助けた相手と会話します
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リンデさんと出会った日、逃げ惑うしかなかったオーガキング。
その顔面に、強化魔法を重ねがけした魔矢。
僕にとってのリンデさんが特別だったように、姉貴にとっての特別はレオンだった。
一見女性かと思ってしまうような妹より背の低い美少年は、非常に聡明で、あの姉貴をぐいぐいリードするような男らしさも兼ね備えた、本当にいい男だった。
僕の中で、『かっこいい男』という漠然としたイメージを吹き飛ばすのに十分すぎるほど、彼はどんな男よりもかっこいい男に感じた。
そのレオンが僕に与えた影響は、ある意味でリンデさんより遥かに大きい。
レオンは、僕に姉貴の良さを伝え、僕の魔矢の特殊さを伝え、そしてその魔矢を扱えるように強化魔法を教えてくれた。
離れていても、レオンの影響は大きい。
例えば、今のように————!
『————グォォ……!』
魔矢が刺さった瞬間、その矢は砕けた。しかしオーガキングの頭部もあの厚い皮膚の相当な範囲の皮が剥げて、自身の顔を手で覆いながら腕を振るう。
大盾の重装兵が心配だ、早めに片付けよう。
「…………!」
僕は無言で、再び魔矢を放つ。
強化魔法の疲労さえ耐えれば、魔矢を使うことそのものに全くの問題はない。
矢さえあれば、いくらでも余裕で撃ちまくることができる。
……それにしても、海に向かって撃った時はやっぱり過剰威力だったよな……あんなに派手に大爆発するとは思わなかった。
なんて思いながらも、元々強化魔法を使ってないうちから数撃って討伐をやっているだけあって、矢を撃つことにかけては非常に慣れている。
頭部に短時間で次々と魔矢が集中して当たっていき、短時間で十本以上叩き込んだわけだけど……もう五本目ぐらいには倒していた気がする。
改めて思うけど、確かに今の僕、相当強いよなあ。この威力をいざ自分で再確認すると、とてもではないけど謙遜なんてできないな……。
「……」
「……」
周りを見てみると、皆僕の方を無言で見ている。
……気まずい。
「ライ、お前それ……」
「まあ察してくれると。海に矢を撃ったのは僕で合ってるよ。あの威力が自分だとはちょっと思えないけど」
「そう、か……」
ダニオはそれ以上追求してこなかったけど、まあ微妙な気持ちになるのもわかる。思いっきり秘密にしていたわけだからね……。
と、皆が静まっていたところで、例の貴族が僕の方へとやってきた。
「協力感謝する! 私はルーベン・メルクリオ、ここメルクリオ領地の三男だ。君は非常に優秀だ……うちのパーティに入れてやろう」
あ、これ苦手なタイプ。
会話してると、どことなくビスマルク十二世を思い出すやつ。
「お断りします」
「うむ、そなたにとっても名誉な…………今なんと?」
「いえ、ですから僕はそちらのパーティに入るつもりはないです」
あっさり断ったところに、ルーベンは怒った。
「な、何故だ! 侯爵と組むことはこの地で何よりもの名誉! 断る理由があるまい!」
「僕はそこまで積極的に討伐任務をやる身ではないですし、どこかに所属するつもりもないのです、申し訳ありません」
「むむ、断るというのなら……」
ルーベンが何か言いかけたところで、ダニオが横から口を挟んだ。
「ルーベン様、俺はエラルド様の腕の一つ、ダニオっていう者です」
「……ギルドマスターの犬か」
「犬ですよ、鼻は利く方でね。……こちらのライムント殿は、最近ギルドにやってきたエラルド様の注目人物なんですよ。ですからちょっかいはかけてもらわないでいただける方が、まァ双方にとってもいいかなと思いますよ」
「無理矢理にでもと言ったら?」
「犬が狼になるかもしれませんな、ハハハ」
ダニオの軽い返事に、後ろで待機していた戦士たちが武器を構え直す。
「おおっと、一応お前らに言っておくけど、ライムントは木の矢を使い切ってないからな」
「……!」
「オーガキング相手に見殺ししなかったこいつの意図も汲んでやってくれや。ライムントは余所の国の者だ、俺が助けるって言わなけりゃあ、助けるような縁のない人間だぜ? ……それに」
続く言葉の代わりに、アウローラが僕の前に来てバックラーを構える。
「……こっちとしても、パーティの仲間は信頼第一で家族同然。黙って渡すわけにはいかないぜ?」
「……」
「まあ、助かっただけでも感謝してくれや」
その意味が分かると、向こうの戦士も武器を下ろして盾を構えた。
……いやいや、僕は攻撃しませんからね?
「……ふん、よく口の回る犬だ」
「伝説のフェンリルみたいで格好いいでしょう?」
「ハイエナの間違いではないのか?」
軽口を叩いていたルーベンも、これ以上は食い下がらなかった。
「まあ、助けてもらったことは事実だ。後日褒美を取らせよう」
「えっ! 構いませんよ、見返りのためにやったわけじゃないですし」
「そちらがそのつもりでも、周りの口に戸が立たないどころか、最初から建て付け忘れたような者がいるからな」
ダニオとオフェーリアはお互いを見てやれやれと肩をすくめた。
でも、そういうことなら。
「わかりました、後日確認いたします」
「うむ」
それっきり、ルーベンは黙ってパーティとともに地上へと戻っていった。
ルーベンがいなくなったところで、沈黙をやぶったのはオフェーリアだった。
「ライ君、教えてくれなかったのはやっぱり面倒ごとに巻き込まれて隠したかったから?」
「そんなところだね」
「割にあっさりとばらしちゃったのね」
「自分の能力で倒せるとは思ってなかったけど、じゃあ助けられないからって何もせず見殺しになんてできないよ」
そんな返事に、オフェーリアは口笛を吹いてアウローラの方を見る。
「うーん、本当に男前ね。アウローラはどう思う?」
「そ、そこでこっちに振る!?」
慌てているアウローラの姿を見ながら、緊張も解けたなというタイミングで僕はオーガキングの死体の方に歩いていった。
さすがにこの魔物の討伐をルーベンが主張するということはなかった。そして、この死体がまるまる残っているのは非常に有難い。
この危機的状況の直後からはちょっと大胆すぎる感想にはなるんだけど、でもこう思ってしまったのだからしょうがない。
こういう感想が出ちゃうの、完全にリンデさんに影響されている気がするけど、オーガキングなので仕方がない。
「……どうしたの、ライ」
「これは、嬉しい収穫だなあ」
「え?」
そう、オーガキングだ。
オーガの肉と言えば——。
「——あの料理が、できるね!」




