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この辺りの海のことを考えます

 船長室には、魔法の地図がある。

 そこは既にエルダクガから離れた大海原で、その西側には海が続くだけ。ぱっと見て何も存在しない。

 しかし……どうやら『カヴァナー連合国』という知らない国があるのだ。

 あの魔物地帯から先は、僕達ビスマルク王国付近の人間にとっては未知の世界なのだろう。……姉貴を除いて、だけど。


 隣の海賊船を、連行していきたい。何か無いかと探してみると、この船を操作する舵の下側に、別の操作場所がある。

 説明書らしきものの代わりに、絵が描かれてある。それを見るに————!


 -


 先ほど、自分が操作した影響がどれほどなのかを確認しに来た。


「ら、ライさーん! なんか、この船から鎖がどーん! って」

「よかった、こちらで操作したんですが、ちゃんと動作したみたいですね」


 柵から身を乗り出して見てみると、こちら側の船から相手の海賊船へ、鎖が伸びていた。

 船内に、ぐさっと刺さっている形だ。


「ふえー、めっちゃすごいですねこれ……」

「僕自身驚きました、本当に凄い船です。ともかく、このまま西のカヴァナー連合国まで向かおうと思うので、アンやユーリアにも説明してもらえますか?」

「おっけーです、わかりましたー!」


 笑顔で親指を立てたリンデさんに僕も頷き返し、クラリスさんのところへと向かった。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ……この船、綺麗な船だとは思ったけど、相当多機能なのね」

「東の国で王様に無理を言っていただいたものなので、本当に機能が多いですね。っとそうだ、クラリスさん、一緒に船長室に来ていただけますか?」

「いいわよ。……妙な気を起こしたりは」

「さすがにすぐそこにパートナーがいるのに、そんな気は起きませんよ」


 僕が安心させようと答え、場所が分からないことを伝える。

 クラリスさんは納得したようで、僕と一緒に船長室に入ってくれた。


「……本当に、技術力の高い人が設計した船ね……」

「マナエデンでも、この規模の船は珍しいですか?」

「珍しいわ。さすがにここまで客船のように内部を凝ることもないし、運用が簡単にいくように魔石で船長室をここまで作り込むなんてしないんだもの」


 エルフから見ても、エルダクガの王族用の船はすごい船なんだな。エルダクガの人達の技術力の結晶だ。……ほんと、よくこれを娘の命と比較して、即答で僕に譲ってくれたなと思う。

 ……さすがに、旅が終わったら返そうと思う。


「それでも、この辺りの地図は全く何もないのね。私も何も指標がなければ分からないし、そもそも船内にいたし……少し、外を見てくるわ」


 クラリスさんはそう告げると、甲板の方へと出て行った。……今いる位置は、この船では本当に目印の何もない大海原だ。

 とりあえず西に移動しているけれど、何かあるだろうか。海の上の位置を決定づけるようなものはないのでは……と思っていると、クラリスさんが戻ってきた。


「場所が分かったわ」

「本当ですか!」


 すごいな、一面海一色なので、手がかりなんて見つからないんじゃないかと思っていたところなのに。

 ということはクラリスさんは、この辺りの海に相当詳しいのだろう。


「ここはカヴァナーの南東らあたりね。遠くにうっすらだけど、小さな島が見えた。あの特徴的な禿げた山がある場所と、遠くに見える日の傾き方から察するに、船長室の地図に表記してある方角も正確なはず」

「わかりました。それではこちらへ……。そう、それが地図です。何も書かれていませんが……これで位置が分かりますか?」

「ええ。恐らく……そう、この辺りね」


 クラリスさんは、何もない海を指した、西北西ぐらいの場所というところだろうか。


「分かりました。それでは少し北に方角を修正して……」

「ええ。あの禿げ島があるんだから、この方角で合っているわ。カヴァナー連合国の東といっても、結構広いからね。何かに妨害でもされていない限り、間違いなくカヴァナーに着くわよ」


 クラリスさんの話によると、よっぽどのことがない限り場所を間違えることもないとのことだった。そこまで言ってくれるのなら安心だな。


「よし……発進」


 僕は船長室の舵に手を触れて、進行方向を少しずつ調整していった。


 -


 クラリスさんの言ったとおり、特徴的な島が近づいて、やがてそこを船が横切った。

 島は草木一本生えていなくて、動物もいない。本当に言ったとおりの島だった。


 何も手がかりがないと思われていたカヴァナーへの船旅に、到着への道筋が見えてきたので、遭難という最大の懸念事項だけは避けられた。しかし、まだまだ時間がかかりそうだ。


「クラリス、あとどれぐらいで着くと思う?」

「んー……翌朝、かなあ」

「あ、結構距離があるんだ」


 それなら、少し休んだ方がいいだろう。

 僕は方角が決まった船をある程度自動で進行するようにし、クラリスさんを連れて甲板に出た。

 そこには、海の方を見るビルギットさんがいた。あ、こちらを向いた。


「ライ様、クラリス様。目的地には到着できそうですか?」

「はい、無事に着きそうで安心しました。ビルギットさんは何をしていたのですか?」

「海を見て、ちょっと考えごとを」

「……考えごと?」


 ビルギットさんは腕を組んで、僕ではなくクラリスさんの方に向いた。


「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、何なりと」

「クラリス様は、海の魔物を退治したことはあるでしょうか」


 海の魔物退治、って……そりゃあるに決まってるだろう。

 と思っていたのだけれど、意外な回答が返ってきた。


「なんと、あるのよ。珍しいでしょう」


 ない、とは言わなかったけど……でも、不思議な言い回しだった。

 もしかして……。


「普通の人は、海の旅で魔物に襲われるってことはないのですか?」

「東の魔物地帯から、はぐれてきたやつが現れたりするんだけれど、それの相手をしたことがあるわ。でも普通の人は、海に出たとしても一生出会わないということもあるだろうからね」


 海の魔物を、一生会うことがない。

 それはすなわち、こちら側の……カヴァナー連合国側には、海の魔物というものが基本的に皆無であることを示唆していた。


「なるほど、ビルギットさんは」

「はい。あまりにも魔物がいないので、ちょっと不思議に思いまして……」


 さすが、その辺りに気がつくのはすごい。それにしても、魔物のいない地域か……。食べ物は魔物が無くても魚が豊富にあるけれど。


 と、連想したあたりで、少し疲れたのかお腹がすいてきた。

 まだまだ到着まで遠い。


「クラリスさん。僕の話がどれぐらい姉貴から行ってるかは分かりませんが、これから料理を作ろうと思います」


 期待してか、特にいい笑顔をしてくれたクラリスさんのためにも、海の上だけど頑張って料理をしようと思う。

 ……そういえば、エルフは苦手な食べ物とかあるのかな?

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