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ミミズの錬金術師じゃないです

グワーッ風邪で寝込んでいました悔しい!

今年すごいみたいなんで、みなさんも体調にはお気を付けください!

「え、ええ……?」


 姉貴の急な発言に、まずリンデさんが驚いた。


「い、行くんですか? 魔人王国ですよ? えっと、ほんとに?」

「当たり前よ! っつーかこの家これ以上いられないわ! どーせ今日もあんたら二人はずっと一緒にいちゃついてるんだからいても仕方ないわよ!」

「そ……そんなつもりは」


 リンデさんがそうつぶやいて僕と目を合わせて……お互いその言葉を否定しようにもどう言葉を続けていいものか黙ってしまう。


「ほら! こういう! 空気! よ! あーーもーーあたしは春を探しに行くの! なんだかよくわかんない紋章くっつけられて失った五年を取り戻すのよ!」


 姉貴は元気よく宣言して、二階へ荷物を取りに行った。


「……ほ、ほんとに行くみたいですね……」

「姉貴は、決めると動くまで早いからね……」


 そう言い合ってるうちに姉貴はもう持つべきものを自分のアイテムボックスの魔法に収納してしまったらしい。


「じゃ、行ってくるわ」

「ああもう、待って!」


 そのまま出ていこうとする姉貴をあわてて引き留める。出て行く寸前で「なによ」と腕を組んで見てくる姉貴に、それを渡す。


「ああこれ、ソーセージ?」

「うん、姉貴でも調理するぐらいはできるでしょ」

「あんたさすがにそれぐらいあたしでもできるわよ、焼きすぎない程度に焼けば終わりでしょ」

「そう……だけど、魔族の人達はその微調整ができない可能性があるからね。向こうに到着したら挨拶がわりに振る舞ったらいいと思うよ」

「なるほどね、ありがと。もらっておくわ」

「それと」


 ソーセージを受け取った姉貴に、もう一つのものを渡す。


「指輪、結局リンデさんに作ったものを渡してしまったから、姉貴の分も作ったから付けてってよ」

「あら気が利くじゃない。そういえば確かにあたしからライにお願いしたんだったわね。というかライがつけなくていいの? 揃いのデザインなのに」

「僕の分もあるから大丈夫、というか中に金属片? が入ってるのかあまり純度の高そうな魔石に見えないからね。そんなにいい効果があるわけではないかもしれないんだ」

「そうなの? ……ん、まあいいわ、じゃあもらっておいてあげる」


 姉貴はそれを右手の人差し指に挿した。サイズも合っていて悪くなさそうだ。

 ……ふと、姉貴がこちらをじっとりと見てくる。そしてリンデさんを横目でちらりと見て、こちらの耳元に口を寄せた。


「……な、なに……?」

「あんた、あの時。リンデちゃんは二人の時間という質問に対して「まだ、そんな」って返したけど、まだってことは願望ありそうね」

「なっ……!」

「あんたはまんざらでも無さそうね」


 姉貴はひょいっと離れて、リンデさんのほうへ走っていった。僕はもう顔真っ赤だ。リンデさんは……リンデさんはいずれ、そういう関係になることを望んでいる……?

 ……いや、何かとんでもなく緊張してしまったけど。今もそれ大差ないよな?


「…………、…………」

「……」

「———……」

「……!?」


 姉貴がリンデさんになにやら吹き込んだようだけど、結局何を言ったか分からなかった。リンデさんは……


「あわあわあわわ、あわあわわ……」


 ……ホントに何言ったんだ姉貴。


「それじゃ行ってくるわね!」

「いってらっしゃい、いい結果を期待しているよ」

「あわわ! いってらっしゃあわわ!」


 姉貴は振り返ることもなく出て行ってしまった。あいもかわらずというか、そういえば最初に出る時もこのスピードだった気がする。




「……リンデさん?」

「はわーっ!?」

「うおっ!?」


 なんか、めっちゃびっくりされた。めっちゃびっくりされてこっちがめっちゃびっくりした。飛び上がってしまった。


「ど、どうしたのさっきから、姉貴に何か言われたの?」

「い、いえ! なんでも! なんでもありません! 指輪はもう返しません!」

「別に返してなんて言うつもりないけど……」


 どうにも様子のおかしいリンデさんだったけれど、


「それではあさのぱふょふょーゆにいってきます!」


 噛み噛みで何を言ってるのか分からないレベルのパトロールに出向いた。……まあ、あれでちゃんとやってくれるだろうし、能力は心配してないから、僕は僕のことをやっておこう。




 さて、ハンバーグを作っていて思ったんだけど、せっかく肉がまだあるなら、やはりソーセージにするというのがいいかなと思った。

 リンデさんも僕が姉貴に渡したものをちょっと気にしていたようだし、折角だからここで新しくそれを振る舞うのもいいかもしれない。


 ソーセージにするだけなら簡単だ。金属の細長い筒に袋を繋いで、その袋の中に肉を入れ、予め用意してあるちょっと大きめの羊の腸へと肉を詰めて結んでいくだけだ。

 単純作業だけど、この形で保存しておくと後々楽になる。早速取りかかろう。


 まずは、オーガの肉を挽肉にして、味付けを……うん、種類のことを考えるとあまり派手な味付けはせずに塩と黒胡椒にしよう。

 ちなみにオーガの腸は、さすがに太かった。あれは無理だ。


 ……よし、これである程度の肉が出来た。


 さて、水につけておいた豚の腸がいい感じになってきた。筒にセットして、肉を袋に詰めて……まずは空気を抜いて先端を作る。……よし。

 次に肉を詰めていく。このまま詰めていくと結構な長さになるはずだから、途中で切って、再び1から作り直していこう。


 ……かなりのメートルになったな……


 ……袋の肉がなくなった、一旦腸を切って……


 ……肉を再び……


 …………………


 …………。




 目の前には、ぐるぐる巻になったソーセージの固まりが数段あった。こうやって見ると、結構な量になったなー。


「ただいまもどりまうおおわあああ!?」


 リンデさんが、元気よく帰って、元気よくその細長い肉の塊を見て驚く。


「なななんですかこれ!? なにつくってるんですか!? 新たな種族ですか!? ミミズの錬金術師ですか!?」

「違います。全然違います」


 ミミズの錬金術師って……確かにそう見えなくも……いや、見えない。

 ……見えない、よな?


「これは、ソーセージです」

「そーせーじ! って、ミアさんに朝渡したものですか?」

「そうです」

「うううっそだあ!? だってあれ、もっと食べやすそうな感じでしたよ!? こんな細長くぐるぐるってしてなかったです!」


 リンデさんの反応に、なんでだろう……と思っているうちに、ソーセージに見えなかったその答えを言われて気がついた。

 僕はそのソーセージの一本をつまんで、二箇所潰した。そのまま持ち上げて……つまんだ中心部分をぐるぐると回す。


「……あ、ああ、あああーっ! な、なりました! ぐるぐるってやったらミアさんが持ってたのと同じになりました!」

「はい、これを切っていけばソーセージの完成です」

「ど、どんななんでしょう! たのしみです……!」

「それじゃ、もうすぐに調理ができるので待っていてくださいね」

「やったー! はーい!」


 明るく言って椅子に座ってそわそわしているリンデさんを見て微笑ましく思いながら、僕は網に火をつけて焼く。

 ソーセージを焼きながら、マスタードのソースと、トマトのソースを用意する。軽く葉物野菜も用意して……

 ……ん、もうそろそろ出来上がるかな?


 -


「はい、焼き上がりましたよ」

「わあ……! こんなふうになるんですね! 細長いものがたくさん並んで、見た目もきれい……。この赤いのと黄色いのは何ですか?」

「赤いのはトマトと塩、黄色いのはマスタードの種と酢のソースで、どちらも味付け用のものです」

「おいしそう……!」


 僕はリンデさんにソーセージの皿と、多めのパンを渡して、自分も席に着いた。


「いただきます」

「いただきまーすっ!」




 まずは一口。この弾力が……うん、いい音がする! 味も、さすがあのオーガロードの肉、文句なしにおいしくできている。マスタードとトマトソースの、酸味と少しの辛さがおいしく効いている。

 脂のしつこさが、この酸味と混ざっていい。濃い味になるので、手元の何も塗っていないパンともいい味で合う。

 一本でも十二分に一食分をまかないかねないぐらい、いい感じだ。




「こ、これ、きもちいい〜っ! はぁ〜ん……食べてて、すっごくきもちぃ……ぱりんて、ぷるんって、そしたら中からお肉が! おにくがすごいんですぅ〜……」


 リンデさんは、フォークで刺したソーセージをうっとりした目で見ていた。


「よかった。黄色いソースことマスタードはお口に合いましたか?」

「はい! 塩みたいな濃い味という感じとはまた違って、さっぱりしますね! ソーセージさんによく合ってると思います、まだまだこんなソースさんがあったなんてびっくりしました!」


 辛いのは大丈夫だったとはいえ、酸味系はどれぐらい大丈夫かわからなかったけど、マスタードソースさんも気に入ってもらえたようで安心した。


「これ、まだまだありますからね、また晩にもポテトサラダと合わせて食べましょう」

「やった! ソーセージさんだけで新しい種類さんをたくさん楽しめるんですね!」

「はい、そうです」


 僕は、大量に用意したパンごと全部食べ終わったリンデさんとソーセージの料理の話をしながら、晩のメニューを今から考え出していた。このソーセージは当たりだった、沢山作っておいてよかったな。


 -


 食後にコーヒーを淹れて、二人で椅子に座ってゆっくりしていた。


「リンデさん、そういえば」

「なんですか?」

「姉貴に、魔人王国の……その、おすすめの人みたいなの? を、紹介してたんだよね」

「えっと……その、そうですね……」


 リンデさんも、昨日のことを思い出していた。元気よく質問攻めをしていた姉貴に、ちょっとしどろもどろになりながらも答えていたリンデさんの様子。僕は夕食を作ることで半分以上は聞き流していたけど……。


「誰を薦めていたのかなって気になって」

「とりあえずは、やっぱりハンスさん、ですね」

「一応魔人の中のトップなんだよね」

「実力の上ではそうですね。あと性格も、とても真面目な方なので。落ち着いていますし、変に厳しくなくて優しい人です。ただ、誰かと交際するかと言われたら、そういう姿を見たことないのでわからないですけど……」

「そもそも魔人族の相手に、人間と恋愛する感覚があるかどうかわかんないですからね……っていうかよく姉貴は即断したな……」

「それは私も思いました。よく迷わずに決めたなって……あ、でも」


 リンデさんはふと気付いたように話を切った。


「人間を気にするかどうかというのは、ないと思いますよ」

「どういうことですか?」

「そういうことに関して思って見るにあたって、私がライさんのこと肌の色と目の色が違うぐらいしか気にしなかったので、多分ハンスさんをはじめとして、陛下もみんなも、交際対象としてはそんなに違和感持たないんじゃないですかね」

「……。ええと……じゃあ、姉貴が突撃して交際もあり得ると」

「ミアさんが魔人の私を見て交際対象が魔人でいいと思ったわけですし、そうだと思いますよ」


 そう明るく返したリンデさんだけど……うん、これも無自覚なんだろうなあ。


 リンデさん、僕に対して交際の対象として見たことがあるって宣言したんだけど。まあ、気付いてないだろうし、気付いた時点でちょっと大変な反応しちゃいそうだから黙っていよう。僕だけ照れているのはなんだか損した気分だけど。

 まあ、僕もリンデさんのこと、本当に色と角ぐらいしか差を感じないからね。ひたすら強くて、どうしようもなく不器用なぐらい。


「姉貴、何やってるかなー」

「まっすぐ向かっても結構距離ありますからね」

「多分城に寄ってから、になるかな、食料の買い込みもするだろうし。もしかしたら魔人族の話もするかもしれないね」

「魔人族の話、ですか?」


 そういえば、僕はリンデさんから魔人王国の話を随分聞かせてもらったけど、僕からリンデさんに人間の教会……『ハイリアルマ教』のことを話していなかった。


「リンデさん、僕と最初の日にいろいろ話したことを覚えていると思います」

「はい」

「その時に何度か出た教会……というのが、『ハイリアルマ教』という王国の中心となっている宗教です。そこでは魔族は倒すようにとか、魔王を倒せば世界が救われるとか、勇者が魔王を倒すとか、そういうことを教えています」

「なるほど……」

「僕も、そうですね……3歳か、もっと幼い頃からでしょうか。ずっとその教会から教育を受けていて、その教えを守れば悪いことは起こらない、最後は女神アルマ様に救われると言われてきました」


 リンデさんは、僕の話を聞いて……腕を組んで、頭を抱えて、再び腕を組んで……首を傾げながら、僕を見てきた。


「……あの?」

「ライさんに聞きたいんですが」

「はい」

「えっと、その、今更なんですが、3歳から教会の教えを守れば女神に救われると言われ続けてきて、よく私の言うことを信じる気になりましたね?」


 リンデさんは、どうも僕があっさり教えを投げ捨てたことに、なんともいえない居心地の悪さみたいなものを感じているようだった。

 確かにこれで責任感の強そうなリンデさんなら、そういう感想になるのも仕方ないと思う。でも、僕にとってそれは……


「……当然のことですよ」

「当然? 当然なんですか?」

「はい。だって———




———僕を助けたのは女神じゃなくて魔族だったんですから」




「あ……」


 リンデさんも、ようやくそのことがわかったらしい。


「女神様は教えを守っていても助けに来てくれるとは限らない。父さんも母さんも教えを守っていなかったなんてこと絶対なかったはずなのに、結局女神様は助けには来てくれなかった。それは当然のことなんです、信じてさえいれば救われるだなんて非論理的ですから。

 女神だからとか、魔族だからとか、そういうんじゃなくて。今まで信じてきたものって、言われてみたらなんていい加減なんだろう、何も考えずになんでそんなものを信じていたんだろうって、ちょっと目が覚めたというか、そんな感じです」


 僕は、肩をすくめた。


「だから、何も考えずに救われるのを求めて盲信するのはおしまいにしました」

「……なるほど、そうだったんですね」

「はい、そういことです」


 リンデさんは、僕の話を聞いて微笑みながら、肩を緩めた。


「ただ、王都ではまだまだ根強いと思います」

「根強い……ですか」

「はい。魔族がどういうものか、それすらまだ見ていないという人が殆どです。そもそも魔族と魔物の差もわからないというか、教えられてないですから」


 僕が説明すると、リンデさんは再び腕を組んでうんうん唸りだした。


「な、なんとかならないですかね〜……」

「ちょっと難しいと思います、今まで信じてきたものを変えるには、それなりの衝撃的な出会いが必要ですから」

「それなりに衝撃的っていうと、私とライさんの出会いはそんなに衝撃的でしたか?」

「正直最初は次僕の首を切るんじゃないかと思いましたから」

「じゃあ私が剣を仕舞っただけで、驚いたわけですか……」

「そうです」


 リンデさんは頭を抱えて、「そんなにかー……」とつぶやいた。確かにリンデさんと一緒に暮らして、この子の性格に馴染んだから改めて思うけど、初対面の言葉を交わせる相手のことを「殺される」と思うというのはあまりに突飛だ。

 あまりに突飛だけど、ハイリアルマ教的には、それは普通のことだ。


「まあ、姉貴でもそんなに無茶苦茶なことをするとは思えないので、大丈夫だと思います」

「そうですよね、急には無理でも、いずれ広がってくれると……」

「あまり心配しなくてもいいと思いますよ、ここの村のみんな、あっさり馴染んじゃいましたし……というか、あっさり馴染みすぎな気がしますし……」

「改めて思うと、すごいですよねみなさん……なんだか私のこと、もともと知っていたような……」

「……まさか、な……」


 なんだか、予め知られていたのかとさえ思える反応だった気がする。最初のリリーはそうではないだろう。あいつはリンデさんの目を見て、村に入れる判断を下した。思えば、すごい判断をしてくれたなと思う。その後は……わからん……。


「とにかく、ある程度認識が安全になるまでは、この村から出ないようにしてくださいね」

「わかりました。私が出ることで村に迷惑がかかる可能性があるのなら、なるべく城の方面の人とはまだ接触は控えるようにします」

「よろしくお願いします」


 僕とリンデさんは、その予定のことを一通り話すと、再びお互いの、パトロールと夕食の準備に別れた。




 ……人間と魔族の境界線、かあ。ちょっと前までは全く話の通じない存在かと思っていたけど、どう考えても魔人族と僕ら人間の間には、交流にあたっての明確なさを感じるものは何もなかった。


 逆に、デーモンは……全く価値観が違う。他国侵略による土地の拡大を国是としているのなら、間違いなくそれは敵対しなければ滅ぼされてしまうだろう。

 味覚一つの違いから見ても、美術や音楽など、全ての価値観がこちらの人間と違えば、その全てにおいて交流や共存が成り立たない。

 更に好みが人間の血肉となると、滅ぼすか、滅ぼされるかしか選択肢がなくなる。


 恐らく、教会の教えに出てくる魔族というものは元々こっちだったはずだ。


 ……だとすると、魔人族は、後から現れてきた種族なんだろうか。まだわからない話が多い。ただ分かるのは、現状魔人の女王陛下が非常に人間に対して友好的だということ、そして……正面から戦って人類が勝てる可能性が万に一つもないということだ。


 やっぱり僕も、一度魔人の女王陛下に一度会って話を聞いてみたいな……本来なら国王が行くべきなんだろうけど、まず魔族に対しての理解を求めること自体が難しい。教会の教えというか、教会の力は非常に強い。

 まだ、先だろうな。


 -


 さて、晩もソーセージだ。昼のシンプルな食べ方も好きだけど、晩はこれを細く切ってサラダの味付けとして食べる。

 ポテトを細かく切って、他にもいくつか緑の野菜とブロッコリーと、玉ねぎと、後は肉厚なパプリカにでもしようか。スプーンで食べやすいように、大きな葉物などは入らないようにして、小さくスライスしたソーセージと混ぜ込んでいく。

 味付けは……少しビネガーを使ったソースを作ろう。バターや砂糖などと混ぜた、甘くて酸味があるもの。あとは付け合わせにオリーブと……。


 …………。


 ……よし、完成した。今回はパンはいいかな、代わりにエールが欲しくなる見た目だけど……まだリンデさんにお酒を入れても大丈夫なのかわからないので保留で。

 でも、いずれ飲ませることが出来るのなら飲ませてみたいな。


「ただいまーっ! 本日異常なしですうっわおいしそうなにおいがしますっ!」


 リンデさんが早速帰ってきて、そのにおいに気付いた。


「これは、お昼のソーセージが小さくなってます!」

「はい、あの肉の味をサラダと一緒に食べられるように作りました。またビネガーソースが入っているので、また昼とは違った酸味のある味になってると思います」

「わあわあ! 早く食べたいです!」

「はい、それじゃあ用意するので待っていてくださいね」

「はーい!」


 リンデさんは昼と同様、椅子に座って体を右に左に揺らして待っていた。


 ……。

 見れば見るほど、どうしてこの魔人族と人間との関係が分かれてしまっているのか、不思議だ。僕じゃなくても十分交流できるような明るい女の子。


「…………。……? あ、あの、なんでしょうか……?」

「あっいえ。……リンデさんを見ていて、人間と魔人族って普通に交流できるよなあって思ってずっと考えていて」

「私ですか? えへへ……私もライさんは王国の誰とでも仲良くなれると思いますよ! ……うーん、人間の宗教観ってわからないので、人間全体はちょっと私からは何ともいえませんけど……」

「ですよねー……」


 まあ、いっか。今はリンデさんと僕、そして村のみんなが交流を持っている。それだけで十分だ。


「じゃ、完成したポテトソーセージのサラダを配るよ」

「わーい!」


 それでは、ソーセージに次いでのソーセージ料理だ。

 皿に盛った一種類のシンプルな混ぜもの料理。だけど、一品でも十分に満足できるように味も量も、あと栄養も考えた。

 魔人族の人達が栄養失調で体調不良になる可能性は全く考えられないけど……。


「いただきます」

「いただきまーす!」




 まず一口。うん、ソーセージの味が十分においしいので、それと食べ合わせた地味な味の芋と口の中で調和されてちょうどよくなる。

 ビネガーソースのかかった芋のみも食べる。……うん、さっぱりとしていていい味を出している。他の野菜にも合う。

 ……ああ、ほんと、昼もそうだったけど、やっぱりこのメニューだったらエールが欲しいよなあ……。

 後でリリーの店にも卸そうかな?




「こ、これ! この黒いソースさんすごいです! 昼間の黄色いソースみたいなものかと思ったら、すっごいおいしい! 酸っぱい甘い! ふしぎ! すっごい!」

「そうですか、良かった。今日の新しい種類のソースです」

「新しい種類さん! いったいライさんはどれほどの種類のソースさんを……?」

「たくさん作れますし、新しく作ったりもしますよ」


 リンデさんが、楽しそうな会話の姿のままぴたっと止まる。その顔のまま、下を向き、上を向き、首を傾げて……再び僕を見た。


「新しく、作る……ですか?」

「そうですよ? だって、人間の料理って基本的にどれも人間が新しく作り出したものですから」

「そ、それってライさんもしているようなものだったんですか……!」

「それっていうか、渡した指輪のデザインとか、そういうのも全部新しく考えたものですよ」

「…………」


 リンデさんは、自分の指輪を見る。そして僕を見る。


「ひょっとして、いやひょっとしなくても、ライさんって相当すごい人なのでは……?」

「普通だと思いますけど……」

「いや、普通じゃないです。私、人間には詳しくないですけど、ライさん相当特殊な部類だと思います。かなり特殊技能者です」

「そうかな……?」


 なんだか照れてしまって頭を掻いてしまう。自分ではよくわからない……けど、リンデさんがそう言うなら、そう信じてみてもいい、かな?


「陛下にもライさんのことをお伝えしたい……」

「あ、僕も丁度魔王陛下に会ってみたいなって思っていたところです」

「まさか村の人間全員との友好関係がいきなりでこんなにすんなり行くなんて陛下も想定してなかったと思うので、交代要員に二人以上呼べばよかったなあ……」

「村に魔族を残して二人で向かう、ということですか」

「そうです。というか、ミアさんにお願いすればよかったですね」


 …………。


「なんで今気付いたんです?」

「……あっ……すみません、自分で言っててなんでこんなことに気付かなかったんだろうって後悔しました……」


 リンデさんはがっくり肩を落とした。


「まあ、姉貴のことだから誰か連れて帰ってきてくれると思うし、男が捕まらなくても僕のソーセージに興味を持ってくれた子が来る可能性もあります」

「……そうですね、確かに誰か陛下の近くのものが来てくれたら、十分に交代要員になります」


 言っておいてなんだけどそのことに気付かなかった僕も悪いし、リンデさんは気付かなかった分、姉貴が誰か連れてくることに期待していた。




 姉貴、今頃どこにいるだろうな……?


================


「魔族の討伐ですよね?」

「いや、だから討伐はしないんだって」

「魔族ですよ?」

「討伐するのはデーモンよ、デーモン以外の魔族は討伐する必要がないわ」

「デーモンと魔族は違うのですか?」

「全然違うし、魔族と魔物も全然違うわよ」


 あたしは王城の文官に、魔族の領地へ行くこととその目的を喋ってた。目的はちょっとぼかしてたけど、まあ友好関係を結びに行くのだ。

 しかしこれがどうしたものか、やっぱり話が通じないわねー。


「魔族を仲間に引き入れるのですか?」

「そうよ、正確には魔人族っていうんだけどね。まあ言っちゃうとあたしより強かったのよ」

「まさか勇者様より強いなど」

「しかも本気も出されてない上に、一番強いヤツじゃない相手に負けたのよ」

「……」

「ていうか気付かない? 負けてあたし、無傷で生きてるのよ。魔人族ってそういう相手なのよ。あれと敵対するとか、よっぽど殺人欲求強いやつだけよ」

「……し、しかし、魔族はいずれ滅ぼすものでは……」

「人類の方が先に滅んでおしまいよ」


 あたしは答えながらも頭を抱えた。


 ほんとこいつ、頭固いわねー。まあちょっと前のあたしがそんなだったから大きな事言えないんだけどさ。

 魔人王国行けるの、もうちょっと後かなー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 料理の情景が詳しい分、その作業イメージは沸きやすいです。 [気になる点] ただ、それが原因でしょうか、作業内容にはあるのに、主人公の言動は逆にそれを行う意味を理解していない風に感じられてし…
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