意外な人物が捕まっていました
海賊達が何か宝石や商品を奪っている可能性は考えていた、本来こいつら海賊はそういうものだからだ。
そしてそんな海賊達の行為には、当然身代金などの要求もあれば、人質をそのまま奪っていくというものもある。
しかし想定していなかった、人質がいた場合はどう対応すればいいのか。
とりあえず、まずは直接会いに行こうか。
「わかりました、リンデさん。僕をその部屋まで案内してください」
「了解ですっ!」
僕は海賊達の間を抜けて、リンデさんの後に続いて海賊の船に……乗り込む直前、自分たちの船で座っている海賊達に言った。
「ちなみにお前らに言っておくけど、そっちの灰色の子はそっちの大きい人より強い上に、人間を刺すことにあまり躊躇いがないからな。エルダクガ王国でも一人刺してきたところだし」
殺してはいないけどね。でもそのことは伏せるよ。
精々想像上で、勝手に怖がっていてくれ。
……それにしても海賊からの注目が多いな……僕はそんな珍しくないはずだけど。
自分たちの船でもそうだったように、海賊の船に乗り込んだ時も僕に視線が集中した。
一体何なんだ……?
「……おい、あんた……」
ここで素手で膝を突いている海賊が、僕に話しかける。
「何?」
海賊に対してやや不機嫌そうに答えると、海賊達はお互いの顔を見合わせる。
……ほんとに一体何なんだ? 僕に聞きたいことなんてあるのか?
やがて意を決したのか、皆の代表のようにその海賊が僕に質問をする。
そしてようやく、今までの理由が分かった。
「あんたは、魔族しかいない船の人間なんだよな……? あんたが魔族を従えてるのか? それともあんたは何か理由があって捕まってるのか?」
…………。
そうだった、普通に考えれば『魔族の中にいる人間』の僕の方が珍しいんだ。五人中四人を少数派みたいに扱う方がどう考えてもおかしい。
彼らから見たら、「魔族が基準のグループの中に、一人だけ混ざった例外の人間」と考えるのが自然だろう。
だけど、嘘はつかない。
「僕はこの中だと多分一番弱い。僕の旅に、四人の魔族が協力してくれている形」
その発言はやはり意外だったのか、海賊達はざわざわと騒ぎ出した。
「おいおい、冗談だろ。なんか性格悪いとかあるんじゃねえか」
「それこそ悪い冗談だ。魔人族の皆は優しいし、礼儀正しいし、何より」
僕はそいつを大いに見下しながら言った。
「理性的で誇り高い魔王に育てられた魔族達は、どんなに強くても丁寧で真っ当な性格の人しかいなかったよ。特に、海賊なんて行為をするような奴は一人もいないね」
その言葉に反論しようとして、結局何も言えず言葉を呑み込む海賊達を尻目に、僕はリンデさんにと一緒に船内に入っていった。
-
中にも海賊がいたけど、皆リンデさんの姿を見てすくみあがり、動けずにいた。
まあ当然だろう、何故なら海賊達には皆、武器がない。
あの特徴的な曲刀の鞘だけが腰にあり、全員が素手の状態だ。ちなみにリンデさんは、ずっと黒いアダマンタイト製の剣を持っている。
威圧のためか、時空塔強化が入って紫のオーラをずっと棚引かせている。
この姿を見て襲いかかろうとする者はいないだろう
船内は広く、海賊はそれなりの人数がいた。
まさに一大海賊団、といったところだろう。もしかしたら懸賞金など出ているかもな。
……これだけの人数が悪事に手を染めて、誰も理性的になったりしないものだろうか。
いや、むしろ……人数が集まることで、同調圧力が生まれて自分だけコミュニティに疑問を持つということが出来なくなってしまったのだろうな。
そして全員で悪事を働き、それが普通だと、日常だと思うようになる。……襲われる側の平穏な日常というものがなくなるなんてことは、考えない。
やはり同情の余地はないな。
そしてそんな日常が脅かされた人が、今目の前にいる。
「…………」
警戒心露わに此方を覗き込んできたのは……なんと、エルフだった。
耳が長い種族であり、魔法に長けた種族だ。さすがに初めて見た。
このエルフも勿論、長い耳があったのでそう見分けた。こんなに長いんだなエルフの耳……。
エルフはずっと、僕の方を注目しているみたいだ。
少し目線がリンデさんの方に行き、そしてまた僕の方に戻って来る。
「ら、ライさん、どうしましょうっ!」
「落ち着いてください。リンデさん。僕も正解を知っているわけではないですし、それに下手なことにはならない、と思いますし」
僕はそのエルフの女性の近くで膝を突き、慎重に声をかける。
「僕はこの付近で移動をしていた、別の船の者です。海賊に襲われたので返り討ちにしたところですが、あなたはこの海賊達に捕まっているということでいいですか?」
「……え!?」
僕の言葉に、初めてエルフの女性が反応した。よかった、言葉は通じるみたいだ。
「あなたがこの海賊達を一人でやっつけたの!?」
「なんでそうなるんですか。僕のパートナーの魔人族が全部無力化してくれたんです」
苦笑しながらも軽く答えると、隣から「ぱ、ぱぱぱーとなあ……うふ、えへ、えへえへへ……」と露骨に照れて喜ぶそのパートナーの声が聞こえてきて、感染したように僕も照れてしまう。
赤面しながら、俯いて頭を掻く。……うう、初対面のエルフにこんな恥ずかしい姿を見られるとは……我ながらこういうところにいつまでも頭が回らないのは、そういう症状なんだろうか。
エルフの女性は僕とリンデさんを見比べて、何やら感心したように「へええ〜……」と呟いた。
「指輪もしている。あなたたち、本当にパートナー同士なのね」
「はい、そうです。だからリンデさんは、僕の味方ですよ。……エルフに関して僕は詳しくないのですが、人間に敵対関係である、とかそういうわけではないですよね」
「そうよ……と言いたいところだけど、この状況じゃあね……」
そりゃ、そうだよな。
人間から一方的にこんな目に遭っておいて、人間を味方だと思えるか何てわからない。
「海賊に襲われた僕が代わりに謝るのも変かとは思いますが……それでも、ご迷惑をかけてすみませんでした」
「あ、ああっいいのよ! あなたが助けに来てくれたってことぐらいは分かるもの! 魔族もさすがに驚いたけど……でも、海賊と敵対関係にあるというのなら、信頼できるわね。あなたが信用して素手で隣に立っている時点で、怖い相手ではないとなんとなく思うし。何より味方だと頼もしそうだものね」
どうやら、このエルフの女性と信頼関係を得ることができたようだ。
リンデさんに頷き、腕についてある鉄の枷を外してもらった。首にあるものも、ぱきりと腕力一つで破壊してみせた。やっぱりリンデさん、普段でも相当な怪力だよなあ。
夫婦げんかみたいなの、絶対できないなー、なんて。まあリンデさんと喧嘩になる可能性とか、万に一つもないって確信してるけどね。
「そういえば紹介が遅れたわね。私はクラリス、あなたは?」
「ライムント。ライと呼んで下さい」
「私はジークリンデですっ! リンデってみんなから呼ばれてます」
「よろしく。ライ、リンデ」
クラリスさんは自由になった両腕に満足そうに笑みを浮かべると、僕達と握手をした。




