二人と食事をしながら相談します
昼間から酒というのはあまり行儀が良いように思わないけど、それも国が違えば文化が違うというもの。
周りを見てみると、そこはビスマルク王国とはまたひとつ違った光景が見られた。
ビスマルク王国は、基本的にリリーの店もそうだけどエール文化だ。数々の肉料理を琥珀色の液体で流し込むことが醍醐味。みんなで楽しく夜を楽しむ。
反面こちらは、当たり前のようにワインを飲んでいる。それこそ水のように飲んでいるあたり、食事の時に当たり前のようにいただくのが普通なんだろう。ダニオのように酒ばかり好きという人は珍しいようだ。
つまりは普通の食事に誘われたような感じだと取っていいように思う。その証拠にオフェーリアもダニオを不真面目と言いつつも、当たり前のようにワインを注文した。
サラダにふんだんに使われたチーズと赤ワインが合う。
パスタの味付けにもチーズ、そしてピッツァにもチーズ。その全てが赤ワインとの相性が抜群だ。
僕は既に、ここシレア帝国の料理を気に入っていた。
料理が出て来てから、ダニオは少し気まずそうに切り出した。
「あ〜……どうやら話しちまったのはあんまりよくなかったみたいだな」
「僕が弓矢を使ってたってことか。まあ近くにいた以上は僕が動いたと勘違いするのも分かるし、怒ってはいないよ」
「分かった。……しかし実のところなんだったんだろうなあれは、多分あの攻撃した奴が帝国じゃ一番強いんじゃないのか?」
さすがにそれはないと思うけど……ていうか、姉貴じゃなくて僕が国内最強とか絶対魔人王国に勝てないだろ……。
「あ〜あ、誰か強い奴がぱぱーっと解決してくれないかな」
「いや、僕はあまり強い奴が出て来てほしくはないかな?」
「ん? どうしてだ?」
今の帝国が、魔人王国に喧嘩を売るという行為。
こんな一方的で失礼な喧嘩の売り方が許されるのは、シレア帝国の軍部がどんなに強くても、魔人王国に比べたら圧倒的に弱いから今の関係が続けられているのだ。
小さな子供が癇癪を起こして、それを大人が片手で止めたり抱き留めたりして諦めさせるようなもの。
……じゃあもしも、子供が大人に近い体格になったらどうなるか。
怒った子供の暴力に成人女性が怪我をするぐらいの力があったら、大人の男もそれなりの暴力や人員で応じなければならなくなる。
これをシレア帝国に当て嵌めると……。
「あの船の帆を一撃で射貫く攻撃が、全員人間にやってきた時のことを考えたりしないものかな。というかあの帆を射貫く攻撃、かなり手加減したものだと思うけど」
「……そう、だな……確かにそうだ」
「他にも船を押し返すという魔法だけど、恐らくあんな器用なことをするよりも一撃で転覆させる方が簡単だと思う。オフェーリアはどう思う?」
「……ええ、そうね。正直私も気にはなっていたのよ。魔法の威力の割に『怪我人がいなさすぎる』ってね」
オフェーリアの発言を受けて、ダニオが口を挟む。
「おいおい、前衛は結構怪我してるんだぜ」
「それは、魔物に対してでしょう」
「そりゃあそうだが……」
「むしろあの任務で一番怪我をしそうな場面が魔人王国と対峙している時なのに、なんというか……全く攻撃が来ないというか」
僕はオフェーリアの発言に続く形でダニオに言う。
「そういうこと。恐らく帝国の貴族は魔人王国を敵だと設定しているけど、敵対しているとは誰も思っていない。もしも本当に相手が敵だと思っているのなら、絶対に攻撃はしない」
「ああ、なるほど。反撃してくるからか」
「そう。ダニオだってオフェーリアだって、自分より強い魔物が現れたらまず勝ち方を考えるとか逃げるとかじゃなくて、何よりも『近づかない』だろ? 気楽に喧嘩を売ることができるのは、自分が勝つと分かっているか、相手が反撃しないと分かっている時だけだ」
そこから導き出される答えは一つ。
「本当に魔人王国が敵になったとしたら、全ての貴族が僕たちを先頭に立たせて自分たちは素知らぬ顔で関係ないフリをするだろうね」
ダニオがグラスのワインを一気に煽り、次の酒を注文する。
「まったく、ライの言い分はもっともだぜ……説得力がありすぎて嫌になる」
「そうね、貴族連中にどう見られてるかなんて分かってたつもりだけれど、いざとなると私たちって結局身代わりでしかないのよね」
「魔人王国相手だと大丈夫だと思うよ。というか魔人王国が本気で攻めてきたら、人間の国なんて一日で滅びるし」
そりゃなんといってもクラーラさんがいるからな……。
空からあの攻撃を撃たれたら、人類に勝ち目があるとは思えない。矢も届かないし、魔人族には属性魔法が効かないのだ。
つまり、攻撃手段がない。どう足掻いてもあの人には勝てない。
「二人は魔人王国のことをどう思う?」
「ん〜〜〜……遠目に見てもいかつい連中だなって思うんだが、どーにも人類の敵って感じじゃねーよなあ」
「そうね、話を聞いても圧倒的に強いって分かるし、むしろ和平を呼びかけてるし、っていうか傍から見たらシレア帝国が駄々をこねる子供みたいね……」
……よかった、二人とも近い認識みたいだ。
「それに、勇者ミアの件もある」
「お姉さんね」
「そう。ダニオには言ってなかったけど、勇者ミアって僕の姉なんだ」
ダニオはそれを聞くと、驚いて瞠目し……声は上げなかった。
逆に声を潜めるようにこちらに顔を寄せる。
「お前それ絶対言うなよ」
「相手は選んでいるよ。ダニオのこともギルドから聞いた」
オフェーリアに気付かれないように、こちらも小声で返す。
「そうか……わかった」
「ん。姉貴は間違ったことをするような人ではないからね。それでビスマルク十二世と魔人王国女王を比べて、魔人王国に与した方がいいと判断した。恐らく勝てる勝てないとは関係なく、内面を見て、ね。これは重要なことだと思う」
勇者ミアの判断。
そして魔王の内面。
ダニオとオフェーリアは、なんとも難しそうに唸った。
まあ、いきなり魔人王国のことを知らずに受け入れるというのは難しいだろうと思う。
でもきっと、二人もマーレさんを見たら考えを変えるだろう。
なんとかこの国と魔人王国も、友好関係を築けないものだろうか……。
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