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カヴァナー連合国の事情を考察します

 敵がこちらを見ている。

 ユーリアの一言を聞いてから、リンデさんは表情を変えずに、しかしいつの間にか右手には剣を握っていた。ビルギットさんも、山から僕を庇う場所に移動している。アンは、僕を挟んでリンデさんの反対側から守るように、空いている場所にいた。……本当にみんな、心から頼りになるよ。


 そして僕とユーリアの連携に、最初に驚きの声を上げたのはクラリスさんだった。


「……な、なんで、『山』のことが……?」

「ふふっ、その反応は僕の予想が当たっていると言ってしまってるようなものですね」

「————アッ!?」

「ああいえ、何か引っかけるつもりはないのでご心配なく。……そうですね、領主のエドナ・シンクレア様がお戻りになる前に、ある程度話しておきましょうか」


 僕は驚くクラリスさんを見ながら、ユーリアに「他に人間が来た場合はすぐに知らせてほしい」と伝えて、クラリスさんに考えていることを説明し始めた————




 海の向こうから渡ってきた僕達にとって、ここカヴァナー連合国の事情の一切は分からない。

 しかし、海域に入って早々に海賊に襲われたこと、その海賊が身代金のエルフ……つまりクラリスさんを監禁していたことを考えると、その行為の中心は金銭目的だと思った。

 事実として、『ジャスパー海賊団』は元々この国の人が、金が無くなり立ち行かなくなった人達が始めた海賊団だった。それは『海賊行為をしたくて、海賊になった』というわけではないことを意味する。そもそも見た限り、海賊行為そのものに慣れていなさそうな人もいたぐらいだ。


 じゃあ、領主の圧政に苦しんで、税が納められなかったのかというと……。


「エドナはそんな人じゃ——」

「そのとおりです」

「——ないわ……って、え?」


 あの人の服装は、身なりが良いものではあったけれど、それなりに汚れていて穴の空いた箇所を丁寧に裁縫した跡があった。

 僕も宝飾品の製作をしているんだし、服飾関係の状態の良さというものにも当然気付く。

 一目見て、そんな素朴な貴族領主の女性が、重税で人々を苦しめたりするだろうか。


 しかし、税が納められずに苦しんでいた、という部分は事実なのだ。

 だとすると、税がもっと何か、どうしても必要なことに……それこそ、税金を納めなければ国が滅んでしまうような、それぐらいの危機に直面している可能性を考えた。


 そのうちの一つが、強大な魔物である可能性、もう一つが他国との関係による軍事費だ。

 しかしこの国は連合国であり、しかも東側の港町。争うとしたら海賊だけど、それだと因果関係が逆になってしまう。仮にマナエデンと戦争するとなると、クラリスさんとあそこまで親しく話しかけることはないと思う。

 ……リリーほどじゃないけど、さすがにこれでも人を見る目はあるつもりだ。


「ライさんはとっても人を見る目がありますよ!」

「それ自分で言っちゃいます?」

「えへん!」


 自信満々に胸を張ったリンデさんに苦笑で返す。でも、事実として魔人族を受け入れたのは正解だった。悪人にはとても見えなかったからね。

 まあそんなわけで、エドナ様が悪人にはとても思えなかったことが一つ。同時にエドナ様とクラリスさんの関係は、非常に親しく感じられたのだ。特にクラリスさんの方が領主よりも立場が上ということも、あの人前での会話で分かったことが大きい。

 別にマナエデンの女王ってわけじゃないクラリスさんに対してあそこまでへりくだることを考えると、立場としてはマナエデン、もしくはエルフという種族自体が相当上のはず。そんな国に対して攻撃をしようものなら、国内から反発が出ることは想像に難くない。


 ————ならば答えは一つ。

 この国に危険が及ぶほどの、強大な魔物。

 もしくは集団暴走スタンピードの可能性だ。


 そしてユーリアによって、その仮定は裏付けができた。




「ライ様、エドナ様が戻ってきたようです」

「報告ありがとう」


 一通り話し終えたところで、ユーリアの発言通り領主様が戻ってきた。

 見れば見るほど村でもなかなか見ないぐらいの、マックスさんの母親のカーヤおばさまより年上の柔和な方だ。

 服は修繕でそれなりに取り繕えてはいるものの、予想通り足元……靴の状態が悪そうだ。末端部分に贅沢をする余裕がないということは、やはり金銭的に苦労をしている証拠だろうと考える。


「お帰りなさいませシンクレア様、先にお邪魔させていただいております」

「あらあらまあまあお客様、そんなかしこまらないで下さいな。遠慮無く上がってくれてもよかったのに……って、そういえばそちらの方は家の中には入れなかったですね、気が利かずに申し訳ありません」

「あ、いえ。私が建物をあまり利用できないのは仕方のないことなので、お気になさらないで下さい。寧ろライ様が、私のことなど放っておいて入っていただいても……」

「……はぁ。ビルギットさん、二度と『私のことなど』なんて言わないでくださいね? もう少し自分の価値を認めてあげてください」

「えっ、あ、あの、はい……ありがとうございます」


 小さく頭を下げながらもお礼を言うビルギットさんに、言い過ぎたかなと少し笑いかけてエドナ……エドナさんに向き直る。

 そして今のビルギットさんを気遣う会話でも思ったけれど、やはりエドナさんが悪人には思えないよなあ。


「それでは、エドナさんとお呼びしても?」

「ええ、ええ! よろしくお願いしますね。あなたはライと呼ばれているのですね。私もそうお呼びしてもいいかしら?」

「はい」


 最初から領主と距離が近いのは有難い。……しかし、本当に距離が近いなと思う。何かしたかな……?


「失礼ですが、僕達のことをこんなにすんなり信用して良かったのですか?」

「ええ。元々クラリス様を救っていただいたということで十分に問題はないと判断していますし……何より、ジャスパーです」


 ジャスパー? あの海賊団の頭のことか?


「ジャスパーは悪人ではありますが、義理堅い人間です。それこそ自分の仲間ファミリーのためなら、自分がどんな犠牲を払ってもいいと考えるほどに。その彼が、あなたにはとても感謝をしていました。何度もお礼を伝えるようにと。一体何をしたのですか?」

「何……って、アクアドラゴンの肉を使ったサンドイッチを作って全員に配り、海賊になった事情を聞いたぐらいですよ」

「…………」


 エドナさんがクラリスさんの方を向くと、クラリスさんもエドナさんの方を見た。なんだなんだ……?

 今度はクラリスさんの方が声をかけてくる。


「ね、ねえ……」

「どうしたんですか?」

「事前にミア様から聞いてはいたし、実際に海賊への対応は私も見たけど……さっきの魔物の推察での頭の回転の速さといい、あなた本当にミア様の弟なの? 外見的特徴以外何一つ似てないのだけれど」

「姉貴は一体何をやらかしたんだ……」


 僕が呟くと同時に、エドナさんが驚いた声を上げた。


「み、ミア様!? 勇者様の弟様なのですか!?」

「あー、はい。一応そんなかんじですけど、姉貴と力比べしたら一瞬で腕の骨が折れるであろうことは分かりきってる程度には滅茶苦茶普通の村人なので、気にしなくていいですよ」


 クラリスさんから「どこがよ」というツッコミが来たけど無視した。


「それより、姉貴は何かやらかしたんですね?」

「え、ええ……やらかしたというわけではなく、活躍したのですよ。領主の私も助かりましたし」


 エドナさんが、姉貴の来訪時を語り始める。


「今ほど海賊がいなかった頃、この付近はどちらかというと山賊が跋扈していたのです。ある日私の馬車も狙われたのですが、その時に魔物討伐兼護衛として居合わせていたのがミア様。事情を知らなければ目立つ護衛を雇ったわけでもなく、馬車の中には私の他に女の子が一人ということで油断したのでしょうね」

「……姉貴は、いえ、山賊は無事だったんですか?」

「無事、ではありましたね。……一応……」


 一応、と答えたエドナさんの顔を見て嫌な予感がする。


「……ミア様は襲ってきた山賊の巨大な両刃斧を手で掴むと、まるで皮か何かのようにメリメリと引きちぎるように解体していきまして……」

「……」

「捕まえた山賊も、『親分だけ手下の目の前で拷問したらみんなどう思うかな』や、『全員集めて、食事は若い方にだけ渡してみるのも面白いわね』などという発言で、徹底的に心を折りに行く方針で……」


 ……姉貴、ほんっと今更だけど、新大陸だろうとマジで全くぶれないなあ……。


「あー……間違いなく僕の姉です。まあ、その……ちょっぴりおてんばかな? というぐらいです。はっちゃけてるけど、たぶん普通の女の子とは誤差みたいなものです、ははは……」

「……あれが誤差なら、騎士と山賊も誤差にしか感じないですね……」


 そんな返答を聞きながら、我ながら無茶な言い訳だったなーと思いつつも僕は本題を切り出した。もちろん、最後に手を差し伸べることも添えて。


「ところでその魔物討伐というの、聞かせてもらってもいいですか? 今回も似た事情があるなら、協力できると思うんです」

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