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リンデさんの友人だそうです

お姉ちゃんパートが増えてきます。(ちょっと出てないキャラの名前変更)

 姉貴が出てしばらく経ってからのある日。

 リンデさんの格好を見て、ふと思ったことを言った。


「服は、一着だけですか?」

「当然ですよ」

「当然なんですか?」

「だって一人一つしか着れないじゃないですか」


 ……まあ、そりゃそうだ。そりゃあそうだけど。普通女の子っていろんな服を持って着替えたりするものだよなあ。


「女性なら数着とか、10着とか持ってて、日や季節、気分によっていろんな服に着替えたりとか、しませんか?」

「なにその贅沢な生活こわい」


 服がたくさんある生活、怖がられてしまった。


「いや、複数の服を着ることは普通ですし、服はそんなに珍しいものではないですよ。リリーも何着も持ってるだろうし」


 僕がそう言うと、リンデさんが凍り付いた。少しずつ氷が溶けながら驚いた顔になっていった。


「ま、待ってください。服ってあの細いモノを異常なまでの量重ね合わせたこれのことですよね!? 宝飾品以上の高級品じゃないんですか!?」

「安物ではないですが、必要数が多いので宝飾品ほどではないですよ」


 僕は、そのことを言うと、リンデさんはがたがた震えながら「人類は一体どれほど魔族の上を……」と呟いていた。

 ……まあ、作り方が確立されてないと、服を作るという作業は料理の比じゃないほど大変だろうなあ。


「……ふと思ったんですけど、リンデさんってその服を着れるぐらいには器用なんですよね」

「ええっ無理ですよ!?」

「えっ」

「あ……えっと……」


 ……もしかして……


「全く着替えたことがないし、着替えることもできない?」

「……はい……。……この服は、えっと、エファちゃん……リッター12番の器用な友達に着せてもらったから、一度脱いだら、その、もう一人では着れないと思います……」

「……着せてもらった……」

「あの……ごめんなさい……呆れましたよね……」

「いえ、僕もリンデさんのできることができないのでお互い様ですよ。そうじゃなくて……そういう多少なりとも器用な子もいるんだなあって」


 魔人族全体が不器用とは聞いていたけど、一応この服を着させることができるぐらいには器用な子がいるんだ。

 リンデさんの服は、上が白い長袖、下は赤のスカートだった。

 問題は、その体のサイズに合わせてちょうどよく付けられてある紐を丁寧にリンデさんの体に合わせて締められた黒いコルセットだった。リンデさんの力なら締めすぎて千切ってしまいそうな見た目をしていた。


「エファちゃんは特にそうでしたね。多分クラーラちゃんも器用だったのでできるとは思いますが、あまりそういったことに興味を向けた姿を見たことがある子ではなかったので。エファちゃんは私と同様に、人間の文化に興味津々な子で、よく助けてくれました」

「そのエファさんというのは、一緒には来なかったんですか?」

「エファちゃんは……12という番号から察することが出来ると思いますが、あまり戦う能力が高くない騎士だったんです」

「戦う能力が高くないのに、騎士団なんですか?」


 ちょっとよくわからない表現だ。剣を持って戦うから騎士団っていうんじゃないのか? リッターの話はまだ分からないことが多い。


「そうですよ、騎士団といってもそれぞれ騎士っぽくはないというか。クラーラちゃんは剣も弓も魔法も使いますし、3のカールさんは私と同じ剣ですが、4のビルギットさんは拳で格闘する騎士です。リッターの12人は相性問題で上下があるけど、みんなお互いのことをフェアだと思っているはずですよ。ちょっとクラーラちゃんは頭一つ抜けて強いですけど」

「じゃあ、12のエファさんというのは……」

「エファちゃんはですね……


 ……回復術士(ヒーラー)なんです」


 ================


「こ、来ないでください! うう、こんな強い人間がいるなんて……!」


 ……それはこっちのセリフよ。


 王都からそこそこ離れた魔物の森の中で、あたしは、その強力な防御魔法を張った子を見た。防御が固くて打ち合ってもこっちが怪我しないのがやっとね。それでも剣をぶつけた瞬間にあたしが少し押した。それだけのことでもかなり驚いた顔をされた。

 今まで誰を相手にしてもびくともしなかったんでしょうね、これ。実際押したはいいけど破れる気は全くしないわ。


 魔法のロッドを利用した棒術も、かなり強い。小さい体から出ているとは思えない強く素早い動きで、こちらを牽制してくる。だけど、非常に慎重というか、絶対にこちらを怪我させないような動きをしていた。




 ……なんとなく、そういうことなんだろうな……と思いながら剣を鞘に仕舞った。正面の子の黒く大きい目がぱちくりと瞬きをする。うーん、リンデちゃんにそっくりな見た目ね、この子は。

 あのデーモンとかいうのとは違うって、さすがに今なら分かる。


 あたしはその魔人族であろう子に声をかけた。


「えーっと、あんた、魔族よね?」

「ヒッ! ごめんなさいごめんなさい!」

「いや別に怒ってないから、もう襲わないから」

「……! ほ、ほんとう、ですか……?」

「だって、さっきからあんたはびくびくしながら攻撃してる。それは、あたしに怪我させられないように、じゃない。あたしに怪我させないようにしてるわよね。分かるわよ、そんな子に襲いかかったりしないわ」

「は、はい……あの、本当に襲わないのですか?」

「しつこいわね、元々あたしは魔人族は襲うつもりがないっての」


 見るからに無害って感じよね、この子は。リンデちゃん以上に無害って感じだわ。ちょっと喋ればこの子に攻撃しようなんて、普通思えないわよね。

 そう思っていると、後ろからこの状況を作ったヤツの超ムカつく声が飛んできた。


「な、何をやっておられるのです勇者様! 魔族ですよ、早く討伐を」

「ああ!? さっきからおめーら騎士団はこんな虫も殺さねーようなガキに向かって大人が寄ってたかってどういう了見だチ○コついてんのかオラァ! マックスおめー今度は腕じゃなくてチ○コ折ったろかコラ!」

「ヒィィィ!」

「フン、全く国を守る騎士団が寄ってたかって杖持ちのガキ一人を取り囲むとかこのクソチキンどもが! 明らかにおめーのせーで怯えてんじゃねーか!」

「いえ、それはミア様の声に怖がっているからでは」

「———うん、やっぱ折るとか穏やかな選択肢あたしらしくなかったわね、ミアちゃん反省。———素手でねじ切るわ」

「ももも申し訳ございませんねじ切るのは! ねじ切るのだけは勘弁を!」


 騎士団長は非常にダサい土下座をする。ちょっと頭来たからって言い過ぎちゃったかしら、反省反省。反省していなさそう? もちろん。

 後ろの魔人族の子はなんだかさっきより涙目になって「あわわわわ……」と言いながら座り込んでいた。




 あーもー、何かしらこの状況。

 ……ま、とりあえず。


 この子、ほっとけないわね。


 ================


「ヒーラーなのに騎士団なんですか」

「はい、騎士団と言っても団結できるチームぐらいの意味合いしかないので。エファちゃんは後衛で支援をするタイプの魔族でした」

「それでも騎士団代表って事は、回復魔法の実力がそれだけ高いんですね」

「そうですそうです、エファちゃんの回復魔法は頭一つ二つは飛び抜けて強力で、多少の傷から跡が残る大けがまで、エファちゃんにかかれば治らないものはないと言われているほどです」

「そ……そんなに」

「はい。それでいて防御魔法も使えて、そこそこ自衛のための近接戦闘能力もありました。争い事が本当に苦手なんですけど、本気を出したら防御魔法を使いながら回復し続けるので耐久力は本当に高いですね」


 その上で、魔人族独自の状態異常や属性魔法の無効化、か……。そりゃ確かに強いな、リッターのエファちゃん。


「具体的にどんな子だったんですか?」

「とにかく控え目でかわいい子でしたね。体も私の胸の辺りまでしかなくて、ミアさんから更に頭一つ小さいぐらいです」

「ちっちゃいですね、子供みたい」

「子供みたいですよ、実際には私より年上だったと思うんですけど。それと、かわいいものとか、あと服や装飾品や、小説や。そういったものも好きでしたね」


 ……今、聞き捨てならない単語が出てきた。


「……小説? 魔族は小説を読んだりするんですか?」

「文字は読めるように教育されると普通に読めるので、陛下が身分関係なく全員に文字の読み書きはできるように徹底させていました。その教育で廃墟の洞窟にあったたくさんある物語の本を読んだりもします。

 服は消耗の危険が大きいので保管しているのですが、その街の書物は数が多かったのと、陛下が文字は数を読ませた方がいいと判断したため、自由に読めるようになっている感じですね。体を動かすのが好きでない魔人族は大抵本好きです」


 ……独特の文明レベルだ、魔族の人々。思いっきり原始人かと思ったら、予想よりはよっぽど文明的だし、教育に対する考え方も進歩的だ。

 こちらで読み書きの王国民の徹底なんてやってたかな……多分これは、生物・種族の能力ではなく各国の陛下の能力の差だ。


 ……あれ? やっぱり人類、国王のレベル圧倒的に負けてない?


「ええと、そうそうエファちゃんの話でした。エファちゃんはそういう子だから誰とでも仲がいいし、性格もいいし、組んで安心の子だったので人気でしたね」

「そうですか……じゃあ魔人王国のもとにいても、その子がいないと新しい服を持っていても着替えること自体が出来ないと」

「残念ながらそういうことです……」


 僕が脱がせるわけにもいかないしなあ……。新しい服が手に入っても、着替えるにはこの服を脱がせて、別の服を着せて……って、今の想像はよくない! 何考えてるんだ、僕が脱がせる必要ないだろ!

 しかし着替える度にリリーを頼るというのもちょっと違う気がする。


「というかこの服も陛下の頂き物なので、破損させたら後が怖いので迂闊に手出しできないのです。ああでも人間ほど汗をかいたりもしないので、そこまで服が汚れていることはないと思います」

「わかりました、それじゃその辺の話はまた後々考えることしましょう」

「はい、新しい服、私も欲しいですし、きっとエファちゃんも……みんなも着たいって思ってるはずですから」


 =================


「なるほど、あんたの名前はエファっていうのね」

「は、はい……」


 エファちゃんはびくびくしながらも答えてくれた。桃色の髪に、大きな目。角はほとんど目立たない。ほんとにちっちゃくて可愛いわねー。


「あたしはミアっていうの。あそこの弱い癖して威張り散らす男どもが王国騎士団。あそこにいる先頭の中年入りかけのしょぼい男が騎士団長のマックスよ」

「えっと、その……男性の方をそういうふうに言うの、あまりよくないと思います……」

「はーっ! あんたほんといい子ね! ちょっとそこの玉ついてんのか怪しい野郎ども、聞いた今の!? この子ってば一方的に斬りかかったあんたたちのプライドに配慮してくれているわよ!」


 あたしが声をかけると、遠くでまだ剣を構えていた騎士団長も、ようやく剣を下ろした。


「……本当に、無害って感じですね……魔族というものとして教えられてきたものと印象が違いすぎて、どう対応したらいいのか……」

「普通の女の子と同じでいいのよ、こんなの。言葉を交わせることができたら何も問題なんてないでしょ。大体マックス、こんだけ喋れる上にあんたのことあたしより男として見てくれてるちっちゃい子、今更あんた斬れるの?」

「……正直……斬れと言われても、躊躇いますね……」


 マックスが剣を鞘に仕舞ったところで、他の騎士団の男どもも剣を下ろした。


「しかしミア様、随分魔族に慣れていますね。以前にも会ったことが?」

「あーーー、……まあ、そんなとこよ。その相手に手加減された挙げ句に思いっきり手も足も出なくてね。でも全くモノも取られなかったし、人間よりよっぽど紳士的だなーって思ったのよ」

「ミア様より強いのですか……」

「そ。しかも魔王じゃない上にもっと強いのがいるんだってさ。……だから下手に相手がこっちを滅ぼそうとする気がない以上はなるべく敵対したくないのよ」


 その魔人族の子をマックスと一緒に見る。怯えたように見るエファちゃんだけど、こんな見た目であたしの剣を通さないんだから本当に強い。

 多分あのロッドを使った棒術、本気になると騎士団長負けるんじゃないかしら。


「あたしだって、勝てない相手には勝てないの。少なくともこの見た目の子には絶対に手を出しちゃダメ。もし弱い個体を殺してこじれたら、あたしは人類助けないわよ」

「な……人類の希望が人類を助けないなど、本気で言ってるのですか!?」

「当たり前でしょ、無抵抗な相手を一方的に殺したなんて、正義のない行為を選んだ王国は助けないわ。それに……」


 あたしは、自分の剣の柄を触って、あの時の敗北を思い出しながら言った。


「勇者だって勇気と無謀が違うことぐらい知ってる。あたしが死んだら後がない上に、マックスだって責任を取らさせることぐらい分かるわ。どうせあの国王も教皇も兵を使い捨てた後は、自分の体は張らずに降伏するでしょうね」


 そのことに反論しようとして、マックスも押し黙って下を向いた。

 ……そうだ、あたしが死んでしまった時は、本当に後がなくなる。振り上げた腕の下ろし時を見失うと全滅だ。


 じゃあどうするかって? 最初から腕上げる必要ないなら上げなけりゃいいのよ。


「だからマックス、覚えておいて。この青い肌と黒い目をした敵対してこない魔人族のことを。そして、灰色の体をしたデーモンとの違いを」

「デーモンは違うと」

「あたしの村、滅ぼされかけたのよ、デーモンに。あっちは明確にこっちを殺すつもりできてる上に魔人族とも敵対してるっぽいから、そいつら出てきたらあんたたちの出番よ」

「なるほど、悪い魔族というのもいるのですね、わかりました。上の方にうまく通じるかはわかりませんが、少なくともこうやって見た以上は、兵の中では徹底させます」

「教会には期待してないから、兵達の分は頼むわね」


 あたしはマックスが返礼と共に兵の中に戻っていくのを見届けた。最後に振り返り、あたしに聞いてきた。


「ところで、その子はどうするのですか?」

「ちょっとあたしが用事があるのよ。だから単独行動するわ」

「わかりました、ご武運を」

「敵対するわけじゃないから心配しなくてもいいわ」


 -


 あたしは騎士団が王都に戻ったのを見届けると、エファちゃんに向き直った。


「さて、と。エファちゃんだったわね」

「は、はい」

「あたし、魔人王国に行きたいんだ。案内してくれる?」

「えっ!?」


 まあ、さすがに驚くわよね。魔人の国に乗り込みたいなんて言ったら。


「ええと、お、お話を聞くに、滅ぼしに行くなんてことではないんですよね?」

「多分魔王に勝てないわよ。それ以上に、ハンスさんって人とか、めっちゃ強い人たくさんいるって聞いたし」


 そうだ、あのリンデちゃんより強いフェンリルライダーなんて、とてもではないけど戦いたくない。命がいくらあっても足りない。


「……あ、あの。ミアさんは、ハンスさんを知っているんですか? ハンスさんは島から一歩も出てないはずなのに……」

「あっ、そうだったわね。ハンスさんのことは聞いたのよ」

「えと、その、聞いたんですか?」


 なんとなく話しそびれていたけど、ここを端折ったらわかんなくなるわよね。


「うん、リンデちゃんって子に」




———その名前を言った瞬間。

 エファちゃんはそれまでの引っ込み思案な雰囲気を消してあたしにつかみかかってきた。


「リンデ!? ジークリンデさんのことですか!? リンデさんと会ったんですか!? いつ!? どこで!? リンデさんは無事なんですか!?」


 その変貌っぷりに気圧されながらも、あたしは答えた。


「ど、どうどう! 無事、無事よ! というかあたしの弟のライムントってやつがいるんだけど、そいつのところで寝泊まりしてるわ!」

「み、ミアさんの弟さんと!? 無事! 無事なんですね!」

「そうよ、あたしもたくさん喋ったわ」

「……よ、よかったぁ〜……」


 そう言って、エファちゃんはへなへなと座り込んだ。


 どうやらこのエファちゃん、なんでこんな人間の王国の近くにまで単独でやってきたのかと思っていたら、リンデちゃんのことが心配で、無事かどうか調べにやってきたってことみたいね。

 ああもう、揃いも揃って魔人族の女の子は可愛すぎか!


「しかも……なんか、弟とリンデちゃん、すっごく仲いいのよね……」

「仲いい、んですか?」

「ええ……一緒に家にいるのがつらいぐらい仲よかったわね……」


 あたしの意気消沈した様子に、エファちゃんは心配そうに声をかけた。


「……何があったんですか?」

「なんだろ……あたしの弟の食事食べる度に、生涯一緒にいることを約束し合ってる夫婦のような会話をしてて……」

「男性のお手製食事……! は、はわわ……」

「あと、ライが自作の指輪をリンデちゃんに嵌めて、お互いに照れ合ったりとかしてたわね……」

「じ、自作の指輪……!? はわわ、はわわ……」

「同じベッドに一度寝てたんだけど、なんだか体を寄せたり髪を撫でて見つめ合ったりとかしてて、それはもういい雰囲気でね……」

「はわわわわわわわ……」


 あたしのつぶやきに、両手のひらを顔に当てて、顔の色を濃く染めている。


「す、すごい……読んだ恋愛小説の一番だだ甘なやつよりも甘い……じゃあ、あんなことやこんなことも……」


 そのポーズのままぽーっと上を見ながらつぶやいた。

 ……うーん、なかなか可愛い表情してるところ悪いんだけど、あたしはちょっとエファちゃんの脇腹をつついて妄想ワールドから引き戻した。


「エファちゃん」

「ひゃいっ!」

「さっきの話しから察するに、エファちゃんはリンデちゃんとも知り合いなのよね」

「あっ、はい! リンデさんは私たち時空塔騎士団の第二刻であり、また何にでも興味津々で明るく元気な子なのでみんなに人気なんです!」

「わかるわー、明るいわよねあの子」

「はい、私もたくさんお世話になっていて、助けが必要な時には必ず向かっていました。……あ、私は第十二刻です。あんまり戦うのは得意じゃないヒーラーです」


 ヒーラーかー。どうりでそんなに戦う気がなかったわけだ。

 しかし人類最強のあたしが十二番目のこんな小さい子にも勝てないって、さすがにちょっと凹むわね。でも同時に凹んでもられないぐらい怖いわ。

 こんなの12体とか人類が挑んでいい相手じゃない。


「だから、ミアさんが襲ってこないと聞いて本当に安心しました。陛下には絶対人間に怪我させてはいけないと言われていたし、まさかこんなに強い人間がいるとは思っていなかったので、もう本当にここで私おしまいなんじゃないのかってぐらい怖くて……」

「それは悪いことをしたわね。あたしとしても、エファちゃんが攻撃的な子じゃなくて安心したわ。あれだけ固い防御魔法、ちょっと正面からぶつかりたくないわね」

「そうですか? でしたら私も安心です。人間を攻撃せずに、相手の攻撃だけを防ぐのは大変かなと思ってましたけど、まだ私の防御魔法は通用しそうですね」


 お互いのことを褒め合って、お互い明るく笑い合った。

 うん、大分このエファちゃんって子とも打ち解けたわね。


「……と、ところで、魔人王国に行きたいってのは、どういうことなんでしょうか」

「———よくぞ聞いてくれました」


 あたしはエファちゃんの両肩をがしっと掴む。なんだかエファちゃんが「ぴっ!」と言って思いっきり怯えているような気がしたけど気にしない。


「あたしが魔人王国に行く理由はね!」

「は、はひっ!」

「男漁りよ!」


 ………………………………。


「…………お、おとこ、あさり、ですか?」

「そうよッ!」

「ぴぃっ!」


 あたしはエファちゃんの両肩から手を離して握り拳を作った。


「考えてもみなさいよ! 朝起きて朝食を作ってもらおうと部屋に行ったらあたしが必死こいて一人旅の末に討伐しようとしていた魔族が弟とベッドの中でもぞもぞ動いていて! 料理を食べてたらあたしを無視して二人の男女がなんかいちゃいちゃしてて! そんなのをあたしの目の前で、あたしにおかまいなしに、っていうかもうあたしがいないかのように完全無視してやってるのよ!? ……やってらんないわよ……」

「は、はい……」

「あたしは20年間男の縁が全くなかったというのに……全く……もうまっったくなかったというのにィ〜ッ!」

「ぴぃーっ!」


 力説するほどに怯えられる。頭の片隅で冷静なあたしが、こういうところがダメなんじゃない? とか言ってたけどもう止まらないわ。


「人間の男は自分より強い女には気がないって言うから、あたしは魔人族の男に希望を見出しているのよ! あたしとお付き合いしてくれる男を! 探しているの!」

「……は、はあ……」

「だから! あたしが魔族に会いに行く目的は! 男よ!」


 エファちゃんがあたしの熱い説明を聞いて、……腕を組んで呟きだした。


「……うん、変に友好とか言うよりは、信用できる、かなあ……? 私の判断で陛下に会わせても大丈夫かな?」

「どうかしら、あたし行っても大丈夫?」

「あっ、はい。ミアさんには目的だったリンデさんの無事も教えていただけましたし。どちらにしろ明らかに軍隊みたいなのを連れてくるわけでもなさそうですし、暴れてどうこうというわけでもなさそうなので、連れていっても大丈夫です」

「っしゃあああーーー! ようやく! ようやくよ! さんざん待たせやがってあの文官! ついに来るのねあたしの薔薇色の生活! 待ってなさいよーっ!」


 あたしは、西の空に向かって吼えた。


「……だ、大丈夫って言っちゃったけど……大丈夫かなあ……?」

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