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今後の方針を決めました

 ラムツァイトの洞観士と、ラムツァイトの召喚士のハイブリッド。

 自分で言ってて、無茶苦茶だなと思う。


「ら、ライさんが……二つの勇者ってことですか!?」

「多分ですけど、そう考えると辻褄が合うんです。いや、むしろそうとしか考えられないですね」


 少し考察して、全て整合性が取れたものがこれだった。そして同時に、自分の洞観士という属性そのものから得られた直感がこれなのならば、余計にこの結論を後押ししているように感じる。


 ……参ったな、これ。


 姉貴を羨んで、それでも何も出来ずに村で待っていただけの五年間だった。 

 とんでもない。

 完全に姉貴より恩恵もらいまくってないか?


 勇者の村の村人だった僕は、いつの間にか魔族のみんなに囲まれる勇者になっていた。


 こんなことになるなんて、ほんのすこし前までは思ってもみなかった。

 ……わからないものだなあ……。




 しかし、一つ参ったことがある。

 この恐らく洞観士と比べて薄いと思われる、召喚士の能力だ。

 つまり、どういうことかというと……。


「ビルギットさん、申し訳ありません」

「え、あの……どうしてライ様が謝るのですか?」

「……ビルギットさんの、村への戻し方がわかりません……」


 そうなのだ。


 召喚したはいい。

 召喚するだけしておいて、戻し方がわからない!


 一見便利なようだけど、これはかなり一方的な能力だ、相手に失礼だし不便である。

 まさに『召喚できるだけ』だ。


 まあ……さすがに召喚士としての能力まで完璧なんてのは高望みしすぎか……。


「ビルギットさんには、村まで帰っていただくにしても……その、馬車などに乗れませんし、走って帰るにしては地形が分からないはずです。どうすればいいのか……」

「あ、あの、ライ様」

「はい」

「わ……私は、不要、でしょうか……」


 ビルギットさんが、不安そうな顔をして、しかもどこか泣きそうな震える声をしながら言うものだから、思わず強い声で否定した。


「とんでもない! ビルギットさんは本当に助かりましたし、今後もあんなアダマンタイトゴーレムが各地で暗躍するようなら、ずっと一緒にいてほしいぐらいです!」

「ず、ずっと一緒に……!」

「ですが、ビルギットさんは村でやることがあるでしょう」


 マーレさんとカールさんとビルギットさんは、ずっとトーマスと一緒に行動していた。

 あの村でビルギットさんが急にいなくなったら、そのあたりの人員補充が他の人にできるとはとても思えない。


 しかしビルギットさんは、そんな僕の予想をあっさり否定した。


「あの、いえ、そのことに関しては全然……」

「……え? 全然って、やることがですか?」

「はい。ライ様はいらっしゃらなかったので知らないのも無理はないと思うのですが……」


 ビルギットさんの話によると、既に村の開拓は完全に終わっており、建設も手伝いつつも細かい部分を担当できないビルギットさんはあまり役目がないらしい。


「特に、どんなに大きい木材でも私もカールも持てる上、カールが家の中に入れる分、私より上手くサポートに回れるので……」

「それで、今は」

「はい。村では本当に良くしてくれているのですが……正直に申し上げますと、少し肩身が狭いのです。何の役目も持てない私が、十人分は一丁前に食べてしまい……それを誰も咎めないが故に……」


 村で一人、彼女はそんなことを気にしていたのか……。村の土地とはいえない、南の人類未踏の魔物の森をほぼ一人で開拓してくれた彼女の働きは、まさに貴族の領地をまるまる一つ住居用に開拓してしまったという功績。

 報酬としては、いくらもらっても安いぐらいだ。だから、何も悩む必要なんてないのに。


 しかし、そういうことなら。


「でしたら、僕たちのパーティに参加してはどうでしょうか」

「よ、よろしいのですか……?」

「先ほども言ったとおり、アダマンタイトゴーレムがまだ現れるかもしれません。リンデさん一人に相手をさせるのはあまりにも怖いですし、僕もリンデさんに危険なことはさせなくないですから。それに」

「……それに?」


 僕はビルギットさんに、自信に満ちた表情で頷く。


「リンデさんやみんなを守ってくれるのなら、十人分でも二十人分でも食べても、働きに見合った食事量だと思いますよ」

「あ……!」


 村でのビルギットさんの様子、とてもよく想像できる。

 こんな優しい性格をしているビルギットさんが、何もしないままに皆の負担になっていることを気にしないはずがない。

 きっとこの人は、口汚く罵られる以上に、そんな自分の状況に一人で悩みを抱えていただろう。


「特にユーリアとアンの、小さい二人に後ろを任せていたのが現状です。二人は強いですが、不意打ちに不安がないわけでもありませんでしたから」

「そ……そういうことでしたら……!」

「リンデさんはどうですか?」


 僕の相談に、リンデさんも頷いた。


「うん、あのゴーレムがまた現れたりしたら、ちょっときついかもしれません。ビルギットさんなら大丈夫。よろしく、ビルギットさん」

「はい、またお役に立つことができればと思います」


 よし、これで旅がますます盤石になった。




 こちらの話が一旦まとまったところで、ファジル様がやってきた。


「何やら話はついたようね。そちらの方は……その、ライムントのご友人? でいいの?」

「はい。ビルギットさんは魔人族の中でも特に僕が信頼をしている一人です。ビルギットさん、こちらはこの国の王の娘である、ファジル・エルダクガ様です」

「お、お姫様でいらっしゃいましたか……!」


 ビルギットさん、すぐさま一歩引き、片手を胸に乗せて膝を突く。


「お初にお目にかかります、魔人王国女王アマーリエ直下『時空塔騎士団 第四刻』ビルギットと申します。ライムント様の部下として、粉骨砕身働く所存です。ファジル様のこともこの身に代えてでもお守りいたします、見苦しい姿とは存じますが、どうか大きな盾とでもお思いいただければと思います」


 ファジル様は、ビルギットさんの挨拶に一言「へえ……」と反応した。


「ビルギット、と言ったわね」

「はい」

「アマーリエ様の教育はよく行き届いているのですね、感動しました。あなたの挨拶で、魔人王国への評価が上がりましたよ、胸を張りなさい。あなたともリンデ同様に、友人として接するわ。よろしく、ビルギット」

「……! へ、陛下のことを……! 何よりも嬉しく思います! 友人とは身に余る光栄です、よろしくお願いします」


 ファジル様、相手の立て方が上手い。

 ビルギットさんを褒める前に、マーレさんを褒めた。あの人を慕っている魔人族の皆からしたら、これ以上なく嬉しいことだろう。


「……私の民も、これぐらい好いていてほしいのだけどね……」

「……」


 ファジル様はぽつりと呟き、ハリムの方を見た。ハリムはさすがに居たたまれず、視線を逸らした。


「話すことはもう全部終わったかしら」

「はい。それでは戻りますか?」

「ええ」


 ファジル様がアンにハリム連れてもらって、ハンダル家から出た。

 問題解決、これでようやく安心してアブラハム様に報告できる。


 そしてここからが、本当の勝負所だ。


 船を、貸していただく。場合によってはもらう必要が出ると思う。

 そして食材の丸い島……マナエデンを目指す。

 目的地まで、あともう少しだ。

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