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詳しい話を聞いてみました

 それからは……心ここにあらずといった感じだった。

 食事はいつの間にか終わっていて、その場で解散したようで、今はアウローラさんと一緒に孤児院に戻ってきていた。

 だけどその間は全く覚えていない。


「アウローラねーちゃんだ! おかえり!」

「あ……おかえりなさい」

「ふふっ、そちらのお兄様とのデートはいかがだったかしら」

「ちょ、ちょっと! ライさんは手伝ってもらっただけなの! 失礼なことを言ったらご飯抜きよ!」

「あら、ごめんなさい。そういうことなら失礼はできませんね」


 子供の声に反応するアウローラさんの大声がすぐ隣で聞こえてきて、ようやく意識が戻ってきた。

 ああ……孤児院に帰ってきたのか……。


「……あら、そちらのライ様は随分お疲れの様子ですわね。アウローラ姉さん、まさか助けたことを理由に、かなり無茶な仕事を振ったのでは」

「うっ! そ、そんなことは……あっ、確かに、あった……かしら?」


 歯切れの悪くなるアウローラさんに子供達の視線が集まる。しかしぼーっとしていた理由はそれではないので、責められる前に助け船を出すことにした。


「いいや、仕事自体は何も問題なかったよ。回復魔法が使えるから、治療院の手伝いをしていただけ」

「うおーっ兄ちゃん回復魔法使えるのか! すげーなー!」


 元気な男の子の憧れの視線がなんとも照れくさい。回復魔法、この辺りでは珍しいのか随分と褒められてしまっているなあ。

 シレア帝国は魔術師の肩身が狭いわけではないけど、魔力より体力を尊ぶ文化とは聞いていた。

 この様子だと、確かに本当のことのようだ。

 見てみると引っ込み思案な子も、ませてる女の子も、ちょっと尊敬の眼差しっぽい感じで僕の方を見ている。……エファさんを知っている手前、普通の僕に向く純粋な瞳が心苦しい……!


「ああいや、僕の地元では僕以外にも使える人は沢山いたんだよ。ちょっと遠い場所から来たからね」

「でもライさん、本当に助かりました……ありがとうございました。私も多少は使えるのですが、数回使うと体中が疲れてしまって、しばらくは休まなくてはいけないので……」

「なるほど、それであの人数」

「はい。皆さん一人回復魔法を使っては数十分休み、何度かに分けて一人を回復していきます」


 一人が一回のヒールで治りきらない、か……。

 なるほど、確かに大きな怪我だとそういうこともあるだろう。僕だってエファさんの回復魔法でマックスさんの母親の足が生えたのは驚いた。

 怪我の規模が欠損ほどでなくても、当然回復魔法の精度の差が出る怪我もある。

 それが、先ほどの治療院の怪我だ。


「……まさか、お一人で回復魔法を連続行使して、全員午前中に回復させるとは思っていませんでした……すっかり助けられてしまいましたね」

「僕を助けてくれた人がそれ言います?」

「あ、そうでしたね。ふふ……」


 おかしそうにくすくすと笑うアウローラさん。こうやって見ると、立場的には母親みたいなものだろうけど、みんなのお姉さんぐらいの年齢に感じる。


「そういえばお疲れでしたね、お部屋に戻りましょう」

「ああ……そうですね、ご心配をおかけしてすみません」

「いえいえ」


 アウローラさんは笑顔で応えると、子供達の間を通って行く。

 行きがけに「部屋で二人きり……」なんて女の子が言うものだから、顔を真っ赤にして「本当に怒るわよっ!」と叫んだりしていて、そんな姿もみんなのお姉さんだなーって感じだった。

 こんなやり取りからも、お互いの信頼が見て取れる。


 -


 今日、僕が起きた部屋へと戻ってきた。こうやって見ると、孤児院の中でも綺麗な部屋を宛がわれていたんだな。

 見ず知らずの男である僕に対して、随分と手厚い保護だと思う。


「改めまして、助けていただきありがとうございました。正体不明の男なんて、女性は普通嫌がりそうなものだと思いますし」

「い、いえいえ! そもそも事情を知らないからといって門前払いするようでは、孤児院なんてやっていけませんから! ……それに……悪い人には、見えませんでしたし……。でもぱっと見て大きな怪我もないし、冷たくもなっていないのに、揺すっても全く起き上がる気配がなかったから心配しました。数日で済んでよかったです」

「……数日?」

「はい、数日……正確には八日間ほどですが……」


 僕は、先ほどのアウローラさんの発言を妙に感じた。

 だって……数ヶ月が経過しているのだ。あの悪鬼王国らしき地下からワープしてきたのなら、僕は数ヶ月は寝ていたことになる。

 もしくは悪鬼王国地下牢で目覚めた時、既に数ヶ月経っていたという可能性だけど……こっちはあまり考えられない。あんな場所で数ヶ月もうつ伏せで倒れていたら、もっと起き上がる時に体が動かないものだと思う。

 だからといって、ベッドで数ヶ月だったら大丈夫かといったらそんなことはないはずだけど……。

 ……そもそも、呼吸でも体の水分は抜ける。数ヶ月も眠りっぱなしで、起き上がっても回復魔法でなんとかなる程度の体調って、ちょっとおかしくないだろうか。


 分からないことは多いけど……でも、まずは当面の問題だ。


「僕はどこに、どんな状態で倒れていましたか?」

「孤児院の庭……そう、あのズッキーニを植えているあたりですね。そこに横たわっていました。全く起きなかったので、少々揺れても大丈夫だろうと、あの子たちにも手伝ってもらって中で休ませました」


 よ、よく警戒しなかったなあ……僕ってそんなに無害っぽい雰囲気なんだろうか。男性を呼んできて、縛ってから起こすとかしそうなものだけど。

 悪い気はしないけど、ちょっと人が良すぎるというか世間知らずに感じてしまって心配だ。


「そこまで信用してくれていたのなら、今更僕がどうこう言うのは失礼ですね。ありがとうございました」

「はい、どういたしまして」


 にっこり笑うシスターさん。綺麗な人だし、優しいし。子供達や治療院の人たちから慕われていることだろう。

 他の人達が知ったらやきもきしそうだ。

 っと、他の質問にも移ろう。


「あと聞きたいのですが、よろしいでしょうか」

「はい、何なりとどうぞ」

「戦をしている相手が『魔人王国』というのは本当なのですか?」

「……はい、そうです」


 急な質問だったのか、少し考えるように口元に手を当てて視線を彷徨わせている。

 やがてアウローラさんは僕に視線を戻した。


「私も患者さんから治療院のロランドさんに話が行って、それを聞いての又聞きでの知識しかないのですが、それでよろしければ知ってる部分をお話しします。……こちらにはシレア帝国の防衛船団が展開しているとのことなのですが、相手は海に一隻の船がいるのみなのです。ですが、攻めようとすると必ず船を攻撃されると」

「……船を、ですか」

「はい。帆を魔法で破られ、船体を強力な風の魔法で押し戻されると。こちらからの攻撃は、弓矢はもちろんのこと、魔法も一切通用しないのです」


 ……まあ、そりゃそうだろうな。エファさんとユーリアがいたら、そういう戦力差になることは目に見えて分かる。

 その上で船にカールさんやビルギットさんどころかクラーラさんまでもがいたら、どんな屈強な戦士でも戦いになるはずがない。


「そうですか。じゃあ怪我人などは」

「怪我人はいないです。ただ、かなり強力な風の魔法で押し返されるのと、同時に魔族が魔物を送り込んでくるので、魔物からの被害が多いですね。陸路も似た感じの状況だそうで……死者が出るほどではないのですが、怪我はつきものです」

「ああ、魔族と魔物は関係ないと思いますよ」

「? そうなんですか?」

「はい」


 怪我したのが魔人王国との戦のせいということにされるというのは、マーレさんは相当嫌がるだろう。

 まあ、僕もリンデさんに会うまでは同じように、魔族が魔物を操っているとか、魔王を倒せば全ての魔物が消えるとか、そんなこと思っていたけど。

 ……今から考えると非常識もいいところだなあ。


 でも、よかった。

 全く魂胆は分からないけど、人間と敵対するために戦争を始めたというわけではなさそうだ。

 今のところ、マーレさんがが悪人になったという説は除外してもいいだろう。

 ただし本当に、理由は分からない。そもそもビスマルク王国が占領下ってどういうことだ、姉貴が……ああいや、姉貴がビスマルク十二世の味方をするわけがなかったな……。


 じゃあ『時空塔騎士団』+『勇者ミア』対『ビスマルク王国騎士団』か。

 ……いやいや。それはない。連日エールを飲みにという理由で、エファさんのいるリリーの酒場に出向いていたマックスさんが、エファさんに剣を向けるだろうか。そもそもマックスさんが姉貴に敵対するとか有り得ない。

 そして、マックスさんの部下は、マックスさんを信頼している。魔人族の強さも人柄も知っている。マックスさんの方につくだろう。


 後は神官戦士? いや神官戦士ってビスマルク十二世に命張れるほど付き合うか? 有り得ないなあ。

 というか教会の戦士は、女神ハイリアルマから紋章を授かった姉貴の味方になるんじゃないだろうか? ぶっちゃけそっちの方がラクだし。

 あと何といっても同じ教会の権威である勇者ミアと聖女バルバラの仲がいいのは、教皇も神官戦士も全員知ってるし。


 じゃあ結局、『時空塔騎士団』+『姉貴』+『ビスマルク王国騎士団』+『ハイリアルマ教神官戦士』対……なんだ? ビスマルク王国の文官と、国王ぐらい?

 ……うん、自分で思っておいてなんだけど、ほんっとビスマルク十二世人望ないな……。どう考えても無条件降伏しか有り得ない。

 まあ、直接ビスマルク十二世と姉貴とのやり取り、更にマーレさんとのやり取りを見た後だと、それも仕方ないだろうけど。

 しかし……そうなると、やはり姉貴はマーレさんと行動を共にしているだろうな。こちらを迂闊に探しには来られないか。


 そもそも僕を捜すといっても、シレア帝国でさえ近所になるほど世界は広いし、それを知らない姉貴じゃない。

 しかも数ヶ月間はどこに存在したのかわからない、もしかしたら地上からは数ヶ月消えていた可能性がある。

 もう、生存の見込みがないと思っている可能性もある、というかそう考える方が自然だろう。そうなると、姉貴はもう四人家族の一人になったと思い込んでいるはずで……。

 ……なんとか、生存を伝えなくては……!


 僕がしばらく考えていると、「あの……」と横から声がかかる。

 いけないいけない、本当に思考の森に迷い込むことが増えてしまってるなあ。


「すみません考えごとをしていて無視をしている形になってしまって……何でしょうか? 僕に応えられることならなんでもどうぞ」

「…………」

「……アウローラさん?」


 アウローラさんは……どこか思い詰めた様子で口を開けたり閉じたりしていたけど……踏ん切りが付いたのか、僕を見ながらはっきりと告げた。


「あの、間違っていたら申し訳ないのですが、どうにもそうとしか思えなくて……もしかしてライさんは、魔人王国と縁があるのですか?」

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