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海賊船の相手をします

 帆を張っていて、しかも向こうの甲板には粗暴そうな男。


「あれってもしかして……!」

「恐らく、海賊でしょうか……」

「うわあああどうしましょう!」


 リンデさんとビルギットさんの会話を聞いて、僕もその可能性を考えた。

 しかし……少し考えてみて、不思議に思う。


 僕達は、船旅をして二日目だ。ここまで来るのは簡単ではなかったように思う。

 特にこの船自体がかなり高性能で、しかもそれなりに高速移動することもあって、陸地からは離れているように思う。


 もう一つ。

 僕達は、ここに来る前に海の魔物が大量発生する地帯を抜けてきた。

 リンデさんとビルギットさんが楽々と倒してきたけど、冷静に考えて、あのシャコガイって人間が倒せるような魔物だろうか。

 だってあれはビルギットさん以上のサイズだ、オーガキング以上の魔物が硬い殻に身を守りながら襲ってくるとして、果たして勝てるか?

 特に最後の、海の竜みたいな魔物。あまりにもあっさりビルギットさんが絞めてしまったからわからなかったけど、やはりあの魔物は半端なく強かったはずなのではないだろうか。

 ……本当に、出落ちもいいところだったけど。


 つまり、そこから考えると目の前の海賊は……。


「もしかしたら、僕達とは別方面の大陸から来た海賊なのかも」

「海賊……! ライさん、どうしましょう!」

「リンデさん、相手を殺さない程度に戦力を奪うことはできますか?」

「う、うううどうでしょう……とりあえず距離がありすぎて、近づかないことには……」


 リンデさんと話している間にも、ユーリアが向こうの船に向かって魔法を撃っていく。

 しかし、やはり船に直接攻撃は加えない。……みんな、人間を怪我させるということにかなり慎重になっているようだ。


 ……こんなに、魔人族の皆は人間のことを気遣っているというのに。

 本来人間は、魔王率いる魔族が本気で攻めてきていたら、一瞬で滅んでしまうってぐらいに弱いというのに。


 だんだん、海賊の一方的な先制攻撃に腹が立ってきた。

 恐らくこの攻撃は、船の正面に付いている黒い筒から出ているものだろう。


「……『フィジカルプラス・ゼクス』」


 僕の目の前でユーリアが魔法を使うが、その間も向こうの船の動きを見ていた。

 ……やはり、煙が上がっている。向こうからこちらへ、あれを使って攻撃していると見て間違いないだろう。


「『マジカルプラス・ゼクス』」


 強化魔法の準備が終わった。

 弓を構えて、正面の船を見据えて矢を持つ。


「……!」


 集中して、無言で射る。

 魔矢はまっすぐ船へと飛んでいき、そして相手の船の正面についた黒い筒に直撃した!

 直撃した衝撃で相手の前面は一気に吹き飛び、その武器を準備しようとしていた他の船員の呆然とした顔が見える。


 ……改めて思うのだけれど、僕はよくこの距離が見えているよな……。

 こんなに目が良かっただろうか。もしかすると肉体強化魔法のお陰かな?


「ユーリア、負担を強いてすまない。もう大丈夫だ」

「ライ様、ありがとうございます! どうしても私では、本当に攻撃してもいいのか判断に苦しんでいましたから」


 やはり、ユーリアは攻撃をためらっていたようだった。

 それはそうだろう。ユーリアは雷や嵐を発生させるような魔法を使うことすらできてしまう。

 というかどう考えても、あの高速で飛んできた恐らく鉄の塊らしきものを魔法でタイミング良く撃ち落とし続ける方が圧倒的に大変だろう。

 つーか僕なら、相手が矢を撃ってきたからってこちらも矢を使って撃ち落とすことで時間稼ぎをしようなんて無謀すぎてとても思えない。

 ところがユーリアは、そんな無茶を迷いなく判断してしかもできてしまっていた。


「攻撃、人間だったら相手が先制攻撃してきた時点で正当防衛が成立する。むしろよくうまく間を取る判断をしてくれた、助かったよ。……しかしあの船を、果たして放置していいものか」

「……船の中は、相変わらず敵対的ですねー。どちらかというと、近づいてきている……?」

「ってことは」

「乗り込んでくる気だと思います」

「分かった。みんな今のは聞きましたね?」


 三人が頷く、僕は……思い切って、船に接触する方向でいこうと決めた。

 相手の正体が何であるかは気になるところだし、なにより一方的に攻撃しかけてくるような相手がまともだとは思えない。だからこちらとしても、人間としてあれを放置しておくわけにはいかないのだ。

 迷いなく撃ってきたところから、恐らく既に何らかの被害を出している船だと思われる。

 ならば選択肢は一つ。ここで、止める。


 もう一つ。海賊がどんなに屈強でも、僕達のパーティが負けるとは到底思えないからだ。

 今あいつらを確実に捕まえられるチャンスがあるとすれば、それはもう姉貴が来るか僕達が行くかしかない。

 ならば選択肢は、後悔しない方を選ぶのが最良だろう。


 ……今、自然とそう考えてしまっていたけど。

 この『後悔しない方を選ぶ』という考え方は、間違いなくマーレさんがリンデさん達に行っていた教育方針だ。


 改めて僕は名実ともに、中身も含めて魔人王国の一員になったのだなと実感できた。

 こんな時だけど、その実感はもちろん、今の僕には嬉しく感じられた。


 アマーリエ様の国民として、そしてマーレさんの友人として誇りを持っていこう。


-


 船を接近させて、海賊船の近くに行く。

 向こうは……おっと、弓矢を撃ってくるか。


「『ウィンドカッター・クイント』」


 さらりと、かなり高度な風魔法を使って飛んできた矢をまとめて吹き飛ばし、海の中に沈めてしまうユーリア。

 その様子を見ながら、僕は相手の船がこちらに平行して動くように調整してきていることに気付く。

 その動作は、間違いなく……そうだ。動きながら長い木の板をこちらへ倒し、橋をかけるつもりなのだろう。

 そうやって略奪を続けてきた。だから今回も同じ方法で成功すると思っている。

 ましてや今回は、船を破損させた相手。絶対にこちらに報復したいと思っているだろう。

 だから、焦る。果たして自分たちの武器はどうやって奪われたのかと。


 ————かかった。


 頭にそれぞれ赤い布を巻いた、横縞服の男が一斉に乗り込んでこようと身構える。

 そして……先ほどから身を隠してもらっていた、三人に登場してもらう。


 橋がかかったということは、道が繋がったということ。

 相手は自分たちの操舵がうまくいったと、橋を出すのも上手くいったと思っていることだろう。


 しかし、それはあくまで自分達視点の話。

 当然、こちらからも乗り込める。


 海賊が橋に足をかけた瞬間、もう相手の曲刀シミターが、キィン! と大きな音をたてて宙を舞っていた。


「……ライさんを害そうというのなら、悪い人間は私たちが責任を持って無力化しないといけませんね」


 正面に立ったリンデさん——恐らく初めて見る魔人族の容姿——を見て、恐怖に尻餅をつく海賊。

 その手から離れた曲刀シミターは、海の中へと音もなく消えていった。


 さあ、反撃開始だ。

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