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ミア:あたしはこの日のために生きてきたわ!

「……ところで、なのですが……」

「はっ、ふぁい!」


 あたしとマーレの会話に、ハンスさんが声をかけてきた。ハンスさん、本当に超イケメン。背がライから更に頭一つ二つ分ぐらい高い。精悍だけど厳ついってんじゃなくて若々しい美男子顔。

 もう声をかけられていると意識するだけで心臓飛び出る。


「誰かとお付き合いしたい、という話のことなのですが、ミアさんの希望はあるのですか?」


 ……そ、それ言っちゃう!? ハンスさんが言っちゃう!?

 落ち着け、あたし。いやこの状況で落ち着けるわけがないのはあたしが一番よく分かっている。じゃあなんて答えるか……!

 だからあたしは、自分の答えが全然制御できてなかった。今日一番やらかした。


「ぜ、全員!」

「———全員!? えっと、私も、そこのレオン君から外のグスタフさんまで、……まさか後ろのエファさんもですか!?」

「はい! 射程圏内です!」

「……そ……そう、ですか……」


 あ、やばい。これ引いちゃってる!

 いや普通引くっつーの! なんだか話を聞く限り、どう考えても服装が野性的なだけの、あたしたち王国民よりよっぽどの文明人だものね……!

 マーレが苦笑いしていた。そうよね、ストレートすぎるわよねこれ! あーっいきなり失敗した! ミアちゃんこの場で自殺します。あたしの人生は終わった。ごめんねライ、でも羨ましいのでリンデちゃんといちゃつく度にあたしが枕元に出て呪ってやるぞ。


 あたしが頭の中でゴーストミアちゃんとしての楽しいスローライフ計画を立てていると、後ろから裾を捕まれた。


「み、ミアさん……」


 これは……レオン君!

 フウフウ。落ち着いて。よし振り向こう、振り向いた無理これダメ落ち着くとか不可能この上目遣いダメ。

 あたしは心臓ばっくんばっくん言わせながらにやけた口元をもう隠そうともせずにレオン君にこたえた。


「な、なにかしら!」

「あの……今の話、本当ですか……?」

「えっと、嘘は、言ってないわよ……!」

「そう、なんですね。……不思議だなあ。なんでミアさん、モテないですか? 絶対みんな好きになると思うのに」

「それは褒めすぎよ! ありがとうレオン君、あたしレオン君がいてくれたら人間の男全員なかったことになってもお釣りがくるわ!」

「それも褒めすぎですよ」


 レオン君はくすりと笑って、あたしの顔の至近距離に寄ってきて…………た、滾るッ!…………あたしの顔の近くで、両手を口の横に寄せて、口の動きがあたしにだけ見える小声で言った。




「……僕は、ミアさんとなら、いいですよ」




—————え?


 -


「———ハンスとフォルカーは、私のいない間この図書館を死守して。さすがにフェンリルはともかくヨルムンガンドを人間の目に出すわけにはいかない。フェンリルも……かなり人間と敵対したものね」

『昔の話だ。未だに女神など祀っているが、神はやはり好かん』

「そうよね。ハンスとフォルカーは、それでかまわない?」

「構いません」

「ちょっと行きたかったすけど、さすがにヨルさん出せないのでいっすよ」


「それじゃ行くメンバー。レーナはいないからユーリアは連れて行くとして、エンハンサーのレオンとヒーラーのエファも」

「はっ! 陛下!」

「ミアさんに同行ですね、了解しました!」

「は、はいっ! ……はわわ、ライさんに会える……!」


「クラーラ、カール、ビルギット。あなたたちはミアと私の護衛。……あと、人間の王国の感想係ね!」

「……やった……!」

「よっしゃ! お供しますぜ陛下!」

「私、楽しみです!」


「という感じでいいかな、ミア」


「……ミア? おーい?」


「……つん」

「ひゃっ!」


 あ、え?

 ……か、完全に放心していた。

 脇腹つっつかれて話終わってたのに気付いた。


「ごめんぼーっとしちゃってて」

「大丈夫なの? えっと、今リッターは大陸の反対側の海を一面凍らせて遠くのクラーケン討伐に出払っているの。

 だから今いるリッターのメンバーである第一刻クラーラ、第三刻カール、第四刻ビルギット、第十一刻レオン、第十二刻エファ。移動役のユーリアに私とミアの8名で行くわよ」

「大人数ですねー」

「このこと言ったらみんな行きたがっちゃうから、これでも最小限よ」

「そりゃそうよね」

「その代わり、文句なしの最強パーティだから、安心してね」


 ……それにしても、反対側の海を一面凍らせてるって、さらっと言ったけどとんでもないのがまだいるわね。

 ちょっと興味あるけど……早くライの料理食べに戻りたいわ。


「……あっ、そういえばあれがあったじゃない」

「どうしたの?」


 あたしは、今更ながらライに渡されていたものを思い出した。アイテムボックスからソーセージを取り出す。白くて太いソーセージの中に緑のハーブが混ざっているのが見える。このまま焼いて、味もオッケーってところね。


 ……よし!


「ミア、それは?」

「えっと、あたしの弟から、本当は挨拶のために振る舞ってくれって言われてたから、せっかくだからハンスさんとフォルカーさんにも、ライの作ったソーセージを食べてもらおうかなって。調理は簡単だからあたしがするわ」

「だってさ! 良かったわね、ハンス、フォルカー」

「それは嬉しいですね!」

「いやーミアさんいい奧さんなりまっせ!」


 二人が乗ってきてくれた……! あとフォルカーさんそのセリフはあたしの心臓が飛び上がって口から出てきかねないので手加減してください! 落ち着いて落ち着いて……よし! あたしは人数分のソーセージを出して、金網を出して弱火魔法で焼いた。室内だけどいいわよね。

 ちなみに金網もトングも調理道具はライ用になんでもかんでも買い溜めてあるから、あたしのアイテムボックスは料理道具と調味料だらけよ! あたし実は練習してたけど料理いまひとつ上手くならなかったけど! 自分で言っててチョーむなしいわねこれ!


 ……みんなが興味津々で、黙ってあたしを見ている。……これ、めっちゃ緊張する! ライが料理や彫金をガン見されたときに気にしていた気持ちがわかる! おおおちつかねええ! 焦がさないように気をつけないと……!


 ……。


 ……よし、焦げ目がそこそこついた……魔法を止める。これである程度冷めるまでに余熱で中まで火が通るはずよ。


「……もう、いい香りがするんだけど!」

「マーレはソーセージ、やっぱり初めて?」

「初めてっていうか、私たち魔人族は人間の料理は全く経験がないの。私は知識として知ってはいるけど、ソーセージを食べるのは初めてだよ。唯一食べたのが林檎ね」

「林檎?」

「そう。一個だけ流れ着いてね。とっても嬉しかったから、下手だったけど16等分して、みんなで食べたの」

「……16等分?」

「うん。私と、腐ってないか毒味役のメイドと、リッターの12人と、ハンスとフォルカーで16人」

「……? 待って、毒味役に自分と同じ量あげたの?」

「功労者だし当然の権利だよね。それに15等分とか難しいし」

「そ、そうじゃなくて、自分だけ多めに取るとかさあ」

「えっ!? な、なんで私が多めに取っちゃうの?」


 あたしは、ハンスさんを見た。ハンスさんは苦笑いしていて、フォルカーさんはニヤニヤしていた。ビルギットさんを見た。ビルギットさんも苦笑いして頭を掻いていた。カールさんは両肩を上げてヤレヤレポーズをしていた。

 うん、多分あたしの言ってること理解してないのマーレだけよ。でもマーレのそーゆーところ、あたし、大好き。


 あたしはもう、友達という体面でありながら、魔人王国のアマーリエ女王に絶対の忠誠を誓っていた。……ビスマルク国王への忠誠心? そんなもんとっくにドブネズミに食わせたわ!


「おっと、そこそこ火傷しない程度に冷めたわね。まーあんたたちが火傷するなんて欠片も思ってないけど、でもこれで中まで火が通ったはずよ」

「これが……ソーセージ!」


 あたしは一個取って、ひょいっと口に放り込む。薄い腸……だったかしら? に、むにゅりと歯が入り、中に入った塩と調味料の利いた肉が出てくる。これは……ローズマリー多めね! あっオレガノだったかしら。ちょっとド忘れしたけど相も変わらずライの料理は全く外してこないわね!


「よし、中まで暖かくて文句なしにおいしいわ! あたしの弟の自慢のソーセージ、食べていいわよ!」


 みんなが飛びついて、一本ずつ手に持った。でも未知の体験だからなのか、あの強そうな魔人の皆さんが緊張している。ソーセージを恐る恐る、少し端っこから囓っている。


 正面のマーレが、目を見開く。そして、ちゅうちゅう吸ったり、ぺろぺろ舐めたりしながら、少しずつ食べる。

 ……後ろを見る。エファちゃんが、ちょっとその口には太いものを困惑しながら咥えている。

 レオン君も、白くて太いソーセージをはむはむしている。頬を染めて、「んっ……」とか言いながら食べてる。唇が艶やかに光る。

 この絵は……すごい。超滾る。




 ライ。

 グッジョブよ。

 狙ってやってはなかっただろうけど。


 でもお姉ちゃん、あなたを処刑します。


 だって、絶対リンデちゃんも食べたわよね。

 ……帰ったら問い詰めてやる、覚悟しろ!




「これが、ライさんのソーセージ! おいしい! ああ、私たちがやっていた料理風の何かは、なんと低レベルだったの……!」

「あはは、喜んでもらえて何よりです」


 マーレがとっても感激してくれて、あたしも笑顔になる。

 そう思っていると、予想外の方向から声が来た。


「本当においしいです。ミアさん、わざわざ私たちのためにありがとうございます。気配りができて、あなたは素敵な女性だ」

「あ、ありがとうございます! えっと、惚れてもいいんですよ!」

「ふふ、正直もう好きなのかもしれませんね」


 は、ハンスさーん!? ほ、本気ですか!?

 まるでもう即オッケーな空気にあたしが顔から火が出そうなぐらい、ああもうこれ口から火が出る! ドラゴンブレス吐ける! ってぐらいテンションアップしていたら、まさかの追撃が来た。


「おっとぉハンス、一人抜け駆けはいけないねェ! こうなった以上ミアさんのハートは私も狙ってるんだからさ」

「えっ!?」

「私の枠も残しておいてくれると嬉しいヨ、可愛い人間のお嬢サン!」


 フォルカーさん!? え、何これマジでどういう状況。


「てゆーか、こんだけ可愛い子が火加減のできる料理できて、どうして結婚してないどころか相手も見つからないのかわかんねよな」

「カールさん!?」

「オレ含めて、多分これ目の前で焼いて惚れない魔人族の男いないっすよミアさん。なあビルギット」

「ほんとだよねカール。おまけに自分を守れるほど強い、こんな女の子をほっとくなんて、私、人間の好みってわかんないなあ」


 しれっと言ったけどオレ含めてってカールさんもあたしに惚れたの!?

 どうしよう、料理に対するハードル低すぎる。いや、ライのソーセージだからなんだ。これにバリエーションが加わってスープ料理が毎日振る舞われるんだ。そりゃリンデちゃん即堕ちするわね。

 つーかこれ、リンデちゃんじゃなくてもライに一瞬で全員やられるわね。今からみんなで行くけど、ほんとに大丈夫かしら。


 ……い、一応、返事しないとね。ああ、なんて言ったらいいの、この状況。初体験過ぎて頭パニックよ。


「ええっと、まあ、その。ライが作ったモノだから、弟がいないと提供できない以上素直に喜んでいいのかわかんないけど、でも、その……今日あたし、人生で一番モテているから、えっとえっと、ありがとうございます。あたしもう嬉しくって、ウヘヘもうホントごめんなさいヤバイ超うれしいみんなあたし好みの美男子であたしみんな大好きですエヘエヘ……」


 何が言いたいのかわかんなくなっちゃったけど、あたしは顔真っ赤にしてデレデレ顔で頭をぽりぽり掻いて照れていた。

 なんだか男性陣からは微笑ましいモノを見るような目で見られたけど、もうほんと、イケメンの好意的な視線が複数やってきてるって事実だけで、あたしの全ステータスが2倍に跳ね上がっている気がする。




 魔人王国を紹介してくれてありがとう、リンデ。

 今この瞬間のために、あたしは産まれてきた。


 デーモン討伐? あんなんおまけよ。




 マーレが、ライに興味を示してきた。


「ライさん、本当にすごい方なんだね」

「姉のあたしが言うのも何だけど、世界中のデーモン討伐しまくったついでに現地の料理食べてきたんだけど、弟の料理って遜色ないのよ」

「そ、そんなに?」

「あたしが母さんの料理が好きだったのもあるけどね。リンデちゃんが更にいい食材、オーガキングとか持ってくるようになっちゃったから、母さん以上においしくて種類が豊富な料理どんどん提供しちゃうのよね」

「……」


 話をしていたら、マーレが急に、押し黙った。……あ、あれ? あたし今、何か変なこと言ったかしら?


 ……そう思っていると次の瞬間、マーレは叫んだ。


「クラーラ! ビルギット! エファ! ユーリア!」

「……!」

「は、はい!」

「ぴぃっ!」

「ハッ!」


「同じ女として、リンデちゃんとっちめにいくわよ!」

「……全力……!」

「! もちろんお供します!」

「あ! そうですね! 質問攻めです!」

「え、ええと……はいっ……。い、いいのかなあ……」


 あ、ごめんリンデちゃん。流れ矢があなたに刺さっちゃった。


 -


 ってなわけで、あたし達は魔人族プラス勇者のミアという、思いっきり魔王軍って感じのパーティで出てきた。ちなみに出てくる直前に、ソーセージをグスタフさんにあーんしたわ。

 反応は良好っていうか感激していて、ミアちゃん心の中で大勝利彫像の5体目の建造に成功したところよ。


 戻り道は、まずはあたしとエファちゃんとレオン君が先頭に立って、そのすぐ後ろをカールさん、そしてマーレ、ユーリアちゃん、一番後ろにビルギットさんの巨体。マーレの真上をクラーラちゃんが飛んでいる。強い三人でマーレを囲んでいる形だ。


「……ゴブリン……仕留める……」


 クラーラちゃんがちょっとつぶやいたと思ったら、片手を前に出して黒い線を飛ばした。全く何が起こったか分からなかったけど、ちょっと歩いていると、ゴブリンが5体ほど胸と頭に穴を開けていた。

 ……クラーラちゃん一人で十分ねこれ……。


 そう思っていると、クラーラちゃんが少し首を傾げながらも、二人のメンバーに明確な指示が飛んできた。


「……? ……ビルギット、後ろ、オーガキング。カール、前オーガロード。……私は左右。エファ、ミアさんと陛下に」

「防御魔法だね!」


 クラーラちゃんは返事をせずに、両手を左右に広げて黒い線をばんばん飛ばしまくった。多分、相当な数の魔物を倒しているんでしょうね。

 と思っていると、カールさんがいつの間にか正面に飛んでいた。直後、オーガロードの首が一個、近くに落ちた。あたしが「え?」と声を上げると、疑問を質問する前に、カールさんはふわりとあたしの後ろに降り立った。


「肉3体ゲット」

「おっ、やったね」

「道中困らなさそうだぜ」


 カールさんとレオン君がそんな会話していた。……これ、オーガロードを3体、今の一瞬で倒して、アイテムボックスに入れてきたってことよね。

 そう考えながらカールさんを見ていると、その姿の後ろから、ビルギットさんが見えた。


 ……ビルギットさんは、オーガキングの頭蓋に指を食い込ませていた。そして改めて思う。ビルギットさん、本当に大きい。力を失ってぶらりと手足を伸ばしたオーガキングの巨体を、顔の高さに頭を持ってくるように上に持ち上げた。オーガキングの足が爪先立ちみたいになっていた。……間違いない、ビルギットさん、オーガキングより少し大きい。

 3メートルは間違い。3メートルより4メートルの方が近いかも、ビルギットさんの身長。そういえば最初は座っていて、それででかかったものね。

 ビルギットさんは個体の身の丈を確認し終えたのか、自身のアイテムボックスにオーガキングを入れた。


 時空塔騎士団、リンデちゃんの上の第一刻クラーラちゃんに、すぐ下の第三刻カールさんと、第四刻ビルギットさん。

 ……分かってはいたけど、とんでもない強さだ。そしてここにはヒーラーとキャスターとエンハンサーつき。確かにこれは、最強のパーティだわ。

 マーレが全幅の信頼を置いているのも分かる。人類最強のあたし、このメンバーじゃ下から数えた方が早いかもしれない。そして魔王様は、あたしと同等。


 ……心の奥底から、敵対しなくてよかったと思う。


「私と同じということは、間違いなくオーガキングですね。上位個体の筈ですが、この辺で出てくるものなのですか?」

「違うはずよ、ビルギット。この辺は普通のオーガでも、人間は弱い者ならば討伐隊を組まなければ勝てません」

「えっまじっすか陛下、じゃあオレの討伐したロード3体って」

「手練れのパーティでも、一体を討伐するのにはそれなりに苦労する。3体同時なんて人間の王国の上位から引っ張って来ないと、間違いなく死者が出るでしょう。……そうだよね、ミア」

「ええ、そのはずよ」


 オーガロードの大量発生。

 オーガキングの出没。

 あたしは、胸騒ぎがした。


「このパターン、知ってる」

「……パターン?」

「ライは、ある日オーガキングに襲われた。オーガロードはあたしの両親を殺した相手、その上位種のオーガキングはライでは絶対に勝てない相手。そいつを一瞬で倒したリンデちゃんに感謝を示したのがライとリンデちゃんのはじまり」

「……」

「その後、オーガロードが出たの。40体以上。オーガキングも出た。そして……村にはゲイザーも出た」


 あたしの出した単語に、エファちゃんと、レオン君と、ユーリアちゃんが反応した。クラーラちゃんは反応してない……ってことは、クラーラちゃんは男デーモンを刺した後、女デーモンを見た瞬間に撃ったんだろう。


「村に、その後、デーモンが現れた」

「……まさか……」

「そして、そこの驚いている三人は……島の近くにいたデーモン野郎がゲイザーを召喚してあたしにけしかけたのを見ている」

「……!」


 あたしは、みんなを見た。


「走りましょう。嫌な予感がするわ」

「わかった。……クラーラ! カール! ビルギット! 足の速いあなたたちは先に王国へ! 守りはエファだけで十分、私たち5名もすぐに追いつく!」

「えっ、でもオレら陛下を守らないわけには」

「恐らくリンデはもう行っている! 相手が2対以上の強いデーモンなら……出遅れると後悔することになるぞ!」

「っ……! わかりました! クラーラ! ビルギット!」

「……ん……!」

「了解!」


 三人はマーレの命令を聞いて、飛び出そうとしたところで、あたしは叫んだ。


「待って!」

「な、何ですかミアさん!?」

「どっちに行けばいいか、どの城が王国か分かっているの!?」

「あ……」


 三人はそのことを考えていないようだった。


「レオン君、あたしに強化魔法をかけて! 足が速くなるように!」

「え? えっと、わかりました! ……『フィジカルプラス・ゼクス』!」


 レオン君はあたしに強化魔法をかけた。瞬間、あたしの体に活力が漲る。あたしはレオン君を……お姫様抱っこした!


「え、あの……!」

「マーレ! エンハンサーを借りていくわ! デーモン討伐、彼のおかげでできたから!」

「わかった、無理しないでね!」

「約束しかねるけど、友達を悲しませるようなことはしないわ!」


 あたしは、マーレに確認を取ると、次にユーリアちゃんを向いた。


「ユーリアちゃん!」

「は、はいぃっ!」

「お兄ちゃん借りていくけど、いいわよね」

「え、ええもちろんです! お兄ぃ自身がよければ、あたしからは文句を出すことは一切ないです!」

「わかった!」


 あたしは二人に確認を取ると、「ついてきて!」と叫んで、足に力を入れて走った。直後、後ろからあたしを追いかけて三人がついてきた。




「レオン君、あたしの首に腕をかけて」

「え、え」

「落としそうで結構力いるのよこれ、だからお願い」

「わ、わかりました」


 レオン君が、あたしの首に腕を回す。至近距離にレオン君の綺麗な顔が来る。あたしは、レオン君を抱きしめながら、走った。

 ちょっとにおいがする。美少年の香り。ごめんライ、あたしもあんたのこと言えないわね。やっぱり好きな異性の匂い、嗅いじゃうわ。


 好きな、異性!

 意識しちゃったらもうたまらない!

 下半身へのエネルギーが限界突破してる!

 多分今リンデちゃんと同じスピード出てる!


 とテンションが上がっていると、レオン君が声をかけてきた。


「ミアさん」

「ん?」

「僕は、ミアさんのこと、料理が出来なくても、好きですから」

「……え?」


————あたしは、言われたことを頭で反芻して。

 ようやく理解した。


 ハンスさんは、ソーセージを料理する気配りの出来る私に、素敵な女性、好きかもしれないと言った。

 フォルカーさんは、ソーセージを食べて、あたしのハートを狙っている、自分の枠を空けて欲しいと言った。

 カールさんは、ソーセージを食べて、火加減ができるあたしの相手がどうしていないか分からないと言った


 三人とも、あたしのソーセージを食べた。

 違う。

 違うの。

 三人は、()()()ソーセージを食べた。


 でも、レオン君は。

 ソーセージを食べる前に言った。

 あたしとなら、いいと。


 ……。

 そうか。

 レオン君だけは。

 ライ補正がないんだ。


 ()()()()()()()()んだ。


 そのことを理解すると、急激に顔が熱くなってきた。

 急に来た。超級バインド魔法で心臓をギチギチに絞め潰されている。

 デーモンのパンチなんてハエの体当たりだったってぐらい、胸が苦しい。

 心臓が喉に来て、破裂しそうなぐらい動いているようだった。


 今まで気軽に触ってきたレオン君に、一気に申し訳なくなってきた。

 グイグイ押して、徹底的にメロメロにして、あたしのモノにしたいのに。

 あたしは意識した瞬間、自分の声帯が石化の呪いで動かなくなった。




 ライのこと、ヘタレで奥手だと思っていた。

 でもリンデちゃんと出会って、甘い言葉に照れもしなくなった。


 あたしは、男に対して積極的に押せ押せでやってきた。

 でもレオン君を見て、何をするにも嫌われたくないと怖くなってる。




 間違いない。

 奥手は、あたしだ。




「……レオン君」

「は、はい!」

「あたし、本当に男性って相手にした経験なくて、いざこう言われちゃうと、自分でどうしたらいいかわからないの」

「え?」

「その……あたしも、その、レオン君、すごく気に入ってるから。本当に、大好きなの。でも本気で好きになっちゃって、どうすればいいかわかんなくなっちゃって。……ダメなあたしがちゃんと自分から動けるまで、待ってて、くれるかしら……」

「ミアさん……わかりました。僕はミアさんに、いつ何をされても怒りませんから。陛下じゃないですけど、あなたに命を救われた以上、殺されても怒りませんから」

「……わかった、ありがと」

「はい」


 あたしは、自分というものをようやく認識した。

 そして、一番良い返事、もらえた。


 本気の恋心を知った。

 きっと、本当の意味で、この日のためにあたしは生きてきた。


 ライ、あたし、あんたに追いつくわ。

 待ってなさい。




 ……よし!

 あたしは意識を切り替えた。


「さて、レオン君。ここからは真面目な話よ」

「はい」

「エンハンサーのレオン君、強化魔法を使った自分と、陛下……つまりあたしと、どっちが力強いと思う?」

「陛下です」

「それを聞いて安心したわ。じゃあ、その時はありったけの強化魔法使って、デーモンと戦う時は全力サポートして」

「もちろんです」

「ありがと」


 あたしは最後にそう言うと、黙って走り出した。

 後ろの三人は、あたしがどこに向かっているか判断するため、時間差で距離を取ってついてきてくれていた。


 -


「……あれ、なんですよね?」


 走りながら左隣に、カールさんがやってきていた。やっぱり本気だと、強化したあたしより足速かった。ってことは、やっぱりリンデちゃんのスピードにはおいつけてないわね。

 ビルギットさんも右隣にやってきていたけど、あたしに何と言ったらいいのかわからないのか、声をかけてこなかった。走りながらあたしの方ではなく、正面を向いていた。


「……ミア……私、先行する……!」

「くれぐれも上から! まだ王国上部は全然理解がないと思う、降りないでね!」

「……わかった……!」


 クラーラちゃんが、それまでゆっくりついてきていたんだろうな、というような瞬速で、煙の先へと飛んでいった。




 そう、煙だ。


 ビスマルクの城下町は、燃えていた。

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