久々に料理をしました
そんなわけで、僕はシレア帝国での生活が始まることとなった。
アウローラさんは本当に優しい人で、毎日子供達の世話をしながらも日銭を稼いでいるとのこと。僕とそこまで年齢差が感じられないのに、しっかりした人だな……。
子供達もわがままな部分は少なく、迂闊に外に出て迷惑をかけたりしないし、外の畑は子供達が世話をしているらしい。みんな素直でいい子だ。元気のいい子はカルロ、静かな子はリコ、女の子はロザリンダだ。
ロザリンダは、僕とアウローラさんの関係を聞いてくるのでちょっぴり苦手。ほんとに気まずいというだけで、そんなに苦手意識はないけどね。皆十一歳と聞いたので、ロザリンダは背伸びしたい年頃なのかもしれないし。
とりあえず、三人とも心を開いてくれたのは本当に良かった。無口なリコも、カルロの後ろに隠れつつも、僕が指輪を見せると興味津々に見てきたりしたし。
しかし孤児院で住んでいる間に何もかも世話になるというのはさすがに気が引けるので、今日の料理は僕が立候補してみた。素材も僕の貯金で買う。
最初はアウローラさんも引き下がったけど、久々なので腕が鈍っていたら嫌だから確認したいとお願いすると「そう言われると断れないじゃないですか」なんて言って譲ってくれた。
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食材は午後の日が高いうちに、いろいろ見て回って買ってきた。アウローラさんから貸してもらったバッグに買った食材を詰め込むと、孤児院の中にある簡単なキッチンを使わせてもらう。
庭に植わっていたズッキーニに、パプリカも。そこに市場で買ってきた燻製生ハム、あとガーリックとオニオンを組み合わせていこう。
「あ! あれはっ! うわーい肉だーっ!」
後ろからカルロの元気のいい声が聞こえてきて、振り返ると「ほんとだ……」と目を輝かせて呟くリコにも目が合った。
やっぱり男の子はお肉食べないとね。
と二人を見ていると、そんな僕を見ているアウローラさんとも目が合った。
「ら、ライさんそんな、帝国燻製肉なんて、使っていただいてよろしいのですか」
「本業は宝飾品だって言ったじゃないですか。実入りはいい方だった上、ある程度金貨に換金しているんですよ。泊めていただいている礼として、僕のわがままと思って使わせてください」
「もう……あなたって人は、本当に断りづらい言い方が好きですね」
どこかおかしそうにくすりと笑うアウローラさんに笑顔で応えると、早速調理に取りかかる。
まな板を水の魔法で軽く洗って、手元からミートナイフを出す。
ズッキーニを輪切りにして、パプリカも軽く中心をくりぬいて細めに切り分けていく。大きいパプリカだ、子供達には食べづらいだろう。小さく切り分けていこう。ズッキーニも四分の一でいいな。
「ライ兄ちゃん、めっちゃナイフ動かすのはえー、超かっけー!」
「……うん……」
「料理する男性……素敵ですわね……!」
えっ? ……あっ、ものすっごく子供達に見られているっ!?
子供達の視線ってのはまた格別に照れるな……!
「……信じていないわけではなかったのですけど、本当にライさんって料理上手いですね……ちょっと凹みます」
「これに関しては、勇……じゃなかった、姉貴がとにかく我が侭でグルメでね、ああじゃないこうじゃないとか、外でひたすらおいしいもの食べて、僕に対して同じ料理の再現を要求したりしていて」
「ああ、お姉さんがそういう……」
ノリで喋ってるけど……姉貴の印象、過剰に悪くなってないよな?
まあ、いろんな意味で今更ではあるけど。
……でも、子供達の前では気をつけないといけない。
僕が『裏切りの勇者ミア』の弟であるということが知られたら……子供達が僕に対して苦手意識を覚えるかもしれないし、嫌われなかったとしても外に情報が漏れる可能性がある。
アウローラさんは信用しているけど、姉貴のことはあまり迂闊に喋ることができないな。
考えごとをしながらも肉を小さく切り分け、そして手元のアイテムボックスからスパイス・ハーブ類を出していく。
この料理なら……白胡椒とバジルかな? バジルの料理は元々こちらが本場と聞いた、ピッツァやパスタにもふんだんに使われていておいしかったんだよなあ。
ピッツァ、できれば習得して帰ろう。その時は本当に家を拡張して、石窯を作ってみてもいいかもしれない。
リンデさんのアイテムボックスに入るのなら、家がどんなに大きくても問題ない。ビルギットさん用の食堂まで作って、大豪邸みたいにしてしまうってのも楽しそうだ。
ここでお湯を大量に用意して、沸騰させる。折角なので買ってきたパスタを使おう。あまり食べ慣れない料理だと悪い気もするからね。
オリーブオイルを軽く回し入れて、軽く砂糖、そしてパスタで味が薄まることを考えて塩と白胡椒。本来ならもうちょっと必要だろうけど、恐らくこのシレアンスペックという生ハムが味を引き立ててくれるはず。あとは子供達に塩分はあまり取りすぎないように配慮。
フライパンを手首で返しながら火を通していく。しっかり熱を加えて、でも焦げないようにね。
そろそろパスタが茹で上がった……だろうか。一つ食べてみる。……うん、大丈夫そうだ。湯切りをして、混ぜる。
「こんなもんかな? アウローラさん、お皿は」
「…………」
「アウローラさん?」
「……はっ!? あ、お皿ですね! はい只今っ!」
慌てた様子で食器を取りに行った。いや、慌てなくて大丈夫ですよ、割れたら大変です。
無事割らずに持ってきたお皿に、出来上がったものを乗せていく。ちょっと家では食べないタイプの料理なので、今回の料理を一番楽しみにしているの、実は僕自身かもしれない。
「出来上がりましたけど、味はどんな感じかわかりません。変なことにはなってないと思うので食べましょう」
「は、はい……いただきます」
まずは一口。
予想通りといえば予想通りの味だ。なんといっても、お昼によく似た料理を食べたからね。
でも、思いの外上手くいったな。っていうか肉がとてつもなくおいしい。燻製の生ハムであるシレアンスペックか、姉貴はこれ買いそびれたのか、買って帰ってこなかったな。知ってたら絶対エールのつまみに買ってる。
「…………」
皆を見ると、子供達は黙々と食べている。見た感じ、駄目ということはなさそうで安心した。
「ああほらカルロ、口を拭いて」
なんだか慌ててかき込んでいるようで、ちょっと口周りが汚れているので身を乗り出して拭く。やんちゃな子のお世話、なんとも温かい気持ちになってくる。自ら進んで子供達の世話をする人は、こういう気持ちなのかもしれないな。
拭き終わった後に気付いたんだけど、カルロはなんと、あの量をとっくに食べ終わっていた。
そんなカルロは食べ終えて、開口一番、
「すげーおいしいんだけど! ライ兄ちゃんすげーな!」
そう叫んで、落ち着きのあるリコもロザリンダもぶんぶんと口に食べ物を入れて無言で頷いていた。こうやって見ると、二人もちゃんと子供っぽくてかわいいな。
「……本当に、おいしいですね」
「よかったです、アウローラさん」
「……私の料理よりも……」
あ、ちょっと半目で見られている……。
「まったく、ほんとに凄い人ですねライさんは……これじゃあ明日から私に変わると、子供達から文句が出ちゃいそうですよ」
「あ、それなら明日以降も僕が担当しますよ。五人分なら大したことないです」
「いいのですか?」
本当に五人分なら大したことないです。村のみんなに料理を振る舞ったり、ビルギットさんを含めた魔人族のために用意するに比べたら全然少ないので。
「あの、じゃあ……お願いできますか?」
「任せてください」
うん、なんだか日常が帰ってきたって感じで、いいなこういうの。
新しい生活は心配していたけど、よかった。僕は孤児院でも、自分のポジションを見つけて役に立てそうだ。
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