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やっぱりデーモンのセンスとは合いそうにない

 扉を開けた先は、次の部屋。その部屋を開けた瞬間、少女は消えた。

 慌てて中を覗くと、やはり少女は喉を突いた姿で次のデーモンも倒していた。姿を見失った一瞬の出来事である。

 音を立てないように倒れ込む巨体を支えてゆっくりと床に下ろす。そのうつ伏せになった背中に少女は視線を向けている。


「……強い、ですね。あなたが味方で良かったです」


 少女は僕に向き直ると、少し首を傾けて微笑んだ。その顔はどこか愁いを帯びていて、こんなに強力な魔族にも関わらず、儚げなお姫様のようにも見える。

 ……なんとも不思議な魅力のある人だ。本当に何者なんだろう。

 リンデさんより強い、とまでは思えないけど……姉貴とだと、恐らくこの少女の方が上じゃないだろうか。


 僕が少女を見ていると、少女はもう扉に手をかけていて、次の部屋へと向かおうとしていた。結構移動ペースが速いな。

 しかし、じっとしている方が危険かもしれない。牢にだって見回りがあるかもしれないし、なかったとしても新しい獲物を持ってきたりする可能性だって十分にある。

 だとするなら、あの牢から出来る限り離れている方がいい。

 僕も少女の移動ペースに合わせて、後ろをついていった。


-


 次の扉の先は、建物の外だった。

 それまでの窮屈な雰囲気から、一気に開放的な感覚になる。


 ここが悪鬼王国の本拠地なのだろうか。

 ぼんやりとした赤い魔石で街全体が覆われた、なんとも息苦しい雰囲気の街並みだ。

 ……やはりデーモンのセンスというか好みというか、全く相容れないな……。


 正面の少女を見ると、やはり嫌な感じなのか眉間に皺を寄せていた。

 さっきまでの室内は薄暗いとはいえ、色の付いていない白色の魔石で照らされた地下牢だったから、余計に目が疲れる。


「早くどこかへ行きましょう。正直この赤色一色というデーモンのセンスは全く好きではありません」


 少女が僕の方を向き、何度も頷く。

 僕から目を話した少女が周りを見渡して、腰を低くする。……まさか!


 次の瞬間、少女は消えて、再び僕の前に現れた。

 ————デーモンの死体を持って。


「今の一瞬で……」


 外を歩いていたデーモンを倒したんですか、と質問する前に、少女は今いた部屋に向かってデーモンの死体を投げる。その死体をまた少しの間眺めて、そして僕に視線を戻した。


 もう、警戒する相手はいないのだろうか。少女はもう周りを見ずに僕を見ている。

 これは……指示を待っている?


「……どこに行けば何があるか、わかりませんよね」


 少女は……首を横に振った。

 ……ん?


「もしかして、この街に連れられた時、見覚えがあるのですか……!?」


 少女は少し考える様子をして……曖昧だけど、確かに頷いた。

 僕はユーリアのようなエネミーサーチは使えない。だから知らない場所を歩くのは非常に危険だと思っていたけど……これは、大きなアドバンテージになるぞ!


「そ、それでは外まで案内していただけないでしょうか。北側に出られる出口だといいのですが」


 少女は再び顎に手を乗せ……部屋の中を指差した。そこにはデーモンの死体がちょうど積まれてあり……。


「……!」


 少女は、僕に向かって両手を広げた。

 そして再びデーモンを指差す。


「大きなデーモンがいる?」

「……」


 首を振る。そして先ほどの動作を再びやり直す。両手を広げたまま交互に揺らすジェスチャー。


「違うと。じゃあ……たくさんデーモンがいる?」

「!」


 今度は何度も頷いた。

 そうか……確かにそんな場所で彼女に戦ってもらうわけにはいかないな。


「わかりました、ただでさえ頼りっきりで申し訳ないのに、これ以上あなたに危険な役目をあまりさせたくありませんからね。しかしどうしましょうか……」

「……」


 少女が僕を見て、目を見開いて瞬きの回数を増やす。

 どういう表情だろう、何か驚いているんだろうか。会話が出来ないと、とてもコミュニケーションを取るのが難しいな……。ジェスチャーも一度じゃ伝わらなかったし。

 それでも文字が分からなくても、言葉が通じるのは有難い。それでなんとかなっているようなものだ。


「外に出たいのですが、他に出口はないでしょうか」


 少女は、今度は建物の出口から反対側を指した。


「出られる場所があるのですか? もう出口はどこでもいいので、とにかく外に出たいです。あなたが行きやすい場所に案内していただければ」


 少女は頷くと、悪鬼王国の街を進んでいった。

 ……まだまだこの子に関して謎は多いけど、ついていくしかないだろう。少なくとも、この赤い街並みを嫌がっているというだけで、信頼できると思う。

 僕は、魔石の灯りで赤一色になってしまった少女の背中を見ながら、しばらく見ていない空を待ち遠しく感じた。

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