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ハンダル家に踏み込みます

 さて、今日の差し金を片付けたからといって、ファジル様が安心できるとは限らない。

 暗殺者を送り込むのも失敗したと知られたら、次はもっと強硬な手段を取ってくるだろう。

 それに……個人的に気になることもある。


「ファジル様。これからハンダル家に、先制攻撃を仕掛けたいと思います」

「……勝算は、あるのね?」

「勝算があるというか、このメンバーだと負けるとは思えませんから。入手手段は分かりませんが、タイミングから察するにドラゴンもハリムがけしかけたと見て間違いないでしょう。ファジル様は引き続き、リンデさんとともに行動して下さい。ドラゴンを止めた時点で分かっていると思いますが、どんな場所よりもそこが安全です」


 ファジル様は息を呑んで頷き、リンデさんのほうを向く。

 リンデさんはさすがに真面目な話には茶化してこなかったけど、それでも不安にさせないよう自信を持った顔で頷いていた。

 右手にはいつの間にか、黒い剣が握られている。


「ユーリア、相手は」

「望遠してきている相手がいた場合は動きは分かりませんが、少なくともこちらに接近してきている相手がいる様子はないですね」

「結構」


 相手がこちらの情報を確認しようと、更に先制してこようと、やることはかわらない。

 少なくとも王家の者に暗殺者をけしかけてきたことそのものが事実として語られたのなら、遠慮はしない。

 ユーリアに相手の状況を報告してもらいながら、僕たちはハンダル家へと足を進めた。


「……それにしても、盲点だったわね」

「どうかしましたか」

「魔族の冒険者パーティ。魔人王国の戦士が強いのも、魔術師が強いのも十分に分かったわ。でも……」


 ファジル様は、僕の方を見て目を細める。


「私が見た限り、このパーティで一番特殊なのはライムント、あなたね」

「僕ですか?」

「ええ。この先も信用しているわ」


 話を切り上げて、先に進んでいってしまった。……僕ってそんなに特殊かな……? なんだか最近、こういうふうに言われること多い気がする。

 自分では意識していないけど、洞観士の勇者としての力が発揮されているんだろうか。


 しかし、お姫様自らが期待してくれているというのなら、期待に応えないわけにはいかないよな。

 この砂漠の問題、もしかしたら根が深いかもしれない。それ故に、ちょっと打算的ではあるけど、しっかり恩を売って次に繋げていこう。


 -


 目的の建物が見つかった。近くで見ると……レンガで出来た要塞のようで、これはこれで小さな御城のように感じてしまうほどだな。

 家の前には、門番が二人いる。二人ともファジル様のほうとリンデさん達をちらちら見ているものの、自らは声をかけたりはしない。厳しく訓練されているようだ。


「門番、知ってるとは思うけどファジル・エルダクガよ。ハリム殿に会いに来たわ、取り次いでもらえるかしら」

「ファジル様ですね、承知いたしました。少々お待ち下さい」


 礼をして門番の片方が中に入り、門が閉まる。

 屋敷……と呼んでいいか難しいところだけど、屋敷の中に入ったのを確認し、僕は少し門から離れてユーリアに声をかける。


「……屋敷の中は、どれぐらい見える?」

「私の目にはほぼ完璧に筒抜けです。奥の一室が濁っていること以外、魔力の障害はありません」

「よし、恐らく報告に行った直後に誰かかが窓付近へ移動を————」

「はい、まさに今来ました」


 ユーリアが眼を細めて、左を見る。

 僕がそちらに目を凝らすと……カーテンが揺れた。


「……男が門番に話しかけて、奥の部屋へ引っ込みました」

「結構」


 門番が屋敷から出てきて扉を閉め、門を開けた。

 そしてファジル様の方を見ると、頭を下げる。


「申し訳ありません、ファジル様。ハリム様はお会いにならないそうです」

「理由を聞いても?」

「体調を崩しているようで、病が移ればファジル様に迷惑がかかるからと。なので本日はお引取————」

「強行突破しよう。リンデさん」

「————を……は?」


 門番が間抜けな声を上げている中で、リンデさんが二人の門番から武器を奪って門の横に放り投げる。


「『スリープ・ダブル』」


 リンデさんが作ってくれた隙に、僕は門番二人を眠らせる。状態異常魔法はレーナさんから適性があると言ってくれただけあって、非常に扱いやすい。

 相手を怪我させずに交渉を有利にさせる魔法は、僕自身向いていると感じる。


「リンデさん、先導して下さい。ファジル様、行きましょう」

「え、ええ……」


 リンデさんが屋敷の扉をバキッ! と大きな音を立てて外し、ファジル様は少し戸惑いつつも、リンデさんの後を追って屋敷の中へと足を進める。

 僕も二人の後ろから屋敷の中に入っていった。




 屋敷の中から警護の兵士が数人現れたけど、リンデさん相手には完全に怯んでしまっている。

 そりゃまあ……中身を知らなければ、完全に背の高い正体不明の魔族の剣士だもんな。

 しかし、警戒して狭い通路で固まってくれているのは有難い。


「芸がないけどもう一度。『スリープ・ダブル』」


 魔法をかけると、兵士達はその場に倒れ込んだ。

 便利だなこれ……誰にでも効くわけじゃないだろうからあまり盲信はできないけど、積極的に使っていこう。


「ライ様」

「ユーリア?」

「その、一部魔力が濃い場所が存在しますが……そことは違う屋敷の中庭広場に、ハリムと思われる男が向かいました」

「了解。……ハリムが逃げられるとは思わない、先に魔力の濃い部屋を調べよう」

「では……部屋は右奥です」


 ユーリアが部屋の場所を示して、僕たちもそちらへ向かう。

 屋敷の奥の方へと行き、その扉の前に来ると……何か、猛烈に嫌な感じがする。

 これは、記憶にある感じだ。


「リンデさん。強化を」

「え? えっと、はい。『時空塔強化』!」


 リンデさんの剣から、黒いオーラが……いや、リンデさんの全身から溢れてきている。

 そうか、訓練したのは僕だけじゃない。リンデさんも頑張ってきたんだ。


 なら、僕も。


「『フィジカルプラス・クイント』……っ……ふぅ……」

「わっ! ライさん、これは……!」

「レオンの強化魔法。さすがに彼みたいに遠距離でバンバン連発しまくれるわけじゃないけどね。自分でやってみて、改めてレオンは天才だと思い知らされるよ」

「……いや、私からしてみたら魔人族の魔法を人間が扱ってる時点で、ライさんが凄すぎるんですけど……」


 ユーリアが頷いてるけど……その信頼はありがたいけど……。

 目の前で第十段階の『ディッセ』までやって倒れなかったレオンを見ていると、ちょっとなー。

 まあ、元の種族のアドバンテージはもちろん、レオンはずっと訓練していた部分もあるし、仕方ない。

 僕は僕で、地道にディッセを目指していこう。


「扉を開けて下さい」

「わかりました……えいっ!」


 リンデさんが思いっきり扉を開けて中に飛び込む。




 中には……魔方陣だけが残っていた。

 その魔方陣が、少しずつ光って……!


「ッ! 『シールド・トリプル』!」


 僕はリンデさんの前に出て、防御魔法を展開する!

 そんな僕にリンデさんが覆い被さって……!


 ————部屋を吹き飛ばすほどの大爆発と轟音。

 それが終わった後には、もう何も残っていなかった。


「逃げられたか……」


 相手の手がかりが掴めたら良かったけど、やられてしまったのなら仕方ない。


「リンデさん、大丈夫ですか?」

「私はよゆーですけど、ライさんこそ大丈夫ですか!? あんまり無茶はしないでくださいよ!」

「そうですね……助かりました」


 実際、僕の防御魔法はまだ今ひとつだったようで、少しファジル様のところまで爆発の余波が行っていたのか尻餅をついていた。

 見たところ怪我がないようでよかったけど。


「一体、誰が…………アン?」

「こんなことをしてでも、ライさんを殺したいんだね……」


 アンが、部屋の中に入り、壊れた壁の方を見て一言呟いた。


「私も覚悟を決めるよ————パパ」

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