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選択しなければならない時はある

 サンドイッチを海賊に配りながら、僕は海賊達に話しかける。


「どうして海賊になろうと思ったか、教えてもらってもいいか?」


 この質問にすんなり答えてくれるとは思わなかったけど、予想に反して海賊達は、皆口を揃えてこう答えた。


————カヴァナー連合国は生活できるほどの金がなかったから。


 海賊達に一体どんな人生があるかは知ったことではないし、どんなに事情があろうが海賊行為は褒められたものではない。悪に手を染めた時点で彼らはいずれこうなる運命だったのだ。

 しかし……彼らも、こうしなければ生きていけなかったのであろうことは、なんとなく分かる。


 配ったサンドイッチは、本当に簡易的なものだった。ビルギットさんが一発で仕留めたアクアドラゴンは、巨大シャコガイに比べて全身が身のようなものだった。だからあまりおいしくなさそうな、腿付近の部位などを適当に崩して焼いてサンドイッチにしたのだ。

 しかしそれでも、さすがは人類の手の届かない高級食材。一口食べると海賊達には好評で、人によっては涙を流し始めるような人もいた。


 ……この人達にも、かつて親の食事を食べた記憶があるだろう。

 今は大人だけど、当然こんな海賊達にも子供の頃があるし、親がいる。

 親は……どうだろう。自分の子供が他人に迷惑をかけてまで生き延びるなんて恥だから望んでいないか、もしくは自分の子供の命さえ無事なら安心だろうか。


 自分自身、親がすぐに死んでしまったし、自分が親じゃないからわからない……けど。

 姉貴の息子、クリストハルトを見ていると、どうしても思ってしまう。

 自分の子供さえ無事なら、多少後ろ暗くてもいいとさえ思ってしまうのは、わがままだけど、同時に自然な感情なんだろうなと。


 こんなことを、クラリスさんを見た後で思うのはあまりにも失礼だとは思うけど……どうしても、そう思わずにはいられなかった。

 どうしても思うのだ。教会の教えを思いっきり無視してまで魔人族を受け入れた僕が、果たして彼らを非難する権利があるのかと。


 ただ、魔人族は……リンデさんはとてもやさしい人だった。それは本当に、たまたまだっただけかもしれない。僕を騙して、魔人族が勇者の村を滅ぼしていた可能性だってあったのだ。

 人生は、何が正解かわからない。

 どういう結末を迎えるかわからない。

 未知の世界は……怖い。


 それでも、自分の選択に、自分で責任を持つしかない。

 彼ら海賊は、自分たちで生き残る道を選んで、最終的に僕達に捕まった。

 それは彼らの選択であり、今の結果はそれ以上でも、それ以下でもない。


「……ライさん?」

「ああいや、何でもないですよ。リンデさんは優しい人でよかったなーって思ってたところです?」

「へ? なんだか唐突ですけど、ありがとうございます?」

「はい、どういたしまして」


 僕は、さっきまで考えていたことを悟られないように、笑顔を作って船に戻った。


 -


 いろいろあって、夜遅くなった。船長室でクラリスさんの指示通りカヴァナー連合国を目指しながら、僕はこの場で一緒にいるユーリアに質問する。


「ユーリア、質問があるんだが」

「はい、何でしょうか」

「あの海の魔物達って、どれぐらい見たことある?」


 ユーリアは少し考えるように顎に手を当て、船長室をゆっくり歩く。


「クラーケンは強いですが、あまり強くないマーマンはもちろん、それに……今回いなかった中では、大型の魚みたいな魔物が跳び上がってきたり、他にも同じように海面から飛び出す鮫や、それこそ海をものともしないゲイザーがいましたね。アクアドラゴンと貝は、初めてでした」

「なるほど……」


 僕はユーリアの回答を聞きながら、先ほどの海賊とのやりとりが気になっていた。


 海賊頭は、見た感じ間違いなく海賊で一番強い。

 その彼が、あそこまで怯えたのだ。


 怯えた相手が、アクアドラゴンやあの大型の貝だけならわかる。しかしあの屈強な海賊が無理だと言ったのだ。半漁人マーマン相手に。

 それは確実に海賊がマーマンと戦ったことがないという証拠、もちろんマーマン以外の魔物なんて推して知るべしだろう。

 しかしマーマンは決して強い魔物ではない。それなりに対処はしやすいはず。そんな僕の予想を知らず、彼らは魔物にひどく怯えていた。


 ……誰かが、意図的に海の境界線を作っている。

 そして現状、そんなことを行えるのは一人しかいない。


「ユーリア、ありがとう。助かったよ」

「いえ、どういたしまして! 私の知識でよろしければ、いつでもお役立て下さい!」


 笑顔で丁寧にお辞儀をするユーリア。そんな彼女の生真面目な雰囲気に笑顔で応えると、今夜の索敵をお願いしつつ僕は艦長室で眠ることにした。

 緊急事態が起こった場合、僕はなるべく中にいた方がいい。その方がみんな、自由に動けるはずだ。そう判断した。

 リンデさんも納得したはいいものの、結局寝るまでは側で控えていることとなった。頼もしい限りです、リンデさん。

 海賊と多少は打ち解けたと言っても、やはり彼らは海賊だ、次は何をしかけてくるかははっきりと分からない。


 なので僕は警戒しつつ、リンデさんと一緒に船長室で眠った。


 -


 予想に反して、海賊は一人も襲ってくるようなことはなかった。やはり根っからの悪人、というわけではないんだろうな。

 カヴァナー連合国で真面目に反省してくれるといいけど……


 ……そして僕達は、夜明けと共に遠くに大きな大陸らしきものを見た。


 間違いない、あれがカヴァナー連合国だ。

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