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僕の考察とマーレさん達の調査

 ちょっとトラブルというかレーナさんのいたずら心がありつつも、マーレさんはすぐに優先順位を考えて、意識を切り替えてくれた。

 ……といいつつも、まだ恥ずかしそうではある。


「……コホン。さて……いよいよ、ライ様はリリーさんを助けに行くのですね」

「ええ」


 マーレさんに、改めて許可を取る。

 そう、許可だ。


 僕は、リリーをすぐに救いに行きたいと言った。

 特に旦那のザックスは、魔王であるマーレさんに食ってかかった。

 しかしマーレさんの返答は厳しいものだった。


『今すぐあなたたちがリンデを連れて行ったとして、悪鬼王を目の前にして勝てるつもりですか?』


 その言葉は、あまりにも残酷な正論だった。

 リリーが心配だけれど……だからといって、自分を犠牲にしてでも助けようと思った結果、結局全然助けられないんじゃ何の意味もない。


 しかし、もちろんそこを考えていないマーレさんではなかった。

 僕もいろいろと考えて、マーレさんと今後の考えを擦り合わせていった。


 まず、悪鬼王……いや、アルマがリリーを狙ったこと。

 そして、さらっていったことだ。

 僕がさらわれた時に真っ先に思ったのが、『あれ、殺すわけじゃないんだな』だった。

 結果的に僕はこうやって生きて返ってきたわけだけど、まるで目的はアン同様に監禁することだったように思う。


 その鍵となるのは、ハンナだ。

 ハンナは、間違いなくデーモンによって『生かされていた』種族だ。

 僕ははじめ、どうしてハンナがずっとさらわれていたか分からなかったけど、村に帰ってきてからのハンナを知ってようやく分かった。

 ハンナは、ネクロマンサー。勇者の一人……『ラムツァイトの死霊術士』なのだ。

 デーモンはかつての悪鬼王国幹部ガルグルドルフのように、予知じみた能力を持つものもいる。

 だからハンナが幼い頃にさらわれて、霊から情報が漏れるのを避けたのだ。

 ここ近年死霊術士が勇者の村から出てきていなかった理由も分かる。勇者は一種が一世代に一人のみ……つまり、皆さらわれたのだろう。


 ここから察するに、僕がさらわれた理由も分かる。

 つまり僕が『ラムツァイトの洞観士』であることを、悪鬼王国は知っていたのだろう。

 だから悪鬼王国は、僕を殺さずに監禁した。それは僕の行動を封じるというのはもちろんのこと、『次の洞観士が出ないようにする』ためだったのではないだろうか。


 僕への襲撃までが遅かった気がしたけど……もしかすると、僕たち人間が知らない間に、何か魔人王国との確執があったのかもしれない。

 事実として、リンデさんは最初から悪鬼王国のことを知っていたし、デーモンも魔人王国をよく知っていた。

 ここで最初に村に現れたデーモンに戻る。

 あのデーモンは、リンデさんの時空塔強化を見て『女王の騎士団』だと言った。

 そうだ、あいつは最初っからリンデさんがどういう所属であるかを、リンデさんではなくリンデさんの能力で理解したのだ。

 察するに、悪鬼王国は魔人王国の面々を直接知らなくても、その能力に関しては十二分に熟知している。それがガルグルドルフによるものなのか、魔人王国と悪鬼王国との戦争による者なのかは分からないけれど……。


 姉貴は、デーモンに襲われても大丈夫だった。

 ハンナは、デーモンにずっと誘拐されていた。

 僕は、一度さらわれて監禁させられた。


 だとすると、リリーは。


 あの時のマーレさんの発言が、僕の頭の中で反芻する。


————リリーさんも、何らかの勇者なのではないでしょうか。


 その発言を否定する材料は、あまりに少なかった。

 リリーの背中なんて見たこともないし、条件が揃いすぎていた。


 同時に。

 リリーに関して、マーレさんは悪鬼王自らが誘拐に来た以上、一代に一人の勇者の可能性があるリリーを殺すようなことは、絶対に避けると断言した。

 理由は……リリーがデーモンにとって厄介な勇者だった場合、今のこの村で姉貴の子供に発現する可能性が高いからだ。

 魔力を持ちつつ、この村の出身者で、ラムツァイトゼルマ教を知った母親。

 もしも勇者の魔人族ハーフが現れた場合、デーモンにとってこの上なく非常に厄介な相手となる。

 かつてゼルマを警戒したアルマは、それを分からない相手ではないだろうと。


 それらを全て踏まえた上で、レーナさんに魔法を教えてもらうことになった。

 レーナさんが納得するまで、僕を指導する。

 その師弟関係も、ようやく昨日認められて関係解消となった。




 レーナさんが僕の隣に座って、高い場所から子供のように、僕の頭をぽんぽんと撫でる。


「昨日もマーレには話したけど、一ヶ月、みっちりやったわよ。本当に優秀、リンデにもこれぐらい優秀さがあったらね」

「うっ……」

「ま、あんたの分までライが頑張ったってことでさ、これからは存分にライの魔法に頼るように。男ってのは魔人族じゃなくても、やっぱり頼りにされたいものだと思うから」

「わ、わかりましたっ」


 リンデさんが必死に頷いて、僕と目を合わせる。

 僕もリンデさんに頷き返し……レーナさん、そろそろ頭に手乗せるのやめてもらっていいですか?


「レーナから見て、ライ様はそこまで優秀だった?」

「性格を体現してるっていうかなー、争うような魔法はそんなに得意じゃないんだけど、補助魔法とかあの辺はすごいわね。レオン以来なんじゃないかなってぐらい優秀よ、教え甲斐があるわね」

「争うような魔法、というのは……?」

「攻撃魔法は、ダブルが乗らないんだわ。広く浅く何でも使えるけれど、こう『一番目立ってやる!』とか『絶対にブッ殺してやる!』みたいな気迫とか、そういうのがあんまないんだろうね。あくまで他者を立てて他者を喜ばせていれば、自分は日陰者でもいいって感じなんだよ」


 う……魔法に関しては圧倒的なスペシャリストであるレーナさんからの評価が、あまりにも恥ずかしい……。

 ああもうマーレさん、そんな暖かい目をしないで……姉貴も同じ目をして……うう、本当に恥ずかしいぞ……。

 レーナさんの分析は能力に沿っているため正確であるが故に、僕の内面を思いっきり皆に紹介させられた感じがする……。

 まあ……その、隣のリンデさんもすごく嬉しそうに抱きついてきているので、その……よかったことにしておこう……出会ってそろそろ一年になるというのに、相も変わらずリンデさんが絡むと甘いのであった。


「ってわけで、ライはリンデやユーリアを強化して、回復して、防御もするという役目。攻撃魔法自体もとりあえず全属性は使えるから、広い範囲で活躍できるわよ」

弓術士アーチャーなのにダブルじゃなくても全属性って、それじゃ普通の魔術師キャスターは……」

「人間の魔術師は、かんっぜんにライの下位互換ね」


 姉貴がすっかり驚いて、ソファに身体を沈めた。

 それからぼーっと天井を見ながら「最初からこうなら、ずっとライと旅してたのになー」なんて呟いた。

 その呟きは小さかったけど、かつて姉貴に置いていかれた僕にとって、何よりも僕を認めてくれる発言だった。




 さてと、それじゃあこれからのことを考えよう。

 マーレさんが、事前に話していた情報を教えてくれるようだ。


「まず、悪鬼王国の跡地。レーナにはライ様との訓練が終わってから、夜の間に何度か調べてもらっていました」

「悪鬼王国跡地ですか……結果は?」

「一言で言うと……分からない、のです」


 分からない?

 レーナさんが一ヶ月調べて?


「建物は数多くあるのですが……看板が曖昧というか、削られて読みづらいのです。中も無機質で、灰だらけのようで……何らかのヒントになるものがあるかもしれませんが、もしかしたらもう破壊された後かもしれません」

「ああ……手がかりになりそうなものは、既にないと」


 手がかりがないのでは、本当に調べようがない……。

 僕が諦めかけたとき、窓からクラーラさんが入ってくる。


「クラーラさん?」

「……外で、聞いてた……。手がかり、ある……」

「な、何かあるんですか!」


 クラーラさんは、自身のアイテムボックスからゴトリと、部屋の中央に大きな岩を……岩にしては綺麗だ。何だろうあれは……。


「あ、ゴーレムじゃん」

「姉貴?」

「なんだっけ、ビルギットさん覚えてる?」

「『アダマンタイトゴーレム』、ですね。私も横から聞いただけですが、悪鬼王が『天界』から持ち込んだと言っていたものです。オリハルコンゴーレムより強い、私と同等の力のゴーレムでした」


 天界のアダマンタイトゴーレム。

 そうか、これが……。


「……リンデ、これを回収して……」

「わかった、まーかせて!」


 リンデさんのアイテムボックスの中に、その大きなゴーレムの頭と胸のパーツらしきものが回収される。

 マーレさんはリンデさんが回収し終えたのを見て、深く頷いた。


「こうなると、手がかりがどこにあるのか皆目見当がつかないのですが……唯一の手がかりは、あのアダマンタイトゴーレムです」

「あれの出所というか、知っている人を捜すのが当面の目的ですね」

「はい。ライ様には非常に難しい旅になるかと思いますが……」

「いえ」


 マーレさんの発現を遮って、僕はすぐ隣のリンデさんを抱き寄せる。「ひゃっ……!」という可愛らしい声で肩をすくめながら……ってなんでそんなに初々しい反応するんですか、さっきまでリンデさんが僕に抱きついてたじゃないですか……。


「はいはい、おあついおあつい。要するにリンデちゃんが一緒だから全く厳しくないよー新婚旅行だよーって意味でしょ、わかったわかった」

「そういうのやめてくれよ……リリーを助けるためなんだから」

「ん、それもそうよね、ごめんごめん。本当ならあたしが行きたいところだけど……。…………。……リリーも、ライが迎えに来たら……」

「何か言ったか?」

「……ん? なんにもー?」


 姉貴は聞き返しても話をはぐらかすと、ベビーベッドの方へと行ってしまった。

 ……でも、そうだよな。姉貴もリリーを救いに行きたいよな。

 だけど今は、一児の母親だ。

 レオンも連れていきたいけど、父親になった。

 クラーラさんも、レーナさんも、僕自身がクリストハルトを護ってほしいと願っている。


 でも大丈夫。

 こちらには、リンデさんと、ユーリアと、アンがいる。


「マーレさん、レーナさん、それに……ここ一ヶ月特に毎日村を護ってくれているクラーラさん。いろいろとありがとうございました」

「……ばらされた……恥ずかしい……」

「みんな感謝していますよ」


 頭を掻きながら恥ずかしがるクラーラさんに微笑みかけると、ソファから立ち上がる。

 三人も一緒に立ち上がり、僕を見て頷く。


「さあ、出発しよう」

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