさん、ユーリア、アンが頷いた。

 その姿を見て、エドナさんはもちろんクラリスさんも驚く。


「あ、あの、討伐をやっていただけるのは嬉しいのですが、こちらからお出しできるものの相談をしていないのに……」

「そうよ、そんな気軽に引き受けちゃって後悔するわよ。安請け合いしてないで、こういった条件ならもっと交渉は慎重にしないと」


 二人の反応に、この中で一応一番陛下に近いポジションのリンデさんが首を振る。


「確かにライさんに交渉とか、いろんな確認を取るべきなんですが……それでも私たちは、魔人王国女王、魔王アマーリエの『教え』を守りたいですから。だから、困った人がいたら、必ず助けられる能力のある人が助けます。そして人間が魔人族を拒否しても、魔人族は何度でも人間を助けます。そこだけは譲れません」


 エドナさんとクラリスさんが放心気味にリンデさんのほうを向いている。クラリスさんは少し間を置いてはっとなって、しかしどう反応したらいいものか分からず僕の方を見た。


「嘘は言ってないですよ。僕も最初は無条件で助けられましたから。魔人族は、お礼が欲しくて人間を助けているわけじゃないんですよ。ただ、後悔したくないだけ。そうですよね」

「はいっ! えへへ、ライさんは陛下のことをよく分かっていて頼りになりますっ!」

「魔王様の名君っぷりを知ったら、誰でもこうなっちゃいますって」


 リンデさんと明るく笑い合い、ビルギットさんとユーリアも嬉しそうにしていた。

 そして僕は、エドナさんに向き直る。


「さて、細かい部分が前後してしまいましたが、報酬の……交渉といっても、基本的にそんなに目的がないんですよね」

「……そうなんですか?」

「はい。敢えて言うならマナエデンに行くためだけに来たので、もうクラリスさんがいたら別にいいかなって」

「しかし、報酬なしで最難関の討伐をやってもらうというのは……」


 僕の答えにエドナさんが渋っていると、なんと珍しいことに、リンデさんが手を挙げた。


「リンデさん、何か要求するものがありますか?」

「えっと、ライさんが特に報酬が必要なくて、エドナさんがそれだと心苦しいんですよね?」

「え、ええ……」

「でしたらっ!」


 リンデさんが勢いよく立ち上がり、ぐっと両手で握り拳を作り、胸の前で力を入れる。

 い、一体何を希望するんだ……?


「あまいものを希望しますっ!」

「へ?」

「あまいものです! ありますか? むずかしいでしょうか……!」


 それまで緊張して構えていたのが一気に滑る感じで、しかし何よりもリンデさんらしい要求にどこか納得していた。

 リンデさんの、あまりにも対価としてはかわいらしい要求に、クラリスさんが笑い出した。


「……ふふ、はは……! あの山の魔物に対して、要求がお菓子って! そんなの討伐報酬が出たらいくらでも買えるのに」

「でもでも、どれがあまいものかわかんないんですよっ! たぶんライさんもわかんないですよね?」

「さすがに初めての街ではわからないですねー」

「ですから! えーっと領主様おすすめのあまいものを希望しますっ! ちょーあまいやつだと最高ですっ!」


 リンデさんが腰に手を当ててキリッと宣言する。

 見るとビルギットさんとユーリアも真剣に頷いていた。


 魔物の話をしてから憔悴していたエドナさんは、ようやく頼もしい四人に対して笑顔を浮かべた。


「……これが、魔族なんですね。なるほど……勇者様の弟様が一緒に行動しているのも頷けます。皆のことを信用しているんですね」

「ええ、信頼してますよ。自分以上に」


 緊張が解けたようで、僕も笑顔を浮かべ————、


「ッ!? 今……!」


 ————山から、一気に視線を感じた!

 隣を見ると、特にユーリアが杖を出して山の方を睨んでいる。

 リンデさんが「落ち着かない奴だなあ……」と山の方を向いて剣を構えていた。


「……絶対の自信でしょうか。あんなに魔力をぶつけてくるなんて……」

「やはり、今のは」

「はい。どうやらよっぽど興味があるみたいです」


 ユーリアの報告を受けて、僕はエドナさんとクラリスさんに顔を合わせた。


「一度休んでゆっくり討伐と思ったのですが、気が変わりました。今すぐ行きましょう」


 このままではリンデさんがゆっくり眠れなさそうだし、早めに問題は解決した方がいいだろう。

 僕の宣言に、パーティの皆は揃って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ