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シレアのみんなと魔族のみんなが会いました

 食べ過ぎてしまったのか、食べ盛りの子供達三人は晩ご飯を食べると、横になって動けなくなっていた。


「うう……わたくしとしたことが、迂闊ですわ……」

「ふふっ、ロザリンダったらそういうところは子供っぽいのよね」

「……アウローラも、今日は相当太っていることをお覚悟なさい?」

「ウッ……!」


 やっぱりロザリンダの方が一枚上手だなあ……。


 ちょっと凹んでいたのが落ち着いたあたりで、アウローラが僕たちに事情を聞いてきた。


「姉の友人が誘拐されたって大事だと思うんだけれど、そもそもどうしてそんなことに……?」


 アウローラには、僕自身の再確認も兼ねて一通り説明した。

 姉貴が勇者であり、僕もどうやらその能力の一員であること。

 ハイリアルマ教ではなくラムツァイトゼルマ教の女神によって勇者が作られていること。

 魔人族のこと、デーモン……山羊人族とアンと、ゼルマさんのこと。


「……待って、今ゼルマさんって」

「ああ、女神様は未だに存在したんだよ。普通の女性って感じだったんだけどね。女神ハイリアルマも、元々はアルマという普通の女性だった」

「途方もない話になってきてる……」


 改めて話しても、本当に現実感のない話だ。ゼルマさんはずっと一人で魔人族を敵視される人間達の世界を識り続けて、それでも魔人族に対して何のフォローもできないまま数百年。

 僕たち人類はアルマという一人の人間のために、ずっとハイリアルマという名前を言わされていたこと。


「……そっか、だから……」

「そう。ハイリアルマの名前は略してはいけないということがわざわざ教義に書かれている。それを僕たちは違和感なく受け入れているけれど」

「よく考えたら、わざわざ書く必要ないのね」


 アウローラに頷く。


「今の話、もしかして魔人王国では」

「つい一ヶ月前の話だけど、もちろん広まっている。マーレさん……女王アマーリエと女神ラムツァイトゼルマ様は、ラムツァイトゼルマ教を魔人王国で広めていくつもりだ。こちらにも影響が出ると思う」

「わかったわ。……それにしても、ライはよく信じたよね」


 アウローラの疑問に、僕は隣にいるリンデさんを見る。

 リンデさんは食後に買い溜めていたであろう苺をアンと一緒に笑顔で食べながら、のんびり鼻歌を楽しんでいる。


「僕は一度といわず何度も、魔物に殺されかけた。両親はハイリアルマ教だったけど、魔物に殺された。でも助けてくれたのは、魔人族……あれだけ敵と教えられてきた魔族だけだったんですよ」

「それが、あのリンデさんなのね」

「うん。リンデさんと話していても、とても魔人族が悪人だとは思えなくて」

「それは私も分かるよ」


 リンデさんがふとこちらの視線に気付いて、僕たちを向いて首を傾げる。


「あっ、もしかしてアウローラさんも食べたいです? どうぞどうぞー」


 笑顔で苺を差し出すリンデさんと、「えーっ」と小さくぼやくアン。そんな二人の魔族の反応に、アウローラはくすくす笑いながら苺を手に取った。


「なるほど、これは確かに下手な人間より話しやすいかもね」

「?」


 話の流れを分かってないリンデさんが再び首を傾げるも、それには答えずアウローラはリンデさんの隣に行った。

 子供達は、いつの間にか復旧して苺を食べ始めていた。




 アウローラと子供達は孤児院に帰り、僕たちはその隣に置いた家で就寝した翌日。

 少し蒸し暑い部屋と……。


「……すぅ……んふー……」


 夢の中で何を見ているのか、寝ながらもドヤ顔のリンデさんを眺めて、その頭を撫でながら僕は起き上がり、部屋の窓を開けた。

 やはり王国より帝国の方が暑いな……。


 孤児院の方を見ると、アウローラが庭の畑を触っていた。

 まだまだ薄暗いのに朝早いな。

 その隣には……なんと、アンがいた。


「助かるよー、出荷となると一人じゃ大変だから」

「えへへ、まかせて!」


 ああ、もしかしてアプリコットが多く採れる日は、市場に出しているのか。

 しかし木の上の果物だ、当然採るのは大変なわけで……。


「あ、ライさんだ! おはよー!」

「え? あっ! おはよう!」


 上を見上げながら木の実をひょいひょい飛び跳ねながら採っていたアンと目が合って、遅れてアウローラも気付いた。


「おはよう!」


 二人に返事をすると、隣の窓からユーリアが顔を出して、僕に挨拶をする。返事をすると、隣からリンデさんがにょきっと目の前に出て来た。


「うおっ!」

「へっへっへーライさんを驚かせちゃいました!」

「ほんとにびっくりしましたよ……!」


 お茶目なリンデさんの頭を撫でつつ、僕もアンのところへ行こう。




「あの、すみません運ぶのまで手伝わせちゃって……」

「いーのいーの、よゆーですから!」


 箱いっぱいになったアプリコットを、リンデさんは何でもないかのように持って玄関近くに置いた。

 普段の力を見ているだけに、あれぐらいなら余裕だろう。


「あら! 誰かと思ったらライじゃないの!」

「オフェーリア! ああ、ちょうどこっちに来ていたんだよ」


 そしてオフェーリアは、当然僕から視線を逸らしてもう一箱運ぶために庭に戻っているリンデさんの後ろ姿を凝視する。


「ね、あの人は? 前見た魔人族とは違うんだけれど」

「リンデさんは、僕の同居人だよ。シレアでの間を除いて、ずっと一緒に暮らしている」

「……そうなの、あの人が……」


 オフェーリアは眼を細めてリンデさんを見ると、僕に顔を寄せて小声で囁く。


「……アウローラさ、ライがいなくなって数日は溜息多い感じだったから、こっちでいろいろフォロー入れといたわ」

「それは、その、助かる……」

「……ううん、君の事情も分かったから。恐らく用事があってというんじゃなくて、ついでに寄ってきてくれたのよね」


 僕がオフェーリアに頷くと————リンデさんが至近距離にいた。


「わっ!?」

「え? うおっ!」

「むぅ〜……シレア帝国に来てから、妙に美人さんが多い気がします……」

「た、たまたまだよ……」


 ほんとに、たまたま会った人がそうなだけで、選んでるわけではないですからね……!?

 僕がしどろもどろしていると、オフェーリアが先に声をかけた。


「あなたが、リンデさん、なのね?」

「え、あっはい! そうです!」

「……ふーん……」

「あわわ……」


 リンデさんが視線を左右に彷徨わせていると、後ろからアンとユーリアが様子を見に来た。

 もちろんオフェーリアと二人も目が合う。


「三人はどういう集まりなのかしら?」

「ふえっ、ら、ライさんの護衛剣士ですっ!」

「私もライ様の護衛を担当させていただいている魔術師です」

「わたしも剣士だよ? あなたはだあれ?」


 オフェーリアは三人に自己紹介すると、僕の方を向いてじーっと見てくる……。


「……魔族ハーレム。もしかしてライって、魔族しか愛せないタイプ?」

「違いますからね?」

「ふーん……ま、そういうことにしといてあげる」


 そうなんですって……。

 僕の心の声むなしく、オフェーリアはやってきたアウローラに絡みに行った。

 ……でもほんと、魔族の女の子ばかりになってしまった……むしろこの四人じゃ僕の見た目が珍しいぐらいだし。

 仕方ないんだ、魔族の方が強いんだから。




 そのとき、なにか頭にひっかかるものがあったけど。

 僕は気にすることなく、中へと戻った。


 ―


 孤児院には、三人目の久々に見る顔が連絡に来た。


「よお、ライじゃないかうおおっ!?」

「久し振りだなあダニオ、どうしたんだ?」

「どうしたってお前なあ……」


 ダニオは部屋の中を……ああ、そうか。


「二人とも馴染みすぎだろ……」


 その感想に、二人はお互い顔を見合わせて笑ったり、その反応自体にも、なんとも微妙な表情をしていた。

 アウローラ自身がリンデさんたちを紹介して、ダニオも比較的すぐに馴染んでいった。


「前のねーちゃんも普通な感じだったが、こっちも見た目以外は普通の子だなあ……」

「だからそう言っただろ」


 ダニオは、ユーリアの正面に座った。


「ライ様のご友人でいらっしゃいますか?」

「まあ、そんなとこかな」

「ライ様の部下として従事しているユーリアと申します、ダニオ様、どうか気軽に呼び捨てていただければと思います」


 ダニオはユーリアの勢いに若干押されつつ、僕に顔を寄せて、


「冒険者より丁寧な感じだな?」

「一応あのマグダレーナさんの弟子だから。ちなみに僕の見立てだとどの人間の魔術師でも勝てないぐらい優秀だから失礼ないようにな」

「……まったく、謙虚さは長生きの秘訣ってやつだなおい……」

「そういうことだ。……ところでダニオ」


 僕はダニオに少し真剣な顔をすると、ダニオも姿勢を直した。

 わざわざダニオが来たってことは、アウローラに会いに来たってことではないだろう。


「お察しの通りだ、南行きのやつが準備できた。一番いいやつだぜ、領主様とマスターの旦那に感謝だな」

「それはありがたい……ウンベルト様にもお会いしたかったけど、用意してもらってるのならすぐに出たいな」


 恐らくそうそう使える手段ではないのだろう、かなり配慮してもらったようでありがたい。

 さて、いよいよ新しい国へ向かう。まだまだ未知のことばかりだけど、しっかりリンデさんたちの心を守れるよう頑張ろう。

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