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魔瑠琥の童話集「扉の向こう」  作者: 百音川 魔瑠琥
第八扉 「366日 花言葉 140字小説」
13/18

「366日花言葉140字小説 3月・前期」

3月1日【房咲き水仙/自尊】

「そのプライドの高さが大嫌いなの」

私の捨て台詞に彼は動じない。飛び出した部屋の扉を背に私はうずくまると嗚咽した。判っている、プライドが高く頑固なのは私の方だ。それなのに私は今、彼の優しい言葉を待っている。扉を優しくノックする音が心に響いた。



3月2日【花きんぽうげ/美しい人格】

「泊まっていかないの?」

「今夜は帰る」

「そう」

「でも、明日も来ていい?」


彼女はどんなに激しく愛し合った後も必ず自分の家に帰る。相手に依存しない自立した関係の恋愛。それが彼女の望み。そんな風に僕らは頸木(くびき)を共にし歩み続ける。



3月3日【れんげ草/私の幸福】

手首の切り口から鮮血が滲む。

彼は口づけする様にそれを舐めた。


「君は無理に頑張ったり、無理に自分を変えようとしたりする必要はない。僕は君の全てが好きだ。君の全てを受け入れる」



3月4日【きいちご/愛情】

「どうして怒らないの?私に同情してるの?」

「君のした事には腹を立ててる。でも君自身には腹を立ててない。話は聞いたし俺は君の話を信じている」

彼は珈琲カップにバーボンを注ぐと一気に飲み干した。判っている彼のそれは同情ではなく彼の精一杯の愛情だと。



3月5日【やぐるま草/幸福感】

「殿下は騙されていらっしゃるのです」

「『騙されている』と判ったうえで騙されるのだ。気に病む必要はない。戦に勝ち続けることだけが王の務めではないのだ。戦を回避し民の命が守られるのなら私は喜んで騙されよう」

それが愛する殿下の最期の言葉でした。



3月6日【ひなぎく/明朗】

「そんな悲しい顔をしないで」

彼女はそう言って微笑んだ。優しい瞳は昔と何も変わらない。しかし美しい髪も清らかな体も奴らに汚されてしまった。

「これは私が招いた結果。だから誰も恨んではだめよ」

朗らかに笑う彼女に僕は底知れない哀しみと怒りを感じた。


彼の唇に身体の痛みが癒される。

彼の言葉が愚かな私を変えてゆく。



3月7日【たねつけばな/燃える思い】

「ごめんなさい。裏切ったつもりはなかったの。今でも貴方を愛しているの」

ナイフを握る彼女の両手は震えていた。キラキラと輝くナイフに僕の血が美しく滴る。僕は不思議と幸せだった。彼女の秘めた想い、彼女の愛の形をやっと知ることができたのだ。



3月8日【栗の花/真心】

「どれだけ優れた演奏をしても心に響かなければ見世物と同じなのよ」

「見世物は駄目かよ」

「そんなの音楽じゃない!愛がない!」

「お前は音楽が判ってるのか。お前の音楽だって結局は見世物だよ。愛なんて誰にも判らない。だから俺は自分に嘘をつかず演奏する」



3月9日【から松/大胆】

「私は貴方を許す。貴方のした全てが私の為なのだと知っているから」

私は横たわる彼を抱きしめた。

「貴方は私一人の為に世界を騙し世界を敵に回した」

彼の流す血が私を赤く染める。

「なら私一人ぐらい貴方の味方にならないとね」

私の純白の翼が漆黒に変わる。



3月10日【にれの木/高貴】

世界の広さも重さも俺には実感できない。罪滅ぼしなのか同情なのか自分でも区別ができない。それでも俺は娘の命と娘の暮らす世界を救いたい。だからサインをする。

「私は悪魔です。これは貴方の命を代価にした契約書です。理解してますね」

俺は黙って頷いた。



3月11日【にがな/質素】

「もう何も要らない。愛なんて人生の幻だよ」


僕の言葉に彼女が涙する。

その訳を僕は知りたくない。


「そんな悲しい人生、そんな哀しい愛、貴方はそれでいいの?」


「それでいい」


僕の頬を彼女の平手が打った。

頬に熱く残る彼女の温もり。

これが嫌なんだ。



3月12日【やなぎ/愛の悲しみ】

哀しみの果てに真実があると貴方は言った。苦しみの向こうに愛があると言った。それでも私には永遠の様なこの時間が耐えられない。


「私もすぐに参ります。安らかに眠って」


枕で貴方の顔を押さえ私は時の流れを止めた。頬を伝うのは枯れた筈の無情の涙。



3月13日【野かんぞう/愛の忘却】

「君はそんなんだから騙され、利用され、捨てられるんだ」


行き場のない怒りや悲しみを言葉にしても、君には決して届きはしない。


「私は見たいものしか見ない。そして私が愛したいように愛する。それ以外のものは全て忘れる。それが私の愛の形なのよ」



3月14日【アーモンド/希望】

『私は貴方を許します。何故ならそれが私の愛の証であり、私の希望だからです』

色褪せてしまった君の最後の手紙。それでも君の言葉は今も僕の心の中で力強く生きている。もうすぐ君に会いに行く。君を失って初めて気がついたんだ。君も僕にとっての希望だと。



3月15日【どくにんじん/死も惜しまず】

『この愛が永遠ならば二十年、三十年、それ以上だって君は独りで生きていける。永遠の時の流れに身を置けば人の一生など一瞬の出来事でしかない。だから、もしも僕の身に何かが起きても』私は筆を置いた。こんな手紙を遺して君の為になるだろうか。



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