再びギルドに顔を出しました
「まったく、そんなに簡単に話しちゃうだなんて」
「ううっ、面目ない……」
「構わないよ、相手から聞かれたんだろ?」
朝食を食べた僕は、オフェーリアとダニオと一緒にギルドに顔まで顔を出しに向かっていた。
ダニオの話によると、昨日酒場に侯爵の遣いが現れて、話を聞きに来たらしい。
その内容は、相手の陣営に上がった巨大な水柱のことだ。
それは、僕の撃った魔矢に他ならない。
通常なら分からないであろうところを、ダニオがちょうどその時一緒に居合わせていたから、僕が撃ったと同時に水柱が上がったというところまで見ていた。
ただ確証はないから、その時僕がいた、というだけの状況を話したとのことだ。
「貴族の遣いが来たというのなら、話さないわけにはいかないだろうからね」
「嘘ついて追い返しでもよかったんだが、そうなると当然俺の方に矛先が向くからなあ。俺があの時外に出ていたって他のやつらが知ってたからよ、なんだか変な流れになっちまって」
「ああ……ダニオがやったことにされかけたと」
「そうだ……」
確かに、それは困るよなあ……。
僕がダニオと話していると、その向こう側からオフェーリアが顔を覗かせた。
「で、さ」
「ん?」
「実のところ、どうなの? 私はその水柱が上がったのを見てないんだけれど、ライ君はあれだけの魔法……魔法? 使えるの?」
……ここは、どう答えたものかな……。
魔矢の仕組みは、それこそ世界中旅して見識の広い姉貴ですら知らなかったものだ。
そして強化魔法も、魔人族が使っているものを僕が使っている。
まあ、普通に考えて僕以外の人間が同じ事をできるとは思えない。
件の魔矢を使うハイエルフだって、僕と同じ強化魔法を習得しているかと言われたら……多分、ないと思う。
「いいや、僕ではないよ」
「あらそうなの?」
何故か意外そうに反応するオフェーリアに、ダニオが話す。
「あの時の水柱って、ほんと船より高い水柱が海面からドーンって立ち上ったからな。それに対してライが持っているのは普通の弓と、木でできた矢だけだ」
「木の矢一本……普通に考えて有り得ないわね」
「そういうこと」
オフェーリアも、さすがにその状況は有り得ないと思ったのか、それ以上は追求してこなかった。
特に皆は何度もこの任務をしている。そして毎回同じパターンだとすると、気付いたはずだ。
あの時は、船を押し戻すほどの風が吹いている。
一個人の矢が、相手の船までの超長距離を渡るとは、とてもではないけど弓の名手だろうと不可能だと。
話を聞いてオフェーリアはすんなり引き下がったけど、ダニオは「しかし一体誰なんだろうなー」なんて呟いていた。
続けて「ライは誰だと思う?」なんて言ってきたので、曖昧に「他の船に乗っていたんじゃないですかねー」って言っておいた。
-
ギルドには、すっかり連日顔を合わせている受付の方がいた。
「おう、来たぜ!」
「ダニオ様、オフェーリア様。それに、ライムント様もですね」
「ど〜もぉ〜」
「おはようございます」
ダニオとオフェーリアは、軽く手を振るとすぐに掲示板の方へと歩いていった。
僕も二人を追って掲示板を見る。
……すると、僕の隣に受付の方がやってきていた。ギルド内部にはそれなりに人もいるので、他の人を待たせる形となってしまう。
「ライムント様、よろしいでしょうか」
「ん? はい、何かご用ですか?」
「副ギルドマスターが、お会いしたいと」
……副ギルドマスターが、わざわざ?
一体僕に何の用だろう。さすがにここで顔を出さないわけにもいかないな。
「もしもよろしければ、あちらの……そうです、奥の階段から上がっていただいて、更に奥です」
「わかりました。ダニオ、オフェーリア、そういうことらしいからちょっと行ってくるよ」
「おう、わかったぜ」
「わざわざ丁寧に言ってくれなくても、こっちはこっちで適当に解散って感じだろうから、あまり気にしなくてもいいわよ。でもありがと、何かあったらよろしくね」
「そーいうこと」
気を遣ってくれたのか、オフェーリアは僕が遅くなっても気にしないように言ってくれたし、ダニオもそれに同意した。
僕は二人に軽く頷くと、ギルドの二階へと足を運んだ。
-
ビスマルク王国でもそこまで目立つ活躍をしてきたことはない。
だから、当然のことながらこういう場に呼ばれること自体が初めてだった。
さすがに緊張するな。
僕は扉の前で少し呼吸を整えると、扉をノックして返事を待つ。叩いた直後に、落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
扉を開けると、中には中年の逞しい男性と、若い女性の二人がいた。
まず女性が声を出した。
「あなたがライムント様ですね」
「はい、そうです」
「……ああ、緊張しなくてもいいですよ。私は副ギルドマスターのレジーナ、そしてこちらが……」
「ギルドマスターをしているエラルドという、よろしく」
ギルドマスターと副ギルドマスター本人だった。周りには護衛らしい人もいないけど、二人の様子から只者ではないことがわかる。
「エラルド様、レジーナ様、よろしくお願いします。先日よりギルドにお世話になっているライムントです」
「うむ」
「ふふ、事前に聞いていましたが本当に丁寧な方ですね。でももっと気楽に呼んでくれていいですよ」
「そうですか? わかりました、レジーナさん」
「はい」
僕は、レジーナさんに促されてギルドの中心にあるソファへ座る。
そして、僕を呼んだ二人の話が始まった。




