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皇帝に実力を示します

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 皇帝? 今この人、自分の家名をシレアって言ったよな?

 えっ、いやあの……えっ!?


 僕が驚いて固まっていると、その表情を見たであろう正面の男が悪戯成功といった顔でウンベルト様に笑う。

 ウンベルト様は、なんとも僕に同情的な視線を向けていた。

 レジーナさんは……完全に凍り付いている。


「結構結構、この絵の価値が分かる者に悪人などいないのだからな!」

「相も変わらず親馬鹿っぷりは治っていらっしゃらないですね……」


 そうだ、他にも気になることを言っていた。

 娘の絵、って言ったよな。このなんとも、前衛的というか、あまりに毛色の違う絵に対して。

 そして親馬鹿という単語がウンベルト様から出た。

 それらの情報を総合すると……。


 ……こ、こえぇ〜〜〜っ……。

 さっき思いっきり、僕は買わないって言っちゃった。でも、褒めた方……だよ、な?

 好印象だった反応のようだし。

 文字通り、首の皮一枚で繋がったような感触だな……。


「ちなみにライムント、今君が通ってきた廊下にも、娘の絵はあるんだよ」

「え? ……えっ!?」


 あの、写実的な絵画の数々のどれかと、正面のこの巨大キャンバスの絵が同じ人!?

 ということは、子供が伸び伸び描いたわけじゃなく、画力がある上でこれを描いたのか……!


「価値が分かる奴には分かるようで、演劇一座の長が、舞台の背景に飾りたいと言ってきたりしてね。もちろん突っぱねたが」

「ということは、この絵はもう既に」

「察しの通り、廊下の絵より高い値が付いているよ」


 ……本当に、軽いノリで貶さなくてよかった……。

 一応芸術を嗜む身として、さすがにそれは格好悪すぎる。


「……今の一連の話で、それにも気付くとは。芸術が好き、というのは付け焼き刃ではないらしい。まさかビスマルク王国の冒険者の中に、これだけの者がいるとは驚きだ」

「私も驚いております。頭の回転が速く、それでいて非常に優秀ですね。それでいて弓矢では圧倒的な強さを持っています」

「ふむ。それに関しても俺自ら聞いてみよう」


 皇帝の視線がこちらへ向く。

 眼光は鋭く、何か独特な威圧感を覚える。

 ……間違いなく、この人そのものが強いな。


「まず、魔人王国へは挑まない方がよいと聞いたが、それは本心かな?」

「はい、全く勝てないと思います」

「君はウンベルトから、相手の船の高さを超えるほどの水柱を上げる弓矢を撃てると聞いたのだが、それを魔王に直撃させても勝てないと?」


 マーレさんは、姉貴と同じ実力。

 果たして僕の攻撃が姉貴に届くか。

 一撃で勇者の姉貴が死ぬぐらい僕の攻撃が強いかと言われると、どう考えても有り得ないと思う。通用する想像が全くできない。

 そもそも、飛んできた矢を視認した後に剣を出して防ぐぐらいは余裕でやってしまうだろう。リンデさんの剣を防御するぐらいのスピード、それが姉貴だ。


 あと、マーレさんに撃ったらクラーラさんが反撃してくる。

 絶対無理。


「シレア帝国が一日で滅びますね」


 僕の発言に、腕を組んで唸る。


「……まず、君の魔矢の威力を見せてくれるかい? 正直俺自身もウンベルトから聞いた情報が信じられなくてね。しかしそこまで断言するなら、その君自身の能力から換算する必要がある。……訓練場を使うぞ」


 皇帝陛下が、その場にいたもう一人の鉄仮面の兵士に指示を出す。

 どうやら今度は、僕の実力を計るようだ。

 しかし、見せるといってもどれぐらいの威力でやったものか……対人戦じゃかなり危険だからなあ。


「くれぐれも、手を抜こうとは思うなよ?」


 ……簡単には、いかなさそうだ。


 -


 シレア帝国城の訓練場は広く、数々の屈強な兵士が剣を振るっていた。

 その兵士達も、皇帝自らが足を踏み入れた瞬間、皆皇帝の姿を見て敬礼をした。


「今日は皆、こいつと組み手……は弓矢でするものじゃないな。弓矢なら……やはり、あれか」


 皇帝が視線を向けた先に会ったのは、角張った大きな岩……いや、魔石か?

 青く大きな魔石の表面にはいくつか傷が付いているが、概ねほぼ無傷といった綺麗な岩だ。

 防御の青魔石は綺麗だけれど、大きい物は出土しないから相当貴重な品だぞこれ。


「過去に産出されたこいつは頑丈でなあ、訓練場では皆の練習台になってくれているものだ。剣を叩き込む、槍を突き刺す、そして……弓矢の的にする」


 つまり……。


「僕が全力で、これを攻撃すればいいのですね」

「そういうことだ。見世物にして悪いが、こうでもしないと君の実力は見られないと思ったし、同時に周りの者達にもビスマルク王国の冒険者のレベルが分かるというもの。君の主張の説得力も増す」

「主張、ですか?」

「ここの兵士達は、魔人王国と聖戦をして勝つつもりだからな。君の実力を皆が知った上で、魔人王国に勝てないと言うと、反応も変わるだろうな」


 魔人王国と勝つつもりの兵士達。なるほど、それでここまで連れてきたのか。

 確かに迂闊には手を抜けないな。僕の実力が大したことないと思われると、僕個人が魔人王国に勝てないと思う理由が、僕が弱いからというだけになる。

 魔人族の強さは、伝わらない。


「それと……そうだな」

「まだ、何か?」

「ライムント、君があの魔石を破壊できたら、その破片を君にやろう」


 えっ! あの巨大な魔石を!?

 ……あのサイズなら、指輪どころか腕輪、または意趣を凝らしたカイトシールドなんてものもできそうだ。

 これは、更に手を抜けない理由が出たな。


 皆が注目する中、僕は木の弓矢を取り出す。……そんなに見ても、面白いものではないですよ? といってもこんな状況だ、注目する気持ちも分かる。

 まずは膝を突いて、分からないように小さく小声で。


「……『フィジカルプラス・トリプル』」


 一気に視界が暗転し、ぐらつく。

 少し呼吸を整えて、もう一回。


「『マジカルプラス・トリプル』」

「……ライ君?」

「あっ、すみません」


 よっぽど魔力を使ったのか、レジーナさんに支えられて、ようやくふらついて倒れかけたことに気がついた。


「すみません、大丈夫です」

「だったらいいのだけど……くれぐれも無理はしないでね?」

「善処します」


 僕の曖昧な返答に、仕方ないといった様子でレジーナさんが笑う。

 その姿を見て少し緊張がほぐれてきた。


 ————よし!


「……!」


 僕は無言で弓を引くと、魔矢はそのまま魔石の中心に吸い込まれていった。

 速度と魔力を乗せた木の矢は、木の矢が当たったとは思えないほどの大きく高い音を響かせながら、青い魔石の角の一部を破壊させていた。

 やった……! いけるとは思っていなかったけど、思いの外大きめに外れた!

 盾は無理でも、あれなら指輪も腕輪もかなり作れるぞ!


 と内心喜んでいると、周りの様子に気がついた。

 兵士全員が無言で僕を見ている。レジーナさんは、魔石の方を見て固まっている。


「……なるほど、な」


 皇帝が、今までの軽いノリとは違い、低い声で呟く。


「ライムント。君は、その矢が撃てる上で、魔人王国には勝てないと言っているのだな」

「はい。絶対勝てないでしょうね」

「断言するか」

「断言するしかないです、僕より強い人を沢山見てきたので」


 はっきり宣言した。

 皇帝は黙って頷いた。その姿は、周りの兵士にとって十分に説得力を持たせることができたようで————。


「陛下ッ、俺は納得できませんッ!」


 急に、大声が響いた。

 そちらを向くと……金髪の、全身筋肉で出来た要塞みたいな男がいた。


「軍団長か」

「弓矢で勝てなくても、俺の剣なら! あの青岩も俺だって割ったことはある! 俺たちシレアの無敵軍団が、魔族との聖戦に勝てないなんて、そんなことはないはずです!」


 その叫びに、ちらほらと小声で「そうだ……」「俺だって……」と、団長の方へと賛同する声が聞こえてきた。

 ……まずいな。


「うーん、俺としては今ので説得力としては十分だと思ったのだが……それに、競わせるにしても弓と剣じゃどうしようもないしな」


 皇帝の呟きを余所に、魔人王国に対して好戦的な声がちらほら上がってきている。

 段々大きくなってきていて……恐らく、このままでは……。

 ……よくない流れだ。


 魔人王国と争うことだけは、何としてでも避けなければならない。

 だからここは、何とか超えなければならない場面だ。

 しかし、僕の弓であの剣士に説得力を持たせるのは難しい。

 あの強そうな剣士に対して……何か、何か手はないか……!


 ————ふと、僕は。

 もしかすると、と思って叫んだ。


「レナさん! お願いできますか!」


 その叫びの直後……既に、いつの間にか正面には、あの紫のロングヘアが風に揺れていた。

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