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初めて船に乗りました

「くれぐれも気をつけてくださいね」

「大丈夫ですよ、これでもそれなりに強いんですから」


 遠征出発当日、僕見送りに来てくれたアウローラさんに挨拶を交わす。

 後ろには短い期間ですっかり僕に馴染んだ三人の子供達がいる。


「信じていますからね。……それではいってらっしゃい、ライさん」

「早く帰ってきてメシつくってくれー!」

「……ん……」

「まったく、男の子はこれだから。ライお兄様、必ず無事に帰ってきてくださいね」

「もちろん。海産物が取れるようになったら、またおいしいものを作ろう」

「まじで! やったぜ!」


 いつも元気いっぱいのカルロ、無言でも心配そうな様子が伝わる優しいリコ、時々本当に大人の貫禄を感じるロザリンダ。三者三様の子供達の頭を撫でて、笑顔で孤児院を後にする。


 -


 港には……大きな船だ……! 腕っ節自慢が次々と受付のチェックを済ませて船の中に乗っている。

 よし僕も行こう。


「君は……」

「登録申請をしたライムントです、弓と回復の後衛専門です」

「両方か! それはありがたい。ライムント、ライムント……おう、これだな。よし」


 名簿を確認したのだろう、無事に名前も載っているようで安心した。


「魔物が上ってくるまでは海のやつらも弓や魔法で先制するからな。そうそう危ないやつはいないだろうし、まあちょっとした旅行気分で乗ってくれや」

「ありがとうございます」


 気さくな受付の人に礼をすると、いよいよ僕は念願の船に乗った。


 ……おお、これは……。

 地面とは、違う。ぐらぐらしているけど、極端に不安定ではない。重いものの上に乗っている感触が独特だ。

 大きく揺れているけど、自分の足の力じゃ絶対影響はないだろうという圧倒的な『揺らされている』という感覚。

 これが船か……!


「よし、揃ったな。出番が来るまでは暫くは暇だろうから、船内の構造を確認しておくこと。魔物が途中で出るかもしれんが、油断するなよ」

「食いモンとかは貴重だし、慣れてねえ奴は吐くかもしれねえ。だから慣れるまではあまり食べるなよ。まあなくなっても周りの海からいくらでも食いモンが補充できるがな! ハハハ」


 討伐隊のリーダーと思わしき人と、船長らしき人から確認事項が伝わる。

 周りにいる冒険者らしき人は……数十人ぐらいか。男がメインで女が数人……ああ、早速声かけられてる。見たところ近接と遠距離半々といったところか。

 そしてそれと同数ぐらい、船員だろうなという白い服の筋骨隆々とした男達がいる。なんだか見ていると、この人達の方が強そうだけど……でも、魔物を専門としていたら手間取るものなのかもしれない。


 出番までは暫くかかるらしいので、甲板に出る。

 外に出た瞬間、大きな波の音と、肌に感じる風の感触。そして何より、ここが海であるとはっきり分かる『潮』の香り。

 これが船旅か……! この魅力に魅せられて、海の男となる人達の気持ちもわかる。


「おう、兄ちゃん」

「……ん? 僕ですか」

「そうだ。俺はダニオっていうんだ。長旅だし、話でもいいか?」

「ええ、いいですよ」


 僕に話しかけてきたのは……頬に紅葉を貼り付けた銀髪短髪の男性だ。

 僕がその頬部分に視線を向けると、男はあわてて後ろを向いてナイフを取り出し、鏡面で自分の顔を確認する。


「うっわー……あの女マジ容赦ねえな……」


 ああ……思い出した、この人さっき女の人に速攻でナンパしてた人だ。

 ビンタされたなー。


「くぅ〜っ、俺好みの優しい女の子はなかなかいねーなあ……」

「こんな討伐隊に加わる人がお淑やかだったら、それこそ驚きですよ」

「そう、それだ。なんだかあんた、こういう討伐隊にはいなさそうなタイプだから気になっちまってな。何か事情があるのか?」


 アウローラさんの時も思ったけど、そんなに僕って無害っぽい感じなんだろうか……悪い気はしないけど、ちょっと素直に喜んで良いのか判断に困る。


「海に出たことがなかったから、ちょっと興味があって。あまり魔物を倒してそうに見えないのは、きっと後衛専門だからそう見えるのかな? 弓と魔法。特に回復魔法は重用するだろうと思って」

「おお! あんた回復魔法か! いやーなるほどな! こういう討伐隊ってもうみんな前衛って感じの時もあったりして困るんだよ、まさか魔法職がいるとは、こりゃ幸先いいわ」

「そんなに珍しいんですか?」

「この遠征部隊、俺は三度目だし街でもよく冒険者仲間を見かけてるから皆知ってる顔だぜ」


 じゃあなんでナンパしたんだろ……。

 というのが、僕の視線から漏れ出たのかダニオさんは笑いながら頭を掻いた。


「たはは……オフェーリアはいい女だからいつも声をかけるんだけど、まあ脈がねえなありゃ。さすがに三回も立て続けに誘うと怒るか」

「そりゃ怒りますよ……」


 軟派な感じだけど、話したところとても小気味のいい人だ。

 と、ダニオさんと話していると……後ろから女性が現れた。

 あっ、もしかしなくても……。


「おっ、なんとオフェーリアから会いに来てくれるとは、こりゃあ今夜は俺の部屋かな!」

「反対側も真っ赤になりたい? いっそ部屋まで行って、その粗末そうなモノ切り落としてあげようかしら」

「すんませんでした……」


 ダニオが顔を青くして謝り、頭を掻いて後ろを向く。オフェーリアさんはそんなダニオさんの後頭部を見て、片眉を上げて赤い唇に弧を作り、なんともいえない苦笑をしていた。

 ……なんだか僕から見たら、やり取りといい表情といい、そんなに仲が悪そうにも見えないっていうか、これ十分脈アリだ。


 と、見ていると当然オフェーリアさんが僕の方に向いた。

 赤い髪が長く大きく跳ねている、ツリ目とルージュのリップで色気たっぷりの女性だ。服装はローブ姿で、間違いなく魔法職だと分かる。


「それよりダニオ、そっちの彼と話してたけど私もいいかしら。初めての人よね」

「おう、こいつはすごい奴だぜ」


 ダニオが後ろに下がって場所を譲り、僕とオフェーリアさんが対峙する。

 背丈は僕より低いけど姉貴以上、かなり大きい人だ。


「オフェーリアよ。見ての通り魔法使い、氷と風を使うわ。討伐隊には三回目だけどあなたは見たことない、初めて?」

「はい。僕はライムント、弓と回復魔法を専門とした冒険者です」


 オフェーリアさんが口笛を軽やかに吹く。


「出不精で治療院にみんな行っちまう回復職が乗ってるなんて、今回はいいわね! 前回はいなかったから船で回復薬ポーションの在庫を買ってたけど……」

「そうそう……あれはボりすぎだよなあ」

「報酬半分ぐらいあれで消し飛んだ奴もいるらしいわよ」


 なるほど、緊急用の回復薬が在庫の関係上高いのか。


「治療院でもかなり役に立ったので、多少大きな怪我でもすぐに治せます、よろしくお願いします」

「うーん、物腰丁寧なところもポイント高いね。ダニオ、あたしはこいつと後ろにいるからしっかり護ってやんな、彼が無事だと楽勝だよ」

「そうだな、他の奴にも伝えとくわ」


 回復魔法、想像以上に好評でよかった。どうやらみんなに護ってもらえそうだ。

 僕はダニオさんの後ろ姿を見送ると、船の進行方向に顔を向ける。

 この船の前にも、たくさんの船があるのだ。


 一体どんな大規模な作戦になるんだろうと思いながら、僕はその日の船旅を楽しみつつ明日以降の討伐の準備をした。

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