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もう一波乱ありそうです

 今あった出来事に、半ば呆然としている二人を誘って、今日も孤児院へ戻る。

 放心気味ではあるものの、子供がやってきたら二人ともちゃんと応対していた。


 アウローラとともに、まだ晩まで時間があるので皆で少し広めの部屋に座る。子供達は少し三人で奥に行ってもらった。

 最初に口を開いたのは、違和感に気付いたアウローラだった。


「何かあったんですか? ちょっとぼーっとしてるというか……」


 アウローラの言葉にオフェーリアが驚きつつも、ちょっと疲れた顔で苦笑する。

 その反応も意外だったのか、アウローラはダニオを一瞥すると、僕の方に向いた。


「ライさんはいつも通りというか、問題なさそうだよね。一体何があったか教えてもらってもいです?」

「そうだね。アウローラだけ話題から外れているというのは不平等に感じるし」


 それに、アウローラなら言っても大丈夫だろう。


「簡単に事実だけ述べると、さっき三人で魔人族に会った」


 アウローラは「へ?」と声を上げて、ダニオを見る。ダニオは無言で頷く。

 次にオフェーリアも頷いたのを見て、目と口を見開いて僕の方に向き直った。


「青い肌の、角の生えてるっていう魔族に!?」

「そう、その魔人族であってるよ」


 その事実に、アウローラは一度僕に声をかけようとして、オフェーリアの方を向いた。


「ライさんからは詳しく聞いたけど、オフェーリアから見てどうだった? 魔人族」

「そう、ねえ……予想通りでもあり、予想以上でもあり、予想外ね」


 そのなんともいえない表現に、難しそうな顔をして首を捻るアウローラ。


「わけわかんないんだけど」

「ふふっ、そうね。じゃあまず一つずつ。魔人族の容姿は、ライの言った通りよ。いきなり襲ってくるということもなかったし、話してみると確かに話せそうね」


 その返答に、アウローラも「へー」と感心した様子で座り直す。

 そこに魔人族への興味はありそうで、かつ相手を批難するような様子は見受けられなかったので僕は安心した。


 オフェーリアは、無言でダニオを見る。

 その視線に気付いたアウローラがダニオの方を向き、ダニオも難しい顔で頷いた。


「予想以上っつーのは、強さだよ、な」

「ええ」


 その返答が来るであろうことを分かっていたように、オフェーリアもダニオに神妙な顔で頷いた。


「……強かった。背丈は俺より高くて、腰に剣があった。……あれは勝てねえ。強いなんてもんじゃない、とてもではないが攻撃しようとすら思えない恐ろしい奴だった」

「そんなに?」

「まず、出現した瞬間が全く分からない」


 そう、レナさんは本当に、突然出現した。

 声を呼びかけたら、出て来てくれるかなとは思っていた。

 まさか、僕たちの中心に突然現れるとは思っていなかった。

 ……あれも、時空塔騎士団だろうか。速さだけなら、リンデさん並じゃないだろうか。


 そして恐ろしいのが、最後。

 いつの間にか出現していたというのなら、まだ滅茶苦茶速いってだけで不可能ではないだろう。

 しかしレナさんは……僕たち三人に見られている状態で、一瞬で消えた。

 何か、自分たちの活動時間が抜け落ちてしまったか、もしくは一瞬寝てしまってたのかと錯覚するぐらい、一瞬でいなくなった。


「……あんな、俺よりでかい剣士に後ろを取られて、勝てるわけねえよな……」

「それに、魔法も火や氷なんて何も効かないっていうじゃない? あんなのがいるんじゃ、確かに全く勝てる気がしないわね……。あれが一番強い魔人族の、昨日ライ君が言ってたなんとか騎士団の一番強い人なの?」


 その答えは、ノーだ。


「時空塔騎士団の第一刻はクラーラさん。第二刻がリンデさんで、三がカールさん、四がビルギットさん。あとハンスさんとフォルカーさんというクラーラさんと同じぐらい強い人がいる。どんなに強くてもレナさんは七番目より下だ」

「…………」

「…………」

「…………」


 三人とも、その事実に押し黙った。

 しかしレナさんも、正直かなり強い人だと思う。……そう思いたい。

 リンデさんが強すぎて、具体的にビルギットさんと比較してどれぐらい強いのか、全く分からないからなあ……。

 もし末端があれでは、最早魔人族の強い人と弱い人の差なんて人間では誰も分からないだろう。


「……この聖戦、なるほどライから見りゃあ滑稽でしかねえな……」

「みんな半端なく強いからね。ビルギットさんなんて身の丈三メートル半あるし、多分メルクリオ家の船なんて拳で壊したり投げ飛ばしたりできると思うよ。というか四人とも出来るかも」


 僕の話に、再び皆は黙った。


 本当に、あのメルクリオ家の船から矢とか魔法とかバリスタとか撃ってるのを見て思ってしまったんだ。

 ————ああ、魔王相手にこんな人間相手の戦争みたいな方法で勝てると本気で思ってるんだな、って。


 こういった戦争でなくとも、謀略でも試合でも、まず相手を知るとこから勝負が始まるともいわれている。

 その初歩ができていない状態で、あんな方法で戦おうとする人達を見るとやはり思ってしまう。

 無理だな、と。


 ふと、アウローラは顔を上げて、オフェーリアに質問した。


「最後の『予想外』って何のことなの?」


 確かに、そこは僕も気になっていた。


 アウローラの質問に、ダニオはオフェーリアを見た。

 ダニオは思い当たっている様子がないということは、オフェーリアが感じたことだろう。


 当のオフェーリアは、アウローラではなく僕の方を見た。

 ……こちらを探るような視線だ。


「ライ君。私はあなたが、魔人王国女王は優しくて素晴らしい方だと。人間を怪我させないよう部下に徹底していると聞いたわ」

「……それは事実だよ」

「ねえ……本当にそうなの? あのレナという魔人族、私にはダニオが剣を抜いたら手ぐらい切り落としかねないぐらい恐ろしく見えたのだけれど」


 ……その疑問は、僕も感じていることではあった。

 マーレさんは……魔王様は、確かにものすごく人間に対して優しい。

 そして魔人族は、マーレさんに絶対ノ忠誠を誓っている。


 しかしあの魔人族の振る舞いは、そこまで徹底しているようには見えなかった。

 もしも……もしもマーレさんに近しい人じゃなければ、そこまで教えを厳守しているわけではないとしたら?

 ……反撃だって、当然もらう可能性が高くなる。

 そもそもやったらやり返されるというのは当然の話なのだ、相手に配慮してもらえると思い込んでいる方が危ない。


「だから、ライ君の魔人族評が絶対ではない……と同時に、ある意味ではライ君の言ったこと以上に、敵対できないなって思ったのよ」

「ああ、確かに言われてみるとその通りだぜ」


 ダニオにとっても、オフェーリアが感じていた「予想外」というものが当てはまったようだ。


「ライの話じゃ多少適当に応対しても、それどころか殺しに行っても反撃すら禁止するよう命令出してたって言ってただろ? ……とんでもない、滅茶苦茶気をつかわねーと相当怖いぞアレは。正直ライがメルクリオ侯爵に魔人族寄りのことを言ってくれていたから好意的に終わってただけで、そうでもなければ敵ではなくとも、少なくとも味方には見てもらえられていないって感じだったぜ」


 二人の意見、咀嚼すると確かに……その言い分もよくわかる。


 僕は別に、魔人王国の全ての魔人族を把握しているわけではない。

 だから当然、あれぐらいの雰囲気を纏った魔人族だっていてもおかしくはない。


 それでも……レナさんは好意的な雰囲気のまま離れてくれた。

 無事も恐らく、マーレさんやリンデさんには伝わっているだろう、もしかすると一人で会いに来たりするかも?

 なんて、そんなことも思ってしまう。だとしたら嬉しいな。……リンデさん、無茶しちゃうからなあ。


 魔人族のことを一通り聞いたアウローラは、二人の話を信じたようだ。

 折角だからと、今日も四人で食事を食べることにした。


 -


 それから何度か、冒険者の依頼を済ませた。

 この地方の討伐任務も慣れた、かなり数をこなしたように思う。

 ダニオと、オフェーリアと、時々アウローラも。


 この間、船の任務はなかった。


 そんな毎日を過ごしながら、ここシレア帝国の地で一ヶ月が過ぎようとしていた。

 ……国外には、やはり出られなさそうだった。

 今すぐにでも帰りたいけれど特に無理をして、僕が魔人王国と通じているビスマルク王国の人間だということを知られることだけは避けなければならなかった。


 それにしても先月はいろいろあった。なるべくもう、あんなトラブルには巻き込まれたくないものだ……。


 僕がそう思いながら受付に行くと、見慣れた男性は青い顔をしてカウンターから身を乗り出した。


「ライムントさん、メルクリオ侯爵様が来ております!」


 侯爵様が?

 僕が疑問に思いながらギルドマスターの部屋に入ると、確かにウンベルト様がいらっしゃった。

 どうやら三人で話をしていたようだ。


 しかしここで、驚く行動に出た。

 僕に対して、突然頭を上げて謝りだしたのだ。


「ライムント殿、すまない」

「ど、どうしたのですか!? 頭を上げてください!」


 ウンベルト様は、その逞しい体を今は小さく、精悍な顔つきを疲弊させながら切り出した。


「君は目立ちたくないように見受けられたのだが、どうやらそうも言ってられなくなった。私から陛下に話をしたら、陛下自身がライムント殿に会いたいと」


 ……まさかの、皇帝自らの指名だった。

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