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善いも悪いもリモコ……人間しだい

「そこに座りなさい!」

「はい」

 大和に言われて椿とナリスは大人しく座った。

「椿、どういうつもりだ! お前だって発明によって世界が良くも悪くも変わることを持っているだろう! あちらの世界でも公害問題が山積みなのは知っているだろうが。こちらの世界に持ち込むつもりか!」

「兄さん、わたしだって考えているわよ。でも、公害問題の多くはそれが人体にとって害のあるものという認識ができなかったためおきたことも多いのよ。予めそれを知っているのなら対策をとる事もできるわ」

 刀の試し切りが終った直後、血相を変えた大和に引き摺られるようにして一行は塔に帰ってきていた。ここなら気兼ねなく話ができる。

「ツバキ嬢の知識で身体に害があると初めて知らされたものもあります。一部のものに規制をかけるつもりであります」

 ナリスが訴えた。

 大和は少し考える。確かに自分達の歴史でもそれが人体に害あるものと知らず化粧品として使っていたり、顔料や塗料として使われていたものも多い。

 鉛や砒素、一説によると塗料として部屋に使われていたもののせいで歴史上の人物が毒に侵され死んだという。塗料に含まれていたある有害成分がカビによって空中に放出され、それを吸い込んだのが原因だという。

 確かに知識は人を救うこともある一概に持ち込むことが悪いとは言い切れない。

「それはそうだが……」

「わたしだって考えているわよ。実験の中身は考慮しているわ。兄さんの刀は別。だけど、兵器はもう作らないわ」

 兵器の進歩は他のものの比ではなく世界を変える。銃しかり連発銃しかりだ。連発銃を作り出した一族は大いに栄えたが、次々と奇怪な死に方をし、奇妙な城を残して途絶えたという。そしてその銃が作り出されたことにより戦争はより悲惨なものになったという。

「それは守れよ。絶対だ」

 凄惨な歴史をもたらすきっかけにはなりたくはない。

「はい。誓うわよ。銃もロケットも作らないわ。趣味じゃないし」

 この世界には拳銃は火縄さえない。代わりに大規模の攻撃魔法があるらしいが。

「で、他になにを造った?」

 改めて大和が尋ねると椿が目をそらした。

「色々」

「たとえば?」

 重ねてきくと、椿が観念したように言う。

「……ブラジャー」

 大和は赤面した。

「な、な」

「だって、こっちの世界のは具合が悪いのよ!」

 椿も顔を真っ赤にして訴える。

 考えてみれば一ヶ月が過ぎている。当然下着も替えている。何枚か使っているだろう。別の世界の下着には当然違和感があるが、特に女には男にはわからないナニカがあるのだろう。

「材質は無理でも、裁断とか縫製とかは参考にできるわ。シーリアさんに協力してもらって、やっと満足できるものができたのよ。それに付随して、ホックと足踏みミシンも再現したわ」

 ミシンの発明はある意味革命を起こした実績がある。

「少しは発達してもらわないと暮らし辛いのよ!」

 シーリアも椿を擁護した。

「ツバキさまがこちらの下着になれないのは仕方ありませんわ。あのような優れた下着を使われていたのですもの。あの下着は素晴らしいですわ。その証拠にわたくしも使わせていただいております」

 いや、そこまでは聞いていませんから!

 思わず突っ伏す大和だった。

「もういいです……」

 すっかり毒気を抜かれた大和は最後に兵器は作らないと約束させて部屋を出た。


 真っ赤になって部屋を出て行った大和に椿はしてやったりと笑みを浮かべた。

「相変わらず純情ね~、下着ぐらいで」

「可愛らしいですわ」

 ほほほとシーリアが笑う。大人の余裕?

「おかげで他のプロジェクトはばらさないですみましたね」

 椿とナリスが造っているものはまだあった。最初に女の下着を白状したので他のものは秘密にできたのだ。大和のことを知り尽くしている椿ならではの作戦だ。

 策士である。

「兄さんが知れば、必ずストップをかけるものね」

 うふふふと椿が笑った。

「よろしかったのですか? あのことを言わないでも」

「いいのよ。あんまりいい顔はしないと思うわ」

 椿発、異国風の下着ブラジャーは、シーリア経由で城の下働きの女性を中心に広まりつつあった。

 つまりは商売として成立するのである。

「いつまでもおじさんの懐を当てにするわけにもいかないもの。いつか自立できるようにしなきゃね」

 そのためにもガンガン研究費を出させて商品開発に取り組む椿であった。

「ツバキ嬢ならこの塔で引き取りますよ。その知識だけで国益になります」

 そのころ、巨大な財布とみなされたロジニア公は予想外の請求書に目を剥いていた──というのは余談である。


 兵士の鍛錬場にふさわしくない清楚な客があった。侍女を引き連れてあたりを見回す姿に、ほうっておくこともできずディアボロはいちおう声をかけた。

「どなたをお探しですか? ランカ姫」

「べ、別に探してなんかいませんわ」

 つん、とそっぽを向くロジニア公の姫だった。

「そうそう、異国からきたという方はどうされましたの? めずらしい剣術を使われると聞いたのですが」

「ヤマト殿ですか?」

「確かそんなお名前でしたわね」

 仄かに頬を染める美少女の心のうちを読み違えるほどディアボロは疎くはなかった。

「残念ですが、急用ができて席をはずしております。いつもならいるんですがね」

「そうですか」

「あの剣術は確かに独特ですよ。明日にでもこの時間においでになれば見られると思いますよ。気が向いたらお越しください」

「き、気がむいたら、そうしますわ」

 つんと取り澄まして言うと、姫君はお付きのものを従えて鍛錬場を後にした。

「いやいや、ヤマト殿もモテるねえ」

「あのランカ姫が興味を持つとは驚きですねえ」

「面を考えな。ああいうのは女が好きそうな顔じゃねえか?」

「しかし身分を考えますとね──」

 隊長と副官はしばらくその話で盛り上がっていた。

 本人も知らないだろうが、異国から来た謎の剣士は密かに人気があった。小間使いの少女や侍女が密かに鍛錬場をのぞきにきているのであった。

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