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侯爵様と会話をします

 馬車に乗せられてやってきた屋敷は、この集落を一望できる場所にあった。

 大きな門を馬車がくぐると、広い敷地を進んでいき……やがて屋敷が見えてきた。

 こんなに敷地が広いと、移動が不便だったり……いや、しないんだろうな。こうやって遣いの者を出す辺り、全てのことは部下に任せているのだろう。

 そう考えると、勇者の姉貴に直接頼むとはいえ、レノヴァ公国の件でお世話になったバリエ伯爵当主のオレール様は自ら足を運んだわけだからすごいな。


 屋敷の扉が開くと、見目麗しいメイドが執事と並んで屋敷の中を案内する。

 ……さりげなくついてきているけど、この人達の身のこなし、素人じゃない……よな。

 いざという時に逃げだすことは、ちょっと難しそうだ。


 -


 屋敷の奥の、大きな部屋に到着した。

 促されるままに座って待っていると、後ろの扉が開いた。

 そこにいたのは、筋骨隆々とした雰囲気の初老の男性と、もう一人は……第三令息のルーベン・メルクリオだな。


 この国の作法は分からないけど、先に当主に挨拶した方が良いだろう。


「メルクリオ侯爵様、執事の方よりお招きにあずかりました、ギルド所属のライムントです」


 立ち上がり、椅子の横で手を胸に当てて礼をする。


「……うむ、ご苦労。私がウンベルト・メルクリオだ。そしてこっちが——」

「ルーベン様でいらっしゃいますよね、お怪我も無さそうで何よりです」


 ルーベン様と目を合わせると、お互い昨日振りの顔で頷いた。

 僕の返事を聞いて、ウンベルト様が「ふむ……」と唸った。


「ギルド所属の冒険者ということだが、なかなか堂に入った姿じゃないか」

「どうでしょう、父上。他の連中と出来が違うと私は感じたのですが」

「なるほど、確かにな……気に入った」


 ウンベルト様が座り、手で僕の着席を促す。夏の陽射しと晴れた青空に、窓の光が逆光で少し眩しい。


「まずは、ルーベンをオーガキングから救ってくれたこと、当主としてはもちろんのこと、父親としても感謝する。これはオーガキングの討伐としては少ないが、報酬だ。私の面子だと思って受け取ってくほしい」

「そういうことでしたら、遠慮なく」


 それなりに持ってるとはいえ、いつまでも金貨があるとは限らない。少ないといいながら結構な重さだ、ありがたく受け取っておこう。

 まあ報酬としては、オーガキングの肉が手に入ったって方が大きいけどね。

 こんな感想が出てしまうところも、間違いなくリンデさんに影響されている気がして内心自分に笑ってしまう。

 ……本当に、長い間リンデさんはもちろん、魔人族の誰も見てないよな。


「それで、ものは相談なのだが……君には是非とも、次の討伐隊に私の船で参加してほしい。無論、私の船に乗ってもらう」

「あまり気乗りはしません」

「しかし……先日のあの海の爆発。あれは間違いなく、君のその矢の威力だろう?」


 ……まあ、分かるよな。


「はい。恐らくウンベルト様は、僕にこの魔矢を相手の魔人王国女王の船に撃ち込んでほしいというのでしょう?」

「話が早い。この聖戦、やってくれるな?」

「お断りします」


 僕がばっさり断ったことで、ウンベルト様もルーベン様も目を見開いた。


「……理由を聞いても?」

「そうですね。まず僕は名前を聞いても分かっていただけるかと思いますが、ビスマルク王国の人間です。ちょっと漂流……といいますか、こちらへ流されてきてしまったのですが」


 ウンベルト様は、動揺こそ見せなかったものの少し瞠目している。


「……。君は、魔族の力を知っていると」

「はい。ハッキリ言いますが、まず勝てません。上位十五人の強い魔人族の中に入れなかったような魔人族の女の子と行動を共にしていましたが、彼女一人でシレア帝国は壊滅させられかねないぐらい実力差があります。一人で森に発生したキマイラ数十体を一瞬で仕留めてみせましたからね」


 ユーリアの、キマイラ掃討は凄かった。あれだけ実力があって時空塔騎士団には入れないのだから、実力差は推して知るべし、だろう。

 能力の仔細はやはり衝撃だったのだろう。今度こそウンベルト様は驚いた表情を隠さなかった。


「……あの魔矢とやらの威力なら、船を破壊するぐらい容易だろう」

「その魔人族上位十五人の、トップ付近の人がアーチャーなんですよ。しかも彼女は、空を飛びながら矢を撃てます。本気を出した姿を見せたことはありませんが、本気を出さなくてもそれこそ一撃で船を破壊するぐらい容易ですよ。そして僕の魔矢は、相手の船には届きません」

「何故、言い切れる……」

「回復術士の魔人族の子も知っているんですが、その子は一回の回復魔法で体の欠損を目の前で治してみせました。彼女は防御魔法も使えますが……僕の今の話を聞いて、先日の()()()()の威力の魔矢が魔人族に通じるとか、本気で思ってますか?」


 僕の発言に、さすがに頭を悩ませているようだった。

 ここで更に畳みかけよう。


「今の話で察しもつくかと思うので言っておきますが、僕は魔人王国の人達と交流がありました」

「魔族と……」

「魔人族、です。魔族という括りの中の『魔人族』という、殆ど人間みたいな魔族です。そして人間を敵視する魔族『デーモン』を倒すために人間と組んでいたのが魔人族です。本来人間が争うべきなのは別の魔族なんです」

「別の魔族、だと? 魔族はすべて滅ぼさねばなるまい?」

「いえ、必要ないですし、滅ぼしたところで何も起こりませんよ。意味がないです、人種が一つ減った程度の差しかないでしょうね。わざわざビスマルク王国の教皇に、教義の原典を見せてもらいましたから」


 これは、半分嘘。

 ビスマルク王国にあったハイリアルマ教の原典は、やはり魔人族を敵視しているように感じた。

 同時に……女神像とは全く違う姿で描かれていた女神ハイリアルマがどういう存在か、全く分からなくなった。


 さすがにあれは伏せておこう。

 僕自身まだわからなさすぎる。


「……そう、か……ハイリアルマ教の教義の原典を見て、敵対する種ではないと出ているのか……」

「はい。嘘だと思うのなら、ビスマルク王国の教皇に……ああ今は魔人王国の教皇なのかな? まあ普通に生きていると思いますよ、教皇。魔人王国女王が保護していると思います」

「あの女魔王が? ハイリアルマ教の教皇を?」

「あれだけこっちから喧嘩ふっかけておいて、未だに和平の提案ばかりしている女王が敵対的なわけない、って思いません?」


 ウンベルト様は、腕を組んで唸った。ルーベン様は……少し不満そうな顔だ。

 やはり、功績最優先だろうか。


「海の聖戦は、私の発言権も担っている。素直に首は縦に振れない」


 ……難しい、か。


「ただ、そこまで絶望的な差があって勝てないというのなら……そして、ビスマルク王国の教皇を喚べるというのなら一考の価値はある。陛下にお伺いを立てよう」

「本当ですか……! ありがとうございます」

「お主がお礼を言うのか」


 僕は、苦笑しているウンベルト様の顔を見て————






————窓の外から、こちらを見る魔人族の女と目が合った。






「……ッ!?」

「な、何だ急に立ち上がって、窓を……? 外に何かいるのか? 何も見えんが」

「……ああ、いえ、大きな鳥が来ていたようで魔物かと驚きました」

「それだけか、まったく驚かせるんじゃない」


 一瞬で、その女は視界から煙のように消えた。

 ……僕はウンベルト様に返事をしつつも、頭の中は今のことで一杯だった。

 ま、魔人族だ……間違いなく、青い肌の、目が黒くて角の生えた魔族だった。

 しかも……背の高い紫のロングヘアの女性、見たことない魔人族だ。


 それからもウンベルト様といくつか会話をしたけど、会話の内容は全く覚えていないぐらい上の空だった。

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