海の魔物を討伐します
「おいっ、大丈夫か!?」
ダニオさんが僕に駆け寄って、倒れてきたところ受け止めてくれる。
「ったく無茶しやがって! 今回お前がやられちまったら残りの奴ら全員無事じゃ済まないかもしれないんだ、あまり無茶はしてくれるなよ!」
「すみません、僕は後ろに下がりますね」
「おう!」
本当にいい人だ、ダニオさん。
僕はダニオさんに礼をすると、すぐに船内へと戻っていった。
実のところ、一連の流れを知っていたのであまり不安はなかった。
帆を撃った後に風が来るという流れだと聞いていたから、船の外に落ちる可能性は低いと思っていたし、恐らく魔人族の目の届く範囲のうちに、魔物に襲われるということはないはずだ。
だから思い切って、魔矢を向こう側まで撃ってみた。
ダニオさんも戻ってきた。
「とりあえず外の連中は全員船内に入れた。風に押し返されてる間は魔物が襲って来ないから、出ているだけ無駄だな」
「そうねぇ、これまでもずっとそうだったし。これ押し返されるのって何時間ぐらいかしら」
「五時間……いや六時間ぐらいかね、帆が完全にやられてるし、前の連中の船は軸ごとポッキリ、更にあのでっかいオール類も撃ち落とされていた」
なるほど、徹底的に航行不能にしてから、送り返すという算段か。
恐らくマーレさん自身、こっちの相手は面倒だと思っているのだろう。話聞く気全くなさそうだもんなあ。
まったく、何が聖戦なんだか。
「特にプライドの塊みたいな侯爵が、まだ移動が無事だからってこっちの安船に乗るわけがねえ、今回もこれで追い返されてしまいさ」
「毎回同じなのに、対策も立ててないんですか?」
「どうも支柱を頑丈にした上で、帝国中の魔法防御できる部隊を集めたらしいが……ま、ご覧の有様さ。元々帝国は魔法兵団が弱い部隊なんだ、こーなるだろうなってのは目に見えてるわな」
「じゃあ、どうして……?」
僕の問いに、ダニオさんでなくオフェーリアさんが嘆息した。
「自分はこれだけ魔法兵団を集められるんだっていう主張のためよ。全く何から何までこれってバカ貴族の自己主張の為の演劇なんだから、世話ないわね。金が出るだけマシだけど」
「もしかして、オフェーリアさんも……」
「察しが良いわね、それはもう何度も何度も誘われたわ。……だけどねえ、あんなに圧倒的な魔力の奔流、例え殺されないって絶対分かっていたとしても引き受けるわけないわよ。だから」
オフェーリアさんが、窓の外の破損だらけとなった綺麗な船を見つめながら呟いた。
「あっちに行った奴ら、多分今回が初めてね。魔術師後輩冒険者の心が折られなきゃいいけど」
-
暫く大きい揺れが続いていた。
強化魔法を使った直後は危ないなと思ったけど、意外と体は保っている。
以前より強化魔法を使い慣れているのだろうか。
そういえばダブルを使った時、地下牢では使う度に倒れ込んでいたように思う。
今回はその影響が、トリプルの時に若干それより重かったぐらいだし、今も普通に歩けている。
もしも強くなっているのなら、喜ばしい事だな。
僕の魔矢には、技術訓練や筋肉より強化魔法を鍛えた方が圧倒的に強くなる、それが特徴の攻撃方法だ。
強化魔法さえ強くなれば、かなり強くなれる。
それこそ、レオンの強化魔法の世界まで辿り付けられれば、リンデさんの手伝いまでも可能になるほどに。
しかし、いくら立てても体の中の魔力はすっからかんだ。
僕は船の奥にある売店へと寄った。
「魔力回復薬の在庫はありますか?」
「マナポーションですか、お目が高いですね」
船内の売店で出て来たものは……うおっ、値札ほんとに高いな! 周りを見ると、確かにこれは倍額……いや、三倍ぐらいか? 酔い止めは五倍ぐらいしそうだ。
「今日は売れ行きが良くなくてね、商売あがったりだよ」
「高すぎて誰も買わないんじゃないですか?」
「次回から乗るのはやめるかねえ……」
それはそれで困ることになるんじゃないだろうか。
次回も僕が乗っているとは限らないし。
「ほどほどの金額にしたら、ちゃんと買ってくれますよ。事前に買う人も増えるでしょうし、回復魔法を使う人だって増えます。でもやっぱり、最後に頼りになるのは人間の状態に関係なく性能を発揮してくれる薬ですから」
「そうか、適正価格か……ううむ」
「そこまでいかなくても、適正値の……三割増しぐらいなら十分みんな買ってくれますよ。というかあなたはお金もらってるわけじゃないんですか?」
「うっ……まあ、その。多少はもらってるよ」
あ、同情する気だんだんと低下。
「なおのこと上乗せしちゃだめじゃないですか。稼ぎ時なんだから沢山売らないと」
「うーむ、ごもっともだな……。結局マナポーション買うのか?」
「これの半額で二本、どうですか?」
店員は腕を組んで「半額……いやしかし、二本か。普段出ないし売れないとボウズだからな……」とぶつぶつ呟き、やがて膝を打って僕に向き直った。
「よし、その金額でいいだろう。陸で売ってても在庫ダブついちまうことの方が多いし、マナポーションならまあいいぜ」
「ありがとうございます」
僕は多めの銀貨を取り出すと、マナポーションを受け取った。
心の中で、売れない原因が主に僕であることにちょっぴり悪い気もしつつ、あの価格じゃ仕方ないよなあと思いながら上へと戻る。
ちなみに朝に治した大男が、風に煽られた船で再び船酔いしていたので、マナポーションを飲んですぐに治した。
一人治すと話が伝わっていたのか、俺も俺もと治療を要求してくる男達。
……下の商人に、僕が回復術士だって知られませんよーに。
-
魔物は、帰り際に大量に現れた。
行きと同じ道のりだったけど、それは侯爵の乗る船が魔除けをしているからだとのこと。
それが帰り際では破壊される上に、逆向きに進行するから侯爵の船の前を進むことになる僕たちの船に、先に魔物が集中するのだ。
特に船自体が貴族の船より上りやすいようにわざわざ加工されてある。
「半漁人どもが来たぞ!」
船の上では、ダニオさんとオフェーリアさんが活躍していた。
ダニオさんは器用にシミターを振り回し、オフェーリアさんは氷の矢で海の上に顔を出す半漁人の頭を撃ち抜いていく。
僕も……いや、強化魔法が残った状態でこの距離で魔矢を撃つのは非常に危険だ。木の矢で対処していこう。
意外と慣れたもので、これだけでも十分に魔物を倒すことができた。
「いっ……!」
金髪の若い男が怪我をして後退し、ダニオさんが割って入り魔物を代わりに倒す。
「『ヒール』!」
「うわっ、本当に綺麗に治ってる。ありがとうございます!」
「どういたしまして、ダニオさんが集中されているので戦線に」
「ええ、任せてください」
ダニオさんの横から攻撃しようとしていた半漁人が、青年によって後ろから袈裟斬りにされる。
もちろんその様子はダニオさんからは見えていたので、そいつを無視して残り一体の半漁人を切り捨てた。
「はっはっは、本当に楽勝だぜ」
「良い感じっすねダニオさん」
「ああ、ライムント様々だぜ」
討伐任務自体は好調で、皆慣れたものなのか最終的には二本目のマナポーションはいらなかったなというぐらいだった。
さすが帝国の冒険者、接近戦はお手の物といった様子だ。
「皆さん強いですね!」
「ハッハッハ、それほどでもあるぜ! でもな、こういう状況は堤防と一緒で、前衛のバランスが崩れたら一気に崩れて建て直しにくくなる。常に安全に立ち回れたのはお前のお陰だ、礼を言うぜ」
「そうですか! それはよかった、どういたしまして」
「ほんと、こっちまで魔物が来なかったの初めてよ。攻撃の腕も想像以上だし、ライムント君はいい後衛ね。防具の出番もなかったし、最高よ」
オフェーリアさんがローブの中の軽装鎧を軽く叩いて笑う。
よかった、皆の役に立つことが出来たようだ。
長い船旅を終え、僕達討伐隊はようやく久々の陸地に足をつけたのだった。




