魔人王国へ、頼りになる魔族パーティで出ます
前話に、アンとの会話を追加しました
マーレさんとレーナさんに迎えられて、魔人王国へと出発する。
リンデさんを連れて姉貴と軽く挨拶を交わし家の外に出ると、ビルギットさんが待機していた。
「陛下。ライ様の護衛とあらば、後ろは私に任せていただけないでしょうか」
「そうね、クラーラをミアの守護に使うから、私も後ろはカールかあなたに任せようと思っていたところ。それではビルギットに後ろを任せるわ、必ずライ様をお守りするように」
「御意!」
ビルギットさんがきりっと頷いた後、僕に視線を寄越して少し微笑む。
マーレさんが、そんなビルギットさんの近くに行き、手を口の横に……?
声を聞くように、ビルギットさんはマーレさんの頭の高さまで屈んだ。
「ビルギット、今、私の護衛じゃなくて、ライ様の護衛のために同行するって言ったわよね?」
「……あっ、ああっ……! も、申し訳ございません……!」
「いーのいーの、きっとその方が気合いも入るでしょ? それに、出来る限り近くにいたいものねー?」
マーレさんは顔を離して、ビルギットさんの頬を指先でぷにっとつつく。
ビルギットさんはこちらを向いて、すぐに恥ずかしそうに視線を逸らした。
……今のは割とバッチリ聞こえちゃったけど、聞こえないふりしよう。
リンデさんが、昨日のバリエンタンを口いっぱいに頬張ったときのように、ぷくーっと膨れて「むぅ〜っ……」と唸っていたからね……。
ビルギットさんは、特に誰に言うわけでもなく独り言で「すみません……」と呟いたのだった。
村を出る時は、いつも門から。
そこにはいつかのように、リリーがいた。
「ライ、また行くんだってね」
「耳敏いなあ。そうだよ、魔人王国へ行ってくる」
「……大丈夫、なんだよね?」
それは、僕が再びどこかに行かないかという心配。
しかし今回のメンバーは、一味違う。
「さすがにこれ以上望むのは贅沢だってぐらい、すごいメンバーだから大丈夫だよ」
そう言うと、リンデさんが頭を掻きながら申し訳なさそうに謝る。
ああっ、そんなつもりで言ったんじゃなくってですね……!
僕が弁解しようとする前に、リンデさんは謝った。
「ごめんなさい、リリーさん。ライさんを護るって言っておいて……」
「ほんとだよ」
「お、おい!?」
リリーは珍しく、腰に手を当てて怒っていた。
いやいや、お前さあ、本来リンデさんの比ではないぐらい弱いだろうによく言えるよな?
僕がたしなめようと思うも、リリーはむしろ厳しい顔をしていた。
「ライはちょっと黙ってて。……私は、リンデちゃんのこと、本当に頼りにしてたんだから。自分でもかなり実力に見合わない我が侭な主張だって分かってるよ、それでも……ううん、リンデちゃんなら私の気持ちも分かっていると思う。私は、あなたを信頼してライをあなたに預けるの。頼りにしてるんだからね」
「はいっ、もちろんです……!」
どこか曖昧な言い方をするリリーに対して、リンデさんにはリリーの事情が分かっているのか、きりっとした顔ではっきり返事をする。
そこへ————。
「わ、私もっ……!」
やってきたのは、アンだった。
「アン? もしかして……」
「ライさんと、行くなら、私もライさん、まもりたい……!」
アンは僕を見た直後、マーレさんの方を真剣な目で見る。
「あなたは……。……」
マーレさんは少し考えるような顔をした後、僕の方を向いた。
「ライ様は、連れて行ってもいいと思いますか?」
「え? 僕に聞くんですか? いいとは思いますけど……」
「わかりました、連れていきましょう。一応みんなで走るから、そのつもりで」
「本当っ!? ありがとう、マーレさん!」
アンはマーレさんにお礼を言って、僕を挟んでリンデさんの反対側横に来た。
マーレさん、本当に信頼してくれるのは嬉しいんですが……同行の判断を僕に聞くの、ちょっと不思議な気がする……。
何か考えがあるのだろうか。マーレさんの考えを僕が推し量るのは難しいけど、でもマーレさんの判断ならきっと大丈夫なのだろう。
「それじゃ、行ってくるよ」
「せめてミアの出産までにはすぐに戻ってきなさいよ」
「分かってるって」
リリーに見送られて、村を出る。
暫く歩いて振り返ると、まだリリーは僕の方を向いていて、僕に対して大きく手を振った。
ずっと見ていたことに驚きつつも、僕も腕を大きく振り返す。
……やっぱり、ザックスから聞いたように、いない間はかなり心配をかけたってのは本当なんだろうな。
そういえばリンデさんと会った初日を含めて、リリーは僕の討伐や採集の帰りに門で会うことが多い。
昔から、僕の知らない時間もずっと気にかけてくれていたんだろう。
リリーのためにも無事に帰らないとな。
ま、今度のパーティは前以上に強いし、姉貴達の活躍のお陰でデーモンの脅威もないから大丈夫だよ。
またすぐに会えるって。
さて、今度は姉貴ではなく、僕の魔人王国への遠征だ。
レノヴァ公国やシレア帝国の時同様に、村にずっと籠もっていた僕が村を離れて新しい街を見るのは楽しみでもあり、ちょっと不思議な感覚もある。
なんといっても周りがついに人間ゼロである。
魔王、魔人族、デーモンという魔族フルメンバーに人間の僕が護衛されているというのだから、本当に面白い組み合わせだ。
去年の僕にこんな冒険者パーティになるよと言っても笑われるだろうなー。
西側への移動は、やはり僕が一番足が遅い。
そのため、マーレさんは僕を抱えて走る案を出した。
「まずは海岸まで、レーナがライ様を掴んで飛んで————」
「嫌です」
「————って、リンデ?」
マーレさんの命令に、なんと明確に拒否を示したリンデさん。
ここまではっきり『嫌です』と表明するのは、初めてなんじゃないだろうか。
「嫌って……それが一番安全なのよ? 何か拒否する理由でも」
「……うーっ、でもでも、マグダレーナさんとライさんが密着するのは……! そ、その……私が、その、えっと、マグダレーナさんの代わりに抱いて走りますので……!」
リンデさん、ちらちらとマグダレーナさんの顔と体を交互に見る。あ、まさかあの横抱き移動ですか……!
いやあの、そりゃまあ確かにマーレさんの方針だとレーナさんと密着はしますけど!
まさかあの魔王のマーレさんに反抗するほどレーナさんに嫉妬するとは思わず、さすがに驚いた。
……内心ちょっとリンデさんの反応を嬉しいと感じちゃっているのは、心の中に押し込めておこう。
マーレさんはそんなリンデさんの姿を見て、嬉しそうに笑い出した。
「ふふっ……! まさか、リンデちゃんの明確な拒否が聞けるなんてね! これはそのうち、陛下呼びも取り下げられるかしら」
「そ、それは無理ですよ陛下っ!」
「どうかなー? ライ様を条件に出したら、チャンスがあるんじゃないかなー?」
楽しそうに笑う魔王様に、リンデさんがしどろもどろ。
しかしあまりのんびりしている予定もないと判断したのか、マーレさんはすぐにからかうのをやめて手を叩いた。
「ま、そういうことならわかったわ。レーナ、周りの警戒をしつつ上空から先行して。私が陸を先行、アンはリンデを護って、ビルギットは皆が見られる後ろからついてくるように」
そして僕は、有無を言わさず抱え上げられ、すぐに体に風の勢いが振りかかってきた。
リンデさんの首に腕を回して、舌を噛まないように黙っている。
ここから、長時間の移動だ。
…………。
……リンデさんの顔を見上げながら、揺られ続ける。
体の感触、暖かい温度、邪念を捨て去って……。
……しかし暫く走っていると、何か、ものすごく視線を感じる。
というか、リンデさんがちらちらと、視線を不自然に動かしている。
リンデさんの顔から視線を外すように首を動かすと。
「…………」
すっっっごく至近距離で僕を覗き込んでいる、アンと目が合った。
くりんっとした黒い目玉の中の赤い瞳が、僕を興味津々に見ている。
そうか、リンデさんと同じ身体能力を持ったアンは、僕を持っていない分リンデさんより余裕のある身体能力で、ずーっとリンデさんと併走して僕を見ていたのか……!
うわ……よりによってこの子に見られるとは、も、猛烈に恥ずかしい……!
「…………」
僕はアンから視線を外して、リンデさんの顔を見て……その途中で、もう一人と目が合ってしまった。
「…………」
ビルギットさん、僕と目を合わせた直後に、恥ずかしそうに視線を逸らした。
……あああああぁ……こちらも見られるのが恥ずかしい人だった……!
なるべく恥ずかしいことにならないようリンデさんに再びしがみついて、その喉がごくりと鳴ったのを至近距離で見ながら、もしかしなくてもこれが一番恥ずかしいことなのではと思い頭を悩ませた。
は……はやく到着しないかなあ……!
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さすが、このパーティだと足は速く、昼になる前に海岸までやってきた。
僕を降ろしたリンデさんが恥ずかしそうに目線を下へ向ける。アンは、僕とリンデさんの顔を交互に見比べていた。そ、そういう無邪気な視線で見られると、猛烈に恥ずかしい……!
ビルギットさん、ちらちらこちらを見ているの、気付いてます……。
そんな僕達に、マーレさんは妹たちを見守るお姉さんのような優しい視線を、レーナさんの方は、それはもう満面のからかい笑顔だった。
なんといってもこの人は、僕がどういう動きをしていたか、空からずっと見ていたんだからね……。
「いい見世物だったわね〜!」
「勘弁してください……」
なんだかこんな緊張感のない到着でいいのかと思ってしまったけど……。
でも、下手に緊張して余裕のない状態で、頭が働かなくなるよりは断然いいよな、と前向きに思っておこう。
「『アイスロード』」
レーナさんの魔法で、氷の道が出来る。
その先は……話に聞いた、魔人王国だ。
いよいよ、僕も魔人王国へ上陸だ。
気持ちを切り替えていこう。




