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ミア:可愛いミアちゃんのデーモン処刑宣言

今回はお姉ちゃんパート100%です

「そんな遠距離攻撃撃ってるってことはビビってるのかしらぁ!?」


 あたしは大剣を片手に、手のひらを上にして、指をこちらに揺らした。挑発のポーズだけど、これデーモンにも効くのかしら。


「舐めた真似をしてくれるじゃねえか!」

「あんたみたいな雑魚、舐めてかかってようやく丁度いいからね!」


 効いたわ! オッケーあたし以上の単細胞ちゃん、かかってらっしゃい!


「……」

「——!」


 あたしはエファちゃんの方を無言でちらりと見て。そして二人を引き離すように森に入って行った。……頼むわね。


「『ブレイブストレングス』!『ブレイブシールド』!」


 まずは強化魔法だ。あんだけおちょくったら接近戦がメインになってくるだろう。そうなった時に押し負けるようじゃ駄目だ。

 さすがにデーモンは、素の状態で力比べできるほどの雑魚じゃない。


「ぬんッ!」


 デーモンの蹴りが来るのを、あたしは横に飛んで避けた。後ろの海岸付近にあった松っぽい木の幹にヒビが入り、ビキビキと音を立てて少し傾く。……やるじゃん、直撃は避けたいわね。

 避けたあたしに追撃するように、デーモンは右手に持っていた無骨な剣を振り下ろす。あたしはそれを下から思いっきり打ち上げる。

 大きな音を立てて……相手がふらついた。


「なっ……!?」

「下から打ち上げて力負けしないってことは!」


 あたしはそいつの腹めがけて、勢いよく蹴りを放った。乗せるのはあたしの怒りのハート! 主に美少年の顔を台無しにした分と、イケメン王国を目の前でお預けされた恨みだ!


「オッラァ!」

「——ウゲァッ!」


 メキョメキョ!


 あたしの靴の爪先が、デーモンのご自慢のムキムキ筋肉の6つに割れた腹筋の真ん中に吸い込まれて、そのまま衝撃を殺しきれずにデーモンは後ろに吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ衝撃で、さっきは折れなかった松は、あたしの蹴りの威力とデーモンの体重の相乗効果で、簡単に直角に折れ曲がった。


「ハッ! 見かけ倒しの駄肉ね! 鍛え方が足りないんじゃない!?」

「ばかな……ばかなばかな! この俺が、こんな小娘、しかも魔人ですらないただの人間に力で負けているなど……!」

「あんたのその悔しそうな反応、サイッコーに気持ちいいわ! もうちょっと遊んであげる!」


 あたしは大剣を水平に構えて、そのままデーモンに接近した。


「ぐっ……!」

「へえ、勝てない相手ぐらいは分かるんだ!」


 デーモンは、あたしに対して距離を取るように海岸の方まで跳んで逃げた。

 ……まずいわね、煽ったはいいけど、あっちにはエファちゃんたちがいる。あの3人を人質に取られたら対応しづらい。


 あたしはデーモンを追って海岸に出た。直後、


「それは飽きたわ!」


 砂浜に立った瞬間、再びダークアローが飛んできたので防いだ。牽制のつもりかしら、今更そんなものが効くと——


「ぬんンンン!」


——デーモンの拳が飛んできて、あたしの腹にめり込んだ。……めり込んだと言いつつ、防御魔法を使っていて、力を腹に込めていたから弾いたけど。でも少しジンジンするわね、油断していた。

 あたしはとりあえず片手で剣を持ち、腹を見せながらぽんぽん叩いてみせた。


「ハン、余裕余裕ゥ! 今度はあたしと腹太鼓で遊びたくなったかしら!? いくらでも打ち合ってあげるわよ、ミアちゃん優しい!」

「……なんというデタラメな人間だ……!」


 ……本当はあんまり余裕ないけどね、でも気持ちで負けたら負けよこういうのはね。しかし……今の反応の早さは想定外だった。魔法と攻撃のタイミングが早かった。結構こいつの魔法、警戒しないといけないかしら……。


「あれぇ〜? 効いてないようじゃん? ゲデルゴスキ、自信満々なくせしてぜんっぜん駄目じゃん」

「うっせえなマヌルヴァフ! そいつら魔人のガキには後れは取らなかった! こいつが異常なんだよ!」


 ……これは。まいったわね。


 魔法と殴りが素早かったんじゃない。デーモン、二体いたわ。女のブスの究極系みたいな顔した筋肉マッチョだけど。あたしデーモンの美的センスって一生理解できそうにないわ。

 こんなんでも男とつるんでるのね。……あっちょっとムカついてきたぞ。ミアちゃんの八つ当たり対象追加決定。


「……こいつがねえ。ちょっと信じられないけど、さっきのあたいの魔法も生意気にも防ぎやがったし、ちょっと気合入れた方がいいかしら」

「ああ、力で負けるなんて、こいつはやべえヤツだ」

「……。確かに、ゲデルが人間に力負けするなんて普通じゃないわね。オッケー、気合い入れてブチ殺すわ」


 2対1。こういう展開、可能性を考えてなかったわけじゃないけど。実際にそうなるのとはまた事情が違ってくるわ。


「ハッ!」


 デーモンのブスが空を飛んで、上から矢の雨を降らせる。あたしはそれを防ぎながら……まずは男の方に狙いを定める!


「お前からだっ!」

「ッチ、そう簡単にやらせるかよ!」


 デーモンのブサイク野郎、防御に徹しやがった。両手で持った無骨な剣で防いで、反撃にあたしの大剣を蹴り上げていく。

 そのやり取りでふらついた隙に、上から魔法の矢が降ってくる。当然簡単には避けられない。


「ぐっ……!」


 あたしは思いっきり矢に被弾した。ちょっと焼けているかしら……。


「ははは、先ほどまでの勢いはどうしたぁ!?」

「かーっムカつく野郎ね! 2対1で調子に乗りやがって!」

「へっへっへ、その『悔しそうな顔、最高に気持ちいい』なあ!」

「ぐ……!」


 あたしは頭に血が上りそうになるのを抑える。大丈夫、ビークールよミア。まだ地力は上回っている。こいつが接近しても防御するなら……!


「そっちだ!」


 あたしは大剣を右手に持ち、左手を空に掲げて魔法の矢を撃ちまくった。


「魔法も使うのかこの人間! くっ……しかも威力が高い! 本当に何者なんだこいつ!」

「これでも人類最強名乗ってるのよ! あんたみたいないかにもオマケみたいな斥候兵に負けている余裕はないの!」

「人類最強……まさか、勇者ってやつか!」

「あら、デーモンの悪鬼王国でもあたしの名前は知られているみたいで光栄ね!」


 あたしのことに気付くと、デーモン二人は明確に距離を取って警戒しだした。


「どうしたの? あたしの正体を知って腰が引けちゃったかしらぁ?」

「無謀なことはしないモノだ。そうか、お前が鬼神様の言っていた、東の魔人がいないはずの森で随分俺たちの同胞を滅ぼしてきた勇者という人間というわけか」

「そうよ、仇取ってみたくない?」

「ふん、言われなくとも……!」


 デーモンが接近してくるが、かなり警戒しながらだ。もう片方の矢を撃ってくる方は、変わらず距離を開けながら矢を撃っている。

 あちゃー、あたしとしてはもっと馬鹿みたいにつっこんで玉砕して欲しかったんだけどね。これはまずい展開ね、守りながら戦う敵を倒すのは難しい。

 勝てるかしら。




 ……そう思っていると。

 体から何か、力が急に湧き上がった。




 え、え、何これ!? あたしの秘められた力!?

 デーモン討伐とピンチを感じて、あたしの覚醒急に来ちゃった!? ミアちゃん最強伝説がここから始まる!?


 と思っていたけど、どうもこれは魔法のようだった。あたしへの支援魔法。

 後ろを見てみると……魔人族の少年が立っていた。その手には杖を持っていて、あたしはどうやらその少年の魔法を受けているようだった。


「くっ……まさか、デーモンに不覚を取ってしまうとは。でも……これ以上やらせはしない……!」

「レオンさん、まだ怪我が治ったばかりなんですから、無理をしないで下さい!」

「どのみちあいつを止めないと、あの人間がやられた時点で次は僕らだよ、無理でも無茶でもやらないとやられてしまう!」

「うっ……そのとおりです。無理、しないでくださいね!」


 ……なるほど、あの魔人の少年はレオン君というのか。ということは……この魔法は強化魔法ってことね。

 あたしの勇者の魔法である『ブレイブストレングス』は強力だけど、そこから上方修正が入るような魔法を使っているようだった。って、あたしの勇者の魔法を上回ってるの、あの美少年君の強化魔法は。とんでもない強化魔法じゃない。

 あたしは自分の片手で剣を持って、重さを確かめる。大剣が、まるでレイピアのようだ。風の抵抗すら感じない。


 ……これ、強いわね!


 あたしはこの力を使って戦うのが楽しみになってきた。それに気付かず接近するデーモンに、あたしは力を溜めて、一気に距離を詰める!


「なッ!」

「不意打ち返しだオラァ!」


 あたしは思いっきり、大剣を横に凪いだ。が、敵もさすがに強い。この程度では胴体真っ二つとはいかなかったわ。でも……やった。片腕をバッサリ斬り飛ばした。


「……やってくれるじゃねえか……」

「あれで慎重なつもりだった? 残念でした!」


 あたしは片腕なくしたヤツを横目に、次は上にいる女デーモンに向かって駆け出した。空のやつはうっかりあたしの接近を見落としていたようで、距離を取り損ねていた。あたしは強化した足の力で一気に跳躍した。


「さっきからウザいのよ! 落ちな!」

「なっ————ギィッ!」


 あたしが自分の頭上に来るのは予想できなかったんだろう。完全に油断していた女デーモンは、あたしの大剣の平たい部分を頭に叩きつけられ、砂浜を転がりながら地面へと落ちた。


 あたしは再び大剣を片手に構える。もう片手は魔法の矢だ。


「先手必勝ッ! その体を穴あきチーズにしてやる!」

「ぐ……調子に、乗るなァ!」


 挟み撃ちされる形になったけど、あたしがこの程度でやられると…………


 …………デーモン、そういえば、そうだったわ。

 あたしの村に、何やった?

 リンデちゃんは、何やってくれていた?


 あたしの後ろにいたデーモンの上側に、ゲイザーが3体いた。正面の女デーモンの周りには、ヘルハウンドが5体いた。

 デーモンども、魔物を使ってきたわ。


「ミアさんっ!」

「ミアさんというのですね、くっ、僕も入りたいけど、これではミアさんの邪魔になってしまいかねない……!」


 デーモンの更に後ろから、エファちゃんの悲鳴じみた声が聞こえてくる。レオン君も心配してくれているようだった。

 ……そういえば、もう一人の声は……。


「エファちゃん! もう一人の女の子の方は無事なの!?」

「えっ、あの、はい! ……そんな、こんな状況でも魔人族のことを心配してくれるだなんて……」

「あたしはね、これでも仲間を助けるのだけが生き甲斐みたいな寂しい女なの! あたしの中でエファちゃんが仲間だと決まった以上、そっちのレオン君ともう一人の子も含めて絶対に助けるわ!」

「ミアさん……!」

「ミアさん、こんなに誇り高く強い人間がいるなんて……!」


 もっと褒めていいわよ! 特にレオン君! 美少年の応援の声は、あたしの体への力になるわ! 特に下半身のね! フゥー!

 あたしはゲイザーからの攻撃を躱しながら、やってきたヘルハウンドの首を切り落として返事した。

 ……だけど、油断していたわね。あたしの体は再び焼ける痛みに襲われた。


「ギャハハ、かわしきれないようじゃん?」

「きたねえ顔で笑いやがって、あんたは惨たらしい最期にしてやるぞブス!」

「———そう、やっぱあんたクソむかつく。もう加減はしねえ!」


 そのゲレゲレだかなんだか名前の覚えられない女デーモンは、両手を使ってダークアローを連発してきまくった。男のほうのデーモンはゲイザーに攻撃を任せて手を腰に当てて見ている。

 ……余裕じゃない、このやろう……でも実際、ヘルハウンドを捨て駒に使うこの戦法、かなり盤石ね。あたしは完全に糸口を掴めなかった。


 だけど、再び救いの手は来た。ゲイザーが撃ち落とされたのだ。


「なッ! 後ろ、だと!?」

「私もっ! 見てる、だけなんて、しない、んだか、らッ……!」


 倒れていた魔人族の少女が、膝をついて息切れしながらも魔法を撃ってゲイザーを倒していた。……遠距離魔法でゲイザー倒すって、あの子も大概強いんじゃない!?

 よし、これはチャンスだ。


「あんた、ナイスよ! それじゃあたしも気合入れますかね!


———おいデーモンども! この可愛いミアちゃんがあんたらデーモンをミンチにしてやる! ハンバーグにするのも贅沢なぐらいの、ハエを育てるためだけの蛆虫様専用クソ肥料にしてやるから覚悟しな!」


 あたしは今度はデーモン野郎があたしと魔人の子で挟み撃ちになったことで、その余裕綽々で剣を砂浜に突き立てていたデーモンに急接近した。

 後ろから魔法が飛んでくるが、こんなカスダメ無視だ無視! ヘルハウンドが噛みついてこようとするけど、遅い! たとえ噛みついたからといって、あたしの歩みを止めるには威力が足らないでしょうね!


 最後のゲイザーが目の前で撃墜されたのを確認し、あたしは防御を捨てて両手で大剣を水平に持って、デーモン野郎の胸に向かって剣を突き立てた。


「! —————…………」


 最後、デーモンは何か喋ろうとしたようだが、結局何も喋ることなく絶命した。


「あっけないわね、楽勝!」

「ゲデル!? き、きさまああああああああ!」


 すぐに大剣を引き抜いて、女デーモンを見ようと振り向きざまに……顔にでかいのが直撃した。


「ぐぅっ!」

「み、ミアさん!」


 エファちゃんがやってきて、防御魔法を張りながらあたしを回復してくれる。本当に、一瞬で回復した。っていうか、あたしの剣を通さない防御魔法張りながら時間差ゼロの無詠唱回復魔法って……エファちゃんさらりとやってるけど、これとんでもなく便利な二重詠唱じゃない。

 やっぱリッター十二刻というこの子、ただ者じゃないわね。多分魔人王国ではヒーラーのトップ。


「ユーリア、支援を!」

「レオン()ぃ、ごめん! 相手の方が強い……!」

「あの犬どもを足止めするだけでも十分だ、僕が支援魔法をかける!」

「うん、わかった!」


 レオン君、どうやらお兄ちゃんみたい。ユーリアちゃんというのは、こっちのこれまた可愛い魔人の少女ね。

 っと、いけない。あんまりのんびりもしてられないわ。


「殺す! 殺す! 殺す!」


 正面のゲレゲレ女デーモンが、ブスの究極系を更にブスに変化させたような表情をして魔法を撃っていて滑稽ね。……しかし、威力は絶大だ。あまり悠長に構えている暇はないかもしれない。エファちゃんの防御魔法も、かなり強めのを張っているっぽいし。

 レオン君の支援魔法を受けたユーリアちゃんの攻撃魔法が、ヘルハウンドの群れを一撃の下に倒していくけど、次々現れて数が多い。3人ともジリ貧だ。


「どうすれば……」


 あたしが剣を構えてじっとしていると————




————正面が、爆発した。




 ……今の、は? 何が起こったの? とんでもない魔力の奔流と共に、砂浜の一部がおもくそ吹き飛んだけど。


 砂煙が晴れると……女デーモンの首……というか上半身がなかった。そして、あたしは見た。海から反対の、砂浜と森との境の場所に、すんげえデカイ槍が刺さってクレーターを作っていた。


「く、クラーラさん! クラーラさんの矢だ!」


————矢!? 今の、矢を一本撃っただけの威力なの!?

 そしてクラーラ? 何か、どこかで聞いたことが……。


 そう思っていると、海の方から宙に浮いた魔人族の少女が現れた。


———その姿を見た瞬間の衝撃は忘れられないわ。一見やや幼い見た目に、青いセミロングの髪から伸びた角。リンデちゃんより遥かに大きくて長い、頭部と同じぐらいの長さをした、上に曲がりながら伸びたバキバキの角の迫力はすごい。

 そして、何と言っても目につくのがその武器だ。片手に構えているのは、身の丈の3倍以上はありそうな、しかも上下が刃物になっている5メートルのシミターみたいなエグイ弓と、その弓の間にあるのはツヴァイヘンダーかと思うようなぶっとい鋼の円柱。

 ……間違いない。あの鋼の円柱が、弦だ。信じられないけど、あのゴツイ円柱をゴムのように楽々引っ張ってしならせて、矢を放ったんだ。

 しかもこの子、それでいて背中にあたしのよりでかい大剣を背負っていた。取っ手の部分の色が弓より剥げていることから、剣は弓以上に使い慣れているだろう。


 勝てない。

 一瞬で悟った。

 こいつはジークリンデより強い。


 否応なく思い出した。時空塔騎士団の第一刻。あの怪力と瞬速のリンデちゃんが唯一勝てなかったと言っていた魔人族の名前が、確かクラーラだ。

 頭一つ抜けていると言っていた。確かにこれは、次元が違いすぎる。


 そのクラーラと呼ばれた子は、弓を一瞬でアイテムボックスの中に仕舞うと、あたしの近くに降りてきた。これは……緊張するわね。

 エファちゃんが前に出て行って、クラーラに話しかけた。


「クラーラさん! あの!」

「……エファ……だいじょうぶだった……?」

「は、はい……! レオンさんとユーリアちゃんも、回復が間に合って無事です!」

「……そう……よかった……」

「ミアさんが助けてくれました!」

「……ミア……?」


 クラーラの三白眼が、じろりと睨みつけるように、横のあたしの方を向く。クラーラは警戒しているのか、言葉を選ぶように話しかけてきた。

 ……緊張する……こいつのご機嫌次第では、あたし1秒で死ぬわね。


「……見ていた……」

「は、はい」

「……あなた……人間……? ……信じられないぐらい……強い……」

「えと、恐縮です。一人じゃエファちゃんも救えないぐらい、まだまだ未熟者で。その、今の、あたし、助けてもらったんですよね」

「……そう……島から矢を撃って、デーモンに当てた……」

「し、島から、ですか」

「……ん……」

「すごい……」


 ……あの、遠すぎてうっすらとしか見えない魔人王国の島よね? あそこから、撃って、あの威力で正確に直撃……?

 あたしがそのことに驚いて、「強い……すごい……」って呟きながらクラーラの全身をなめ回すように見ていたら、クラーラは下を向いて頬をぽりぽりと掻いた。


 ……んん?


「……その……そんなに、見られると……」

「え?」

「……えと……その、人間の方に褒められるなんて、慣れてなくて……そういう視線とか、言葉とか……恥ずかしい、です……」

「———え?」


 え、え………………えええっ!?


 こ、この子! あんだけとんでもない戦闘力を持っていて、あたしに褒められることに照れてるの!?

 ってことは、この無言の多い喋り方、あたしを警戒してるんじゃなくて素でこういうたどたどしい喋りのキャラなの!?

 じゃあこの三白眼って、睨みつけてるんじゃなくて、ちょっと眠そうな目なのが素の表情だったの!?


 ま、まってまって! めちゃくちゃ可愛いんですけど!?


「えっと、クラーラちゃんって呼んでいい?」

「……うん……」

「か、かわいいっ!」

「…………あう……」


 クラーラちゃんは、頬を染めて俯いて、前髪で目を隠すようにした。

 ハイ堕ちた。あたし堕ちたよ。クラーラちゃんに完全にやられました。うんうん、魔人族の女の子、例外なくめっちゃ可愛いわね。


「ミアさんすごい……クラーラさんがこんなに照れてるとか、初めて見ました」

「……エファ……からかうの、やめて……」

「満更でもないって顔して説得力ないですよ、でも本当に来てくれて助かりました。ミアさんも、私に回復魔法を使うための時間を稼ぐために、デーモンを森まで誘導してくれたんですよね。ありがとうございました!」

「具体的に言わないでよ、こっぱずかしいっしょ」


 あたしは手をひらひらさせてお礼をかわしていたら、その手を今度はやわらかい魔人族の青い手に捕まれた。

 この手は……!


「ミアさん、本当にありがとうございました。ユーリアが先に狙われて、人質に取られたままあのデーモンに殴られて。僕はあなたに助けられなければ、あのままやられていました」

「え、ええ……どういたしまして。えっと、レオン君、でいいのよね」

「はい、レオンとお呼び下さい」


 レオン君だった。美少年におててをぎゅってされて大興奮、っていうか腕折り事件から全ての男があたしに触られるのを避けていたから、そもそも男と触れること自体が全くなかった。

 それが急に指の柔らかい美少年の熱の籠もった視線だ。あたしは冷静に冷静にと自分に言い聞かせながら対応したけど、頭の中は勝利の雄叫びを上げていた。油断してたらこの口からその雄叫びが出てくるところだった。




 あのね、実際のところ魔人族の男を異性として見れるのか、あたしの中で()()なのかどうなのか自信がなかったのよ。全然見た目違うものね。

 このレオン君、あたしより背が低くて、顔つきは正に美少年って感じで、金髪をさらりと少し長めに伸ばして小さい角を出していた。


 うん、アリ。

 魔人族、超アリ。


 めっちゃイイ。

 美少年大好き。

 今すぐ持ち帰りたい。

 この場でアイテムボックスに詰め込みたい。




「あ、あの、僕に何か……?」

「ふぇあっ! ごご、ごめんね!」

「いえ、珍しいのならいくら見ていただいても構いませんよ」


 レオン君の手が離れる。ああ、美少年の温かみが……。


「わ、私からも! ありがとうございました!」

「へ? あっ、あなたも無事でよかったわ、どういたしまして。えーっとユーリアちゃん? 話を聞くにレオン君の妹なのかしら」

「はい! 覚えていただいて光栄です!」


 ちょっと呆けていたあたしに次に挨拶にきたのは、ユーリアちゃんだった。ユーリアちゃんはレオン君と同じ金髪のロングヘアだった。

 目が黒くて肌が青い以外は正統派美少女って感じの女の子だ。でもレオン君より背丈あるなキミ。ていうかレオン君がちっちゃいな。


 ……もしかしてレオン君、成長してあの背丈?

 待ってこれ以上設定増やされたらあたしの情欲の山岳が20年の眠りを覚まして噴火して大変なことになる。


 やっぱりライにはリンデちゃん一人押しつけて、逆ハーレムはあたしが作ろうかしら。


 あたしが妄想ワールドでミアちゃんハーレム王国の盟主になっていたところで、エファちゃんとレオン君の会話が始まった。


「それで、エファ。君は確かリンデさんを追って東に行ったと聞いていたんだけど、どうしてここに戻ってきているの?」

「あ、えっと。驚かないでね? 実はリンデさん、このミアさんの弟さんの家で一緒に過ごしているらしいの」

「先に断っておくよ、ごめん。

 ……えええええええええええーーーーーっ!? いやいやいや! 驚かないでねって、驚くよ!? 人間の男と同居しちゃってるのリンデさん!?」

「う、うん」


 エファちゃんの宣言に、魔人族のみんなが話に食らいついてくる。


「……リンデ……まさか、この短期間で……同棲までしてしまうなんて……」

「ハンスさんのことをミアさんが知ってたから、それをリンデさんから聞いたって言ってて、じゃあ間違いなく会ってるだろうなって」

「……確かに……魔人王国の人じゃないと……知らない情報……」


 クラーラちゃんは納得した様子だった。その話を聞いて、ユーリアちゃんが興味津々といった様子で声を挟んできた。


「その同棲の話、興味あります! エファ様はどれぐらい話を聞いているんですか?」

「そ、それがね、すごいの! なんとミアさんの弟様は指輪を自作できるの!」

「ゆ、指輪を自作!? 宝飾品の職人って、本当に人間にいたんですね……!」

「しかも、しかも! その指輪をリンデさんの指に嵌めたらしいの!」

「……!? え、え!? それって完全に結婚ですよね!? 自作の指輪を嵌めるとかプロポーズ以外ありえないですよね!?」

「あの、その辺如何なんでしょうかミアさんっ!」


 本人達のいないところで言いたい放題言われてるけど、エファちゃんからの振りにあたしは適当に答えた。


「あー、それがわかんないのよねー。でもリンデちゃんとライ……あ、ライっていうのが弟ね。あの二人、あれはお互い好き合ってるってアホでもわかるレベルねー」

「そこまで……!」

「そうなのよー。でもお互いウブっていうか、積極的になれない性格だからねー。二人でベッドに入って体を触り合っても、腰を抱き合って体を押しつけ合っても、目を合わせて微笑み合うだけでそこから発展しないんじゃ、微笑ましくはあるけどもどかしいわよ」

「はわわ……」

「リンデちゃんはリンデちゃんで、しょっちゅうライを抱きしめて髪の毛の匂い嗅いじゃうし、ライはライで密着されてデレデレだし、しかもライまでリンデちゃんの匂い嗅いでるし。まさか自分の弟がリンデちゃんの匂いが好きとか言っちゃうド変態だとはあたしもびっくりねー」

「はわわ……読んできた恋愛小説が風化しちゃいますですですぅ……」

「リンデさん、弟様に迷惑かけてないだろうか……心配だなあ、天然で振り回しちゃうからなーあの人……」

「お、お()ぃ、私こんなこと聞いちゃったら、妄想が止まらないよぉっ!」

「……リンデ……まだ中身は子供で……恋愛には、奥手だと、思っていたのに……完全に、追い抜かれた……」


 エファちゃんはすっかり二人の話が気に入っちゃったみたいね。レオン君はライのことを心配していて、ユーリアちゃんは目をきらきらさせていて、クラーラちゃんは両手で頭を押さえるようにして俯いて、髪で目を隠すようにしていた。

 うーん、みんな可愛い!


 ……と、さすがにこのままだと進まないわね。


「それで、あたしもリンデちゃんみたいな魔人族の知り合いが欲しいなってことで、魔人王国までやってきたのよ」

「あれ、私が聞いた話ではおとこ……」

「エファちゃあぁ〜〜ん! 良い子だから黙ってましょうねぇ〜!」

「ぴぃぃっ!?」


 あたしはエファちゃんの至近距離でかわいいミアちゃんスマイルをして口封じをした。さすがにレオン君の前で、男漁りに来たとか堂々と言ってドン引きされたくはない。

 男の前だと猫被るのが女よ。これはもう、そういう義務であり権利なの!


「そういうわけで、あたしは魔人王国へ入りたいの。紹介してくれないかしら」

「えと、クラーラさん。私は問題ないと思っています」

「……ん……。私の、独断でも……問題ない、と、思う……。……それに……エファと、レオンと、ユーリアの恩人……。……ここで、御礼をすると即断できない、誇りのない魔人は……陛下からお叱りを受ける……」


 クラーラちゃんは、再びふわりと浮き上がると、両手に魔力を溜めた。直後、クラーラちゃんの両手から黒い線が沢山海の中に入っていった。何をしているのかしら。

 ……そう思っていると、なんと海の中からクラーケンが10体以上浮き上がってきた。まさか、今の攻撃魔法……!?

 ていうか待って、あのゴツイ弓矢を使って、それ以上に剣が使えて、空を飛べる攻撃魔法のエキスパートなのクラーラちゃんは。


 うん、クラーラちゃん本当に冗談のように強いわ。隣の帝国と組んで全員でかかってもこの子一人で人類全滅させられるわね。


「……これで、しばらくは大丈夫……」


 クラーラちゃんは戻ってきた。……そういえば、クラーラちゃんは飛べるけど、後の子たちはどうやって海を渡ってきたのかしら。


「それじゃ、お願い!」


 エファちゃんがそう言うと、ユーリアちゃんが前に出た。このメンバーでユーリアちゃん? 何をするんだろう……?


「……。……『アイスロード』!」


 その魔法を使った瞬間。海が、凍った。

 正確には、海に細い……といっても人が9人は横に並べそうな幅の広い氷の道がまっすぐ魔人王国の島まで伸びた。


 ……ユーリアちゃんも、大概デタラメな魔法使いね!? 待って、このメンバー一人一人がそれぞれとんでもない能力者じゃないの!?

 どんだけ人材豊富なのよ魔人王国!?


「……ねえ、ユーリアちゃんに聞きたいんだけど」

「は、はい! なんでしょうか!?」

「なんでそれだけの魔法が使えて、さっきのデーモンに負けていたの?」


 あたしの疑問に対して、ユーリアちゃんは「そう思いますよね……」と呟いてがっくりと肩を落とした。


「……魔人族は属性魔法は基本的に効かないんですが、デーモンも近い能力を備えていまして。私の攻撃魔法って魔物を倒す時のためのものなので、純粋な魔力の無属性マジックアロー以外はデーモンには効かないんです、私はあれ使えなくて……」

「ああ……だからあたしの攻撃は警戒したのね」

「はい。なので私はロッドを使った棒術で対抗しようとしたんですが、この中で私だけリッターじゃないから、マグダレーナ様のような強化魔法を使える魔道士じゃないから弱くて。エファ様みたいな防御魔法も使えない上に二対一で後ろを取られてしまって……。

 レオン兄ぃは、本当は一人で戦っても一対一なら後れを取らないぐらい強いんですが、血まみれで動けない私を人質に取られて一方的に殴られて……」

「なるほど、やっぱデーモンってクソむかつくわね」

「だから、ミア様が来て下さったのは本当に救いでした。人間の、しかも背も高くない女性があの大きなデーモンを力で圧倒する姿、かっこよかったです!」

「いやー、それほどでもぉ……あるかな?」

「ありますよっ!」


 ユーリアちゃんに褒められて、あたしは顔のにやけが抑えられなかった。

 しかし気になることを言ったわね。リッターじゃないって。もしかしなくても、この魔法を使えるユーリアちゃん、魔法のトップじゃない? マグダレーナとかいう、強化魔法と棒術を使いこなす魔法使いがいるってわけ?

 ……全貌が、まだ把握できない。魔人王国の全メンバー、把握しないとね。


 あたしが考え事していると、不意打ちが来た。


「僕もそう思います。しかもあそこまで体を張って守ってくれるとは思わなかったので、人間に対する認識をミアさん一人で改めました」

「えっ! あ、ありがとう!」

「いえいえ、お礼を言うのは僕の方ですよ。僕はまだしも、妹は体の血が抜かれて時間が経過していたので本当に危なかった。ミアさんは妹の命の恩人です」

「よ、よかったわ! 間に合って!」


 れ、レオン君からも褒められちゃった。どうしよう心臓が飛び跳ねてる。ああまずい、これあたし完全にやられてるわ。

 美少年、っていうか好意を持ってくれる男全般に対する免疫なさすぎるわあたし。どんだけ男日照りだったんでしょうね。

 ……魔人王国まで持つかしら。っていうか魔人王国に入ってからあたしの心臓持つかしら!? 入った途端にハイリアルマ様の聖母スマイルになって天に召されちゃったりしないかしらー!?


「……えと……そろそろ、行きます、か……?」

「あっ、そ、そうね! 行きましょう!」


 妄想大暴走のあたしの意識がクラーラちゃんに引き揚げられて、ようやくあたしは魔人王国への氷の道を歩き出す。……やっぱり、なんだかんだ軽口言いつつ緊張しちゃうわね。

 これからあたしは、魔族の本拠地に、人間一人で足を踏み入れるんだ。


 ……ところで後ろの方で、エファちゃんとレオン君がこそこそ喋り合っているけど、何を喋ってるのかしら。ちょっと気になるわ……。


「……すみません……遠いので、しばらく……歩きます……」

「あーいいわよ、あたしの王国から森とか山とか歩いてきたのに比べればちょっとご近所程度の距離よ!」

「……そう言って……いただけると……気が楽、です……」


 クラーラちゃんは飛んでいるから一瞬で島に着けるのに、あたしの横に並んでくれている。気配りも出来ていい子ね。ユーリアちゃんは反対側で、氷の道を維持する魔法を使っているわ。




 さあて、いよいよ魔人王国に到着!

 既に天使のレオン君を見た時点で、あたしの期待値はバベルの塔が天空城を貫通して月に突き刺さってるのよ!


 待ってなさい魔人族の男達!

 女神のミアちゃんが降臨しに行くわ!

登場人物が多くなったのでまとめ


ミア:女勇者 ライムントの姉貴

エファ:女魔人 ヒーラー


レオン:男魔人 支援魔法使い ユーリアのお兄ぃ

ユーリア:女魔人 攻撃魔法使い レオンの妹

クラーラ:女魔人 剣、弓、魔法戦士


ゲデルゴスキ:男デーモン 今回限り

マヌルヴァフ:女デーモン 今回限り

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