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やはり、いました

 ダニオの勘は鋭い、と同時にそういう質問が出る理由も分からなくもない。

 急に魔人族のことを聞かれると、ここにいる可能性のことを考えてしまうよな。

 少し誘導した部分もある。

 暑い季節ではあるけど、この森では木々の間から風が抜けて心地良い。


 魔人族を、この二人がどう思っているか。

 日を跨いだ今、二人から聞いてみたかった。

 そして、返答次第では……。


「ダニオは、魔人族がもしもいたら、どうする?」

「どうって……そりゃお前……。……そう、だな。……会話、か……?」


 少し離れた場所で、腕を組んで唸りながらも呟く。

 その反応は、僕としてはかなり上々だった。


 まずは、会話。

 そう、会話はやはり、双方をお互いに理解するためにとても重要だと思う。


「ありがとう。それじゃオフェーリアは?」

「んー、私もダニオと同じかしら。そもそも攻撃したところで属性魔法が効かないって言ってたわよね。それもう私何もできないじゃない、さすがにそんなのに喧嘩売らないわよ」


 先日話した内容、しっかり覚えてくれていたようでよかった。


「そうだよ、オフェーリアの魔法は全く効かない。魔石コンロの火とか、魔人族の子が青い肌で触れたんだけど何一つ熱がっていなかったからね」

「……ほんと、聞けば聞くほどとんでもない種族ね……」


 二人の返事は、間違いなく魔人族に対して敵対しない……というよりできないことを理解していると分かるものだった。

 これなら……大丈夫だろう。


 わざわざ森に来た理由。

 それは、周りに人がいないから。

 僕たち三人以外、この付近には誰もいない。


 あの魔人族が僕にわざと姿を見せた。

 そして、いつ消えたか分からないほど一瞬で視界からいなくなった。

 それが身体能力か魔法かは、そこまで大きい問題じゃない。


 僕は確信を持って、森に向かって叫んだ。


「僕の名前はライムント! 魔人女王アマーリエの友人ミアの弟でもあります! あなたの姿を見せてください!」


 僕の大声が森の中に吸い込まれていく。

 どこまで続いてるか分からない深い森の、奥まで聞こえているはずだ。

 後は、向こうからの反応を待つだけ。


 …………。


 だめ、か。

 これでいけると思ったんだけどな。


 僕は二人の方へと振り返り————




 ————僕とダニオとオフェーリアの間に、いつの間にか魔人族の女性がいた。


 -


「うわあっ!?」

「……呼びつけておいて、それはいくらなんでもないんじゃない?」

「あ……えと、すみません……」

「ま、驚くのも無理ない出方だったかもしれないわね」


 いつの間にか現れていた魔人族の女性は、僕の方を向くと無表情で僕を射貫く。

 姿は……ダニオより少し大きいぐらいの高身長に、紫のストレートのロングヘア。服は簡素な皮鎧と布の服と、腰に剣……いかにも冒険者の剣士という出で立ちだった。


「初めまして。あなたの要望があったので来て上げたわ。私は……レナと呼んでくれるといいわ」

「レナさん、ですね」

「ええ。……それで」


 レナさんが、ぐるりとダニオを見返す。

 ダニオは……剣の柄に手をかけていた。


「それは、抜くの? 抜くのなら私も抜くけど」

「……。いや、抜かねーっすよ。俺だってこれでも長年生き残ってきた経験からくる直感ってやつがあるんでね。あなたは相当強いでしょう、分かりますよ」

「どうかしら。魔人族の間じゃそんなに剣は強い方じゃないわよ」

「……そりゃ、余計に警戒しちまうな」


 ダニオはそこまで聞くと、剣の柄から手を離して腕を組んだ。

 ……よかった。大丈夫だとは思っていたけど、一触即発とはならなかった。


「あなたたちは、ダニオとオフェーリア、でいいのよね」

「はい、そうです」

「……ええ……」


 オフェーリアも声を出したけど、かなり緊張している様子だ。

 比較的スタイルのいい方のオフェーリアだけど、レナさんの前だと大人と子供もいいところだ。

 それに、やはり名前が分かるということは、レナさんが一切視界に入っていないさっきまでの時も、ずっとこちらの話を聞いていたことになる。見えなくなっていたか、遠くから聞いていたか。しかもその上で転移魔法でも使って出現したのか。

 オフェーリアが警戒するのも当然だ、そんな魔法が使えたら斥候の常識が変わってしまう。それを可能にするレナさんは……間違いなく「圧倒的に格上」というわけだ


 そんなレナさんは、こちらに向き直ると……なんと、腰を曲げて礼をした。


「ありがとう」

「え?」

「ライは今、ウンベルト・メルクリオ侯爵……だったわよね、あのやたらと陛下に喧嘩腰の貴族に対して、和平の道を示してくれたじゃない。あの交渉は危険だったはずよ。君を見た限り、それが分からないほどバカにはとても見えない。だとすると、自分の身を賭けてまで和平の道を勧める選択をしたと見て間違いない。ある程度いけると踏んで賭けたのでしょうけど、実際にやるのはまた別よ」


 ……この人も、相当な切れ者だな。

 名前の把握はもちろん、こちらの考えも読み切っている。


「そう、ですね。その通りです。ですが、それでも僕はあそこでああ言いたかった」

「何故、そこまでして……」

「僕の一番やりたいことは、魔人王国の魔人族を、この世界の人類全てに認めさせることです」


 その答えを聞いて、冷静な表情をしていたレナさんが、初めて驚愕に目を見開いた。


 これは、まだマーレさんにもリンデさんにも話していない本心だ。

 リンデさんと僕の仲を見せて、大手を振るって世界中を食べ歩くようなことは、まだまだ遙か遠い未来の世界の話。

 だけど、僕はそれを実現したい。ここシレア帝国で一緒にパスタも食べたいし、姉貴が苦手だと言った僧帝国や龍帝国の辛いものも挑戦させて、一緒に思い出を作りたい。


 リンデさんと、世界中、食べに行きたい。

 当たり前のように、二人で並んで誰もそれを咎めない世界にしたい。


「世界中を、リ……魔人族の方と一緒に旅をしてみたいんです」


 事情を知らない相手に、魔王様のことをマーレさんと呼び捨てにするのはもちろん、リンデさんのことを気軽に呼ぶのも、ユーリアの反応を見た限り時空塔騎士団は偉い立場のようなので伏せる。

 あとはまあ、ちょっと恥ずかしいので明言は避けたいかなーと。


 僕の解答を聞いて、レナさんは大きく息を吐いた。


「なるほどね……話は聞いていたけど、これはすごいわ」


 ちょっと小声で呟いてよく聞き取れなかったけど、レナさんは、その黒い目を閉じて深く頷いた。

 再び目を開けると、ダニオとオフェーリアに少し視線を向けて、最後に僕を見据える。


「あなたと会話できてよかった。呼んでくれてありがとう、また会いましょう」


 レナさんは、最後に少し微笑むと、再び視界から一瞬で煙のように消えた。


 ……不思議な人だったな。

 でも、まさかこのシレア帝国で魔人族に出会えるとは思えなかった。


 ……あっ! リンデさんやマーレさんに伝言を伝え損ねた!

 ま、まあ……伝えてくれる、かな? 伝えてくれるといいなあ……。


 ……みんな、どうしてるかな……?

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