第五扉 「私の誕生日」
私は自分の誕生日を知りませんでした。
私は自分が何歳なのか知りませんでした。
私は自分が誰だったのか知りませんでした。
私のお仕事は星の数を調べることです。このお仕事を誰に依頼されたのか、何のためにしているのか、もう何十年、いえ何百年、何千年と続けているのか……私は何も判っていませんでした。何故なら私には、記憶も時間の感覚も全てが虚ろだったからです。
そんなある時、私はある星で少年に出会いました。
そしてその時、私は思い出したのです。
私はかつて女の子だったということを。
私は少年を初めて見た時から心がドキドキするのを感じました。私は少年と初めて言葉を交わした時から体がジンジンとしていました。そして私は、星の数を調べる仕事のことをすっかり忘れてしまったのです。
私は少年と色々な話をしました。少年は自分の住んでいる星のことを話し、私はこれまで旅しながら見てきた様々な星の話をしました。
少年は私の話にとても関心をもち、私の仕事にとても興味を抱くようになりました。しかしそれは私にとって少し不安な事でした。少年が私のもとを離れて星々を旅する仕事に夢中になってしまうのではないかと思ったからです。
私は少年に出会って初めて気がついたのです、私が私であるということに。私は少年に特別な想いを抱くようになって知ったのです、今までの私は孤独だったのだと。私は自分の孤独にすら気がつかず星々の間を彷徨うように旅をしていたのだと。
私は美しい星々を永遠に旅するよりも、限られた時間でもいいから少年と一緒に暮らしたいと思う様になりました。そして叶うなら、自分が死んでしまう前に少年の子供を産んでから死にたいと本気で思う様になったのです。
そうです、私は少年に恋をして、そして少年を愛してしまったのです。
天に双子星が手に届きそうなぐらい大きく美しく輝いていたある晩のこと、私達は海と砂漠が見渡せる丘の上で口づけを交わし、そして体を重ねました。
少年の髪は砂漠の風に優しく揺れ、少年の顔は海の明かりに凛として浮き彫りになり、そして少年の体は天の星々に祝福されるように光り輝いていました。
私は少年を抱きしめ、そして少年に私の想いを告白したのです。
それが三百三十二年と364日前の話です。
明日は私の誕生日です。一年に一度、私は少年と出会った星を訪れます。
私は、少年と私の間にできた子供、そして私達の孫、私達の子孫たち、彼が私に遺してくれた全てを、今までそっと見守ってきました。そしてこれからも、ずっとずっと見守ってゆくつもりです。
私は少年を失い再び孤独を実感しました。
いえ正確には孤独を初めて実感しました。
それでも私は、私の誕生日を忘れません。それは私が少年と出会い私を取り戻した日だからです。もし愛の代償が孤独だというなら、私はこの孤独から逃げ出したりはしません。それが私の少年への愛の証だからです。それが私の少年への愛の報いだからです。
私はあの晩、自らの身体に新しい生命が宿ったことを知りました。
同時に彼の私への愛が永遠ではないことにも気がついてしまいました。
だから私は彼に永遠の愛を誓い……彼を殺したのです。
完




