第二扉 「醜い顔をした踊り子」
この作品を親愛なる華蓮に捧げる。
昔々、ある山奥の国に、醜い顔をした少女の踊り子がいました。
体中に引っ掻き傷や切り傷があり、喋り声はとても乱暴です。
ですから誰も彼女と友達になりたいとは思いませんでした。
それでも、舞台で彼女が舞う踊りはとても優しく美しく
人々はその踊りから眼を離すことができません。
ある時、その国を訪れた旅人がその少女の踊りを目にしました。
旅人は何日も、何日も彼女の踊りを眺め
やがて彼女に言ったのです。
「どうして君は、そんな美しい踊りを舞うことが出来るのに
そんなに粗野で乱暴なんだい? それでは誰も友達になってくれないよ」
その旅人の問いかけに、少女は答えました。
「私には、これが普通です。
あなたや、他の人達も、私が粗野で乱暴な娘だと言います。
しかし、私はこうした生き方しかできないのです。
それに私には、友達なんて要りません」
旅人はその後も何日も、何日も踊り子の舞を眺め
踊りが終わる度に少女と話をしました。
やがて少女は少しずつ自分自身のことを語るようになりました。
少女が産まれた土地について
少女が育った環境について
少女の体に刻まれた傷について
そして旅人は気付いたのです。
少女の醜い顔の下に隠された美しい心を
体に刻まれた傷の跡に込められた彼女の嘆きを
乱暴な言葉に込められた直向きな優しさを
そして少女がひた隠す孤独と
何より少女の力強く生きる愛と勇気を
多くの人々が少女の踊りに癒され魅了される中で
旅人だけが踊りを終えた彼女を優しく気遣い
少女は旅人だけに心から笑顔を見せるようになりました。
そしてある日突然、彼女は舞台に立つことを止めてしまいます。
多くの人々が彼女の踊りを惜しみました。
彼女の優しい踊りに心を癒された人
彼女の美しい踊りに心を惹かれた人
多くの人々が残念な気持ちでいっぱいでした。
しかし誰一人として気付くことはなかったのです。
不思議なことに醜かった少女の顔が
とても美しい大人の女性へと成長していたことに。
彼女は踊り子の自分を自分自身の中に封印し
旅人と一緒に遠い国へと旅立ちました。
何故なら彼女は自分の本当の幸せを見つけたからです。
舞台で踊って人々を癒し魅了する以上の幸せを……。
完(2017/05/20 17:10:05 web初公開)
この童話は、華蓮様のために書き下ろし献上した、とても私的な作品です。当初は、華蓮様の強い意向で公開をしないつもりでした。しかし、後に公開の許可を頂きましたので掲載をいたします。
華蓮様に永久の感謝を込めて……。