「366日花言葉140字小説 3月・後期」
3月16日【はっか/美徳】
彼女は砲弾の飛び交う最前線で敵味方関係無く命を救うため戦場を駆けた。その行為は虚しく愚かだと誰もが思った。生き残る手段は敵を一人でも多く殺すことだと信じていたからだ。
「命を奪って生きるより命を救って死んだ方が幸せなの」
それが彼女の最期の言葉。
3月17日【豆の花/必ず来る幸福】
「皆が思っているほど強くないのよ。楽天的で向こう見ずなところは認める。でもね、本当の私は臆病で小心者なの」
目を潤ませ懸命に微笑む彼女を僕は抱きしめた。教会の鐘が高らかに鳴り響き扉の向こうで歓声が湧く。僕は震える彼女の手をとり扉を開いた。
3月18日【アスパラガス/無変化】
「悲しみの数だけ強くなれる、苦しみの数だけ優しくなれる、貴方が言ったのよ!」
泣き崩れる彼女に今の僕は触れることも声をかけることもできない。
「……もう限界なの」
彼女の腕の中で赤ん坊が泣いた。
「あと幾つ限界を超えられるか見守ってくれる」
3月19日【くちなし/とても、うれしい】
「私だって恋人が欲しい。甘い声を囁かれ何も考えず男の人の腕の中で癒されたい」
僕は彼女の言葉より彼女の純白のローブになぜ染み一つ無いのかが気になった。
「でも私が本当に欲しいのは一時の恋ではなく永遠の愛なの」
高潔さは魔法だと思った。
3月20日【チューリップ(紫)/永遠の愛情】
「何でそんなに本が好きなの?」
黄昏を映す図書館に彼女は独り居た。
「貴女は運命の人に巡り逢った時、その人が運命の人だと確信できる?」
彼女は悪戯に微笑んだ。
「本を読んだり、草花やお野菜を育てたり、お料理したり、全てはその為なの」
3月21日【さくららん/人生の出発】
「本当の事なんて言えるわけないじゃない!」
汽車を見送ったホームで私は独り叫んだ。溜め込んでいた想いが咆哮となり闇夜に響く。
「私は貴方が好きなの、ずっと愛してたの!」
「俺も愛してるよ」
汽車に乗ったはずの彼が突然現れ私を抱きしめた。
3月22日【ぜにあおい/恩恵】
「殿下に愛される理由が判りません」
「美しさは容姿によるものではない。親を敬い家族を慈しむ心、弱者を憐れみ強者に媚びない態度、善行を誇示せず万事に謙虚な姿勢、それがそなたの美しさだ。そなたへの愛を私は王として誇りに思う」
彼女は微笑み頷いた。
3月23日【グラジオラス/情熱的な恋】
「感情に流されて恋し過ぎ。だから傷つけ合ったり好きになったらダメな人を好きになったりするんだよ」
「だって好きな気持ちは抑えられないじゃん」
「それは病気」
彼女はそう言って私にキスをした。女の子同士の初めてのキス。
「私も病気なんだ」
3月24日【はなびし草/希望】
裏切られ傷つき大切なものを失い、人生の目的を忘れ自分自身がこの世に存在する価値など何も感じることができない、そんな絶望の果てで君と出逢った。
「好きになってもいいですか」
囁く様な君の言葉に僕は静かに頷く。死を覚悟すれば全てが希望に変わる。
3月25日【つる性植物/美しさ】
「なんで男に媚びるような生き方するの? もっと自分らしい生き方を見つければいいじゃない。自立しなきゃだめよ」
彼女は私の言葉に笑って答えた。
「これが私らしい生き方だと思っているの。自立より共存が好きなのよ。好きな人に尽くすのが私の幸せなの」
3月26日【さくら草(白)/初恋】
夢から醒める夢を見ていた。あの頃の僕が今の僕ならば、僕達はうまくやれたのだろうか。それともやはり同じ様な過ちを繰り返すのだろうか。
「また同じ夢を見ていたの」
僕の隣に君ではない誰かがいる。僕はブラインドの外を覗いた。現実を生きなければ。
3月27日【きんちゃく草/援助】
「あんな奴なんで好きになったりしたの?裏切られるって分かってたじゃん」
「それでも信じたかったの」
「まったく、ほっとけないんだから」
それが彼女との最後の会話。彼女の犠牲がなければ私は死んでいた。私には彼女に守られる価値があったのだろうか。
3月28日【はなえんじゅ/上品】
それは生前の彼女を偲ばせる上品で華麗な葬儀だった。
「本当にくだらない!どうして本音をさらけ出さなかったの?全てを独りで抱え死んでいくことが貴女の美学だったの」
私の叫び声はもう彼女に届かない。もし届いても彼女はただ上品に微笑むだけだろう。
3月29日【ごぼう/いじめないで】
私が貴女の生きた証。貴女の優しさも悲しみも、辛い思いも楽しい想い出も、全て私の中で生きている。貴女の愛は私が受け継いだ。だから安心して眠りについて。もう誰も貴女を責めたりしない。もう誰も貴女を苦しめたりしない。
「さようなら、ありがとう」
3月30日【えにしだ/清楚】
「私には何も残ってないの。私の全ては奪われ体も汚され、心さえも本当にそれが私のものなのか分からない」
「それでも貴女は神の愛を信じ望んでいる」
彼女の前に立つ少年の真っ白な翼を誰も見ることはできなかった。
「あなたが私を導き愛して下さるのですか」
3月31日【くろたね草/夢路の愛情】
「恋が終わったらどうなるの?」
「愛が始まるのよ」
「でも別れちゃう人もいるでしょ?」
「別れも、愛の形の一つなの」
「なら愛が終わったらどうなるの?」
私の質問に母は笑って答えた。
「それは愛じゃなかったのよ。本当の愛は決して終わらない」




