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まだ見ぬ敵を察知します

「ライ様、もう起きたのですね。おはようございます」

「……あ、ああ、おはよう。そうか、ずっと……」

「はい。一日程度なら何ともありませんので、どうかお気になさらず」


 翌日起床すると、ユーリアが僕に朝の挨拶をしてくれた。本当に、夜の間ずっと監視をしてくれていたようだ。

 見た目の上では美少女然としているけど、一切弱みを見せないユーリアの内面は、本当にマグダレーナさん仕込みのエリート中のエリートだなと思わされる。

 僕も……寝ぼけている場合じゃないな。


「相手側はどうだ?」

「はい。ライ様の予想通り、リンデ様が隣で寝るということを確認してから、命を狙うのは諦めたようです」

「そうか……よかった、リンデさんを隣で眠らせた甲斐があった。後は追ったか?」

「そちらも抜かりなく。どうやら何件か向こうにある……こちらの窓から夜も見えましたが、あの屋敷です」


 ユーリアが指を向けた先には、周囲から比べても大きな建物が一つあった。敷地も広い。


「……どこかの大きな貴族と見るのが自然か」

「でしょう、ね。……あっ、リンデ様が起きたようです」

「よし、迎えに行こう。お姫様の就寝部屋に入るのは男の僕は気が引けるので、ユーリアが行ってきてくれるか?」

「かしこまりました」


 廊下に出てユーリアと一緒に、リンデさんの眠るファジル様の部屋の前へと来る。


「ファジル様も起きてらっしゃるようですし……それでは失礼して」


 ユーリアが扉をノックすると、少し待って扉が開く。


「ふぁい……。……あっ、ライさん……!」

「朝の迎えにきましたよ」

「えへへ〜」


 リンデさんはふにゃりと笑って、僕にしがみつく。


「……ユーリアちゃんさ、ライさんと何かしてなかった?」

「な、何かって! し、してませんよ!?」

「ほんとに?」


 リンデさんがじーっとユーリアを細い眼で見る。ユーリアはリンデさんに顔を近づけられて必死に首を振る。


「そ、そもそも私はベッドで寝ていませんし、ライ様の隣はアンちゃんが——」

「えっ」

「——あ」


 リンデさんが凍り付いて、ユーリアがしまったという顔をする。リンデさんの顔が僕の方へと向く。


「……どういうことですか……?」

「そ、それはその、あっちから、ちょっとくっついたとか、その程度でですね、やましいことはまったくなくてですね……」

「むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ……!」


 リンデさんがぱんぱんに頬を膨らませて……そして隣から消えた。アンのところに行っていた。


「……朝から、うちの父親よりよっぽどモテモテのハレムを築いている男がいて笑ってしまうわね」

「あ、ファジル様、おはようございます。すみません、こちらに来ていただけますか?」

「……何?」


 ファジル様は疑わしそうな目をしつつも、こちらに近づいてきた。ユーリアに目配せをして、昨日のことを話す。

 ユーリアが不眠で監視をしていたこと、ファジル様を狙ったであろう暗殺者が夜のうちに身軽に跳んできたこと、そしてリンデさんを視界に納めて何もせずに帰ったこと。


 そして……帰った先が、窓から見える屋敷であったこと。


「……庭の広い屋敷? ってことは……ハンダル家ね」

「ハンダル家、ですか」

「ええ。交易でいくつかの事業をやっているけど、手広くやりすぎたのか綻びが生まれてね……全体的に落ち目なのよ」

「なるほど、な……」


 それで狙って来たというわけか。相手がドラゴンに関わっているかどうかをここで判断するのは早計ではあるけど、それでもファジル様が生きていることに慌てて行動を起こす相手というのなら可能性は高い。


「とりあえず、ユーリア。少し大変かもしれないが、ずっと索敵を続けていてくれ」

「まだまだ問題ありませんよ。食事も出していただけていますし、余裕はあります」

「助かる。あとファジル様には、少しお願いがあるんだけど……」

「何かしら、協力できそうなことならいいわよ」


 そして僕は、ファジル様に計画していることをお話しした。


 ……ちなみに部屋に戻ると、リンデさんとアンは仲良く窓の外を見ていた。

 二人で「街並みきれーい」とはしゃいでいて、そんな姿にファジル様はやっぱり笑顔で近づいたのだった。


 -


 朝食に呼ばれて、再び王城で朝食をいただくことになった。

 こちらのフール・ミダミスは、昨日のホンモス同様に豆で作ったものだった。豆の料理は、この砂漠の国付近では多いのかもしれない。確か東の僧帝国でも多かったはずだし、あちらのナンとこちらのアエーシはよく似ている。


「おいしいですね、レモンと……こちらでもオリーブオイルを使うのですね」

「そうだ。気に入ったか?」

「はい、僕のいた地域とは違う料理ですが、全く違う工夫で興味が尽きないですね。是非全て覚えて帰りたいです」

「それはいい。時々使節団では苦手な顔を隠そうともしない奴もいて気分が悪いが、君みたいな感想を言ってくれるヤツがいると安心するよ、存分に食べてくれ。……しかしミア様の弟なのだよな、ライムントは」

「そうですけど……」


 アブラハム様は、男前な顔をこちらに近づけながら、首を捻る。

 ……何だろうか……?


「ミア様の面影はあるが、性格は全く違いすぎて、言われないと分からんな……」


 ああ……その辺は、まあ……はい。

 僕はアブラハム様の感想に苦笑で返しつつ、皆の様子を見る。

 三人ともおいしそうに食べている。リンデさんはお肉多め、ユーリアはそら豆のサラダ中心に、アンは肉ばかりかな?


「ところでお父様」


 ここでファジル様が本題を切り出す。


「少し街を見て回りたいのだけど、いいかしら」

「襲撃があったばかりと聞くと不安だが……しかし荒野部分だというのなら、まあ心配しすぎもよくないか。分かった、護衛は必ず……と、今はアブドゥラ達がいないのか」

「大丈夫よ、だって」


 ファジル様は、お肉をおいしそうに食べるリンデさんを見る。


「ドラゴンを倒しちゃった女の子が護衛にいるんだもの」

「なるほど、それもそうか。皆の予定はいいのか?」

「事前に聞いたから問題ないはずよ」


 アブラハム様は頷いた。……よし、ファジル様に外出許可を与えることにしたようだ。

 そのアブラハム様が、僕の所に来る。


「話は聞いていたな」

「はい」

「そうそうこの国で狙われることはないだろうが……娘を頼みたい」

「お任せ下さい、三人とも優秀ですから、必ず護りますとも」


 アブラハム様は頷くと、紅茶を女中に頼んで政務へと戻っていった。


「……うまくいったわね」

「ええ。……ユーリア、相手は?」

「相手も起きてきたのか、動きがありましたね。裏道を通ってお城の近くにいます。……三人、です」

「なるほど……」


 ユーリアの状況報告を聞いて、僕は自分の調子を確認した。

 ……レーナさんに教えてもらって、初めての実戦となる。

 ずっと教えてくれた最高の魔法の先生であるレーナさんのためにも、ここで自分の魔法に自信が持てるよう、やっていこう。

 作戦開始だ。

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