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僕の新たな秘密を知りました

アクセスPVが500万を超えました!

なんだかあまりに大きくて現実感がない数字ですね……! ありがとうございます!

 ハリムは、僕の背中を見つめて……やがて気落ちしたようにがっくりとうなだれた。


「……そうか、本当にあのミア様の弟なのか……」


 ようやく納得したようで、大きく溜息をついた。

 アンの隣に立ち、ハリムを正面に見据える。


「……そうなのですね……」

「今更かしこまらないでくれ、僕はそういうつもりはない。……姉貴とは、面識が?」

「三年前、サンドワームの群れに馬車が襲われた……何台か、砂漠の地中深くまで持って行かれて……」


 ということは、ハリムはその時に自身の財産を奪われていたことになる。

 事業の失敗や今回の件にも関わってくる話だろう。


「あの時は、それでもまだ自分だけは助かったから立て直しができた。今のこの国があるのはミア様のお陰だ」

「お陰って言うだけあって、別にこの国が嫌いってわけじゃないんだよな」

「もちろん、育った国に愛着はある。しかしな……」


 ハリムは、懐から指輪を出した。


「自分だけ、手に入らないと……どうしようもなく、何もかもが嫌になる。このような世界、なくなってしまえばいいと」


 ハンダル家、思った以上に追いやられていたらしい。

 先のカリムとモハメドの二人がずいぶんと家の雰囲気もみずぼらしくなったと言っていたが、既に崩壊寸前だったのか。


 ……いや、待てよ。


「聞きたいことがある。灰色の巨大な魔族……デーモンの王には、何と言われたんだ?」

「デーモンの王……奴か。王家の財宝と、姫を狙えという話が出た。手順は簡単、召喚用の魔石を解放するだけだ」


 魔石の解放……それだけの、ことか。

 いや、それだけのことをハリム・ハンダルにやらせる理由が重要だ。


 間違いなく、悪鬼王が自分の影を見せないこと。

 この王家転覆の一連の事件を、デーモンが裏で糸を引いていると思わせないことが目的だ。

 理由はわからないが、悪鬼王は自分が表舞台に立つことを避けている。


「それで、実際にドラゴンを召喚したと」

「召喚されるものがドラゴンとは知らなかった。だが儂には、もう全てがどうでもよかった。運がなかったのだ……」


 運がなかったって……まったく、はた迷惑なやつだ。


「姉貴に救ってもらったんなら、意地でも生きるように頑張らないと。姉貴だって世界中旅してるんだから、助かるのだって相当運が良くないとできないよ」

「じゃあ君は、危機に陥ったことはあるのか……?」

「あるというか、姉貴は勇者で世界中の人を救っているけど、両親は救えなかった」


 勇者になる前の話だけど……ここでは伏せておこう。


「そう……か……」


 それっきり、ハリムは黙りこくった。


「————ライムント、後は任せてもらっていいかしら」

「ファジル様、わかりました」


 場所を交代して、ハリムの処遇を任せる。

 ここから先は、この国の問題。

 ちょっとした事件ならともかく、今回は国家を揺るがしかねない事件。

 僕が口出しする権利はないだろう。


 アンに引き続きハリムの監視をお願いして、リンデさんの方へと歩いていくけど……。


「…………」


 なんだか、こっちに視線を合わせようとしない。

 ちらちらこちらを見て、僕と目が合うとすぐに気まずそうに目を逸らした。

 ……ど、どうしたんだ、リンデさん……。


 ビルギットさんに助けを求めるも、なんとビルギットさんも僕と目が合った瞬間に顔を背けた。


「え?」

「あっ」


 僕の漏れた声を聞いて、遠慮しがちにこちらへと向くビルギットさん。

 僕の方を見て……いや、やっぱり逸らそうとしている。


「どうか、したんですか?」

「……ライ様……その……リンデさん、私が言ってもよいのでしょうか……」

「うう〜っ、おねがいします……」


 何故かリンデさんに許可を取って、ビルギットさんが恐る恐る声を出す。


「あの……ライ様……」

「は、はい……」


 そして僕は、ビルギットさんの一言で、ようやく事態が飲み込めた。


「……半裸でいらっしゃるライ様が、汗をかきながらこの国の燦々とした陽射しを浴びて艶めく姿が……不躾なのですが、どうしても、い、淫靡に感じてしまいまして……」


 …………。

 そうだった、背中の紋章を見せつけるために、上半身脱いだまんまだった。


「えっとえっと……つまり、今のライさん、なんかむわっと色っぽくていろいろすごいです……ちなみに全然嫌じゃないです……」


 僕は無言で、服を着た。

 さっきまで堂々と貴族に説教していたわけで、戻ってきてみたらこれとかすごく恥ずかしい。


 ……やっぱ僕には、姉貴みたいに堂々とリーダーとして無双するのは似合わないね。

 等身大の自分らしく、みんなのために頑張ろう。


 ————ちなみに、二人の後ろでユーリアが満面の笑顔で妄想の世界に入っていたことは、黙っておくことにした。


 -


 さて、諸々の問題を後回しにしていたけど、何よりも真っ先に聞きたいことがある。


「とりあえずビルギットさん……は、ビルギットさんですよね?」

「え、ええ……ライ様。確かに私は、村であなたに忠誠を誓った魔人族ビルギットで間違いないです。」


 ……忠誠を誓われてたっけ?

 ま、まあビルギットさん本人で合っているようだ。


「助けに来てくれたことは素直に助かりました。リンデさん……リンデさんの剣って、多分アダマンタイトですよね」

「へ? え……あっ、そういえば色とかそっくりですね」

「多分同じなのだと思います。ビルギットさんが来てくれなければ、リンデさんは同じ材質のゴーレムと打ち合い続ける羽目になり、恐らく突破口か見つからなかったと思います。ありがとうございました」

「いえ、お礼を言うのは私の方です。……私は嬉しいのです。ライ様が私へ救援の声をかけてくださって。いつも私は食べさせていただいてばかりで……いつか、貴方のお役に立ちたいと、ずっと思い続けていましたから」


 ビルギットさんは、本心から嬉しそうに。大切なものを仕舞い込むように、両手を胸に当てた。

 本当に、淑女で心優しい戦士だ。まったく、こんな可愛い人を怪物だなんて、視力が全くないのか心配になるね。


 ……しかし、今回の問題はそこではない。


「ビルギットさんは、事前にこちらまで来ていたわけではないですよね」

「はい、カールとともに、村の外れで少し木陰で涼んでいた時でしょうか。突如私の足元が光ったのです。……ですが、私はすぐに、ライ様の魔法だと分かりました」

「僕の魔法だと分かったのですか?」

「はい。ですからカールには、大丈夫だと伝えました。そしてライ様の助けを呼ぶ声が聞こえて……」


 そんな、ことが……。


「ライ様が、まさかここまで高度な召喚魔法を使いこなせるなんて思いませんでした。マグダレーナ様と、相当な鍛錬で————」

「いえ、僕も召喚魔法を使ったつもりはないのです」

「————習得して……らっしゃらない、のですか?」


 首肯する。やはり皆、驚いていた。

 しかし僕自身も驚いている。頭を働かせる洞観士とは違って、召喚などという高度な能力が備わっている自覚さえないのだ。


 ……何か理由が、あるはずだ。

 必要な時に、必要な人が来るなんて、そんな都合のいい能力なわけがない。

 こういう時こそ、洞観士の出番だろう。

 意識して使うわけではないけど……僕の能力を使って、僕の能力の秘密を探り出してみよう。


 そもそも召喚魔法自体が通常の魔法ではないように感じる。

 マグダレーナさんは僕に対して『全ての魔法を覚えた』と断言した。

 つまり僕に使えない基本魔法はない。しかし、召喚魔法はその中にはなかったはずだ。


 召喚が通常の魔法ではないというのなら……特殊魔法?

 特殊な固有能力で、僕は召喚魔法を使いこなした?


 ……ふと、夢の中のことを思い出した。

 夢の中で、恐らく僕はまた時空塔螺旋書庫に入っていた。

 アダマンタイトゴーレムがいる中で、ほんと本好きというか暢気なものだと自分で思う……。


 しかしその趣味のおかげで、僕は自分が知覚している以上の知識を有しているようだ。

 この能力には、素直に感謝したい。

 自分の知らない自分というのは気味が悪いものだけど……それが自分のためになり、何よりリンデさんや姉貴のためになるというのなら、有難く自分の力を利用したい。

 力といっても、僕が使うのはあくまで補助。洞観士という能力だ。

 ゼルマさんが言うには、かなり強いはずだと言っていた。



 ————ふと、夢の中の時空塔のステンドグラスの輝きを思い出した。

 姉貴の、背中にあった紋章。

 そして、僕の背中にある紋章。


 あそこにああやって飾ってあったということは、誰にとってもあの形の紋章が出るということ。

 そして僕にも出て……そして、リンデさんしか気づけなかった、ちょっとの色の差。

 ゼルマさんは、輝くぐらいかと思ったと言っていた紋章だ。


 ……ゼルマさんが、紋章の色を誤認するなんてあるだろうか。

 勇者という枠組みを作った女神。その本人が、僕の能力を知ってなお背中の紋章の輝きに疑問を呈するというのは、何か意味があるように感じる。


「……そうか」


 まだ確証を得ることは出来ないけれど、それでも理由に思い当たった。

 というか、そう思うとそうとしか思えないぐらいの理由だ。

 洞観士の勇者。ラムツァイトの洞観士。


 あの時、ゼルマさんは確かに言った。

 姉貴がラムツァイトの戦士。背中には黒い紋章。

 僕がラムツァイトの洞観士。背中には白い紋章。

 他に、召喚士、魔獣士、死霊術士。


 ……仮に。

 仮に、この『ラムツァイトの召喚士』というものが……。


「……ライさん、どうしたんですか?」

「リンデさん。僕は『ラムツァイトの召喚士』の色について考えていました」


 僕の独り言からの返答にリンデさんは首を傾げて、逆にビルギットさんは頷いた。


「……本当に、ライ様にそのようなことが……?」

「まだ予測にすぎないですが、ビルギットさんが現にこうやっていて、更に僕の声を聞いて来たというのなら、一番可能性が高いです」


 つまり、僕には最初からこの能力が備わっていたんだ。


「この背中の紋章、眩しい白に薄い黒を重ねたという色合いなのだと思います」

「薄い黒の紋章? ……ま、まさか、ライさん……!」


 リンデさんも、思い当たったようだ。


「はい。どうやら僕は『ラムツァイトの洞観士』と『ラムツァイトの召喚士』の両方の能力が備わっているのだと思います」


 僕の背中、地味な色合いかと思ったら、ナナメ上で想像以上に大変なことになっているようだった。

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